アニ録ブログ

あるオタクの思考と嗜好をキロクしたブログ。アニメとマンガを中心としたカルチャー雑記。

アニメの〈キャラ(クター)〉評価のために

*この記事は『メイドインアビス 烈日の黄金郷』に関するネタバレを含みます。

今後,当ブログでは,アニメ作品に登場する優れた〈キャラ(クター)〉を紹介する記事シリーズを展開していく予定である。そのためのいわば下準備として,〈キャラ〉〈キャラクター〉という言葉について整理しておこう。

 

伊藤剛の「キャラ」「キャラクター」概念

僕らは何らかの作品の登場人物に言及する際,"キャラクター"と呼ぶこともあれば,"キャラ"と呼ぶこともある。これはなかなか面白い言語習慣だ。

日本人がカジュアルに使っている"キャラ"という言葉は,英語の"キャラクター"(character)の略形であるにもかかわらず,両者が用いられる際の含意は微妙に異なっている。例えば,マンガやアニメの登場人物に関しては"キャラクター"と"キャラ"がほぼ同程度で使われていると考えられるが,ドストエフスキーの『カラマーゾフの兄弟』について"キャラ"という語を用いるのはどこか座りが悪い。逆に「相手に自分がどう見えるか」を気にかけて言動を変えることを"キャラ作り"と言うことがあるが,これを"キャラクター作り"と言うことはほとんどないだろう。このことはおそらく,"キャラ"という語がマンガ・アニメ・ラノベ・タレントなど,現代カルチャーの文脈の中で意味付与され,独自の意味合いを持つようになったことに起因するのだろう。

「キャラ」と「キャラクター」を最初に概念的に区分けしたのは,おそらく評論家の伊藤剛である。当ブログでも何度か触れたことがあるが,ここで改めて伊藤による「キャラ」と「キャラクター」の定義を見ておこう。

キャラ

多くの場合,比較的に簡単な線画を基本とした図像で描かれ,固有名で名指されることによって(あるいは,それを期待させることによって),「人格・のようなもの」としての存在感を感じさせるもの *1

キャラクター

「キャラ」の存在感を基盤として,「人格」を持った「身体」の表象として読むことができ,テクストの背後にその「人生」や「生活」を想像させるもの *2

以前の記事でも挙げた例だが,「青・白・赤の色を基調とした,耳のないネコ型のロボットとしての図像」に「少々ドジだが思いやりのある優しいロボット」という「人格・のようなもの」が加わったものが「ドラえもん」という「キャラ」である。このキャラを基盤に,「セワシを幸福にするため,未来の世界からやってきて先祖であるのび太の未来を変えようと奮闘する」という「人生」を担わせたものが「キャラクター」ということになるだろう。

言い換えれば,視覚・聴覚情報として最表層に現れている要素に固有の「人格」が重ね合わせられた時,僕らはそれを「キャラ」と呼ぶ。「キャラ」が十分に強ければ,特定の物語から 遊離して別の物語の中に導入されても,その固有の存在感は保持される。*3 したがって,二次創作を促すものが「キャラ」の強度であることは言うまでもない。*4 また,「キャラ」は近年のアニメビジネスにおいてきわめて重要度の高いグッズ展開などとも直接関わる要素だ。キャラの強度が高く,知覚に訴える存在感が強ければ,キーホルダーやフィギュアにした時のアピール度も高い。

一方,「キャラクター」は「キャラ」の背負っている履歴であり,物語である。「キャラクター」の作り込みが優れていればいるほど,受容者の感情移入を促し,世界観と物語への没入感も増すだろう。「キャラクター」は作品の物語と不可分なため,別の物語に導入することは難しい。最近流行しているスマホゲームなどの「コラボ」において,世界Aの中に世界Bの「キャラ」だけを投入する(主に「ガチャ」という方法をとる)ことが多いのも,物語を背負った「キャラクター」を丸ごと導入してしまうと,世界Aの整合性が取れなくなるからだ。

ちなみに,そもそも伊藤のキャラ(クター)論は,手塚治虫作品の中にキャラクター性がキャラ性を「隠蔽」する契機があったことを指摘し,現代のマンガにおけるキャラの重要性を再認識するよう促すことが目的であった。*5 ストーリーマンガの巨匠として半ば神格化された手塚を,厳密な概念操作によって再考しようという伊藤の試みは,それ自体としてとても示唆に富んでいる。しかしここでは,その企図の妥当性は置いておくことにして,〈キャラ/キャラクター〉の対概念をアニメのキャラクター評価の補助線として活用するに留めておこう。*6

今回の記事は,アニメ作品に登場する優れた〈キャラ(クター)〉を評価するための概念的下準備である。その手始めとして,以下では「①キャラ性は高いが,キャラクター性は低いもの」(「キャラ性:高/キャラクター性:低」と略)「②キャラクター性は高いが,キャラ性は低いもの」(「キャラクター性:高/キャラ性:低」と略)「③キャラ性もキャラクター性も高いもの」(「キャラ性:高/キャラクター性:高」と略)に分け,それぞれに典型的な〈キャラ(クター)〉を挙げてみたいと思う。

もっとも,先述した伊藤の定義からもわかるように,決して〈キャラ〉と〈キャラクター〉は対立概念ではないということに注意しなければならない。〈キャラクター〉はあくまでも〈キャラ〉をベースとして成り立っているからだ。したがって,最終的に〈キャラ(クター)〉の評価は,〈キャラ(クター)〉を〈キャラ〉と〈キャラクター〉に便宜上腑分けした上で,それぞれの強弱や面白みを評価する作業になるだろう。

 

〈キャラ〉〈キャラクター〉評価事例

① キャラ性:高/キャラクター性:低

典型的な例は,伊藤自身も挙げている,いがらしみきおの4コママンガ『ぼのぼの』(マンガ原作:1986年-/アニメ:1995-1996年(監督:難波日登志),2016年(監督:山口秀憲))のキャラ(クター)たちだ。比較的単純な描線で描かれ,一目で判別可能なユニークな存在感を放っている。

左:『ぼのぼの』アニメ公式HPより引用 ©︎いがらしみきお/竹書房・フジテレビ・エイケン
右:『ポプテピピック』アニメ公式HPより引用 ©︎大川ぶくぶ/竹書房・キングレコード

より最近の例としては,大川ぶくぶの4コママンガ『ポプテピピック』(マンガ原作:2014年-/アニメ:2018年,2022年(シリーズディレクター:青木純梅木葵))のポプ子ピピ美だ。その強烈なキャラ性は,近年のマンガ・アニメ作品の中でも一際異彩を放っている。

どちらの作品も,通常の意味でのストーリー性は希薄であり,どちらかと言えばキャラ(クター)たちのシュールで不条理なキャラ性を楽しむ作品と言える。このタイプのキャラ(クター)は4コママンガや純度の高いギャグアニメに多い。

 

② キャラクター性:高/キャラ性:低

逆にこのタイプのキャラ(クター)は,近年のストーリー性重視のアニメ作品に多い。例えば渡辺信一郎監督『残響のテロル』(2014年)のナインや,夏目真悟監督『Sonny Boy』(2021年)の長良などが挙げられる。

左:『残響のテロル』公式HPより引用 ©︎残響のテロル製作委員会
右:『Sonny Boy』公式Twitterより引用 ©︎Sonny Boy committee

ナインも長良も,ストーリの成り立ちそのものを担っており,いわば作品の世界観と一体化している。しかしそのビジュアル的な〈キャラ〉性は低い。このタイプのキャラ(クター)は,〈キャラ〉として自律的な魅力を持つ可能性は低くなるが,人物造形のリアリティは増す。受容者は自己投影をしやすくなり,物語への没入感も増すだろう。特に『Sonny Boy』のような奇想天外な物語の場合,この種の〈キャラクター〉性が作品に一定の"リアリズム"を加味する効果を持つ。『Sonny Boy』の物語が不条理で難解であったにもかかわらず,登場人物に共感する視聴者の声が多かったのは,こうした〈キャラクター〉性によるところが大きかったのではないかと考えられる。

 

③ キャラ高/キャラクター高

このタイプはアニメ作品においてある意味で理想型であり,実例も多い。物語の一部を構成する不可欠な〈キャラクター〉であるとともに,その〈キャラ〉性の高さによって,作品終了後もグッズ販売やコラボ企画を展開しやすくなるからだ。

典型的な例としては,つくしあきひとのマンガ『メイドインアビス』(原作:2012年-/アニメ:2017年,2022年(監督:小島正幸))のナナチだろう。物語内においてすでに「ふわふわのぬいぐるみ」として設定されているナナチは,まったくの無加工でそのままフィギュアやぬいぐるみとしてグッズ化できる〈キャラ〉性を備えている。同時に,ボンドルドの狂気の所業によって「成れ果て」にされ,ミーティという「宝物」を犠牲にしなければならないという物語=〈キャラクター〉性を存分に担っている。

『メイドインアビス』公式HPより引用 ©︎つくしあきひと・竹書房/メイドインアビス「烈日の黄金郷」製作委員会

ナナチの連れ合いであるミーティのキャラ(クター)もたいへん面白い。ミーティはアビスの呪いを一手に引き受けてナナチを救い,自らは異形の成れ果てになった挙句,最後にはナナチの決断によって葬られるという過酷な運命を辿っている。そのビジュアルは,到底アニメ化など不可能だろうと思わせるほど凄惨な姿だ。しかしその後,「成れ果て」の村で再登場するミーティの複製は,まるでぬいぐるみのような愛くるしい姿でナナチを虜にする。当初〈キャラクター〉として「呪い」の物語と一体化していたミーティが,「成れ果ての村」では〈キャラ〉として復活するのだ。2022年12月に発売予定のBlu-ray/DVD BOX下巻の特典として付属する「壺ミーティぬいぐるみ」は,この〈キャラクターのキャラ化〉という現象を象徴的に物語っている。

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なお,このタイプのキャラ(クター)には,〈キャラ〉性と〈キャラクター〉性との関係が比較的希薄なもの(『ドラえもんなど』)と,両者の間に密接な関係があるものがある。後者の例としては,長井龍雪監督,岡田麿里脚本,田中将賀キャラクターデザイン『あの日見た花の名前を僕達はまだ知らない。』(2011年)のめんまなどが挙げられる。

『あの日見た花の名前を僕達はまだ知らない。』公式HPより引用 ©︎ANOHANA PROJECT

銀髪・碧眼のめんまは,作品のアイコンとして機能するほど〈キャラ〉性が高く,グッズ展開なども多いが,それだけではない。彼女にはロシア人とのクオーターであるという出自があり,そのために周囲から「のけもん」とみなされていたという過去=物語がある。めんまにおいては,〈キャラ〉性と〈キャラクター〉性が分かち難く結びついているのだ。

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もちろん,〈キャラ〉性にせよ〈キャラクター〉性にせよ,高ければ高いほどいいというわけではない。両者の按配は,作品の世界観やメッセージとのバランスを考慮しながら決定されているはずだからだ。今後の〈キャラ(クター)〉評価の記事では,〈キャラ〉と〈キャラクター〉の配分や制作意図についても言及していく予定である。

*1:伊藤剛『テヅカ・イズ・デッドーひらかれたマンガ表現論へ』p.126。星海社,2014年

*2:同上。

*3:同上,pp.75-85。

*4:したがって,先述した『カラマーゾフの兄弟』も,同人誌などの二次創作対象になった時には「キャラ」という語を用いることにはさほど違和感がなくなるだろう。

*5:同上,pp.152-177。

*6:さやわかの『キャラの思考法 現代文化論のアップグレード』(青土社,2015年)は,マンガやアニメのようなメディアに限定せず,より広い現代文化論的な視野から「キャラ」概念を捉えた興味深い論考である。

平面と奥行きのdis/con-cord:「平家物語の彩 The Heike Story Illuminated」レビューに代えて

 

