アニ録ブログ

あるオタクの思考と嗜好をキロクしたブログ。アニメとマンガを中心としたカルチャー雑記。

2022年 秋アニメは何を観る?来期おすすめアニメの紹介 ~2022年夏アニメを振返りながら~

『モブサイコ100 Ⅲ』公式Twitterより引用 ©︎ONE・小学館/「モブサイコ100 Ⅲ」製作委員会

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2022年 夏アニメ振返り

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今クールは,何と言っても『メイドインアビス』『リコリス・リコイル』が他作品を圧倒している。

『メイドインアビス』は,前作にも増して過酷な主人公たちの運命を的確にアニメートし,原作の魅力を存分に引き出している。本作のアニメ班の力量の高さを改めて認識させられる。またファプタ役の久野美咲は,これまでの"幼女ボイス担当"という印象を覆すほどの骨太な演技を披露している。残酷なシーンも容赦なく描き切る本作は,優しい世界が描かれることの多い昨今のアニメシーンにおいて異彩を放っている。

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『リコリス・リコイル』は,既存ファンのないオリジナルアニメでありながら,魅力的なキャラクターと練り込まれた物語によって多くのアニメファンを惹きつける傑作だ。これほど多くの視聴者が考察祭りをしながらネットを賑わせる作品も久しぶりなのではないか。

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以上の2作品については,優れた演出が多く見られたため,各話演出に関するレビューをそれぞれ2つ掲載した。当ブログでは作品全体のレビューをメインとしているので,これは異例のことである。

『よふかしのうた』も挙げておこう。「夜は楽しい」という作品のテーマをわかりやすく視覚化した色彩設計は,本作に原作マンガとは一味違った魅力を加味している。長く続いて欲しいシリーズである。

この他にも『サマータイムレンダ』『シャインポスト』『ちみも』などの優れた作品がある。2022年夏アニメの最終的なランキングは,全作品の最終話放送終了後に掲載する予定である。

*『異世界おじさん』は夏アニメとして扱うこととする。以下参照。

 

では2022年秋アニメのラインナップの中から,五十音順に注目作をピックアップしていこう。各作品タイトルの下に最新PVなどのリンクを貼ってあるので,ぜひご覧になりながら本記事をお読みいただきたい。なお,オリジナルアニメ(マンガ,ラノベ,ゲーム等の原作がない作品)のタイトルの末尾には「(オリジナル)」と付記してある。

 

① 『アキバ冥途戦争』(オリジナル)


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【スタッフ】
原作:ケダモノランド経営戦略室/監督:増井壮一/シリーズ構成:比企能博/キャラクターデザイン・総作画監督:仁井学/美術監督:本田こうへい/美術設定:伊良波理沙/色彩設計:中野尚美/プロップ設定:入江健司鍋田香代子/撮影監督:石黒瑠美/3D監督:小川耕平/特殊効果:村上正博/編集:髙橋歩/音楽:池頼広/音楽制作:Cygames/音響監督:飯田里樹/音響効果:中野勝博/音響制作:dugout/アニメーション制作:P.A.WORKS

【キャスト】
和平なごみ:近藤玲奈/万年嵐子:佐藤利奈/ゆめち:田中美海/しぃぽん:黒沢ともよ/店長:高垣彩陽/御徒町:???

【コメント】
P.A.恒例の”お仕事シリーズ”
…なのだが,今回は世紀末のアキバのメイドカフェを舞台とした,コミカル要素の多い作品のようである。公式HPは雑多なフォントと色彩で設計されており,PVからはピー音が何度か聞こえてくる。前回のお仕事アニメ『白い砂のアクアトープ』とは真逆の雰囲気と言えるだろうか。監督は,同じP.A.のお仕事アニメ『サクラクエスト』(2017年春・夏)などを手がけた増井壮一が務める。

 

② 『異世界おじさん』

*本作は本来夏クールの放送だったが,新型コロナウイルス感染拡大により10月からの放送に延期されたため,秋アニメとして扱うこととする。以下は「2022 夏アニメは何を観る?」の記事と同内容。


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【スタッフ】
原作:殆ど死んでいる/監督:河合滋樹/シリーズ構成・脚本:猪原健太/キャラクターデザイン:大田和寛/音楽:末廣健一郎/アニメーション制作:Atelier Pontdarc

【キャスト】
おじさん:子安武人/たかふみ:福山潤/藤宮:小松未可子/エルフ:戸松遥/メイベル:悠木碧/アリシア:豊崎愛生/エドガー:鈴村健一/ライガ:岡本信彦/沢江:金元寿子

【コメント】
これは期待を込めて。昨今,”異世界転生モノ”もあの手この手で新しい設定を創作しようとしているが,本作は「異世界から帰還したおじさんと甥のたかふみが,おじさんの魔法の力を利用してYouTuberになる」という,文字通り“型破り”の異世界コメディだ。『幼女戦記』(2017年)などで知られる猪原健太がシリーズ構成を務める。またキャストが異様に豪華なのも注目ポイントだ。

 

③ 『うる星やつら』


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【スタッフ】
原作:高橋留美子/監督:髙橋秀弥木村泰大/シリーズディレクター:亀井隆広/シリーズ構成:柿原優子/キャラクターデザイン:浅野直之/サブキャラクターデザイン:高村和宏みき尾/メカニックデザイン:JNTHED曽野由大/プロップデザイン:ヒラタリョウ/美術設定:青木薫/美術監督:野村正信/色彩設計:中村絢郁/CGディレクター:大島寛治/撮影監督:長田雄一郎/編集:廣瀬清志/音楽:横山克/音響監督:岩浪美和アニメーション制作:david production

【キャスト】
あたる:神谷浩史/ラム:上坂すみれ/しのぶ:内田真礼/面堂終太郎:宮野真守/錯乱坊:高木渉/サクラ:沢城みゆき/ラン:花澤香菜/レイ:小西克幸/おユキ:早見沙織/弁天:石上静香/クラマ姫:水樹奈々

【コメント】
言わずと知れたラブコメマンガの巨匠,高橋留美子の同名マンガの再アニメ化。原作から厳選したエピソードを計4クールで放送予定。監督は『ジョジョの奇妙な冒険 4th Season 黄金の風』(2018年秋-2019年春)の髙橋秀弥木村泰大が再びタッグを組む。神谷浩史と上坂すみれを始めとした新キャストの演技も見どころだ。「小学館創業100周年」「ノイタミナ枠」「4クール放送」と,スペシャル感をたっぷりまとった期待作である。果たして往年のファンの厳しい目を満足させられる作品となるか。

 

④ 『永久少年 Eternal Boys』(オリジナル)


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【スタッフ】
原作:満福芸能プロダクション/監督:migmi/シリーズ構成:うえのきみこ/キャラクター原案:ma2/キャラクターデザイン:朝井聖子/音響監督:田中亮/音楽:橋本由香利/アニメーション制作:ライデンフィルム

【キャスト】
真⽥健太郎:平川大輔/⽯⽥直樹:小西克幸/浅井悠:福山潤/今川剛:浪川大輔/⼭中⼤輔:森川智之/柿崎誠:佐々木望/満田福子:野一祐子/ぺぺちゃん:千菅春香/宇喜多蓮:花守ゆみり/ニコライ朝倉:東地宏樹/爽田佐和緒:森久保祥太郎/藍染悦郎:寺島拓篤/井伊蓮司:笠間淳/葉小坂初:KENN/吾妻創輝:小林千晃/小鳥遊賢人:仲村宗悟/小田桐信長:河本啓佑/神楽坂咲楽:堀江瞬/東十条知架:石谷春貴/リン・ジュンジェ:ランズベリー・アーサー

【コメント】
人生崖っぷちに立たされた6人の「アラフォーのおっさん」がアイドルを目指すという,新機軸のアイドルアニメ。PVを観ると,「アラフォー」というより「アラサー」のようなキャラデザだが,”アニメの主役としての中年”ということでは,この辺りが落としどころなのだろうか。アニメにおける”おっさん表象”の一例として興味深いかもしれない。シリーズ構成をうえのきみこが担当するのもポイント。

 

⑤ 『機動戦士ガンダム 水星の魔女』


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【スタッフ】
企画・制作:サンライズ/監督:⼩林寛/シリーズ構成・脚本:⼤河内⼀楼/原作:矢立肇富野由悠季/キャラクターデザイン原案:モグモ/キャラクターデザイン:田頭真理恵戸井田珠里高谷浩利/メカニカルデザイン:JNTHED海老川兼武稲田航形部一平寺岡賢司柳瀬敬之/チーフメカアニメーター:久壽米木信弥鈴木勘太前田清明/副監督:安藤良/設定考証:白土晴一/SF考証:高島雄哉/メカニカルコーディネーター:関西リョウジ/設定協力:HISADAKE/プロップデザイン:絵を描くPETERえすてぃお/コンセプトアート:林絢雯/テクニカルディレクター:宮原洋平/美術デザイン:岡田有章森岡賢一金平和茂玉盛順一朗上津康義/美術監督:佐藤歩/色彩設計:菊地和子/3DCGディレクター:宮風慎一/モニターグラフィックス:関香織/撮影監督:小寺翔太/編集:重村建吾/音響監督:明田川仁/音楽:大間々昂

【キャスト】
スレッタ・マーキュリー:市ノ瀬加那/ミオリネ・レンブラン:Lynn/グエル・ジェターク:阿座上洋平/エラン・ケレス:花江夏樹/シャディク・ゼネリ:古川慎/ニカ・ナナウラ:宮本侑芽/チュアチュリー・パンランチ:富田美憂

【コメント】
『鉄血のオルフェンズ』以来7年ぶりとなるガンダムシリーズ新作アニメ。最大のポイントは,TVシリーズとして初の女性主人公である点だろう。PVを観ると,キャラクターデザイン,メカニカルデザイン,背景美術など,あらゆる点でクオリティが高いことが伺える。OPテーマのYOASOBI「祝福」も作品のテイストにマッチしている。今期もっとも期待される作品の1つとなるだろう。監督は『キズナイーバー』(2016年春)や『ひそねとまそたん』(2018年春)などの小林寛。9月25日(日)17:00より前日譚「PROLOGUE」の放送が予定されている。

 

⑥ 『ゴールデンカムイ』 第四期


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【スタッフ】
原作:野田サトル/チーフディレクター:すがはらしずたか/シリーズ構成:高木登/キャラクターデザイン:山川拓己/美術監督:古賀徹/色彩設計:福田由布子/撮影監督:織田頼信/編集:池田康隆/音響監督:明田川仁/音響制作:マジックカプセル/アイヌ語監修:中川裕/ロシア語監修:Eugenio Uzhinin/音楽:末廣健一郎/アニメーション制作:ブレインズ・ベース/製作ゴールデンカムイ:製作委員会

【キャスト】
杉元佐一:小林親弘/アシㇼパ:白石晴香/白石由竹:伊藤健太郎/鶴見中尉:大塚芳忠/土方歳三:中田譲治/尾形百之助:津田健次郎/谷垣源次郎:細谷佳正/牛山辰馬:乃村健次/永倉新八:菅生隆之/二階堂浩平:杉田智和/宇佐美上等兵:松岡禎丞/月島軍曹:竹本英史/鯉登少尉:小西克幸

【コメント】
野田サトル
の同名マンガが原作。2022年4月に原作が完結している。イラストや関連資料などを展示した「ゴールデンカムイ展」が異例の大盛況となるなど,今もっとも注目される作品の1つだ。それだけにアニメにも期待が高まるが,第四期では,監督がこれまでの難波日登志からすがはらたかし(チーフディレクター)へ,制作がジェノスタジオからブレインズ・ベースへと変更され,各スタッフにも大幅な異同が見られる。とは言え,制作陣の変化が必ずしも作品の出来栄えに大きく影響するとは限らない。この超傑作歴史冒険物語に大いに期待しよう。

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⑦ 『サイバーパンク エッジランナーズ』(オリジナル)


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【スタッフ】
ストーリー原案:CD PROJEKT RED/監督:今石洋之/副監督:大塚雅彦宇佐義大/脚本:大塚雅彦/キャラクターデザイン:吉成曜金子雄人/クリエイティブディレクター:若林広海/シリーズ構成:宇佐義大/劇伴制作:山岡晃/アニメーション制作:TRIGGER

【キャスト】
デイビット:KENN/ルーシー:悠木碧/メイン:東地宏樹/ドリオ:鷄冠井美智子/キーウィ:本田貴子/ピラル:高木渉/レベッカ:黒沢ともよ

【コメント】
ポーランドのゲーム会社CD PROJEKT REDのゲーム『サイバーパンク2077』を原案とするオリジナルアニメ。何と言っても注目は,監督・今石洋之脚本・大塚雅彦キャラクターデザイン・吉成曜と,TRIGGER精鋭のスタッフが揃っている点だ。TRIGGER作品はもともと海外での人気も高く,今回は特にNetflix配信ということもあり,完全に海外ファン志向なのかと思いきや,TRIGGERからは「日本語での演技やキャラクター間のやり取りを前提としてアニメを作り、それを世界向けにローカライズして欲しい」(GAME Watch 「サイバーパンク エッジランナーズ」プロデューサーインタビュー)との要望があったらしい。TRIGGERのその意気込みはPVからもよくわかる。昨今言われる,"日本のアニメらしさを海外に発信する"ということの1つの解が得られる作品となるかもしれない。配信は2022年9月13日より開始されている。

 

⑧ 『SPY×FAMILY』 第2クール

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【スタッフ】
原作:遠藤達哉/監督:古橋一浩/キャラクターデザイン:嶋田和晃/総作画監督:嶋田和晃浅野恭司助監督:片桐崇高橋謙仁原田孝宏/色彩設計:橋本賢/美術設定:谷内優穂杉本智美金平和茂/美術監督:永井一男薄井久代/3DCG監督:今垣佳奈/撮影監督:伏原あかね/副撮影監督:佐久間悠也/編集:齋藤朱里/音楽プロデュース:(K)NoW_NAME/音響監督:はたしょう二/音響効果:出雲範子/制作:WIT STUDIO×CloverWorks

【キャスト】
ロイド・フォージャー:江口拓也/アーニャ・フォージャー:種﨑敦美/ヨル・フォージャー:早見沙織/フランキー・フランクリン:吉野裕行/シルヴィア・シャーウッド:甲斐田裕子/ヘンリー・ヘンダーソン:山路和弘/ユーリ・ブライア:小野賢章/ダミアン・デズモンド:藤原夏海/ベッキー・ブラックベル:加藤英美里/エミール・エルマン:佐藤はな/ユーイン・エッジバーグ:岡村明香/ビル・ワトキンス:安元洋貴/カミラ:庄司宇芽香/ミリー:石見舞菜香/シャロン:熊谷海麗/ドミニク:梶川翔平/〈WISE〉局長:大塚明夫/〈ガーデン〉店長:諏訪部順一/ナレーション:松田健一郎

【コメント】
2022年春に放送された第1クールの続編。多くを語る必要はないだろう。第1クールの出来栄えは申し分なく,当初の期待を遥に上回る秀作となった。今後長く楽しめるシリーズとなることは間違いない。

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⑨ 『TIGER & BUNNY 2』 Part2(オリジナル)


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【スタッフ】
企画・原作・制作:BN Pictures/監督:加瀬充子/シリーズ構成・脚本 ・ストーリーディレクター:西田征史/キャラクターデザイン・ヒーローデザイン:桂正和/アクションディレクター:中島大輔/アニメーションキャラクターデザイン:板垣徳宏,山本美佳,立花希望/デザインワークス:小曽根正美/ビジュアルデザイン:川井康弘/メカデザイン:安藤賢/タイトルロゴデザイン:海野大輔/色彩設計:永井留美子,柴田亜紀子/美術デザイン:兒玉陽平,宮本崇/美術監督:東潤一/CG制作:サンライズ Digital Creation Studio/撮影監督:後藤春陽,田中唯/編集:長坂智樹/音楽:池頼広/音響監督:木村絵理子/音響効果:倉橋裕宗/選曲:合田麻衣子/録音:太田泰明/音響制作:東北新社/製作:BN PicturesBANDAI NAMCO Arts

【キャスト】
鏑木・T・虎徹/ワイルドタイガー:平田 広明/バーナビー・ブルックス Jr.:森田成一/カリーナ・ライル/ブルーローズ:寿美菜子/アントニオ・ロペス/ロックバイソン:楠大典/キース・グッドマン/スカイハイ:井上剛/ホァン・パオリン/ドラゴンキッド:伊瀬茉莉也/イワン・カレリン/折紙サイクロン:岡本信彦/ネイサン・シーモア/ファイヤーエンブレム:津田健次郎/トーマス・トーラス/ヒーイズトーマス:島﨑信長/仙石昴/Mr. ブラック:千葉翔也/ラーラ・チャイコスカヤ/マジカルキャット:楠木ともり

【コメント】
4月に配信された『TIGER & BUNNY 2』の続編。Netflix配信限定のためか,ネット上ではなかなか盛り上がりにくいが,TVシリーズ(2011年春・夏)からのファンにとっては見逃すわけにいかない作品だ。果たして,犯罪組織「ウロボロス」の秘密は明らかになるのか。パート2は2022年10月7日より配信開始予定。

 

⑩ 『チェンソーマン』


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【スタッフ】
原作:藤本タツキ/監督:中山竜/脚本:瀬古浩司/キャラクターデザイン:杉山和隆/アクションディレクター:吉原達矢/チーフ演出:中園真登/悪魔デザイン:押山清高/美術監督:竹田悠介/色彩設計:中野尚美/画面設計:宮原洋平/音楽:牛尾憲輔/アニメーションプロデューサー:瀬下恵介/制作:MAPPA

【キャスト】
デンジ:戸谷菊之介/マキマ:楠木ともり/早川アキ:坂田将吾/パワー:ファイルーズあい

【コメント】

藤本タツキの同名の超人気マンガが原作。今やufotableと並び,アニメ業界の中で高いプレゼンスを示しているMAPPAの制作とあり,発表当時から大きな注目を集めている。最近では制作会社が製作委員会に参加し,出資の一部を担うケースも増えているが,『チェンソーマン』においてMAPPAはさらにその先に進み,100%自社による出資による制作体制をとる。作品そのものの面白さは既に確約されており,それだけでも観る価値はあるが,今後のアニメ制作会社のあり方を占う作品としても注目したい。

 

⑪ 『ヒューマンバグ大学 -不死学部不幸学科-』


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【スタッフ】
監督・キャラクターデザイン:西山司/シリーズ構成:中島直俊/制作スタジオ:DLE/音響監督:大室正勝/音楽:山下康介/OPアーティスト:ナノ/EDアーティスト:Lowland Jazz

【キャスト】
佐竹博文:杉田智和/根岸千恵:小倉唯/鬼頭丈二:高橋広樹/伊集院茂夫:子安武人/ジャック:斉藤壮馬/教授:宇垣秀成/下田正:内田雄馬/流川隆雄:鈴木崚汰/伍代:緑川光

【コメント】
平山勝雄が運営するYouTubeチャンネル「ヒューマンバグ大学 闇の漫画」内の「佐竹博文の数奇な人生」をベースとするアニメ。YouTubeの漫画動画がベースとあり,中割り数を切り詰めた昔のリミテッド・アニメのような印象だが,これももちろん意図的な演出だろう。原作付きアニメとしては異色の出自なだけに,注目してみたい作品である。

 

⑫ 『不滅のあなたへ Season2』


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【スタッフ】
原作:⼤今良時/監督:佐山聖子/シリーズ構成:藤田伸三/キャラクターデザイン:薮野浩二/音楽:川﨑龍/音響監督:高寺たけし/アニメーション制作:ドライブ/制作:NHKエンタープライズ/制作・著作:NHK

【キャスト】
フシ:川島零士/観察者:津田健次郎/ヒサメ:楠木ともり/カハク:斎賀みつき/ボンシェン・ニコリ・ラ・テイスティピーチ=ウラリス:子安武人

【コメント】

大今良時の同名マンガを原作とするアニメ。2021年に放送された第1シリーズの続編である。本作も,監督がむらた雅彦から佐山聖子へ,制作がプレインズ・ベースからドライブへと変更されている。Season 2では時が進み,登場人物も増えて物語の様相がこれまでとは違ったものに変化していく。いわゆる"超展開"のように進みゆく物語を新制作陣はどう料理するか。

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⑬ 『ぼっち・ざ・ろっく!』


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【スタッフ】
原作:はまじあき/監督:斎藤圭一郎/シリーズ構成・脚本:吉田恵里香/キャラクターデザイン・総作画監督:けろりら/副監督:山本ゆうすけ/ライブディレクター:川上雄介/ライブアニメーター:伊藤優希/プロップデザイン:永木歩実/2Dワークス:梅木葵/色彩設計:横田明日香/美術監督:守安靖尚/美術設定:taracod/撮影監督:金森つばさ/CGディレクター:宮地克明/ライブCGディレクター:内田博明/編集:平木大輔/音楽:菊谷知樹/音響監督:藤田亜紀子/音響効果:八十正太/制作:CloverWorks