2022年冬クールを大いに賑わせた山田尚子監督『平家物語』。このほど,本作の背景美術を厳選して収録した美術画集が出版された。一見,よくあるタイプのアニメ美術画集だが,そこに収められた彩り豊かな美術を一覧し,制作者たちの言葉に耳を傾けた時,本作の中に,アニメの表現特性をめぐる一つの問題がーささやかではあるがはっきりとした形でー潜んでいたことがわかる。

 

〈日常〉としての京都

A5版程度の小ぶりな画集には,アニメ『平家物語』を美しく彩った風景や植物たちが豊富に収められている。全体的に光量が多く,明るい印象の強い美術は,軍記物語としての『平家物語』の一般的なイメージとはややかけ離れているかもしれない。画集に収められた監督の山田尚子と美術監督の久保友孝の対談によると,山田は『平家物語』を「極楽浄土」に向かう物語にするという方針のもと,「歴史ドラマのような重厚で昔らしい色味を使うのではなく,もう少しポップで今ならではのアプローチ」を試みたということだ。*1 美術の中に込められたこの「ポップ」感は,京都というトポスに対する山田自身の肌感覚に由来しているのかもしれない。彼女は言う。 

私は京都で育ったので,「平安」と言われて思い浮かぶのは学校名だし,応仁の乱が勃発した上御霊神社なんかは子どもの頃のかくれんぼの場所だったし(笑)。こうやって[ロケハンによって]直に「見る」ことをあらためてやってみて,平安時代には本当に人がいて,学校で習う「平安時代」はここで起こったことなんだと,その実感を浴びることができました。*2

山田の中で「学校」「かくれんぼの場所」としての京都が,「平家」としての京都と重なっている。このある種の"日常感覚"が『平家物語』の美術の中にも滲み出ていたのかもしれないし,だからこそ,この作品が現代人にとってより親しみやすい作品となったのだとも言える。

「平家物語の彩 The Heike Story Illuminated」
左:p.21/右:p.31 より引用 ©︎「平家物語」製作委員会

 

平面と奥行き

画集の巻末には,美術の中に描かれた「花」「海」「式典」「襖絵と屏風絵」などに関する久保友孝の解説がある。この解説を読みながら,明度と彩度の高い美麗な美術を眺めていくだけでも十分に楽しい。しかし久保の解説の中のある発言に注目すると,本作の中にアニメ固有の表現特性に注意を促す要素があったことがわかる。美術に描かれた「山桜」の解説を見てみよう。

山田監督はロケハンの時に望遠レンズのついたカメラをお持ちだったし,被写界深度を浅めに表現されるのがお好きだと聞いていたんです。だから,この作品をどうしていこうかという案をいくつか出していくなかで,こういうスタイルでの映像表現もありなのかなということでこの山桜の絵を描いてみたところ,好評だったんですよね。作品を通して新版画的な表現をしていくなかで,この絵は平面性から逸脱してしまうぎりぎりのところかなとも思ったんです。でも,色味や光の当て方を評価してくださって,これがありならいろいろ幅が広がるなと思った1枚でした。それから,平面的に表現してしまうとベタっとしてしまいそうなところを,こうやってぼかしを入れて空間表現をすると奥行きが感じられるんだなという発見もありました。そのアンバランスさに悩むこともあったんですけど「これでいけそうだな」と思えた1枚です。*3

「平家物語の彩 The Heike Story Illuminated」p.19より引用 ©︎「平家物語」製作委員会

注目して欲しいのは「新版画的な表現」「平面性」「奥行き」という言葉だ。今年4月に出版された「平家物語 アニメーションガイド」でも言及されていたが,本作の美術制作では,小村雪岱吉田博のような版画的な平面的表現の要素が取り入れられていた。*4 久保は版画的な平面性をベースとしつつ,そこに山田特有の浅い被写界深度による空間表現を加味したわけだが,平面性と奥行き表現を馴染ませる苦労が並々ならぬものであったことは,引用文中の「逸脱」「アンバランス」という言葉からもうかがえるだろう。

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実は撮影監督の出水田和人も同様の発言をしている。出水田は版画のような平面的な美術とボケは「水と油」のような関係だと感じ,当初はボケを多用しないように提案していたのだが,「実際,やってみると意外にもその違和感がきれいに見えた」というのだ。*5最終的に平面性と奥行きの調和を実現しつつも,出水田もそこに「水と油」「違和感」といったものを感じていたのだ。

現代の多くのアニメ作品において,奥行き感を演出するのはごく当然のことになっている。とりわけCG技術の導入,デジタル撮影技術の進歩,そしてアニメーターの技術自体の向上によって,リアルな奥行き感の演出は,アニメ草創期とは比べものにならないくらいの水準に達していると言える。しかし本来,2次元の媒体であるアニメにおいて,奥行きの演出は実写映像ほど"自然"なものではない。それはある意味で,人工的あるいは擬似的に"作られる"ものだ。とりわけアニメ『平家物語』のように,版画的な平面を意識的に取り入れた作品では,奥行きの演出はことさらに作為性を帯びるだろう。この作為性を,久保や出水田のような鋭敏な才能は「逸脱」「アンバランス」「水と油」「違和感」という言葉で捉えていたのだ。

ちなみに初期のアニメの奥行き表現については,ウォルト・ディズニーがマルチプレーンを使用した制作法を説明した貴重な動画がある。


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トーマス・ラマールの『アニメ・マシーン』(2009年)は,アニメにおける平面表現と奥行き表現の関係をメディア論的な観点から論じている。ラマールはアニメの映像表現のモードを「シネマティズム」「アニメティズム」という2つの概念に分ける。「シネマティズム」とは,画面の奥へと向かっていく運動であり,世界を一点透視図法的な(ラマールによれば「ハイパー・デカルト主義的な」)視座から合理的に把握するモードだ。一方,「アニメティズム」 は,複数の平面から成るイメージの横断移動である。そこでは,視点が一点に固定されず,複数の領域に分散されることにより,シネマティズム的な世界認識を揺るがす力が生まれる。アニメは,この「シネマティズム」と「アニメティズム」という異質なモードが併存する媒体なのだとされる。*6

ラマールの技術哲学的考察の妥当性はともかくとして,彼がアニメに内在する「シネマティズム」=奥行きと「アニメティズム」=平面という異質なモードを析出したことには一定の意味があるだろう。アニメにおいて平面と奥行きは,相互に批判し合いながら調和し合っている。いわば斥力と引力が同時に作用している。技術的に洗練された現代のアニメにおいては,その違和が綺麗に隠蔽されているに過ぎない。そしてアニメ『平家物語』は,制作者の意図にあったかどうかは別として,結果的にその(不)協和音が顕在化された作品だったと言える。

 

複数の主体と個の主体:2つの『平家物語』の語りの特性

『平家物語』において,平面性と奥行きの(不)協和音は偶発的なものだったのか。もちろん,そう考えてこの問題についての考察を差し控えることもできるだろうが,原典『平家物語』とアニメ『平家物語』の語りの特性を比較した時,そこに一定の必然性があった可能性も見えてくる。

兵藤裕己『琵琶法師ー〈異界〉を語る人びと』によれば,原典『平家物語』には,主語と述語の対応が一義的に同定できず,「集合的で多重化した主体の語り」になる箇所が多々あるという。

伝承詞章として練り上げられた平家物語の文章は,語りの主体そのものが平安期の和文や『方丈記』などとは異質なのだ。集合的で匿名的な記憶を「伝承」する主体は,いわば中身のない容れ物のような主体である。それは語られる対象に容易に転移する(転移される)主体でもある。*7

ここで言われている「主体」とは,『平家』を語る盲人の琵琶法師である。兵藤によれば,視覚を媒介せず,聴覚によって世界認識をする琵琶法師の主体形成は,晴眼者のそれとはまったく異なり,自己同一性を持たず,容易に複数化しうるものであった。この〈主体の複数化〉は,ラマールの言う「アニメティズム」,すなわち平面性と概念上,重なり合うものである。事実,アニメ『平家物語』において,意図的に版画的平面性を追求したと思われる美術は,視点をどこに置いても一つの"絵"として成立するような作り方がなされている。アニメ『平家物語』の平面性は,原典『平家物語』の語りの特性をアニメ表現の中にうまく落とし込んでいると言える。

「平家物語の彩 The Heike Story Illuminated」 p.35より引用 ©︎「平家物語」製作委員会

一方,先ほどの「山桜」のように,浅い被写界深度の効果によって奥行き感を出した美術では,それを見ている主体の存在がより明確になる。その光景を具体的な誰か(主体)がーそれこそ望遠レンズ付きのカメラでーのぞき込んでいるような画になる。その「誰か」が,「びわ」という架空の視点であることは言うまでもない。 

鑑賞者がびわという〈一人称視点〉を通して『平家物語』の世界をのぞき込む。この点が,原典『平家物語』とアニメ『平家物語』の大きな違いだ。山田は次のように述べている。

『平家物語』はたくさんの琵琶法師によって語り継がれた物語ですが,そのひとつを担った人というのを描いてみたい,と思いました。観る人がどこに心を置いたらいいのか,というひとつのポジションにもなったのではないかと思います。*8

奥行きの表現は,この「ひとつのポジション」を補強するためのビジュアル効果に他ならない。アニメ『平家物語』の平面性と奥行きは,潜在的なレベルで密かに不協和音を鳴り響かせながら,同時に,複数視点と単数視点という語りの特性を両立させるべく美しい和音を奏でている。これまでの作品でも,常に〈見る〉ことを主題化してきた山田ならではの仕掛けであると言える。なお,山田作品の〈見る〉の主題化については,以下の記事を参考にしていただきたい。

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しかし,山田が『平家物語』の中に召喚した「びわ」という主体は,「近代的主体」と呼ばれるような,不動の視点を持った大仰な存在(大文字の主体)ではないだろう。びわは,現代であれば「学校」に通い「かくれんぼ」に興じたであろう,一少女として登場する。それは『けいおん!』や『たまこまーけっと』に登場する女の子たちと同じ,等身大の小さな主体である。やはりそこには,山田のミニマルな日常感覚ともいうべきものが反映されているのだ。

 

書誌情報

出版社:HeHe
発売日:2022年7月15日
寸法:22.4×2.4×15.8cm
ページ数:216
ISBN:978-4908062414

*1:『平家物語の彩』,p.57。久保友孝の言葉。

*2:同書,p.60。

*3:同書,p.201。

*4:「平家物語 アニメーションガイド」,p.82,KADOKAWA,2022年。

*5:同書,p.88。

*6:トーマス・ラマール『アニメ・マシーン』,pp.30-39,名古屋大学出版会,2013年。

*7:兵藤裕己『琵琶法師ー〈異界〉を語る人びと』,p.82,岩波新書,2009年。

*8:『平家物語 アニメーションガイド』,p.152。

劇場アニメ 映画『ゆるキャン△』(2022年)レビュー[考察・感想]:大自然の中心で「ゆる」く集う△

*このレビューはネタバレを含みます。必ず作品本編をご覧になってからこの記事をお読みください。

アニメ『ゆるキャン△』シリーズ公式公式Twitterより引用 ©︎あfろ・芳文社/野外活動委員会

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あfろの同名マンガを原作とし,2018年(第1期)と2021年(第2期)にTVアニメ化された『ゆるキャン△』。今回の劇場版は,TVシリーズで高校生だった主人公たちの約10年後の姿を描いたオリジナルストーリーだ。時の経過とともに様々なものが移ろいゆく中,"キャンプの楽しさ"という素朴な価値観を大切に受け継ごうとする彼女たちのひたむきな姿を描いている。

 

あらすじ

高校を卒業してから約10年後。各務原なでしこ志摩リン大垣千明犬山あおい斉藤恵那の5人は,社会人としてそれぞれ別々の場所で別々の道を歩んでいた。ある日,千明からとある施設の再利用の話を聞いたリンは,軽い気持ちで「キャンプ場にすればいいじゃん」と提案する。やがて彼女たちは故郷・山梨の高下(たかおり)に集合し,手探りでキャンプ場作りを始めることになる。