【キャスト】
後藤ひとり:青山吉能/伊地知虹夏:鈴代紗弓/山田リョウ:水野朔/喜多郁代:長谷川育美

【コメント】
はまじあきの同名マンガを原作とする,「きらら枠」アニメ。女子高生のロック・バンドという設定で言えば,否応でもかきふらい原作/山田尚子監督の『けいおん!』(2009年春)を思い出してしまうわけだが,舞台や主人公たちのキャラは当然異なる。それでもやはり比較はされるだろうが,むしろ比較することで楽しみが得られるということもあるだろう。10余年の時を経て,"ガールズバンド"の表象はどう変化したか。そんな視点で観てみるのも面白いかもしれない。

 

⑭ 『モブサイコ 100 Ⅲ』


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【スタッフ】
原作:ONE/総監督:立川譲/監督:蓮井隆弘/シリーズ構成:瀬古浩司/キャラクターデザイン:亀田祥倫/美術監督:河野羚/色彩設計:中山しほ子/撮影監督:古本真由子/編集:廣瀬清志/音響監督:若林和弘/音響効果:倉橋静男緒方康恭/音楽:川井憲次/アニメーション制作:ボンズ

【キャスト】
影山茂夫:伊藤節生/霊幻新隆:櫻井孝宏/エクボ:大塚明夫/影山律:入野自由/花沢輝気:松岡禎丞/芹沢:星野貴紀/暗田トメ:種﨑敦美/ツボミ:佐武宇綺/米里イチ:嶋村侑郷田武蔵:関俊彦/鬼瓦天牙:細谷佳正

【コメント】
ONE
の同名コミックを原作とするTVアニメシリーズ待望の続編。原作の魅力を増幅させる大胆な色彩設計キャストの魅力的な演技,そしてアニメーターの手つきが見える制作体制など,アニメ化による付加価値の大きい本作。「いい奴」たちの本気のぶつかり合いを最後まで見届けようではないか。

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⑮ 『ヤマノススメ Next Summit』


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【スタッフ】
原作:しろ/監督:山本裕介/キャラクターデザイン・総作画監督:松尾祐輔/美術監督:宮越歩/色彩設計:藤木由香里/撮影監督:佐藤洋/編集:内田恵/サウンドデザイン:出雲範子/音楽:yamazo/アニメーション制作:エイトビット

【キャスト】
あおい:井口裕香/ひなた:阿澄佳奈/かえで:日笠陽子/ここな:小倉唯/ほのか:東山奈央/小春:岩井映美里

【コメント】
しろによる同名マンガのアニメ。2018年夏に放送されたサードシーズンの続編である。ファーストシーズンは5分枠,セカンドシーズンとサードシーズンは15分枠,そして今回の「Next Summit」は30分枠と,シーズンを経るごとに枠が"昇格"している。確かな評価を受けている証拠だろう。

 

2022年秋アニメのイチオシは…

2022年秋アニメの期待作として,今回は15作品をピックアップした。今回は原作アニメ化作品(特にシリーズ続編)の中に期待作が多く,ふだんよりも多めのセレクトとなった。オリジナル推しの当ブログとしては,オリジナル作品が少ないのが少々寂しいが,今クールは原作付きに期待することとしよう。

というわけで,今回のイチオシは,以前当ブログでも高く評価した『モブサイコ100』シリーズの続編『モブサイコ100 Ⅲ』を挙げる。原作(すでに完結)の評価も定まっており,アニメ前2作の評判もすこぶる良好なだけに,ファンの設定するハードルはこの上なく高いに違いない。アニメ班のお手並み拝見といきたい。 

次点として『機動戦士ガンダム 水星の魔女』『ゴールデンカムイ 第4期』『チェンソーマン』『サイバーパンクエンジランナーズ』『異世界おじさん』を挙げておく。

以上,2022年秋アニメ視聴の参考にして頂ければ幸いである。

TVアニメ『メイドインアビス 烈日の黄金郷』(2022年夏)第10話「拾うものすべて」の演出について[考察・感想]

 *この記事は『メイドインアビス 烈日の黄金郷』第10話「拾うものすべて」のネタバレを含みます。

第7話「欲望の揺籃」より引用 ©︎つくしあきひと・竹書房/メイドインアビス「烈日の黄金郷」製作委員会

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つくしあきひと原作/小島正幸監督『メイドインアビス 烈日の黄金郷』各話レビュー第2弾として,今回は第10話「拾うものすべて」を取り上げてみたい。ミーティに二度目の別れを告げるナナチ,過去の記憶を失ったままファプタの暴走を止めようとするレグ,レグを過去へと連れ戻そうとするファプタ。この三者に共通するのが,〈涙〉の演出である。

当然のことだが,涙のような流体表現は,マンガよりもアニメの方が絵として映える。マンガ原作アニメにおいて,涙の表現はその媒体としてのアドバンテージを明確に示すことのできる要素だと言える。これを『メイドインアビス』アニメ班はどう料理したか。詳しく見ていこう。

 

ナナチの涙

まずはアバンで描かれるナナチの涙から見てみよう。

複製されたミーティへの愛着に抗えず,べラフの元で微睡んでいたナナチは,ファプタ帰還の騒動によって目を覚まし,「成れ果ての村」を去る決意をする。村の境界線を越えるとミーティが消えてしまうことをべラフに告げられながらも,ナナチは自らの「あこがれ」を追い求めることを選択する。

第7話「欲望の揺籃」より引用 ©︎つくしあきひと・竹書房/メイドインアビス「烈日の黄金郷」製作委員会

消失していくミーティに語りかけながら,ナナチは大粒の涙を流して泣きじゃくる。その姿は,レグの「火葬砲」の助けを借りてミーティを葬った,第1期13話「挑む者たち」のシーンを否応なく想起させる。

第1期第13話「挑む者たち」より引用 ©︎2017 つくしあきひと・竹書房/メイドインアビス製作委員会

ナナチは二度,ミーティを失い,二度,涙を流す。まったくもって度し難い運命である。しかし今回の涙が前回と違うのは,ナナチがミーティへの"葬い"の儀式を他者(レグ)に委ねず,自らの手で行った点だ。

「あこがれも,けがれも,喜びも,悲しみも,私は捨ててしまった」と独白するべラフは,先に進むことなく,成れ果ての村に停滞しながらやがて滅んでいくだろう。そんなべラフとは対照的に,ナナチは「あこがれ」という価値を「拾い」,追い求めていくことを主体的に選ぶ。その代償としてナナチはミーティを失い,涙を流すのである。それと同じ涙を,べラフの空虚な目はもはや流すことができない。ナナチの涙は,ナナチが選んだ「価値」の象徴なのかもしれない

こうして第10話アバンは,この話数が〈涙の物語〉であることを告知しているのだ。

 

ファプタの涙,レグの涙

第10話の演出でもっとも注目すべきは,ファプタとレグの格闘シーンで描かれる二度の落涙である。

一度目は,現在のシーンから過去の回想シーンに切り替わるタイミングだ。

ファプタ VS レグの格闘ーそれはさながら元恋人同士の"修羅場"のようでもあるーにおいて,ファプタは「レグが何をすべきなのか,叩いてでも思い出させてやるそす」と言いながら涙を流す。涙滴が美しく舞い落ちる刹那,ファプタとレグの回想シーンが挿入される。

第7話「欲望の揺籃」より引用 ©︎つくしあきひと・竹書房/メイドインアビス「烈日の黄金郷」製作委員会

現在のファプタが流した涙滴が,過去のファプタが流した涙滴に入れ替わり,リュウサザイとの戦いで故障したカブールンの身体の上に落ちる。その後,ファプタとレグの最初の出会いが語られる。フラッシュバックを涙の同一性でつないだ美しい演出だ。
この回想シーンから明らかになるのは,ファプタがレグに対してほとんど愛情に近い感情を抱いていた(そして今も抱いている)という事実だ。この当時の2人は,恋人同士のような距離感で描かれている。レグがファプタに「友好のしるし」を差し出す様は,まるで彼女に下着をプレゼントする彼氏のようで微笑ましい。

第7話「欲望の揺籃」より引用 ©︎つくしあきひと・竹書房/メイドインアビス「烈日の黄金郷」製作委員会

その後,レグは地上への旅に出るべく,ファプタに一時の別れを告げる。この時のファプタのセリフは胸に迫るものがある。

ファプタは…姫なので…レグ…もどってきたら…ずっと一緒にいて…それで…それで…こどもも…

彼女は,母であるイルミューイの「子どもを産みたい」という願望を確かに継いでいたのだ。それをレグとの間で成就しようとしていたファプタは,レグと生涯添い遂げる未来を思い描いていたに違いない。つまりファプタのレグに対する思いには,イルミューイの願いも含まれている。それをレグが忘れたとすれば,地獄のような"修羅場"がもたらされるのも宜なるかなである。

 

二度目の涙は,回想シーンから現在のシーンに戻るタイミングだ。

レグが旅立った後のファプタが,レグの思い出として作った石の人形を噛みながら,失意のうちに涙を流す。

第7話「欲望の揺籃」より引用 ©︎つくしあきひと・竹書房/メイドインアビス「烈日の黄金郷」製作委員会

過去のファプタの目から落ちた涙滴は,現在のファプタの頬に落ちる。しかし実はその涙は,ファプタを組敷くレグが流したものだった。ファプタとレグの涙を入れ替えることで,交わりながらもすれ違う2人の心情を描いた見事な演出だ。

 

この2つの涙のシーンは,どちらも落涙のアニメーションの美しさを活かした,たいへん優れた演出である。淡白で機械的なフラッシュバックにせず,落涙という情緒的な視覚効果を用いることで,ファプタとレグの関係をエモーショナルに増幅している。このような演出があるからこそ,ファプタとレグの"ロマンス"としての関係性がいっそう際立ち,"殺したいほどアイ・ラブ・ユー"ばりのファプタの狂気と殺意も痛いほどに伝わる

第7話「欲望の揺籃」より引用 ©︎つくしあきひと・竹書房/メイドインアビス「烈日の黄金郷」製作委員会

ラストシーンでレグがファプタを組敷くカットでは,レグが腕をファプタの身体に巻きつかせ,手で頭を押さえつけている。まるでレディースコミックの"濡れ場",あるいは“姫”を手籠めにしようとする“王子”のような構図だ。しかし2人の目にはやはり涙が浮かんでいる。ファプタが「レグはやさしいそすな…」と呟く。その直後,舞い散る緑の葉と転がるレグのヘルメットのスローモーション,そしてファプタの「だが…」というセリフによる“タメ”を挟んだ後,ファプタがレグに襲いかかり,2人の立場は完全に逆転する。ファプタが「だが…おろかそす…」と呟き,画面が暗転する。この一連のシーンのタイミングが実に美しい。

 

さて,レグ王子はこの"修羅場"を切り抜け,ファプタ姫の暴虐を止めることができるのだろうか。物語は佳境に入っている。

 