 

〈変化〉:さよならシニヨン

物語のトリガーとなるのは,名古屋の飲み屋での千明とリンの会話だ。

千明はかなり前に東京のイベント会社を辞め,今は山梨県の「観光推進機構」に勤めている。どうやらリンはそのことを知らなかったらしく,社会人になってからの彼女たちの微妙な距離感がうかがえる。千明は山梨の高下にある,閉鎖された「青少年自然センター」の再利用計画に従事している。「そんなに広い敷地なら,キャンプ場にでもすればいいじゃん」というリンの言葉に触発された千明は,強引にリンを山梨に連行して施設の様子を見せる。この辺りの千明の無鉄砲な行動力が物語の推進力になっているのも面白い。

さて重要なのは,この施設のビジュアルだ。千明によれば,この施設は閉鎖されてから5年ほどが経っている。建物はさびれ,雑草が生い茂り,大量の廃棄物がうち捨てられている。時の移ろいを即物的に視覚化したこの廃墟は,彼女たちが高校を卒業した後の歳月をも目に見える形で具象化しているように思える。

映画『ゆるキャン△』公式Twitterより引用 ©︎あfろ・芳文社/野外活動委員会

廃墟だけではない。この作品は様々な部分に〈時の移ろい〉を写し込んでいる。主人公たちの身長は伸び,恵那の飼い犬「ちくわ」は年を重ね,ジンジャーくんは(僕らのペッパーくんと同様)倉庫の片隅でうなだれる。あおいの勤める小学校は閉校になり,人類の歴史そのものを告げる土器が発掘され,もはやリンたちの頭にシニヨンはない。どちらかと言えば変化の幅の小さな日常を描いていたTVシリーズと比べると,その違いは明らかだ。〈小さな変化〉から〈大きな変化〉へ。この物語がTVシリーズとはまったく異なる時間感覚の中で展開されていることがわかる。そして彼女たちは,この〈変化〉と折り合いをつけつつも,それにささやかに抵抗しながら成長していこうとする。

 

〈共通価値〉:伝播するガスランタン愛

リンは営業部から転属になった編集部の仕事に慣れるため,日々奮闘している。あおいは,自分が勤める小学校の閉鎖という悲しい事実を殊勝にも受け入れる(閉校式の日,千明と話すあおいの"作りホラ吹き顔"には胸を打たれる)。恵那は老いたちくわの体力に合わせて,以前よりもゆっくり散歩をする。3人のこの振る舞いは,抗いようのない変化と折り合いをつけ,それを受け入れようとする振る舞いである。

一方で,ジンジャーくんを〈再起動〉し,廃墟化した施設を〈再生〉しようとする彼女たちの振る舞いは,時の変化への能動的な抵抗だ。縄文人が割れた土器を〈再生〉したのとちょうど同じように,時の移ろいにささやかに抗うレジスタンスの振る舞いである。むろん,お金をかければ真新しい施設を作ることはできる。しかし地方自治体の予算は無限ではない。限られた予算の中,時とともに朽ちていく事物たちを蘇らせようと奮闘するところに,彼女たちの行動のリアリティと豊穣なエネルギーが同時に表されている。そしてこのように描かれるからこそ,“キャンプの楽しさを伝える”という行為はよりいっそう光り輝いて見えるのだろう。

映画『ゆるキャン△』公式Twitterより引用 ©︎あfろ・芳文社/野外活動委員会

『ゆるキャン△』という作品の根底に流れているのは,いわば〈共通価値の継承〉とでも呼ぶべき理念だ。リンからキャンプの楽しさを学んだなでしこは,今ではアウトドア用品店の店員となり,かつての自分と同じようにガスランタンを羨望の眼差しで見つめる女子高生たちに的確な助言を与える。そして今や彼女たちは,自らキャンプ場を作ることで,キャンプの楽しさを地元の人たちにまで伝えようとしている。こうして彼女たちの〈共通価値〉は,個人間という狭い領域を超え,コミュニティという一定の範囲へと広がっていく

その意味で,温泉のシーンでなでしこがリンに語ったセリフは,この作品の中心にあるテーマをこの上なく的確に要約している。

私たちが今,楽しいって思ってることがいろんな人に伝わって,その人たちがまた次の人たちに楽しさを伝えていく。そういうことがたくさん起きるような場所を作ったりとか。私たちがやろうとしてたことって,そういうことなんじゃないかな。

映画『ゆるキャン△』公式Twitterより引用 ©︎あfろ・芳文社/野外活動委員会

価値観が極端に多様化し,エクスクルーシブな島宇宙の中で矮小な"自己責任論"の言説に引きこもりがちな現代において,誰もが楽しめるキャンプのように,ほどよく「ゆる」いインクルーシブな趣味を共有することには一定の意味がある。キャンプという「ゆる」い〈共通価値〉は,"common good"(公共の利益,共通善)を基底とするコミュニティを形成する上で,その一歩手前のミニチュア版として機能しうるかもしれない。キャンプ(そしてキャンプ場作りやその維持管理という作業)を通して人々が集い,対話し,共通の利益=善について語らい合える場ができるとすれば,その公共的意義は決して小さくないだろう。

この観点で見た時,山梨県高下市というミニマルな舞台も非常に重要な意味を持つ。

京極義昭監督によれば,当初はストーリーのモデルとして「海外でキャンプ」や「日本一周キャンプ」のようなアイデアもあったそうだ。しかし「海外」や「日本一周」というエクステンシブな物語は,『ゆるキャン△』という作品のコンセプトに合わないと判断されたらしい。

『ゆるキャン△』は自分たちが住んでいる場所でのストーリー展開が主なので,「ちょっと『ゆるキャン△』らしくないね」という話になったんです。*1

そこで舞台として選ばれたのが,山梨県高下という小さなコミュニティだ。名古屋,横浜,東京に散り散りになっていたなでしこたちは,故郷の山梨に回帰し,地元の人たちの助けを借りながらキャンプ場作りに勤しむことになる。県外のキャンプ場への移動を除けば,ほぼ山梨のローカルな世界で完結していたTVシリーズとは違い,一度離れていた彼女たちが再び集まるという〈離→合〉の過程が,山梨というコミュニティの特別な意義をいっそう際立たせる。小さなコミュニティの輪の中だからこそ,地元の人たちをキャンプ場作りに巻き込みつつ,"キャンプは楽しい"という価値観を確実に共有し継承していくことができる。もちろんそこには,別の地域や海外から訪れた人に"キャンプの楽しさ"を伝達し,価値観をエクステンシブに広げていく可能性もあるだろう。しかし,まずは相対的に小さなコミュニティの中で〈共通価値〉の継承を確実に成功させることが重要だ。映画の最後で,リンの祖父がリンに「いいキャンプ場だ」と満足気に語るシーンは,この〈共通価値〉の世代間継承が確かに成功したことを意味している。

しかしだからと言って,この作品が"みんなで一緒に楽しむことこそが善"というコミュニティ至上主義に陥っているわけではない点も見過ごしてはならない。彼女たちが作ろうとしているキャンプ場には,リンの愛する“ソロキャン”のスペースも確保されているからだ。ソロが好きな人,犬連れの人,子連れの人,遺跡が好きな人,いろいろな価値観を持った人たちが“キャンプ”という〈共通価値〉の下に集まることができる。その意味でも,この〈共通価値〉はほどよく「ゆる」い。

大きすぎず小さすぎず,ほどよい「ゆる」さのコミュニティ。現代の日本人が同調圧力に陥らずに互いに輪≒和を再形成していくためには,このくらいの「ゆる」さが理想的なのかもしれない。この映画の実践的な教訓は思いのほか大きい。

 

ちなみに地方のコミュニティへの〈回帰〉をモチーフとした作品としては,長井龍雪,岡田麿里,田中将賀からなる「超平和バスターズ」の“秩父三部作(『あの日見た花の名前を僕達はまだ知らない。』『心が叫びたがってるんだ。』『空の青さを知る人よ』)”なども挙げられるだろう。これに関しては以下の記事を参照頂きたい。

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〈崇高〉:彼女たちの "Rückenfigur"

そんな人々のミニマルな営みを,人間のスケールと対置された大自然=富士山が見守る。この〈極大/極小〉の構図も本作ならではのものだ。

映画冒頭のカットに戻ろう。松竹のオープニングロゴの富士に,劇中の富士が重なる仕掛けが面白い。その後,富士は巨大な自然存在として人々の営みを見下ろし始める。ラストカットでは夕焼けの富士が大写しになり,エンドロールには「ダイヤモンド富士」を遠景にした5人のカットが挿入される。富士に始まり,富士に終わるという一種の枠構造だ。まるで悠久の時を内包する富士が,小さな彼女たちのひたむきな努力を静かに見守るかのような構造である。

ちなみに『ゆるキャン△』では,富士を始めとする自然の風景をキャラクターの背後から映す構図が多い。すでに第1期の第1話で,このようなカットが使われていたことを思い出そう。画面全体に比して小さく描かれたリンとなでしこが,同じような構図で静かに富士を眺めるシーンが印象的である。

『ゆるキャン△』第1話「ふじさんとカレーめん」より引用 ©︎あfろ・芳文社/野外活動委員会

上述したエンドロールのカットを含め,同様の構図は映画版ラストにもいくつか見られる。一見何気ない画に思えるが,これを絵画の構図,とりわけカスパル・ダーフィト・フリードリヒ(カスパー・ダーヴィト・フリードリヒとも)(1774-1840)の風景画の構図などと照らし合わせてみると面白い。

フリードリヒはドイツのロマン主義を代表する風景画家だ。壮大な自然の風景によって宗教的・哲学的な崇高美を表現した画家として知られるが,彼の作品の中にも,風景とともに人物を背後から捉えた“Rückenfigur(背面像)”と呼ばれる構図が多く見られる。

カスパル・ダーフィト・フリードリヒ
左:『雲海の上の旅人』/右:『朝日の中の婦人』

広大な自然に対して,人物は相対的に小さく描かれ,大自然に対する人間界の極小が強調される。さらに風景の中の人物の視線と重ね合わせることにより,鑑賞者は壮大な自然に対する主観的・内省的な感情を共有することができる。上に挙げた『ゆるキャン△』の構図にも同じ効果がある。僕らは彼女たちと同じ目線で,富士という崇高な自然美に感動を覚えることができるのだ。

ちなみに先述した第1話では,なでしこが月明かりに照らされた富士を見て心を奪われ,呆然とする表情が大写しになるが,正面から描かれることのなかったフリードリヒの人物たちも,ひょっとしたらこんな表情をしているのかもしれない。

『ゆるキャン△』第1話「ふじさんとカレーめん」より引用 ©︎あfろ・芳文社/野外活動委員会

ところで映画評論家の蓮實重彦は,かつてある対談の中で,スマホ時代においてあえて「劇場で映画を見る意味」を問われ,以下のように答えている。

自分より見ているものが小さいと,軽蔑が働くんです。だから自分より大きいものだと,軽蔑がどこかで削がれるわけです。ですから,大きなスクリーンで見なければいけないと思いますね。*2

「軽蔑が削がれる」というのはいかにも蓮實御大らしい拗けた言い回しだが,要するにフリードリヒが描いたあの〈崇高〉への感情を否定神学めいたレトリックで表現しているわけだ。映画館で「自分より大きいもの」を前にした時,僕らは「軽蔑」を反転させ,崇高への畏怖に近い感覚を覚える。おそらく劇場で映画を観る習慣のある人であれば,少なからずそれに似た感情を抱いた経験があるのではないだろうか。

だとすれば,なでしこたちと同じ目線で『ゆるキャン△』の富士を見て,彼女たちと同じ感情を共有するためには,やはり「自分より大きい」富士を目にするべきだろう。映画『ゆるキャン△』を劇場で観るべき理由は明白である。