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作品データ

*リンクはWikipedia,@wiki,企業HPなど

【スタッフ】
原作:つくしあきひと/監督:小島正幸/副監督:垪和等/シリーズ構成・脚本:倉田英之/キャラクターデザイン:黄瀬和哉Production I.G),黒田結花/デザインリーダー:高倉武史/プロップデザイン:沙倉拓実/美術監督:増山修関口輝インスパイアード/色彩設計:山下宮緒/撮影監督:江間常高T2 studio/編集:黒澤雅之/音響監督:山田陽/音響効果:野口透/音楽:Kevin Penkin/音楽プロデューサー:飯島弘光/音楽制作:IRMA LA DOUCE/音楽制作協力:KADOKAWA/アニメーション制作:キネマシトラス

【キャスト】
リコ:
富田美憂/レグ:伊瀬茉莉也/ナナチ:井澤詩織/メイニャ:原奈津子/ファプタ:久野美咲/ヴエコ:寺崎裕香/ワズキャン:平田広明/ベラフ:斎賀みつき/マジカジャ:後藤ヒロキ/マアアさん:市ノ瀬加那/ムーギィ:斉藤貴美子/ガブールン:竹内良太/プルシュカ:水瀬いのり/ボンドルド:森川智之

【第10話スタッフ】
脚本:
倉田英之/絵コンテ・演出:小出卓史/作画監督:阿部島瑠珠崎本さゆり谷紫織黒田結花

 

商品情報

 

「メイドインアビス展〜挑む者たちの軌跡〜」レポート[感想]:主線と一次的欲求が紡ぐ物語

*このレポートにはネタバレはありませんが,『メイドインアビス』の内容に関する言及があります。先入観のない状態で鑑賞されたい方は,作品を先にご覧になってから本記事をお読みください。

『メイドインアビス』公式Twitterより引用 ©︎つくしあきひと・竹書房/メイドインアビス「烈日の黄金郷」製作委員会

art.parco.jp

現在放送中のつくしあきひと原作/小島正幸監督『メイドインアビス 烈日の黄金郷』。前作に引き続き,原作の過酷な描写を誠実に映像化するアニメスタッフの力量が高く評価されており,2022年夏クールの中でも大きな話題となっている作品の1つだ。「メイドインアビス展〜挑む者たちの軌跡〜」は,そんな『メイドインアビス』の魅力を原画資料やフォトスポットを楽しみながら振り返る展示会である。

 

展示会データ

*チケットやグッズ等については東京会場のもの

【会場・会期】
【東京】PARCO FACTORY(池袋PARCO本館7F):2022年9月2日(金)~9月19日(月)
【名古屋】PARCO GALLERY(名古屋PARCO西館6F):2022年10月1日(土)~10月16日(日)

【チケット】
日時指定制。【前売券】一般:1,200円(税込)ワンポイントナナチ音声ガイド付き:1,700円(税込)【当日券】一般:1,300円(税込)ワンポイントナナチ音声ガイド付き:1,800円(税込)。詳しくはこちら

【グッズ】
図録の販売なし。アクリルスタンド,クリアファイル,タペストリー,マグカップ,アートボード等の販売あり。詳しくはこちら

【その他】
1期と劇場版のセクションではほぼすべての資料が写真撮影可(映像等は撮影不可)。2期(『烈日の黄金郷』のセクションはパネル展示物以外は撮影不可)。「ワンポイントナナチ音声ガイド」あり(利用する場合はスマホとイヤフォンを持参)。鑑賞所要時間の目安は1時間程度。

 

TVアニメ『メイドインアビス』データ

つくしあきひとの同名マンガを原作とするTVシリーズアニメ。「アビス」と呼ばれる巨大な穴に挑む,リコ・レグ・ナナチらの過酷な冒険を描く。丸みを帯びた可愛らしいキャラクターの造形とは裏腹に,アビスの「呪い」がもたらす壮絶な運命が容赦なく描写されており,近年の冒険アニメの中でも独自の存在感を放つ"怪作"である。特に小島正幸率いるアニメスタッフは,原作の持ち味を遺憾なく表現しており,その力量は高く評価されている。2017年夏に第1期がTV放送され,その後,2019年の劇場版総集編と『劇場版メイドインアビス 深き魂の黎明』を経て,現在第3期がTV放送中である。

【スタッフ】
原作:つくしあきひと/監督:小島正幸/副監督:垪和等/シリーズ構成・脚本:倉田英之/キャラクターデザイン:黄瀬和哉(Production I.G)黒田結花/デザインリーダー:高倉武史/プロップデザイン:沙倉拓実/美術監督:増山修関口輝(インスパイアード)/色彩設計:山下宮緒/撮影監督:江間常高(T2 studio)/編集:黒澤雅之/音響監督:山田陽/音響効果:野口透/音楽:Kevin Penkin/音楽プロデューサー:飯島弘光/音楽制作:IRMA LA DOUCE/音楽制作協力:KADOKAWA/アニメーション制作:キネマシトラス

【キャスト】
リコ:富田美憂/レグ:伊瀬茉莉也/ナナチ:井澤詩織/メイニャ:原奈津子/ファプタ:久野美咲/ヴエコ:寺崎裕香/ワズキャン:平田広明/ベラフ:斎賀みつき/マジカジャ:後藤ヒロキ/マアアさん:市ノ瀬加那/ムーギィ:斉藤貴美子/ガブールン:竹内良太/プルシュカ:水瀬いのり/ボンドルド:森川智之

 

展示構成

第1期,劇場版,第2期の順に展示が構成されており,各コーナーに原画,設定資料,映像,フォトスポットなどが展示されている。「ワンポイントナナチ音声ガイド」は必須ではないが,アビスの雰囲気を楽しむためにも利用をおすすめする。

 

丸みのあるキャラクター:主線が紡ぐ物語

「メイドインアビス展」で特に注目してもらいたいのは,原画資料,しかもその"主線"だ。

『メイドインアビス』のキャラクターは,とにかく丸っこい。一部の大人を除けば,ほぼすべてのキャラクターの輪郭は餅のように柔らかでシンプルなタッチの曲線で描かれている。

京都アニメーションのアニメーターとして活躍した故・木上益治(三好一郎)は,『パジャのスタジオ』(2017年)の制作について,「丸みのあるキャラクター」の難しさを次のように説いている。

当社のスタッフが,バジャのような線数が少なくて丸みのあるキャラクターを描き慣れていないこともあってか,「みんな,苦労しているな」と感じる部分はありました。[…]情報量が少ないキャラクターを描くには,その本質をつかむまでにとても時間がかかるんです。かなり描き込まないと,キャラクターの描き方が見えてきません。*1

「バジャ」や『メイドインアビス』のようなシンプルで丸みのあるキャラクターは,一見,子どもでも描けそうに思えてしまう。しかしシンプルで線数が少なければ,それだけ"ごまかし"が通用しない。丸みのあるなめらかな主線は,油断すると簡単に破綻してしまうだろう。ましてアニメーションとなると,原画と原画の間に中割りを挟むことになるため,わずかなずれがキャラクターの雰囲気を損なう可能性もある。

おそらくリコやレグたちのもちもちした輪郭線には,アニメーターたちの並外れた力量が注ぎ込まれている。色などの情報が付加される前の,線のみで描かれた原画は,そうした制作者たちの手腕をはっきり確認できる格好の資料なのだ。

そして,丸みのあるキャラクターだからこそ,彼ら/彼女らが経験する運命の過酷さ・残酷さが際立つ。『メイドインアビス』という作品は,柔らかい曲線の流れを真っ直ぐな太刀で断ち切るかのような,残忍な「呪い」に満ち溢れている。僕らは,そんな呪いをものともせず,「憧れ」に向かって進み続けるリコたちの姿に感銘を受けるのだ。丸みのあるキャラクターが勝つ。そんな物語を再確認するためにも,ぜひ原画の"主線"に注目してもらいたい。

 

一次的欲求:コラボカフェのススメ

『メイドインアビス』と言えば食事シーンだ。一次欲求を誠実に描くからこそ,「憧れ」という高次の願望が輝く。野田サトル原作の『ゴールデンカムイ』もそうだが,これらの作品のでは食事シーンと物語とが不可分なのだ。

実は,僕はふだんアニメ関連の展示会のコラボカフェを訪れることがほとんどない。単純に待ち時間がもったいないからだ。だが今回の展示では,上で述べたような事情から,時間をとってカフェのメニューをいくつか楽しんでみることにした。

注文したのは「成れ果て食堂限定商品(アラビアータ)〜リコ玉孵り焼き付き〜」「マアアさんのパフェ」「ファプタのクランベリーカルピス」の3つ。

「アラビアータ」はあの「睾丸焼き」をイメージした商品。クレープの皮のようなものを破るとアラビアータが見えてくる。「リコ玉孵り焼き」はタコザンギ。「マアアさんのパフェ」はマアアさん形状のアイスが乗ったごく普通のパフェだが,このマアアさんがすこぶる可愛い。どちらも味は…おそらくコラボカフェのメニューのアベレージといったところだろうか。意外と普通に美味しかったのが「ファプタのクランベリーカルピス」だった。

これ以外にも「クべキャサス(ほうれん草のカレー)」や「水もどきソーダ」など試したいものがたくさんあったのだが,さすがに胃袋にきつい。マフィア梶田さんは全メニューを注文したというから恐れ入る。

最後にちょっとしたサプライズが。カフェを出て会計を済ませようと並んでいると,なんとマジカジャ役の後藤ヒロキさんがやってきて,そそくさと店のポスターにサインを書いて帰って行ったのだ。これにはかなり驚いた。そして後でTwitterの投稿を見てみると,後藤さんも全メニューを頼んだらしい…

 

胃袋に自信のある猛者には,ぜひアビスメニューを制覇してもらいたい。

 

さて,放送中の『烈日の黄金郷』も終盤を迎え,物語も佳境に入っている。「成れ果て村」における,丸みのあるキャラクターたちの運命はどう締めくくられるか。最後まで見届けよう。

 

 

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*1:「私たちの,いま!2019」(『私たちは,いま!!全集2019』,京都アニメーション,2020年に所収),p.139。

TVアニメ『リコリス・リコイル』(2022年夏)第9話「What's done is done」の演出について[考察・感想]

 *この記事は『リコリス・リコイル』「#9 What's done is done」のネタバレを含みます。

「#9 What's done is done」より引用 ©︎Spider Lily/アニプレックス・ABCアニメーション・BS11

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足立慎吾監督『リコリス・リコイル』の各話レビュー第2弾として,今回は「#9 What's done is done」を取り上げてみたい。総作画監督の山本由美子以下,作画班の技術が遺憾なく発揮された美麗な作画,丸山裕介副監督の卓越した演出,主人公・錦木千束のキャラ(クター)を的確に表現した各種シーンなど,語りがいのある名話数である。

 