 

富士という極大の自然を遠景に,大きすぎず小さすぎない,ほどよく「ゆる」いコミュニティが温かなスポットライトを浴びている。本作のテーマを絵画的に要約するとそんなところだろう。彼女たちが作ろうとした「ゆる」いコミュニティは,僕らのこれからの生き方にも大きなヒントを与えてくれるかもしれない。

 

作品データ

*リンクはWikipedia,@wiki,企業HPなど

【スタッフ】
原作:あfろ/監督:京極義昭/脚本:田中仁伊藤睦美/キャラクターデザイン:佐々木睦美/プロップデザイン:井本美穂堤谷典子/メカデザイン:遠藤大輔丸尾 一/色彩設計:水野多恵子(スタジオ・ロード)/美術監督:海野よしみ(プロダクション・アイ)/撮影監督:田中博章(スタジオトゥインクル)/デジタルワーク:C-Station digital/CGワーク:平川典史(M.S.C)/音響監督:高寺たけし/音響制作:HALF H・P STUDIO/音楽:立山秋航/音楽制作:MAGES./アニメーション制作:C-Station

【キャスト】
各務原なでしこ:花守ゆみり/志摩リン:東山奈央/大垣千明:原紗友里/犬山あおい:豊崎愛生/斉藤恵那:高橋李依/土岐綾乃:黒沢ともよ/鳥羽美波:伊藤静/各務原桜:井上麻里奈/犬山あかり:松田利冴/各務原静花:山本希望/各務原修一郎:大畑伸太郎/志摩 咲:水橋かおり/志摩渉:櫻井孝宏/刈谷:利根健太朗/編集長:青山穣/小牧店長:依田菜津/白川:上田燿司/ナレーション:大塚明夫

 

作品評価

キャラ

モーション 美術・彩色 音響
5 4

4

4
CV ドラマ メッセージ 独自性

5

4 4.5 3.5
普遍性 考察 平均
4.5 5 4.4
・各項目は5点満点で0.5点刻みの配点。
・各項目の詳細についてはこちらを参照。

 

商品情報

『ゆるキャン△』Blu-ray BOX

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  • 各務原なでしこ CV: 花守ゆみり
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*1:映画『ゆるキャン△』劇場プログラム スペシャルエディション,p.30,FuRyu,2022年。

*2:「蓮實重彥+岡田秀則対談 スマホ時代の映画体験」

2022年 春アニメランキング[おすすめアニメ]

*この記事にネタバレはありませんが,各作品の内容に部分的に言及しています。未見の作品を先入観なしで鑑賞されたい方は,作品を先にご覧になってから本記事をお読みください。

『かぐや様は告らせたい-ウルトラロマンティック-』公式Twitterより引用 ©︎赤坂アカ/集英社・かぐや様は告らせたい製作委員会

真夏を先取りする酷暑の中,今年の春アニメもほぼすべての作品が最終話を迎えた。恒例通り,2022年春アニメの中から特にレベルの高かった8作品をランキング形式で振り返っておこう。なお,今回は以前掲載した「2022年春アニメ 中間報告」でピックアップした作品からほとんど異同はない。

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8位:『ヒーラー・ガール』

healer-girl.jp

当初はあまり注目していなかった作品だが,★歌唱3「お掃除,ラン・ラン・ラン」Bパートで,日常会話からため息に至るまで,主人公3人組の全セリフをミュージカル調にした演出がたいへん面白く,この辺りから一気に評価が高まった。画作りの面でも面白い話数が多く,アニメーションとしても十分楽しめる作品だった。『アイの歌声を聴かせて』『竜とそばかすの姫』『犬王』と,近年質の高いミュージカル・アニメが作られているが,その中でも際立った個性を持つ作品となったのではないだろうか。

 

7位:『プラック★★ロックシューター』

blackrockshooter-dawnfall.com

本作も途中から評価が変わった作品である(「中間評価」の記事ではピックアップしていない)。"胸糞の悪さ"と"希望"の配分がうまく,ストーリー展開の面では今クールの中でも抜きん出て面白かったのではないかと思う(ただしAIをラスボスにした点はやや凡庸に感じてしまったが)。とりわけ評価したいのは,#8「Crossing Iron Oceans」モニカ&イサナのサブストーリー。絶望的な状況の中の爽やでほろ苦いラブストーリーは,この2人の話だけで劇場版が作れてしまうのではないかと思わせるほどだった。

 

6位:『古見さんは,コミュ症です。』

komisan-official.com

第1期から高水準の作画と演出のテンションをほぼキープしており,TVシリーズとしてはかなりハイクオリティのアニメーションになった。この作品はギャグシーンも面白いのだが,それ以上に,古見さんと只野を中心とした登場人物の心情に寄り添った演出が光っていたと言える。特に最終話は,今期のアニメの中でももっとも美しい演出だっと言えるのではないだろうか。続編制作が待ち望まれる。

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5位:『であいもん』

deaimon.jp

決してゴージャスなアニメではないのだが,水彩画のように柔らかい美術と京都の美しい自然を背景に繰り広げられる京なまりの人間模様,そしてそれと対照的なほんの少しほろ苦い親子・擬似親子関係は,今期一番の極上のドラマだった。偶然が産んだ一果と和の擬似親子関係は,通常の恋愛モノ以上にエモーショナルで胸を締め付ける"ボーイミーツガール"の亜種とも言える。個人的には和役の島崎信長の柔らかい演技が素晴らしく,一果役の結木梢との相性も抜群だった。続編を期待したい。

 

4位:『パリピ孔明』

paripikoumei-anime.com

完全にダークホース。「何を観る?」の記事で取り上げなかったのを後悔した作品だ。「三国志」「英霊召喚」「アイドル育成」「仲間探し」といった一見バラバラの要素が絶妙に絡み合い,最終話まで綺麗な盛り上がりを見せた。関口可奈味のキャラクターデザインもバッチリ決まっており,アニメーションのクオリティも申し分なかった。アップの決まるアニメというのは観ていて気持ちのいいものだ。本作もぜひ続編を制作してもらいたい。

 

3位:『SPY×FAMILY』

spy-family.net

放送前から期待度の高かった作品だが,結果として期待を上回る出来栄えとなった。「子どもが泣かない世界」というテーマを中心に原作をややシリアス寄りに解釈した演出は,作品に程よい重厚感を与えている。おそらく制作の進度上,多めに挿入されたアニオリもうまくできており,原作既読勢も楽しませる作りとなっている。そして何より評価に値するのは,アーニャというキャラクターの作り込みである。丁寧に表現された愛らしいモーションは,原作のデザインの魅力をさらに引き出すと同時に,「子どもが泣かない世界」というテーマとも調和しながら作品世界を彩っている。種﨑敦美の演技も当初の予想以上に素晴らしく,もはやこのキャスト以外は考えられないというほどに完成度が高い。分割2クール(2クール目は10月から放送予定)のため,最終的な評価は未定だが,2022年のアニメの中でもかなり高い順位にランキングされる作品となるだろう。

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2位:『サマータイムレンダ』

summertime-anime.com

1話からまったくダレることのない作画。緩急のある演出。絶妙な引き。どれをとっても,近年のホラーファンタジー系アニメの中でも群を抜いてクオリティの高い作品と言えるだろう。"敵の力を借りて敵を倒す"の水着美少女バージョンという,『デビルマン』以来のモチーフの大胆なアレンジもユニークで面白い。この手の"人間と非人間""味方と敵"との間の境界が曖昧になる物語に触れると,必然的に"人間とは何か"という問いに直面させられる。#12「血の夜」における「人間なめんな!」というセリフの中に,はたして誰が含まれて誰が含まれないのか。最終話まで目が離せない。こちらは連続2クールということで,やはり最終的な評価は未定だが,最終話までの出来栄えによってはランキング上位に食い込む可能性が高い作品だ。

 

1位:『かぐや様は告らせたい-ウルトラロマンティック-』

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本編とまったくテイストの違うエンディング・アニメーション,次々と変わるテクスチャや光源,歪むパース,ハイセンスなオマージュなどなど…毎話,次から次へと新しい表現が繰り出され,視聴者をまったく飽きさせない傑作であった。この貪欲とも言える演出方針は,ほとんど"エクスペリメンタル"と言っても過言ではないだろう。まさしくアニメの醍醐味を凝縮したような作品と言える。古賀葵古川慎小原好美鈴木崚汰を中心とした声優陣の演技も素晴らしく,多彩なアニメーションが作る小気味のよいリズムをさらに豊かに彩っていた。そしてふざけるところはしっかりとふざけ,真面目に恋するところは真面目に恋する,というメリハリのよさもこの作品の魅力だろう。その辺りが明確に打ち出されていたのが最終話だった。すでに続編制作の報も出ている。今後のさらなるパワーアップを期待しつつ,今期アニメの第1位に選ばせてもらった。

● その他の鑑賞済み作品(50音順)

『阿波連さんははかれない』『インセクトランド』『エスタブライフ』『可愛いだけじゃない式守さん』『処刑少女の生きる道』
 

以上,当ブログが注目した2022年春アニメ8作品を挙げた。

今期も原作アニメ化作品のクオリティの高さが目立った。これはいつも言っていることだが,原作アニメ化作品でもっとも面白いのは,"制作者が原作をどう解釈したか"という点だ。原作とアニメを比較しながら観るのが面白い。つまり"一粒で二度美味しい"。オリジナルアニメにはない楽しみと言えるだろう。

その一方で,やはり当ブログとしてはそろそろオリジナルアニメの躍進に期待したい。夏アニメはオリジナル作品が比較的多く,期待が高まる。2022年夏アニメのおすすめに関しては以下の記事を参照頂きたい。

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TVアニメ『かぐや様は告らせたい -ウルトラロマンティック-』(2022年春)第12話・第13話の演出について[考察・感想]

 *この記事は『かぐや様は告らせたい -ウルトラロマンティック-』第12話と第13話のネタバレを含みます。

©赤坂アカ/集英社・かぐや様は告らせたい製作委員会

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『かぐや様は告らせたい-ウルトラロマンティック-』が最終回を迎えた。もともと原作の人気が高く,かつシリーズの3期目ということもあって,当初から注目度の高かった作品だが,蓋を開けてみれば期待を軽々と超える出来栄えだった。おそらく近年の学園ラブコメの中でも抜きん出た傑作となったのではないだろうか。特に1時間スペシャルで放送された第12話「かぐや様は告りたい②」「かぐや様は告りたい②」「『二つの告白』前編」と第13話「『二つの告白』後編」「秀知院は後夜祭」は,これまでのシリーズ披露されてきた様々な演出が散りばめられており,『かぐや様』アニメの集大成とも言える話数となった。

 

かぐや様がいっぱい:〈分散型〉アニメの面白さ

これは『かぐや様』アニメシリーズに一貫して言えることだが,キャラクターデザインや美術などにおいて,表現の統一を図るというよりは,むしろ複数の表現を意図的に織り交ぜる演出方法がとられている。本編とは異なる演出方針で製作されたエンディング・アニメーション(絵コンテ・演出:大野仁愛/作画監督:久貝典史)はもちろんのこと,本編内でも多様な表現が用いられている。〈集中型〉の演出に対し,〈分散型〉の演出と言ってもいいだろう。第12話と第13話でもこうした演出が顕著だった。

©赤坂アカ/集英社・かぐや様は告らせたい製作委員会

標準の作画をベースに,時にアクションマンガのようなデザイン,時に水彩画のような画風といった風に,多彩なタッチの作画が次々と繰り出される。和紙のようなテクスチャが用いられたカット(上図右)なども面白い。

©赤坂アカ/集英社・かぐや様は告らせたい製作委員会

このように統一性や一貫性を度外視し,複数の表現に分散させる演出は美術においても顕著だ。例えばかぐやと早坂が白銀への告白方法を画策するシーン(上図)。積み上げられた机の足で空間が切断された構図は,これだけでもたいへん面白い。しかしさらに面白いのは,かぐやのツンデレ告白に対する早坂のダメ出しをきっかけに,突如光源が赤く変わる箇所だ。キャラクターの心情変化を表すというよりは,純粋な"異化効果"のようでもある。