美麗なる作画

千束の「余命2ヶ月」が告知され,最終話に向けて物語が加速し出した第9話。ここぞとばかりにスタッフ最大出力の作画・演出力が発揮された話数だった。特に作画に関しては,山本由美子が総作監を自ら買って出たということもあり,相当に気合の入った仕事が見られた。

「#9 What's done is done」より引用 ©︎Spider Lily/アニプレックス・ABCアニメーション・BS11

どのカットを切り取っても,アニメ誌のピンナップとして成立しそうなほど美麗な作画だ。近年,作画面で"うまい"と思わせるアニメは少なくないが,なかでもこの話数の作画レベルは段違いに高い。

「#9 What's done is done」より引用 ©︎Spider Lily/アニプレックス・ABCアニメーション・BS11

ミカを目の前にして頬を赤らめるフキや,フキに引きずられてパフェを惜しみながら去るサクラなど,サブキャラクターの作画も細部の描線まで生き生きと描かれている。すべてのキャラクターに愛情が注がれていることがよくわかる作画だ。

そし何よりこの話数では,たきなの作画と演出が光っている。特に千束の余命を知った後のたきなの芝居は細部まで作り込まれており,何度観ても飽きることがない。

「#9 What's done is done」より引用 ©︎Spider Lily/アニプレックス・ABCアニメーション・BS11

リコリコでの仕事中に千束と目が合うが,気まずさを抑えきれず目を逸らしてしまい,無言で立ち去る。この一連のシーンの目線の芝居,フォーカスの処理,カメラの切り替えなど,実に丁寧に作られている。

「#9 What's done is done」より引用 ©︎Spider Lily/アニプレックス・ABCアニメーション・BS11

たきながミカとクルミの話を立ち聞きした後,DAに戻る決意をするカット。前髪から落ちる雨滴が一瞬放つ光は,彼女の静かな決意を象徴的に表している。前髪の房の僅かな動きも丁寧に作画されており,ささやかだが印象に残る効果的な映像アクセントだ。

「#9 What's done is done」より引用 ©︎Spider Lily/アニプレックス・ABCアニメーション・BS11

ラストシーンで千束からマフラーを巻いてもらうたきな。長い黒髪がいくつもの房に分かれ,マフラーの内側へとカーブする様が美しく描かれている。一種の"マフラー女子あるある"の図だが,ここまで丁寧に作画されているとこれだけで"絵"として成立してしまう。

この話数は,総作画監督に山本由美子,作画監督に小松沙奈森田莉奈戸髙真希と,女性スタッフの割合が高い(原画と第二原画の女性比率も高い)ことも特記しておこう。全体として作画面に女性らしい細やかさが反映されている印象がある(女性スタッフを多く起用した幾原邦彦監督『輪るピングドラム』(2011年)なども想起させる)。*1

 

〈聖母〉の抱擁:千束とシンジのディスコミュニケーション

そして第9話で特筆すべきは,あらゆる命を守ろうとする千束の〈聖性〉が改めて強調された点だ。

「#9 What's done is done」より引用 ©︎Spider Lily/アニプレックス・ABCアニメーション・BS11

千束の人工心臓を破壊した姫蒲を殺害しようと飛び出すたきな。それを「いいのよ」と母のように優しく宥めて止める千束。夕暮れの光を背後に浴びながら穏やかに微笑む千束の姿は,ある種の神々しさを放っているとすら言える。

そして千束とシンジの初対面シーンは,この話数のクライマックスでもある。病院の中を車椅子で走り回る千束は,そこにたまたま居合わせたシンジを見かける。千束は持ち前の聡い観察眼で,彼が自分に人工心臓を授けてくれた人物であることを悟る。

「#9 What's done is done」より引用 ©︎Spider Lily/アニプレックス・ABCアニメーション・BS11

暗殺者としての千束を生かすべく「救世主」を自称するシンジと,自分の命を救ってくれたことに感謝しつつ,自らも「救世主」になることを誓う千束。この時,シンジの脳裏にあるのは"殺すこと"であり,千束の思いは"生かすこと"である。この「皮肉」(クルミの言葉)なディスコミュニケーションの中で,千束は徐ら車椅子から立ち上がり,シンジを優しく抱きしめる。幼い子どもが大の男を抱擁するというこのシーンは,たとえどんな相手であっても命を奪わない,という千束の〈聖性〉をよく表しており,「#2 The more the merrier」で敵の男を手当てをしたシーンを想起させる。

「#2 The more the merrier」より引用 ©︎Spider Lily/アニプレックス・ABCアニメーション・BS11

「救世主」という言葉を敢えて誤用したシンジと,それを正しく誤解した千束。はたして10年前の千束の抱擁の温もりは,今もシンジの心に残っているのだろうか。

 

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作品データ

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【スタッフ】
原作:Spider Lily/監督:足立慎吾/ストーリー原案:アサウラ/キャラクターデザイン:いみぎむる/副監督:丸山裕介/サブキャラクターデザイン:山本由美子/総作画監督:山本由美子鈴木豪竹内由香里晶貴孝二/銃器・アクション監修:沢田犬二/プロップデザイン:朱原デーナ/美術監督:岡本穂高池田真依子/美術設定:六七質/色彩設計:佐々木梓CGディレクター:森岡俊宇/撮影監督:青嶋俊明/編集:須藤瞳/音響監督:吉田光平/音楽:睦月周平/制作:A-1 Pictures

【キャスト】
錦木千束:安済知佳/井ノ上たきな:若山詩音/中原ミズキ:小清水亜美/クルミ:久野美咲/ミカ:さかき孝輔

【第9話スタッフ】
脚本:
神林裕介/絵コンテ:大槻敦史/演出:丸山裕介/総作画監督:山本由美子/作画監督:小松沙奈森田莉奈戸髙真希

 

商品情報 

*1:このご時世,"女性らしさ"などと言うと,ジェンダーバイアスの謗りを受けかねないが,だからと言って,描かれたものに男女間の文化的感性の違いが反映されることも事実だ。もちろん,この違いが将来的に別の言い方で名指されることになるかもしれないし,また別の性的指向の感性が作品に感取されることもあるだろう。少なくとも,そこにある"差異"は読み取られるべきだ。

TVアニメ『メイドインアビス 烈日の黄金郷』(2022年夏)第7話「欲望の揺籃」の演出について[考察・感想]

 *この記事は『メイドインアビス 烈日の黄金郷』第7話「欲望の揺籃」のネタバレを含みます。

第7話「欲望の揺籃」より引用 ©︎つくしあきひと・竹書房/メイドインアビス「烈日の黄金郷」製作委員会

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つくしあきひと原作/小島正幸監督『メイドインアビス 烈日の黄金郷』は,前作の劇場版『深き魂の黎明』に続く,「深界第六層」の物語を描いた続編である。今回取り上げる第7話「欲望の揺籃」は,第六層でリコたちを迎える「成れ果ての村」の呪われた成り立ちが語られる重要な話数だ。『深き魂の黎明』以上に視聴者を戸惑わせる壮絶な物語だが,その詩的で隠喩に満ちた語り口は,本作の魅力をもっともよく表しているとも言える。今回は特に,その卓越した音作りと画作りに注目してみよう。

 

"聖母"の絶叫

子どもを身籠ることができず,呪われた子として打ち捨てられたイルミューイは,ワズキャン率いる「ガンジャ隊」に同行することになるが,ある時「水もどき」の毒に侵され瀕死の状態になる。彼女はガンジャ隊の一員ヴエコの提案で,生き物の願いを叶える「欲望の揺籃」を与えられ,かつて可愛がっていた原生生物「ヤドネ」に似た"子ども"を産み落とすようになる。しかしその子どもは食物の摂取器官をもたないため,すぐに死んでしまう。こうして,イルミューイの「子を産む」という欲望=願いは歪な形で叶えられる。性交渉を経ても子どもを産むことができないヴエコ=祖母(始祖の母)から,性交渉を経ずに子どもを産む"聖母"が誕生する。この"聖母"イルミューイの造形が新約聖書における「処女懐胎」をモチーフとしていることは明らかだ。ワズキャン・べラフ・ヴエロエルコを指す「三賢」という呼称は,いわゆる「東方の三賢人」からとられていると考えられる。イルミューイの子を食べる行為もイエスの聖餐を思わせる。

第7話「欲望の揺籃」より引用 ©︎つくしあきひと・竹書房/メイドインアビス「烈日の黄金郷」製作委員会

しかしこの物語で“聖母”の誕生を告知するのは,百合の花を携える天使ではなく,イルミューイ自身の悲痛な“叫び”であった。

第7話で特筆すべきは,イルミューイ&ファプタ役の久野美咲の演技だ。久野は可愛らしい"幼女ボイス"で定評のある声優だが,本作では幼女ボイスの非常に高いピッチのまま,“誕生”と"喪失"の苦しみの叫びを演じきるという離業をやってのける。

第7話「欲望の揺籃」より引用 ©︎つくしあきひと・竹書房/メイドインアビス「烈日の黄金郷」製作委員会

子どもを産み落とす瞬間の叫び,そしてその子ども失う刹那の叫び。どちらもアビス第六層の「呪い」そのものの叫びを聞くかのような感覚を覚える。そしてこのイルミューイの叫びを宥めるかのように,Kevin Penkinの美しい楽曲が静かに流れる。ヴエコ(寺崎裕香)の散文詩のような語り,ワズキャン(平田広明)の柔らかくも残酷な低音の声,Kevin Penkinの透明度の高い楽曲,そしてそれらをガラス片のように引き裂くイルミューイ(久野美咲)の叫び。この一連の音作りに注意しながら試聴してみると,この話数における音響設計が今期の作品の中でも抜きん出てレベルが高いことがわかるだろう。

 

ワズキャンの顔 VS ヴエコの顔

第7話の演出でもう1つ注目したいのは,ワズキャンとヴエコの表情の捉え方だ。アニメでは,ワズキャンの顔を見据えるヴエコを真正面から捉えたカットが2度挿入されている。この話数の中でももっとも印象的なカットだ。

第7話「欲望の揺籃」より引用 ©︎つくしあきひと・竹書房/メイドインアビス「烈日の黄金郷」製作委員会

このカットをつくしのマンガ原作と比べてみると面白い。ワズキャンの顔は原作・アニメともほぼ同じ構図である。しかしそれを畏怖の眼差しで見つめるヴエコの顔に関しては,原作では小さなコマやアオリで捉えているのに対し,アニメでは真正面からの表情を大写しで捉えているのだ。

左:つくしあきひと『メイドインアビス 8』【電子版】pp.70-71より引用 
右:同上,pp.90-91より引用
©︎AKIHITO TSUKUSHI/TAKESHOBO 2019