こうした演出は,声優の演技やカット割のテンポのよさともあいまって,独特のリズムとスピード感を生み出す。全体の統一性は確かに損なわれるのだが,すでにキャラと世界観の強度が十分に確保された『かぐや様』において,もはや統一性や一貫性は不要なのかもしれない。

もちろん,こうした多彩な演出は他のギャグアニメにも見られるものだが,『かぐや様』においてはとりわけ実験的な遊びの要素が顕著だと言えるだろう。ちなみに〈分散型〉の演出が意識的に用いられたアニメとしては,『モブサイコ』(2016年-)なども挙げられる。

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ゆっくりとサザエさんとガンダムと:オマージュの遊び

実験的な遊びと言えば,本作には他作品からのオマージュないし引用が多く見られる。例えば第5話では,クイーンの「ボヘミアン・ラプソディ」のビデオやレッド・ツェッペリンの「アキレス最後の戦い」の楽曲などが引用されていたのがSNSでも話題になった。

©赤坂アカ/集英社・かぐや様は告らせたい製作委員会

第12話と第13では「ゆっくり風のかぐやと早坂」「劇場版ガンダム風に撃ち抜かれるカレン」「サザエさんとコラボするかぐや」などのオマージュシーンが見られた。これらも先ほどの〈分散型〉演出と同様,表現を複数化し,作品全体のルックを多様にする。それと同時に,SNSなどでの"元ネタ"考察を盛り上げ,二次的な楽しみが増すという効果もある。

 

そして時計台へ

こうした"遊び"の要素も面白いのだが,最終話の中で何よりも魅力的だったのは,時計台でのハート型バルーンのシリアスシーンだろう。

©赤坂アカ/集英社・かぐや様は告らせたい製作委員会

時計台で二人きりになるかぐやと白銀。カメラは白銀の肩越しにかぐやの泣き顔をとらえた後,後方に舞い上がり,時計台を一周回った後に白銀の当惑する表情を捉える。ドローンカメラの動きを模したものと考えられるが,この後に続く,ハート型バルーンの浮遊シーンの予兆となっているようにも思える。かぐやと白銀の高揚感と不安感に寄り添った,たいへん面白いカメラワークだ。

©赤坂アカ/集英社・かぐや様は告らせたい製作委員会

その後,白銀がスマホを操作すると,大きなバルーンがキャンプファイヤーに舞い降りる。炎で割れたバルーンの中から,大量のハート型バルーンが舞い上がり,時計台の周りを漂い,かぐやと白銀の周りを漂う。かぐやの表情の作画,視線の芝居,暗転と静寂,声優の演技,ダイナミックなカメラワーク,劇伴,どれをとっても文句なしの演出である。遊ぶところは徹底的に遊びながら,恋愛要素はたっぷりと盛り上げる。ラブコメアニメの模範解答のような最終話演出と言えるだろう。

最終話の放送直後,早くも続編制作の発表があった。波に乗り切った制作スタッフに,さらなるパワーアップを期待したい。

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作品データ

*リンクはWikipedia,@wiki,企業HPなど

【スタッフ】
原作:赤坂アカ/監督:畠山守/シリーズ構成:中西やすひろ/キャラクターデザイン:八尋裕子/総作画監督:矢向宏志川上哲也晶貴孝二/プロップデザイン:木藤貴之/美術監督:若林里紗/美術設定:松本浩樹平義樹弥/色彩設計:ホカリカナコ/色彩設計補佐:村上彩夏/CG監督:栗林裕紀/撮影監督:岡﨑正春/編集:松原理恵/音楽:羽岡佳/音響監督:明田川仁/制作:A-1 Pictures

【キャスト】
四宮かぐや:古賀葵/白銀御行:古川慎/藤原千花:小原好美/石上優:鈴木崚汰/伊井野ミコ:富田美憂/早坂愛:花守ゆみり/柏木渚:麻倉もも/大仏こばち:日高里菜/田沼翼:八代拓/四条眞妃:市ノ瀬加那/子安つばめ:福原遥/ナレーション:青山穣

【第12話スタッフ】
脚本:
中西やすひろ/絵コンテ:畠山守/演出:飛田剛菊池貴行/総作画監督:川上哲也晶貴孝二八尋裕子/作画監督:太田慎之介世良コータ川﨑玲奈大久保洸太郎野間聡司石川洋一横山穂乃花水谷雄一郎永野美春

【第13話スタッフ】
脚本:中西やすひろ/絵コンテ:畠山守演出:飛田剛菊池貴行/総作画監督:川上哲也晶貴孝二八尋裕子/作画監督:太田慎之介世良コータ川﨑玲奈大久保洸太郎野間聡司石川洋一横山穂乃花水谷雄一郎永野美春

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2022年 夏アニメは何を観る?来期おすすめアニメの紹介 ~2022年春アニメを振返りながら~

『ユーレイデコ』公式HPより引用 ©︎ユーレイ探偵団

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2022年 春アニメ振返り

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今クールもマンガ原作アニメのクオリティが高い。なかでも『かぐや様は告らせたい -ウルトラロマンティック-』『サマータイムレンダ』『SPY×FAMILY』の出来が抜きん出ている。

『かぐや様は告らせたい』は,前作にも増して実験的な演出が毎話視聴者を驚かせている。アニメーターの力量がダイレクトに感じられる,見応えのある作品である。

『サマータイムレンダ』は,ダークな設定とますます謎を深めていくストーリが魅力のサスペンスアニメだ。初回からまったくテンションの落ちない作画,的確な演出と芝居,毎話の引きのうまさ,どれをとっても最高レベルのアニメーションと言える。なお,本作は全25話2クールで放送される予定である。

『SPY×FAMILY』は,作品のコアとなるテーマを重視した丁寧な演出に加え,原作にはないアニメオリジナルシーンを豊富に盛り込んだことで,アニメ勢・原作勢の両方を満足させる作品となった。当初の期待以上の出来栄えと言っていいだろう。

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この他,『パリピ孔明』『であいもん』『ブラック★★ロックシューター DAWN FAll』なども好調だ。最終話の出来具合では,この辺りの作品の評価も高まる可能性はある。2022年春アニメの最終ランキングは後日発表する予定である。

では2022年夏アニメのラインナップの中から,五十音順に注目作をピックアップしていこう。各作品タイトルの下に最新PVなどのリンクを貼ってあるので,ぜひご覧になりながら本記事をお読みいただきたい。なお,オリジナルアニメ(マンガ,ラノベ,ゲーム等の原作がない作品)のタイトルの末尾には「(オリジナル)」と付記してある。

 

① 異世界おじさん


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【スタッフ】
原作:殆ど死んでいる/監督:河合滋樹/シリーズ構成・脚本:猪原健太/キャラクターデザイン:大田和寛/音楽:末廣健一郎/アニメーション制作:Atelier Pontdarc

【キャスト】
おじさん:子安武人/たかふみ:福山潤/藤宮:小松未可子/エルフ:戸松遥/メイベル:悠木碧/アリシア:豊崎愛生/エドガー:鈴村健一/ライガ:岡本信彦/沢江:金元寿子

【コメント】
これは期待を込めて。昨今,”異世界転生モノ”もあの手この手で新しい設定を創作しようとしているが,本作は「異世界から帰還したおじさんと甥のたかふみが,おじさんの魔法の力を利用してYouTuberになる」という,文字通り“型破り”の異世界コメディだ。『幼女戦記』(2017年)などで知られる猪原健太がシリーズ構成を務める。またキャストが異様に豪華なのも注目ポイントだ。

 

② Engage Kiss(オリジナル)


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【スタッフ】
原作:
Bayron City Express/監督:田中智也/シリーズ構成・脚本:丸戸史明/世界観設定:矢野俊策/キャラクターデザイン原案:つなこ/悪魔デザイン原案:片桐いくみ/アニメーションキャラクターデザイン・総作画監督:滝山真哲/サブキャラクターデザイン・総作画監督:古住千秋/アニメーション悪魔デザイン・プロップデザイン:和田慎平/銃器デザイン:寺岡賢司/アクション設計:菅野芳弘/アクション作画監督:丸山大勝/美術監督:小木曽宣久/背景美術:草薙(KUSANAGI)/色彩設計:岡崎菜々子/撮影監督:宮脇洋平/CG監督:神田瑞帆齋藤澄果/モーショングラフィックス・2Dデザイン:大城丈宗(Production I.G)/編集:坂本久美子/音響監督:高寺たけし/音楽:藤澤慶昌/制作: A-1 Pictures

【キャスト】
緒方シュウ:斉藤壮馬/キサラ:会沢紗弥/夕桐アヤノ:Lynn/シャロン・ホーリーグレイル:大久保瑠美/夕桐アキノ:渡辺明乃/マイルズ・モーガン:松田健一郎/三上テツヤ:長谷川芳明/蜂須賀莎花:内田彩/蜂須賀凛花:大西沙織/蜂須賀ミハイル:逢坂良太

【コメント】
悪魔による「D災害」対処を専門とするPMC(民間軍事会社)を運営する青年・シュウ,公私ともに彼を支える悪魔の少女・キサラ,シュウの元恋人・アヤノ。この3人を中心に繰り広げられるファンタジー・ラブコメだ。小説『冴えない彼女の育てかた』(2012-2019年)の丸戸史明がシリーズ構成を,『デート・ア・ライブ』(2011年-)などのつなこがキャラクター原案を務める。2022年夏より,スマートフォンゲーム『Engage Kill』の配信も予定されており,近年よく見られるメディアミックス作品である。

 

③ 賭ケグルイ双


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【スタッフ】
総監督:林祐一郎/監督:牧田佳織/シリーズ構成:村越繁/キャラクターデザイン:仁井学/総作画監督:仁井学高原修司まじろ/美術監督:野村正信横山勇生/色彩設計:末永絢子/CGディレクター:平岡正浩/撮影監督:加藤慎之助/編集:武宮むつみ/音響監督:藤田亜紀子/音響効果:倉橋裕宗/音楽:TECHNOBOYS PULCRAFT GREEN-FUND/音楽制作:avex pictures/制作:MAPPA

【キャスト】
早乙女芽亜里:田中美海/花手毬つづら:本泉莉奈/戸隠雪見:大地葉/聚楽幸子:甲斐田裕子/佐渡みくら:古賀葵/壬生臣葵:山下誠一郎/三春滝咲良:高橋李依

【コメント】
原作は河本ほむら原作・原案/斎木桂作画のスピンオフマンガ『賭ケグルイ双』(2015年-)。第1期(2017年夏)と第2期(2019年冬)の主人公・蛇喰夢子が私立百花王学園に転向してくる前の前日譚。特待生として学園に編入した早乙女芽亜里の活躍を描く。監督やシリーズ構成が第1期・第2期から変わっているため,これまでとは異なるテイストの演出を楽しめるかもしれない。2022年8月4日よりNetflixにて配信予定。

 

④ 組長娘と世話係

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【スタッフ】
原作:つきや/監督:川崎逸朗/シリーズ構成:大知慶一郎/キャラクターデザイン:緒方浩美/サブキャラクターデザイン:森和江/メインアニメーター:枡田邦彰佐藤元昭降矢瑞生増田俊介/美術監督:吉原俊一郎/美術設定:青木薫/美術背景:美峰/色彩設計:岩井田洋/撮影監督:小池里恵子/編集:平木大輔/音響監督:川崎逸朗/音響制作:スタジオマウス/音楽:伊賀拓郎/音楽制作:bilibili/アニメーション制作:feel.GAINA