アニメ版におけるヴエコの表情の捉え方は,『メイドインアビス』という物語の構造を解釈する上で大きな意味を持つように思える。

これは前作のボンドルドに関しても言えることだが,彼らの残酷な振る舞いは,単に残酷であるというだけでなく,リコやヴエコの生存を可能にする必要条件にもなっている。つくしの度し難いストーリーテリングは,「残虐行為がなければ物語が成立しない」というロジックを成り立たせてしまっているのだ。しかしこのままでは,物語はもっぱら"負"の推進剤のみで駆動することになる(むろん,つくしにはその方向性で物語を成立させる力量もあるだろう)。1つの冒険物語として,物語の推力を"正"へと反転させるためには,負を負として否定的に見据える眼差しがどうしても必要だ。それが『深き魂の黎明』のボンドルドに対するリコ&レグの眼差しであり,『烈日の黄金郷』のワズキャンに対するヴエコの眼差しなのではないか。アニメ版は,この〈負に対峙する眼差し〉という側面を原作よりもいっそう強調しているように思えるのだ。

『メイドインアビス 深き魂の黎明』より引用 ©︎つくしあきひと・竹書房/メイドインアビス「深き魂の黎明」製作委員会

 

『メイドインアビス』には両義的な表現が満ち溢れている。呪いと祝福,死と生,絶望と希望。しかしこの作品では,それらは明示的に対立するのではなく,アマルガムのように曖昧に溶け合っている。それを象徴するのがヴエコが呟く「温かい闇」という言葉だ。物語は正と負,陰と陽をアマルガム状態で内包しながらも,少しずつ前に進んでいく。はたして,彼ら/彼女らの「憧れ」を待ち受けるのは,光なのだろうか。闇なのだろうか。

第7話「欲望の揺籃」より引用 ©︎つくしあきひと・竹書房/メイドインアビス「烈日の黄金郷」製作委員会

 

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作品データ

*リンクはWikipedia,@wiki,企業HPなど

【スタッフ】
原作:つくしあきひと/監督:小島正幸/副監督:垪和等/シリーズ構成・脚本:倉田英之/キャラクターデザイン:黄瀬和哉Production I.G),黒田結花/デザインリーダー:高倉武史/プロップデザイン:沙倉拓実/美術監督:増山修関口輝インスパイアード/色彩設計:山下宮緒/撮影監督:江間常高T2 studio/編集:黒澤雅之/音響監督:山田陽/音響効果:野口透/音楽:Kevin Penkin/音楽プロデューサー:飯島弘光/音楽制作:IRMA LA DOUCE/音楽制作協力:KADOKAWA/アニメーション制作:キネマシトラス

【キャスト】
リコ:
富田美憂/レグ:伊瀬茉莉也/ナナチ:井澤詩織/メイニャ:原奈津子/ファプタ:久野美咲/ヴエコ:寺崎裕香/ワズキャン:平田広明/ベラフ:斎賀みつき/マジカジャ:後藤ヒロキ/マアアさん:市ノ瀬加那/ムーギィ:斉藤貴美子/ガブールン:竹内良太/プルシュカ:水瀬いのり/ボンドルド:森川智之

【第7話スタッフ】
脚本:
倉田英之/絵コンテ:小島正幸/演出:小池裕樹/作画監督:北原安鶴紗LEE MinjaeIM SunheeKIM EunhaBAEK JiwonYU Minzi

 

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2022年 夏アニメ 中間評価[おすすめアニメ]

*この記事にネタバレはありませんが,各作品の現時点までの話数の内容に言及しています。未見の作品を先入観のない状態で鑑賞されたい方は,作品を先にご覧になってから本記事をお読みください。

 

2022年夏アニメもほとんどの作品が第6話までの放送を終え,およそクールの折り返し地点に達している。今回も,現時点までの当ブログ最注目作品を五十音順に(ランキングではないことに注意)いくつか取り上げてみたい。

なお「2022年 夏アニメは何を観る?」の記事でピックアップした作品は,タイトルを赤色にしてある。

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1. 異世界おじさん

isekaiojisan.com

異世界帰りのおじさんと甥のコメディという設定の妙に加え,子安武人(おじさん)と福山潤(甥のたかふみ)のシュールな掛け合いが癖になる秀作ギャグアニメだ。特に子安武人のキャスティングは,このキャラクターにとって最適解だと言えるだろう。独特なテクスチャーの作画もとてもいい。異世界モノのテンプレートに対するオルタナティブとして,このジャンルの底知れぬポテンシャルを感じさせてくれる作品でもある。

 

2. サマータイムレンダ

summertime-anime.com

春からの連続2クール作品のため,「夏アニメは何を観る?」の記事では挙げなかったが(「春アニメは何を観る?」では挙げてある),そのクオリティの高さに今回の記事でも特筆すべき作品と判断した。実はストーリーの骨子や設定そのものはさほど目新しいものではないのだが,毎話の盛り上げや引き,ややもすると違和感を催しかねないほどの大胆な"顔芸"など,演出面での質の高さは群を抜いて際立っている。すでに原作マンガでの一定の評価を受けている作品なだけに,このままいけばかなりの傑作となるに違いない。

 

3. ちみも

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ゆるふわ感たっぷりのビジュアルと物語は深夜アニメとしては好みが分かれるところだろうが,純粋に1つのアニメーション作品として見ると,とても丁寧に作り込まれた秀作であることがわかる。丸みを帯びたキャラクターの動かし方や,かなり大胆な色彩設計などは,相当なセンスがなければ魅力的な作品として成立しないだろう。また,ギャグアニメで定評のあるうえのきみこの脚本も光る。アニメファンには,できれば好き嫌いをせずに観てもらいたい作品である。

 

4. メイドインアビス 烈日の黄金郷

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これまでも当ブログでは高く評価してきたシリーズだが,この第2期「烈日の黄金郷」も文句なしの出来栄えである。特に「成れ果ての村」の住人や背景美術の色彩がきわめてユニークで,すでにストーリーを知っている原作ファンにとっても意外性を楽しめる作りになっている。またアニメでは,リコさん隊とガンジャ隊の命運を重ね合わせる演出がなされているのも面白い。ファプタマアアさんマジカジャなど,この作品ならではのユニークなキャラもうまくアニメイトされており,たいへん見応えがある。

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5. よふかしのうた

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アニメでは,夜の風景を彩り豊かに描くことで,本作のテーマでもある〈夜の楽しさ〉を原作以上にアンプリファイしている。今のところ,さほど起伏のあるストーリーは展開されていないが,それだけに却って作品世界の雰囲気をじっくり伝えているのがいい。原作では,登場人物が増えるにつれ物語の情報量も増えていくので,アニメも長く制作を続けていってほしい。雨宮天のダミ声花守ゆみりの冷静なツッコミキャラなど,声優陣の演技も注目に値する。

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6. リコリス・リコイル

lycoris-recoil.com

キャラ(クター),脚本,作画,音楽,どの点をとっても優秀な作りのハイクオリティ・アニメだ。特に主人公・錦木千束の造形は秀逸で,陰と陽を含み込んだ多義的なキャラ(クター)は,今期の主人公の中でも際立って魅力的だ。ルックも性格も正反対のキャラ(クター)・井ノ上たきなとのバディも面白い。オリジナルアニメということもあり,最終的な評価は今のところ保留されるが,最終話までの出来次第では,今クール,あるいは2022年の作品の中でもかなりの高評価となるだろう。

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以上「アニ録ブログ」が注目する2022年夏アニメ6作品を挙げた。最終的なランキング記事は,全作品の放映終了後に掲載する予定である。

『リコリス・リコイル』錦木千束〈キャラ(クター)〉考察

*この記事はネタバレを含みます。

『リコリス・リコイル』OPアニメーションより引用 ©︎Spider Lily/アニプレックス・ABCアニメーション・BS11

今期(2022年夏)もっとも注目されるオリジナルアニメ『リコリス・リコイル』。その優れた脚本力と,物語と緊密に連係した〈キャラ(クター)〉の作り込みは,近年のオリジナルアニメの中でも抜きん出てレベルが高い。今回の記事では,主人公「錦木千束(にしきぎちさと)」の〈キャラ(クター)〉の魅力を掘り下げてみよう。

なお,本記事における〈キャラ〉〈キャラクター〉という用語に関しては,以下の記事を参照頂きたい。

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〈キャラ〉としての千束

ルック:赤と黒

千束の基調色は〈赤〉だ。金髪+ボブカット+赤眼+赤リボン+赤い制服という組み合わせは,それ自体としてはさほど気を衒った造形ではないが,いみぎむるデザインの個性を最大限活かすことで魅力的なキャラに仕上がっている。また「#4 Nothing seek, nothing find」私服姿「#6 Opposites attract」ツインテールなど,ルックのバリエーションも工夫されており,視聴者を飽きさせない面白いキャラ作りをしている。

左:「#4 Nothing seek, nothing find」より引用
右:「#6 Opposites attract」予告編より引用
©︎Spider Lily/アニプレックス・ABCアニメーション・BS11

この千束の造形は,黒髪+長髪+黒眼の〈無彩色〉を基調とした井ノ上たきなのそれと好対照を成している。千束=おちゃらけ,たきな=生真面目という性格の対照性とも相まって,2人はある種の相互補完的な関係性を成している。バディを成すことで主人公2人のキャラ性を際立たせるという定石をうまく使ったキャラ設計と言えるだろう。こうしたキャラ設計は枚挙にいとまがないが,最近の作品では,現在放送中の『メイドインアビス』「リコ」「レグ」なども同様の例と言える。また,おちゃらけ×生真面目というバディで言えば,『けいおん!』「平沢唯」「中野梓」の距離感ともよく似ている。

左:『メイドインアビス』公式Twitterより引用 ©︎つくしあきひと・竹書房/メイドインアビス「烈日の黄金郷」製作委員会
右:『映画けいおん!』より引用 ©︎かきふらい・芳文社/桜高軽音部

すでにグッドスマイルカンパニーから,ねんどろいどとスケールフィギュアの発売が発表されているが,これも千束とたきなのセット購入を前提としたものだと思われる。

 

歴代最強リコリス:JK版〈冴羽獠〉

千束は「歴代最強のリコリス」としてその名をとどろかせるほど優秀なエージェントだ。身体能力の高さに加え,僅かな身体所作や衣服の動きから敵の動作を予測し,至近距離からの銃弾でも避けるという特殊能力も備えている。

左・中:「#2 The more the merrier」より引用
右:「#1 Easy does it」より引用
©︎Spider Lily/アニプレックス・ABCアニメーション・BS11

その一方で,千束は生真面目なたきなとは対照的な,ハイテンションなおちゃらけキャラという側面も持っている。この無敵+おちゃらけというキャラ特性と,町のコミュニティとの関わり合い方は,『シティハンター』(マンガ原作:1985-1991年/TVアニメ:1987-1991年)の冴羽獠を彷彿とさせるかもしれない。冴羽獠も同じだが,この手の"最強おちゃらけキャラ"には影の部分や暗い過去といった"暗"の要素がつきまとうものだ。千束に関しては,後述する「アラン機関」との関係や「人工心臓」にまつわる〈キャラクター性〉がその部分を担うことになるだろう。

 

聖母性:安済知佳のファルセット

最強無敵キャラである一方で,千束はたとえ凶悪犯でもその命は決して奪わないという主義を貫いており,常に殺傷能力の低いゴム弾で任務を遂行する。「#2 The more the merrier」では,負傷した敵の応急処置をする様子が印象的だ。暗殺部隊「リコリス」の一員である彼女がそのような主義を持つように至った経緯や,今後の展開・変化などについては,現在(第6話時点)では明らかにされていないが,おそらく「電波塔事件」や「アラン機関」などと関係があるものと推測される。

左:「#2 The more the merrier」より引用
中・右:「#5 So far, so good」より引用
©︎Spider Lily/アニプレックス・ABCアニメーション・BS11

いずれにせよ,他者の死を忌避する千束の主義は,無敵+おちゃらけの背後に隠されたある種の聖性を暗示している。このようなキャラ性は,たきなとのバディ関係のイメージにも少なからず影響するだろう。特に「#5 So far, so good」において,たきなが千束の心臓の鼓動を確かめるシーンは,"百合"というよりは"姉妹""母娘"を想起させるイメージになっている。安済知佳のピッチの高いファルセット気味の発声は,千束のハイテンションキャラにマッチすると同時に,この〈聖母性〉というキャラも補強している。

 

〈キャラクター〉としての千束

アラン機関:天才孤児の「使命」

以上にように,千束のキャラ性は概ね"陽"の要素でまとめられている。その反面,彼女をめぐる物語,つまりそのキャラクター性は,"暗"の要素に彩られている。

「リコリス」は孤児を集めて作られた実働部隊であり,千束やたきなたちも例外ではない。任務中に命を落とすこともしばしばあり,"女子高生風"という見た目の華やかさとは裏腹な,過酷な運命を背負っている。

「4 Nothing see, nothing find」より引用
©︎Spider Lily/アニプレックス・ABCアニメーション・BS11

そして貧困層などから"天才"を見出し支援を行う謎の組織「アラン機関」は,孤児である千束の「才能」を見出し,その証であるフクロウのチャームを与えている。千束は自身の「才能」が何なのか自覚していないが,「#4 Nothing seek, nothing find」では,それが「殺し」の才能であることが暗示されている。アラン機関の一員である吉松シンジは,何からの理由で千束の「殺し」の才能を発揮させようと暗躍している。つまり彼女の〈聖母性〉を侵犯しようと画策しているのだ。この辺りが物語の核となるであろうことを考えると,千束の〈キャラ(クター)〉性はストーリーときわめて緊密に連係していると言ってよいだろう。

 

鼓動のない心臓

そして,千束というキャラに暗い影を落としているもう1つの要素が,「#5 So far, so good」で明かされる「人工心臓」だ。

千束は何らかの理由でアラン機関から高性能の人工心臓を与えられている。それはちょうど機械装置で遠隔操作されていた老人と同じように,千束がアラン機関=吉松シンジにその生死を掌握されていることを仄めかしている。千束が両手で作るハートの背後に「フクロウのチャーム」が見えているのが象徴的だ。

「#5 So far, so good」より引用 ©︎Spider Lily/アニプレックス・ABCアニメーション・BS11

そしてこの人工心臓に鼓動がないという点も興味深い。実際,人工心臓技術には拍動流型と無拍動流型の2種が存在し,それぞれにメリットとデメリットがあるわけだが,この作品ではあえて無拍動流型が選択されているのだ。その物語上の意図は今後明らかにされていくかもしれないが,少なくとも千束のキャラ(クター)性から見た場合,より生命感の希薄な無拍動流型が選ばれたことには大きな意味があるだろう。千束はあれほど溌剌とした無敵少女でありながら,心の中心に無機質な機械を抱え,生と死の両方を象徴するキャラ(クター)として物語の中心を占めているのだ。

 

ここまで見てきたことからわかるように,錦木千束というキャラ(クター)には非常に多くの要素と意味が詰め込まれている。それらが物語後半でどう解きほぐされていくか。最後まで見届けようではないか。

 

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作品データ

*リンクはWikipedia,@wiki,企業HPなど

【スタッフ】
原作:Spider Lily/監督:足立慎吾/ストーリー原案:アサウラ/キャラクターデザイン:いみぎむる/副監督:丸山裕介/サブキャラクターデザイン:山本由美子/総作画監督:山本由美子鈴木豪竹内由香里晶貴孝二/銃器・アクション監修:沢田犬二/プロップデザイン:朱原デーナ/美術監督:岡本穂高池田真依子/美術設定:六七質/色彩設計:佐々木梓CGディレクター:森岡俊宇/撮影監督:青嶋俊明/編集:須藤瞳/音響監督:吉田光平/音楽:睦月周平/制作:A-1 Pictures

【キャスト】
錦木千束:安済知佳/井ノ上たきな:若山詩音/中原ミズキ:小清水亜美/クルミ:久野美咲/ミカ:さかき孝輔

 

商品情報

TVアニメ『よふかしのうた』(2022年夏)第4夜「せまくない?」の演出について[考察・感想]

 *この記事は『よふかしのうた』第4夜「せまくない?」のネタバレを含みます。

第4話「せまくない?」より引用 ©︎2022コトヤマ・小学館/「よふかしのうた」製作委員会

yofukashi-no-uta.com


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板村智幸監督『よふかしのうた』は,『だがしかし』(原作:2014-2018年/TVアニメ:2016年,2018年)で知られるコトヤマの同名マンガを原作とするTVアニメだ。エイロマンティック気味の主人公・夜守コウが,吸血鬼の七草ナズナとの出会いを通して,"恋"と"自由"の意味を模索していくコメディ作品である。端々に見られる昭和風味の設定は,観る人を選ぶ可能性もあるが,“ちょっと前の古さ”を効果的な演出スパイスとして用いた例として評価できる。今回の記事では,第4夜「せまくない?」の演出に注目しつつ,本作の魅力を炙り出してみよう。

 

色々な〈色〉

当然のことだが,モノクロのマンガをアニメ化する際には,〈色彩〉という表現要素が付加される。それはアニメの制作者による独自の"解釈"であり,マンガ原作アニメを観る最大の楽しみの1つでもある。

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今期のTVアニメの中でも,『よふかしのうた』のアニメの主要舞台である〈夜〉の色彩設計は抜群に面白い。原作のように淡白な単色で描かず,むしろ艶やかな色彩で彩ることにより,夜の持つ豊かな表情を魅力的に描き出している。この色彩設計を原作者のコトヤマがどう評価しているかが気になるところだが,原作とは違った解釈を誘う要素として,表現上の意義は大きいと言えるだろう。

第4話「せまくない?」より引用 ©︎2022コトヤマ・小学館/「よふかしのうた」製作委員会

夜空には,ほぼ常に彩り豊かな天の川が映し出されている。その下に広がる夜の街の色は,宇宙の色を反映しているかのように神秘的であり,また同時に,一昔前の繁華街の雑多なネオンサインのように淫靡ですらある。

ところで〈色〉という漢字はそれ自体が多義的で,色々な意味を含んでいる。心情,情愛,情欲,風流,多様性。アニメ版で強調されているこの〈色〉は,コウとナズナの関係の多義性ーー性欲か,恋か,友情かーーを象徴しているようにも思える。

ところが第4夜「せまくない?」は,そんな表情豊かな〈夜〉とは対照的な,朝井アキラのやや単調で退屈な〈昼〉の風景から始まる。

第4話「せまくない?」より引用 ©︎2022コトヤマ・小学館/「よふかしのうた」製作委員会

コウの幼馴染であるアキラは,夜ふかしに興じるコウとは違い,一般的な中学生らしい〈昼〉のルーティンを日々こなしている。だが,彼女の〈昼〉の日常は少々彩りを欠いているようだ。学校,団地の建物,浴室,自室。アキラを取り巻く様々な事物の色彩は,彩度を抑え気味に描写されている。

第4夜では,そんなアキラがコウに誘われて吸血鬼ナズナの部屋でゲームをして遊ぶことになる。この奇妙な三角関係を描いた一連のシーンは,そのレイアウトの妙と相俟って,この上なく面白いアニメーションに仕上がっている。

 

小津調ロマン(ス/ポルノ)

『よふかしのうた』は,ナズナの部屋の空間描写がとにかく面白い。多くのヴァンパイア作品では立ち姿の吸血シーンが比較的多い(実際『よふかしのうた』にもそうしたシーンがある)と思われるが,『よふかしのうた』では,敷布団の上でナズナがコウに添い寝しながら血を吸うという,一風変わったリチュアルが描かれるのだ。

フローリングの上に無造作に敷かれた薄い敷布団。スタイリッシュな連れ込み宿のような佇まい(実際,ナズナはそのような使い方をしているのだが)は,令和風味にアレンジされた日活ロマンポルノのワンシーンようだ。団地の畳敷きにベッドが置かれたアキラやコウの部屋ときれいな好対照を成しているのも面白い。

特に第4夜では,ここにコウ,ナズナ,アキラの「男女女」が配置されることにより,空間的にも心理的にも絶妙な関係性が発生している。

第4話「せまくない?」より引用 ©︎2022コトヤマ・小学館/「よふかしのうた」製作委員会

多くのカットで,カメラが床すれすれの地点まで引き下げられ,独特のローアングルが生まれている。上の3枚の構図は特に面白い。小津安二郎も手を叩いて喜ぶのではないかと思わせるほどのユニークな構図だ(ちなみにこの辺りの構図はほぼ原作通りである)。

そして,このシーンにおけるコウとアキラの会話劇,およびアキラの心情描写も注目に値する。

敷布団という,久しぶりに会ったというにはあまりにも近すぎる距離感の中で,アキラは「吸血鬼になりたい」というコウの「夢」を知る。それはあまりにも突飛で現実味のない「夢」だが,少なくともアキラにとって,この対話はコウの真実の気持ちを知り得るきっかけとなったのである。敷布団の上で行われるコウとアキラの親密な会話劇は,コウとナズナの関係に劣らず多義的だ。エイロマンティックのコウがナズナに対して抱く感情が"恋"なのか"友情"なのか"性欲"なのかが留保されている状況の中で,アキラがコウに対して抱く感情も"恋"か"友情"かで留保されている。にもかかわらず,その曖昧な関係は"敷布団の上での添寝"という状況によって,奇妙な形で情欲を暗示してしまっている。それも,こともあろうに"昭和ロマンポルノ"風味なシチュエーションの中で。