【キャスト】
霧島透:細谷佳正/桜樹八重花:和多田美咲/杉原恵:石川界人/桜樹一彦:竹内良太/桜樹美幸:中原麻衣/黒崎香菜美:小林未沙/葵塔一郎:前野智昭/北条零:羽多野渉/速水雅也:福山潤/真白悠莉:神谷浩史

【コメント】
つきや
による同名マンガ(2018年-)が原作。「桜樹組の悪魔」と呼ばれるほど恐れられた若頭・霧島透が,ある日,組長から一人娘・八重花の世話係を命じられることになり…という話。”幼女と野獣”によるハートフルコメディと言ったところだろうか。PVを見ると,主演の細谷佳正の,ドスのきいた中にも優しさが垣間見える演技と,和多田美咲のあどけない演技とのコントラストがとてもよさげだ。『ツキウタ。THE ANIMATION』(2016年)などの川崎逸朗が監督を務める。

 

⑤ KJファイル(オリジナル)

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【スタッフ】
演出:船田晃/脚本:佐々木充郭飯塚貴士/作画:西川伸司岡本英郎海老原優飯塚貴士古谷充子jimmy和田朋子山川典夫/制作協力:スタジオ・バックホーン和風アニメーション/制作:ILCAyell

【キャスト】
小林丸兆治博士:清川元夢/海堂勇一郎事務局長:二又一成/ケニー御子柴博士:今井耕二/ニキータ・タルコフスキー博士:大下昌之/クレア・コールマン博士:福森加織/ルル・ドゥ・ピカード博士:奈日抽ねね/ギレルモ・マルケス博士:小林清志

【コメント】
怪獣
を「駆逐」するのではなく,「監視・分析」し,人間と怪獣の共生を模索するというストーリー。現時点ではあまり多くの情報が公開されていないが,そのユニークな設定に期待が持てそうだ。船田晃を中心とする『闇芝居』(2013-2022年)のチームが制作しており,『闇芝居』と同じく「紙芝居アニメーション」というスタイルをとる。怪獣を"倒す"アニメではなく,怪獣を"愛する"アニメになるのだろう。

 

⑥ シャドーハウス 2nd Season


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【スタッフ】
原作:ソウマトウ/監督:大橋一輝/シリーズ構成:大野敏哉/キャラクターデザイン:日下部智津子松林志穂美/美術設定:前田みつき/美術監修:加藤浩/美術監督:坂上裕文後藤千尋/プロップデザイン:吉田優子/色彩設計:漆戸幸子/撮影監督:桑原真也/2Dワークス:久保田彩/3D監督:宮地克明任杰/編集:新居和弘/音楽:末廣健一郎/音響監督:小泉紀介/音響制作:HALF H・P STUDIO/制作:CloverWorks

【キャスト】
ケイト:鬼頭明里/エミリコ:篠原侑/ジョン&ショーン:酒井広大/ルイーズ&ルウ:佐倉綾音/パトリック&リッキー:川島零士/バーバラ&バービー:釘宮理恵/マリーローズ&ローズマリー:中原麻衣

【コメント】
2021年春に放送された第1期の続編。「お披露目」を終えたケイト&エミリコたちは,成人として新たな生活を送ることを許される。はたして彼女たちは「シャドーハウス」の謎に近づくことができるか。第1期の後半では原作とは異なるストーリーが展開されただけに,第2期でも"アニオリ"が注目ポイントとなるかもしれない。

 

⑦ ちみも(オリジナル)


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【スタッフ】
キャラクター原案:カナヘイ/監督:ぴのあると/シリーズ構成:うえのきみこ/キャラクターデザイン・総作画監督:堤舞/色彩設計:蝦名佳代子/美術監督:高橋佐知/CGディレクター:伊賀夕/編集:藤本理子/音楽:やしきん/アニメーション協力:M2 ANIMATIONDeeDee Animation Studio/アニメーション制作:シンエイ動画

【キャスト】
鬼神めい:神月柚莉愛/鬼神はづき:加隈亜衣/鬼神むつみ:能登麻美子/地獄さん:諏訪部順一

【コメント】

人間界を地獄化すべく訪れた「ちみも」(魑魅魍魎)と「地獄さん」,そして彼らが居候する「むつみ」「はづき」「めい」の三姉妹が繰り広げるハートフルコメディ。なんといっても,『クレヨンしんちゃん』シリーズなどのギャグストーリで定評のあるうえのきみこがシリーズ構成を担当し,同じく『クレヨンしんちゃん』のシンエイ動画が制作するという点だ。日頃の疲れを癒してくれるほっこりギャグを期待しよう。

 

⑧ BASTARD!!―暗黒の破壊神―


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【スタッフ】
原作:萩原一至/監督:尾崎隆晴/シリーズ構成:黒田洋介/キャラクターデザイン:小野早香/クリーチャーデザイン:須永賴太/エフェクト設計:山田起生/美術監督:井上一宏(草薙)/美術設定:バーンストーム・デザインラボ/色彩設計:篠原愛子/特効監修:谷口久美子/特殊効果:荒畑歩美(チーム・タニグチ)/3DCGI:Felix Film/撮影監督:髙津純平/編集:長谷川舞(editz)/音響監督:えびなやすのり/音楽:高梨康治(Team-MAX)/OPアーティスト:oldrain(Warner Music Japan)/EDアーティスト:Tielle(Warner Music Japan)/プロデュース:Warner Bros. Japan/アニメーション制作:ライデンフィルム

【キャスト】
ダーク・シュナイダー:谷山紀章/ティア・ノート・ヨーコ:楠木ともり/ルーシェ・レンレン:伊藤かな恵/ガラ:安元洋貴/アーシェス・ネイ:日笠陽子/アビゲイル:杉田智和/カル=ス:小野賢章/シーラ・トェル・メタ=リカーナ:東山奈央/シーン・ハリ:小澤亜李/カイ・ハーン:伊藤静/ダイ=アモン:子安武人/ラーズ:松岡禎丞/破壊神アンスラサクス:小山茉美

【コメント】
萩原一至
による同名マンガ(1988年 )が原作。発表当初は,コアなテーブルトークRPG的要素とストレートなエログロ描写が目を引いた作品だが,それから30年以上経った現在,マンガ・アニメの視聴者の嗜好も変化している。今回のアニメスタッフ(本作は1992年に一度OVA化されている)が,この未完の大作をどう料理するか。その手腕に期待しよう。6月30日よりNetflixで配信予定。

⑨ ブッチギレ!(オリジナル)


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【スタッフ】
監督・シリーズ構成:平川哲生/キャラクター原案:武井宏之/キャラクターデザイン:横田匡史/サブキャラクターデザイン:川村敏江小園菜穂/美術:インスパイアード/美術監督:西口早智子/美術アドバイザー・:増山修/色彩設計:のぼりはるこ/撮影監督:設楽希(T2studio)/3DCGディレクター:秋元央(T2studio)/編集:須藤瞳(REAL―T)/音響監督:矢野さとし/音響効果:神保大介/音響制作:Ai Addiction/音楽:高梨康治/企画:ツインエンジン/アニメーション制作:ジェノスタジオ

【キャスト】
一番星:佐藤元/サクヤ(朔夜):土岐隼一/藤堂平助:豊永利行/アキラ(白):上坂すみれ/ソウゲン(踪玄):三木眞一郎/スズラン(鈴蘭):上村祐翔/ギャタロウ(逆太郎):高木渉/ボウ(某):落合福嗣/羅生丸:八代拓/松平容保:白井悠介/秋月悌次郎:石井康嗣

【コメント】
「雑面ノ鬼」によって全滅させられた新選組に代わって,その「替え玉」とされた七人の罪人たちの物語。一見すると夕方帯のアニメのような趣だが,よく見ると主線の処理などかなり凝ったルックになっており,アニメーションとしても楽しい作品になるかもしれない。監督は『ゼロから始める魔法の書』(2017年)や『この世の果てで恋を唄う少女YU-NO』(2019年)などの平川哲生。平川のコメントによれば,「ハチャメチャツッパリファンタジー時代劇」とのことだ。そのはっちゃけぶりに期待しよう。

 

⑩ プリマドール(オリジナル)


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【スタッフ】
原案:VISUAL ARTSKey/原作:VISUAL ARTSKeyバイブリーアニメーションスタジオ/監督:天衝/シリーズ構成・脚本:丘野塔也/キャラクター原案:Na-Ga藤ちょこ原悠衣森倉円lack/サブキャラクター原案:杉原みなみ/メカニック原案:石渡マコト(ニトロプラス)/キャラクターデザイン・総作画監督:矢野茜/美術監督:三宅昌和/美術設定:荒井和浩佐南友理/色彩設計:太田ゆいは/CGディレクター:箕輪綾二/撮影監督:甲斐勇冴/編集:武宮むつみ/音響監督:土屋雅紀/音楽制作:VISUAL ARTSNBCユニバーサル・エンターテイメント/アニメーション制作:バイブリーアニメーションスタジオ

【キャスト】
灰桜:和氣あず未/鴉羽:楠木ともり/月下:富田美憂/箒星:中島由貴/レーツェル:鬼頭明里/遠間ナギ:村瀬歩/奥宮おとめ:諏訪彩花/千代:久野美咲

【コメント】

"泣きゲー"『CLANNAD』(2004年)などのKeyによる,メディアミックスプロジェクトのアニメ。喫茶店・黒猫亭で働く自律人形(オートマタ)たちの「歌と奇跡」の物語である。監督は『Rewrite』(2016年)『ブラック★★ロックシューター DAWN FALL』(2022年)などの天衝。キャラクター原案をNa-Ga藤ちょこ原悠衣森倉円lackら実力は絵師が務めるのも注目ポイントだ。

 

⑪ メイドインアビス 烈日の黄金郷


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【スタッフ】
原作:つくしあきひと/監督:小島正幸/副監督:垪和等/シリーズ構成・脚本:倉田英之/キャラクターデザイン:黄瀬和哉(Production I.G)黒田結花/デザインリーダー:高倉武史/プロップデザイン:沙倉拓実/美術監督:増山修関口輝(インスパイアード)/色彩設計:山下宮緒/撮影監督:江間常高(T2 studio)/編集:黒澤雅之/音響監督:山田陽/音響効果:野口透/音楽:Kevin Penkin/音楽プロデューサー:飯島弘光/音楽制作:IRMA LA DOUCE/音楽制作協力:KADOKAWA/アニメーション制作:キネマシトラス

【キャスト】
リコ:富田美憂/レグ:伊瀬茉莉也/ナナチ:井澤詩織/メイニャ:原奈津子/ファプタ:久野美咲/ヴエコ:寺崎裕香/ワズキャン:平田広明/ベラフ:斎賀みつき/マジカジャ:後藤ヒロキ/マアアさん:市ノ瀬加那/ムーギィ:斉藤貴美子/ガブールン:竹内良太/プルシュカ:水瀬いのり/ボンドルド:森川智之

【コメント】
劇場版『メイドインアビス 深き魂の黎明』のその後を描く続編。深界第六層にある「成れ果ての村」にたどり着いたリコ一行は,「ファプタ」と呼ばれる不思議な生物と出会う。新しい場所と新しいキャラクターが加わり,ますます複雑さを増していく物語をアニメはどう処理するか。これまでのTVシリーズと劇場版において抜群のクオリティを実現した小島正幸監督,および有能な制作班たちの手腕に期待したい。ファプタ役の久野美咲,マアアさん役の市ノ瀬加那など,キャスティングの妙にも要注目だ。

 

⑫ ユーレイデコ(オリジナル)


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【スタッフ】
原案:湯浅政明佐藤大/監督:霜山朋久/シリーズ構成:佐藤大/脚本:佐藤大うえのきみこ/音楽:ミト(クラムボン),KOTARO SAITOYebisu303/キャラクターデザイン:本間晃/美術監督:赤井文尚/色彩設計:辻田邦夫/撮影監督:関谷能弘伊藤ひかり/編集:齋藤朱里/音響監督:久保宗一郎/音響効果:西村睦弘/アニメーション制作:サイエンスSARU

【キャスト】
ベリィ:川勝未来/ハック:永瀬アンナ/フィン:入野自由/ハンク:佐藤せつじ/マダム44:定岡小百合/スマイリー:釘宮理恵

【コメント】

情報都市「トムソーヤ島」の住人は,島で暮らすために必要な評価係数「らぶ」を集めることに日々奔走している。しかしそこでは,「怪人0」によって「らぶ」が消失してしまう「0現象」が起こっていた。島の住人の少女・ベリィはひょんなことから「ユーレイ探偵団」に加わり,「怪人0」と「0事件」の謎を追うことになる。

原案は『四畳半神話大系』(2010年)『映像研には手を出すな!』(2020年)『犬王』(2022年)などの湯浅政明と『交響詩篇エウレカセブン』(2005-2006年)などの佐藤大。シリーズ構成は佐藤大,脚本は佐藤大と先ほどの『ちみも』にも参加するうえのきみこが務める。監督の霜山朋久は『映像研には手を出すな!』などの原画にも参加しており,これまで湯浅との仕事は多い。制作は湯浅の古巣・サイエンスSARU文句なしの座組である。この布陣によって「トムソーヤ島」のVR・AR空間がどのように作られるか,多いに期待したい。

 

⑬ よふかしのうた


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【スタッフ】
原作:コトヤマ/監督:板村智幸/チーフディレクター:宮西哲也/脚本:横手美智子/キャラクターデザイン:佐川遥/音楽:出羽良彰/美術設定:杉山晋史/美術監督:横松紀彦/色彩設計:滝沢いづみ/色彩設計補佐:きつかわあさみ/撮影監督:土本優貴/編集:榎田美咲/音響監督:木村絵理子/アニメーション制作:ライデンフィルム

【キャスト】
夜守コウ:佐藤元/七草ナズナ:雨宮天/朝井アキラ:花守ゆみり/桔梗セリ:戸松遥/平田ニコ:喜多村英梨/本田カブラ:伊藤静/小繁縷ミドリ:大空直美/蘿蔔ハツカ:和氣あず未/夕真昼:小野賢章/秋山昭人:吉野裕行/白河清澄:日笠陽子

【コメント】
『だがしかし』(2014-2018年)のコトヤマによる同名マンガを原作とする吸血鬼アニメ。「夜」がテーマということもあり,PVでは色彩豊かな夜景シーンの描写が目を引く。おそらくこの辺りが本作のアニメーション技術の見どころとなるだろう。監督を『〈物語〉シリーズセカンドシーズン』(2013年)や『ヴァニタスの手記』(2021年)などの板村智幸が,脚本を『SHIROBAKO』(2014-2015年)などの横手美智子が担当する。

 

⑭ リコリス・リコイル(オリジナル)


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【スタッフ】
原作:Spider Lily/監督:足立慎吾/ストーリー原案:アサウラ/キャラクターデザイン:いみぎむる/副監督:丸山裕介/サブキャラクターデザイン:山本由美子/総作画監督:山本由美子鈴木豪竹内由香里晶貴孝二/メインアニメーター:沢田犬二/プロップデザイン:朱原デーナ/美術監督:岡本穂高池田真依子/美術設定:六七質/色彩設計:佐々木梓/CGディレクター:森岡俊宇/撮影監督:青嶋俊明/編集:須藤瞳/音響監督:吉田光平/音楽:睦月周平/制作:A-1 Pictures

【キャスト】
錦木千束:安済知佳/井ノ上たきな:若山詩音/中原ミズキ:小清水亜美/クルミ:久野美咲/ミカ:さかき孝輔

【コメント】

犯罪を未然に防ぐ組織「DA」のエージェント「リコリス」たちが,喫茶店「リコリコ」を舞台に様々な依頼を受けていくというドタバタコメディ。『ソードアート・オンライン』(2012年)などで知られる足立慎吾の初監督作品として注目が集まる。またキャラクターデザインを『この美術部には問題がある!』(2012年-)などのいみぎむるが努めており,PVからもその洗練されたデザインが伺える。今期もっとも注目されるオリジナルアニメとなることは間違いないだろう。

 

⑮ RWBY 氷雪帝国


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【スタッフ】
原作:Rooster Teeth Productions/監督:鈴木利正/アニメーション原案:虚淵玄(ニトロプラス)/シリーズ構成・脚本:冲方丁/アニメーションキャラクター原案:huke/キャラクターデザイン・総作画監督:杉山延寛/ビジュアルディレクター:武内宣之/チーフディレクター:岡田堅二朗/総作画監督:伊藤良明/総作画監督:山村洋貴/総作画監督:岩本里奈/メインアニメーター:長田寛人/メインアニメーター:川田和樹/プロダクションデザイン・異空間設計:友野るい/美術ボード:飯島寿治/美術監督:内藤健/色彩設計:日比野仁/撮影監督:会津孝幸/編集:松原理恵/音楽:戸田信子x陣内一真/音響監督:明田川仁/アニメーション制作:シャフト

【キャスト】
ルビー・ローズ:早見沙織/ワイス・シュニー:日笠陽子/ブレイク・ベラドンナ:嶋村侑/ヤン・シャオロン:小清水亜美/ジョーン・アーク:下野紘/ノーラ・ヴァルキリー:洲崎綾/ピュラ・ニコス:豊口めぐみ/ライ・レン:斉藤壮馬/オズピン:井上和彦

【コメント】
元は日本のアニメをリスペクトしたRooster TeethによるWebアニメシリーズ。それが"逆輸入"のような形で,日本のスタッフを中心に再制作される格好だ。日本アニメの要素を含んだアメリカアニメを日本のスタッフが制作すると何が生まれるのか。なかなか興味深いプロジェクトだ。アニメーション原案を『Fate/Zero』(2011-2012年)『魔法少女まどか⭐︎マギカ』(2011年)の虚淵玄,シリーズ構成・脚本を小説『マルドゥック・スクランブル』(2003年)などの冲方丁が務めるほか,huke武内宣之の参加やシャフトによるアニメーション制作も注目ポイントだ。

 

2022年夏アニメのイチオシは…

2022年夏アニメの期待作として,今回は15作品をピックアップした。これまでこの記事では10前後の作品を紹介することが多かったが,次クールは期待のオリジナル作品が多いということもあって,やや多めとなった。

さて今回のイチオシだが,正直『ユーレイデコ』『リコリス・リコイル』とで多いに悩んだ。しかし大方の視聴者が『リコリス・リコイル』に傾くことは容易に予想できる(現時点での公式アカウントのフォロワー数を見れば一目瞭然だ)ので,ここはあえて逆を張らせてもらって『ユーレイデコ』を挙げることにする。湯浅政明×佐藤大×うえのきみこ×サイエンスSARUの布陣に期待したい。

次点として『リコリス・リコイル』,ハイクオリティのアニメーションを繰り出し続ける『メイドインアビス 烈日の黄金郷』,そして異色の異世界ファンタジー(?)『異世界おじさん』を挙げる。

以上,2022年夏アニメ視聴の参考にして頂ければ幸いである。

劇場アニメ『犬王』(2022年)レビュー[考察・感想]:〈有〉を語り継いだ物語

*このレビューはネタバレを含みます。必ず作品本編をご覧になってからこの記事をお読みください。また,レビューの都合上,手塚治虫『火の鳥 太陽編』の内容にも触れていますのでご注意ください。

『犬王』公式Twitterより引用 ©︎2021 “INU-OH” Film Partners

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湯浅政明監督『犬王』は,古川日出男『平家物語 犬王の巻』(2017年)を原作とし,監督の古巣であるサイエンスSARUにて制作された劇場アニメーション作品である。時代考証を敢えて逸脱した楽曲の使用,独自の身体表象,過去と現在を接続した表現など,独創性の高い演出が随所に散りばめられたユニークな作品だ。昨今の"ミュージカル・アニメ"のジャンルの中でもひときわ異彩を放つ快作である。

 

あらすじ

時は室町時代。かつて平家が滅んだ壇ノ浦の漁村で,一人の少年が神器の神罰を受けて盲となった。その名は「友魚」。一方,都の猿楽の一座「比叡座」では,父の呪いによって異形の怪物として生を受けた者がいた。その名は「犬王」。2人は京の都で出会い,意気投合し,その類い稀なる音と歌と舞の力で都中を熱狂させるスーパースターとなる。やがて2人の人気と名声は,時の為政者・足利義満の耳に入る。芸能と権力が対峙する。

 

蝿の羽音

「犬王」のタイトルバックの直後,蝿の羽音が耳をつく。僕らはこの蝿を,"単なる演出"として見過ごすべきではない。

小うるさい蝿たちは,壇ノ浦の寒村の魚に集り,盲となった友魚につきまとう。蝿は〈死〉に集ると同時に〈生〉に集る。〈死〉の臭いが脱臭された現代社会と違い,室町時代の日常には生と死が同時に存在していた。蝿はそのような生死の両義的状況を表す,ささやかだが意味深い象徴なのだ。

かつて高畑勲も,『火垂るの墓』(1988年)の中で横たわる死体に蝿をまとわりつかせ,戦時中の日本における生と死の同時存在を表象していた。また,梶井基次郎『冬の蝿』(1928年)の中で描いたのも生と死だった。彼は冬の蝿を前にした男に,「しかし何という,『生きんとする意志』であろう!彼等は日光のなかで交尾することを忘れない。恐らく枯死からはそう遠くない彼等が!」*1 と言わしめる。男は冬の蝿の死に「なにか私を生かしそしていつか私を殺してしまう気まぐれな条件」の暗示を読みとる。*2 そこに描かれているのは,蝿そのものに映し出された,己の生と死の両義的な気分である。

蝿そのものを語り継ぐ者などほとんどいない(梶井基次郎くらいだろう)。だが,蝿=生と死の両義体は,確かにそこに,その時代に,存在を「」していたはずであり,それを目にした者に何らかの“作用”を及ぼし得たはずなのだ。だから,梶井のような才能がそれを語ることには実存的な意味がある。それと同じく,確かな生を生き,確かな死を死んでいきながら,歴史のうねりの中で忘却されてしまった「犬王」の存在を,そこに「有」ったものとして語り継ぐことには実存的な意味がある。だからこそ,犬王の物語を語り尽くそうとした「友魚」というキャラクターには特別な存在意義がある。

故郷の漁村との繋留を「魚」の字としてその名に帯びた友魚は,京で友一と改名することによって故郷へのノスタルジーを捨て去り,当道座の権威を得て犬王とともに名を馳せる。しかしその後すぐ「一」を捨て,半ば権威を嗤いながら「俺たちはここに有る!」と叫び,「友有」と名乗る。この「有」の字には,歴史の力に抗いながら,己の生と死を刻み込もうとする強力な「生きんとする意志」が感じられる。

『犬王』公式Twitterより引用 ©︎2021 “INU-OH” Film Partners

だが時の為政者・足利義満は,権力の統一とともに芸能の統一をも達成しようとする。彼は犬王の語る新しい『平家物語』と友有の歌う犬王の物語をノイズとして排除し,覚一がまとめた「正本」を唯一の『平家物語』と定めることによって,芸能を権力の下に置こうとする。

これに対し,友有は「我々の物語を消させはせぬ!」と言って抗い,2人のレゾンデートルの象徴である「有」の名を貫こうともがく。この時の友有は,バフマン・ゴバディ監督『ペルシャ猫を誰も知らない』(2009年)中で描かれた若者たちの姿とも重なる。彼らもまた,政府当局という権力に抗いながら自由な音楽を追求しようとしていたのだ。

友「魚」,友「一」,友「有」という改名の過程は,犬王という人物の,実在しながらもその多くを忘却された実存を,確かな「有」へとコンバートするためのコードのようでもある。友有という架空のキャラクターは,犬王という存在の「有」を伝承可能にするための装置であるとも言えるだろう。

 