第4話「せまくない?」より引用 ©︎2022コトヤマ・小学館/「よふかしのうた」製作委員会

ともかくも,アキラの中でコウに対する感情が何らかの形で変化したのは間違いない。花守ゆみりのあまりにも自然な演技に,ややもすると聞き逃してしまうのだが,彼女はいつの間にか「夜守」ではなく「コウ」と呼びかけるようになっている。

翌朝,見透かしたようなナズナに「人は一日に満足するとよく眠れるのさ。満足できたかい?」と問われたアキラは,「さあ…どうなんでしょうね」と曖昧に返答する。しかしその目に映る雨上がりの町の風景は,少し前まで失われていた〈色〉を幾分か取り戻しているようである。

第4話「せまくない?」より引用 ©︎2022コトヤマ・小学館/「よふかしのうた」製作委員会

 

作品データ

*リンクはWikipedia,@wiki,企業HPなど

【スタッフ】
原作:コトヤマ/監督:板村智幸/チーフディレクター:宮西哲也/脚本:横手美智子/キャラクターデザイン:佐川遥/音楽:出羽良彰/美術設定:杉山晋史/美術監督:横松紀彦/色彩設計:滝沢いづみ/色彩設計補佐:きつかわあさみ/撮影監督:土本優貴/編集:榎田美咲/音響監督:木村絵理子/オープニング・テーマ:Creepy Nuts「堕天」/エンディング・テーマ:Creepy Nuts「よふかしのうた」/アニメーション制作:ライデンフィルム

【キャスト】
夜守コウ:
佐藤元/七草ナズナ:雨宮天/朝井アキラ:花守ゆみり/桔梗セリ:戸松遥/平田ニコ:喜多村英梨/本田カブラ:伊藤静/小繁縷ミドリ:大空直美/蘿蔔ハツカ:和氣あず未/夕真昼:小野賢章/秋山昭人:吉野裕行/白河清澄:日笠陽子

【第4話スタッフ】
脚本:
横手美智子/絵コンテ:伊東優一宮西哲也/演出:武藤信宏/総作画監督:佐川遥

 

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TVアニメ『リコリス・リコイル』(2022年夏)第3話「More haste, less speed」の演出について[考察・感想]

 *この記事は『リコリス・リコイル』「#3 More haste, less speed」のネタバレを含みます。

「3 More hast, less speed」より引用 ©︎Spider Lily/アニプレックス・ABCアニメーション・BS11

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足立慎吾監督『リコリス・リコイル』は,高校生に扮した少女たちが犯罪者を処分するというハードボイルドな設定と,それと対照的な「喫茶リコリコ」での日常的な風景を描いたオリジナルアニメだ。その華やかなルックと豊かな人物描写は多くの視聴者の心を捉え,今期もっとも注目されるオリジナルアニメとして高い評価を受けている。今回の記事では,「#3 More haste, less speed」の演出を中心に,本作の基底を成している〈仮象/現実〉〈規律/日常〉という物語構造を見ていこう。

 

〈仮象〉としてのJK

僕らは高校生が主人公のアニメをごまんと知っている。ハイティーンという限られた人生の期間に圧縮された特殊な行動力,活力,あるいは未熟さは,僕ら自身の過去の経験に触れながら,一種の感情発生装置として的確に笑いや感動を引き起こす。『リコリス・リコイル』という作品も,そうした装置としての"高校生"を世界設定に導入している。ただし,その〈仮装〉,あるいは〈仮象〉として。

千束たきなたち「リコリス」は,女子高生とDAのエージェントを“兼任”しているわけでもなければ,たまたま身につけている衣装が“高校の制服っぽい”わけでもない。彼女たちは「日本で一番警戒されない姿」*1 として女子高生風の制服を身につけているのだ。能力のランクごとにファースト=赤,セカンド=紺,サード=ベージュと色が指定されているのも,まるで学年の違いを示しているようだ。そのようにして,彼女たちは血生臭い実働部隊としての存在を秘匿している。要するに「JKの制服は都会の迷彩服」*2 というわけである。

第3話は,そんな〈仮象JK〉としての千束とたきながDA本部に一時帰還する話数だが,このDA本部そのものが,まるで無機質なパブリックスクールのような〈仮象〉をまとっているのが面白い。

「#3 More hast, less speed」より引用 ©︎Spider Lily/アニプレックス・ABCアニメーション・BS11

寮の部屋や廊下,そして体力測定などの風景は,学園アニメの日常を切り取ったかのようだ。千束とフキの模擬戦も,あたかも部活のライバル同士の対決のようなイベントに感じられる。千束とたきなのコンビが勝った暁には,視聴者は彼女たちと共に「スカッと」する。

「3 More hast, less speed」より引用 ©︎Spider Lily/アニプレックス・ABCアニメーション・BS11

しかしこのまるで"高校生活"のような〈仮象〉の裏には,孤児として生まれ,戸籍も持たず,「マーダーライセンス」を与えられて犯罪者たちを抹殺する「リコリス」たちの〈現実〉がある。この話数は,"高校生活"という〈仮象〉によって視聴者に「スカッと」という類型的な感情を疑似体験させながら,同時に模擬戦のペイント弾のビビッドな色によって,彼女たちの過酷な〈現実〉を暗示する。要するに,ハイブリッドにエモい話数なのだ。

そもそも,『リコリス・リコイル』の世界観そのものが〈仮象〉によって成り立っている。第1話冒頭の千束のモノローグを思い出そう。

平和で安全きれいな東京。日本人は規範意識が高くて、優しくて温厚。法治国家日本。首都東京には、危険などない。社会を乱す者の存在を許してはならない。存在していたことも許さない。消して消して消して、きれいにする。危険はもともとなかった。平和は私たち日本人の気質によって成り立ってるんだ。そう思えることが一番の幸せ。それを作るのが私たちリコリスの役目。なんだってさ。

この世界では,リコリスたちの"暗躍"によって「安全」という〈仮象〉が作られ,日本社会の暗部をきれいに覆い隠している。しかしモノローグ最後の「なんだってさ」は,千束がおそらくこの〈仮象〉の欺瞞にー第4話に登場するテロリスト・真島とは違った感性でー気づき,そこから距離を取ろうとしていることを示している。だから彼女は,DAという〈仮象〉から距離を置いたのかもしれない。

 

〈規律〉から〈日常〉へ

千束は電波塔事件以降,「アラン機関」のチャームをくれた人を探すために本部を離れ,支部「喫茶リコリコ」に勤務している。たきなは第1話で描かれた銃取引現場での命令違反により,本部から支部へ異動させられている。事情こそ異れ,彼女たちの成り行きは本部組織=〈中心〉から町の喫茶店=〈周辺〉という軌道を示している。支部での主な仕事は,保育園の園児の世話,日本語学校の手伝い,コーヒーの配達など,暗殺を主とした本部リコリスのミッションとはその趣を異にする。本部とはまったく異なる,日常的な風景が繰り広げられる町の喫茶店が舞台として選ばれているのが面白い。〈中心/周辺〉という対比は,〈規律/日常〉という対比と重なり合う。

「#3 More hast, less speed」より引用 ©︎Spider Lily/アニプレックス・ABCアニメーション・BS11

第3話の冒頭,たきなは依然としてDA本部への未練を抱え,リコリコでの日常になじみきれていない。リコリコで開催される「閉店ボドゲ会」にもまったく興味を示さない(ちなみにくるみはこの時点ですっかり溶け込んでいる)。その後,本部を訪れる千束にたきなも同行することになるが,行きがけの電車の中で2人の視線が合うことは少ない。2人の心情の齟齬を表すかのように,車窓から憂鬱な雨空がうかがえるのが印象的だ。

模擬戦の直前,DA本部=〈規律〉の世界に執着するたきなに,千束は「たきなを必要としている人が町にはたくさんいるよ」と言い,リコリコと町での〈日常〉の大切さを理解させようとする。この時,銃取引現場でのたきなの行動に関して千束が言ったセリフが重要だ。

あの時たきなは仲間を救いたかった。それは命令じゃない。自分で決めたことでしょ。それが一番大事。

「3 More hast, less speed」より引用 ©︎Spider Lily/アニプレックス・ABCアニメーション・BS11

千束のこのセリフは,ことあるごとに「合理性」にこだわるたきなの行動が,実は〈命令〉=〈規律〉を逸脱し,己自身の気持ちに添ったものであったことを言い当てている。そもそも,DA本部の規律を重んじるたきなが,DAの命令に背いたこと自体が不合理だったのだ。

「3 More hast, less speed」より引用 ©︎Spider Lily/アニプレックス・ABCアニメーション・BS11

たきなが一人,噴水の前で千束の言葉を反芻するシーンでは,それまで降っていた雨が上がり,ガラス天井を通して明るい陽光が差し込む。"雨天から晴天"という変化自体は,登場人物の心情変化を表す常套手段だが,ここで千束の底抜けの笑顔と陽光をたきなの心の中で接続したのは面白い。

たきなは千束の思いに触れ,千束と共に再びリコリコの日常世界に戻る。その表情からは,彼女を呪縛していた〈規律〉への執着心が幾分か失せている。

「3 More hast, less speed」より引用 ©︎Spider Lily/アニプレックス・ABCアニメーション・BS11

リコリコ=〈日常〉の世界からDA本部=〈規律〉の世界へ,そして再びリコリコ=〈日常〉の世界へ。この往復軌道の中で,たきなは〈規律〉の世界から〈日常〉の世界に少しだけ近づく。そしてこの〈日常〉性は,次の第4話「Nothing seek, nothing find」のいわゆる"パンツ回"へと受け継がれることになる。ただし,地下鉄で起こるテロ事件を視聴者から覆い隠す〈仮象〉として。

 

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作品データ

*リンクはWikipedia,@wiki,企業HPなど

【スタッフ】
原作:Spider Lily/監督:足立慎吾/ストーリー原案:アサウラ/キャラクターデザイン:いみぎむる/副監督:丸山裕介/サブキャラクターデザイン:山本由美子/総作画監督:山本由美子鈴木豪竹内由香里晶貴孝二/銃器・アクション監修:沢田犬二/プロップデザイン:朱原デーナ/美術監督:岡本穂高池田真依子/美術設定:六七質/色彩設計:佐々木梓CGディレクター:森岡俊宇/撮影監督:青嶋俊明/編集:須藤瞳/音響監督:吉田光平/音楽:睦月周平/制作:A-1 Pictures

【キャスト】
錦木千束:安済知佳/井ノ上たきな:若山詩音/中原ミズキ:小清水亜美/クルミ:久野美咲/ミカ:さかき孝輔

【第3話スタッフ】
脚本:
枦山大/絵コンテ:足立慎吾丸山裕介/演出:丸山裕介/総作画監督:鈴木豪晶貴孝二

 

商品情報

*1:第2話の千束のセリフ。

*2:第2話のウォールナット(くるみ)のセリフ。