せめぎ合う倍音:過去と現在の共演

さて,蝿の羽音は,琵琶法師と友魚らが奏でる琵琶の豊かな倍音へと引き継がれ,友一の歌う「犬王 壱」において,エレキギターの人工的な倍音と混じり合う。その後の「腕塚」「鯨」「竜中将」における犬王と友有の舞と歌は,"室町時代の猿楽あるいは能"というイメージを軽々と逸脱し,ロックフェス,オペラ,バレエ,ストリートパフォーマンスの要素を雑多に内包した貪欲なパフォーマンスへと膨れ上がり,都中を熱狂させていく。

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湯浅の『犬王』の面白さは,このように琵琶(過去)とエレキ(現代)が邂逅し,せめぎ合い,調和し合う点にある。これを“当時実在した楽器のみ使用する”といったような下手な“考証”をしてしまえば,その面白さはたちまち半減する。その意味では,アニメ『平家物語』(2022年)において,同様に琵琶や笛の音と現代楽器の音を織り交ぜた山田尚子×牛尾憲輔の音楽思想にも通じるところがある。ある種の"ゴタマゼ感"がこの2作品に共通した持ち味なのだ。

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さらに『犬王』においては,琵琶(過去)とエレキ(現代)の邂逅が作品そのもののテーマとして"回収"されている点も重要だ。映画冒頭のシーンを思い出そう。現代の路上で友有が琵琶とともに前口上を始めると,現代の様々な風景が次々と過去の風景に置き換わり,時が巻き戻される。映画冒頭の数分間に,600年の時が圧縮される。またラストシーンで犬王と友有が再会するのはやはり現代である。これらの現代のシーンは原作にはないアニメオリジナルの演出であり,もとは脚本家の野木亜紀子のアイディアだったそうだ。少々長くなるが,劇場プログラムに収められた野木のインタビューから引用しよう。

もともと,600年も昔の話って今のお客さんには遠すぎるし,いきなり室町時代の世界をポンと提示されても,異世界のような断絶があると感じたんです。能について詳しく知っている人も多くはないだろうし,さらに現存する能よりも前の猿楽能のことなんて,ますますわからないじゃないですか。だから,今の世界と接続するためにも,冒頭と終わりを現在にする。[中略] 

能って「彼らの物語を誰かが語る」という形式の劇なので,それに倣ってこの映画も入れ子構造にして,現代に語り継がれる物語として始めようと。犬王たちの物語は奪われてしまったけれども,映画を観たお客さんたちは,その物語を直接伝え聞いたことになる。皆さんに彼らの物語を,確かにお伝えしましたよね?って。そういう構造にすれば,現代に繋げられるんじゃないかと思ったんです。 *3

過去を現代に直に接続することで,〈語り継ぐ〉という行為をよりアクチュアルにする。このことは,上で述べた琵琶(過去)とエレキ(現代)の接続とも関係するだろう。琵琶の音色にエレキギターやドラムの音が混じり合うことによって,現代の鑑賞者は室町時代の能をあたかも“今ここ”で演じられたものとして体感できる。歴史的な“遠さ”を“近さ”に変換することができる。このアクチュアリティ=ライブ感こそが本作の魅力の1つなのだ。

ちなみに異なる時代,異なる場所のカットを矢継ぎ早にモンタージュしていく手法は,湯浅監督の『マインドゲーム』『日本沈没2020』の最終話などでも採られている。湯浅の歴史と空間の認識の根底には,〈異なる時空間の隣接〉という発想があるのかもしれない。

 

湯浅的身体の自由:異形という異能

湯浅作品を追ってきた人にとっては自明だろうが,彼のアニメにはデフォルメされた身体表象が頻繁に登場する。時として四肢はゴムのように変形し,関節は自在に曲がりくねる。

左:『夜明け告げるルーのうた』より引用 ©︎2017 ルー製作委員会
右:『夜は短し歩けよ乙女』より引用 ©︎森見登美彦・KADOKAWA/ナカメの会

こうしたデフォルメ表現が独特の映像ダイナミズムを生み出し,表情豊かな“湯浅ワールド”を形作っている。

そもそもアニメーションは,リアルな身体描写を追求すればするほど,筋肉の動きや関節の曲がり方などにおいて"リアリティ"という名の制約を受ける。湯浅のデフォルメされたキャラクターたちは,そうした身体の制約から解放されることにより,内面の感情をより自由に表現できる。そんな湯浅ワールドにとって,犬王の身体は精神の自由を表現するための格好の"媒体"であったはずだ。

『犬王』公式Twitterより引用 ©︎2021 “INU-OH” Film Partners

犬王は父の呪いを受けて“異形”の姿で生まれる。彼は舞を習得するごとに“普通”の身体を取り戻していく。この過程は,手塚治虫のマンガ『どろろ』(1969年)との類似が指摘されることが多い。しかし少し仔細に踏み込めば,両作品の身体に関する扱いがむしろ対照的であることがわかるだろう。

『どろろ』では,百鬼丸が身体の48箇所を欠いた状態で生まれる。彼は魔物を一体倒すたびに,身体を一つずつ取り戻していく。これは〈欠損〉から〈完全〉へというプロセスであり,〈欠損〉はあくまでも否定的なものとして捉えられている。一方の犬王は,異形の者として生を受け,一つ芸を極めるごとに正常な身体を取り戻していく。〈異常〉から〈正常〉へというプロセスだが,この作品では,〈異形〉はは必ずしも否定的なものとして捉えられているわけではない。

犬王にとって,"異形"は"異能"でもある。彼は“普通”の足を手に入れた後,嬉々として都中を駆け巡りながら,その醜い顔によって人々を驚かす。彼はその風貌が原因で比叡座に立てないことを嘆く一方で,自らの“異形”を楽しんでいる素振りすら見せる。彼は友一との会話の中で次のように言う。

何の因果かこの身体。背には鱗,口はあるべきところになく,両の目も,普通の面を被ると見えん。この腕は便利だ!こんなことが誰にできる?

そう言って彼は長い手を操り,まるで軽業師のように高々と倒立してみせる。そこには,〈正常〉から逸脱しているからこそ得られる力強い生の喜びが感じられもする。

実は『犬王』の物語は,同じ手塚のマンガ『火の鳥 太陽編』(1986-1988年)との類似点も多く,作品解釈においてはむしろこちらの方が重要かもしれない。少し物語を振り返ってみよう。

『火の鳥 太陽編』は,飛鳥時代の日本を舞台にした大河ドラマだ。白村江の戦いで敗れた百済の王族の青年が,唐軍の将に狼の皮を被せられ異形の怪物と化し,人ならざる者を知覚する能力を得る。その後,倭国(日本)に渡った彼は,狼の姿をした「狗族」と呼ばれる産土神の娘「マリモ」と出会い,やがて愛し合うようになる。ある時,彼の顔に張り付いていた狼の皮が剥がれ,元の美しい顔を取り戻すが,マリモの姿も見えなくなってしまい,その存在すら忘れてしまう。しかし2人は21世紀の未来で再び狼の姿で出会い,永遠に結ばれる,という物語である。

『犬王』に戻ろう。物語最後の演目「竜中将」の舞を終えた犬王は,本来の顔を取り戻すことに成功する。すべての〈醜=異常〉は除かれ,〈美=正常〉が取り戻される。しかしその“美しい”身体は,余分な枝葉を剪定された『平家物語』の正本と同様,もっぱら足利義満という権力に仕えることになる。それは友有が求めた「有」のあり方とは異なるものだったはずだ。友有は幕府に逆らった廉で打首にされる刹那,再び友魚に名を戻し,犬王と訣別する。

しかし湯浅はここで話を終えなかった。 *4

犬王と友有は600年後の現代で再会する。バックには車のタイヤとアスファルトが擦れ合う静かな環境音が流れる。友有は子どもの頃の姿に戻っている。犬王もかつての〈異形=異能〉の姿をしている。2人は600年の歳月を経て出会いをやり直し,再び互いの「有」を認め合う。

どちらの作品も,異形=異能を得た主人公がやがてそれを手放し,それをきっかけに最愛の人/友と別れ,その後,長大な時を経て再び異形=異能の姿で最愛の人/友と再会する,というストーリー構造になっている。もちろん,湯浅が意識的に『火の鳥 太陽編』をオマージュしたとは考えにくい。しかし,異形=異能を肯定的に捉えたマンガ・アニメ作品は数多く作られてきたのであって,その系譜を辿る上でこの2作品の類似は無視できないものだろう。

『犬王』のラストシーンが示しているのは,〈異形=異能〉が克服されるべきものというよりは,回帰していくべきものとして価値を持つ,ということである。

この異形=異能の扱いについて,湯浅は次のように語っている。

犬王が「呪いが解けてよかったね」で話が終わるのは違うと思ったし,そういう話ではないと思っていて。そもそも,犬王は「普通の体」になることは特に望んでいない。ただ舞台に上がって,人前で踊ることが目的であって,その過程で呪いが解けていくだけなので。あとは何より,友魚と一緒にいることが大事。彼らが最も自分らしくあれたのはあの時代なので,最後に再会するときは,お互いに出会ったときの姿になるだろうと思ったんです。 *5

こうして,古川日出男×湯浅政明の紡いだ『犬王』という物語によって,蝿のように生きて死んでいった男たちの「有」が,輪廻にも似た時を超える“つながり”の中で,現代に語り継がれたのである。

『犬王』公式Twitterより引用 ©︎2021 “INU-OH” Film Partners

 

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作品データ

*リンクはWikipedia,@wiki,企業HPなど

【スタッフ】
原作:古川日出男/監督:湯浅政明/脚本:野木亜紀子/キャラクター原案:松本大洋/音楽:大友良英/総作画監督:亀田祥倫中野悟史/キャラクター設計:伊東伸高/演出山代風我/作画監督:榎本柊斗前場健次松竹徳幸向田隆福島敦子名倉靖博針金屋英郎増田敏彦伊東伸高/美術監督:中村豪希/色彩設計:小針裕子/撮影監督:関谷能弘/編集:廣瀬清志/音響監督:木村絵理子/音響効果:中野勝博/録音:今泉武/音響制作:東北新社/歴史監修:佐多芳彦/能楽監修:宮本圭造/能楽実演監修:亀井広忠/琵琶監修:後藤幸浩/アニメーション制作:サイエンスSARU

【キャスト】
犬王:アヴちゃん(女王蜂)/友魚:森山未來/友魚(少年):斎藤汰鷹/足利義満:柄本佑/定一:山本健翔/谷一:後藤幸浩/犬王の父:津田健次郎/友魚の父:松重豊

作品評価

キャラ モーション 美術・彩色 音響
5 5

5

4.5
CV ドラマ メッセージ 独自性

5

3 3.5 4
普遍性 考察 平均
4.5 4 4.4
・各項目は5点満点で0.5点刻みの配点。
・各項目の詳細についてはこちらを参照。

商品情報

 

*1:梶井基次郎『冬の蝿』(梶井基次郎『檸檬』,新潮文庫,1967年に所収),p.185。

*2:同上,p.199。

*3:『犬王』劇場プログラムより。

*4:上述したように,現代で犬王と友有が再会するシーンは原作にはない。

*5:『犬王』劇場プログラムより。

「Febri」がおもしろい!①

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「Febri」の記事がおもしろい。

当ブログの記事をお読みになる方には説明不要かもしれないが,「Febri」は2010年に一迅社より創刊され,当初は紙媒体の雑誌として刊行されていた。クリエーターのインタビューを中心に,原画や絵コンテの分析なども交えた意欲的な雑誌として評価も高かったが,2020年に紙媒体としては休刊し,現在ではWeb媒体のマガジンとして運営されている。

Web に移行してからの「Febri」は,紙媒体時ほど記事のバリエーションはないものの,各方面のクリエーターのインタビューや作品の特集記事などを矢継早に公開し,資料価値の高いメディアとしてこの分野でのプレゼンスを高めつつある。アニメ制作者にフォーカスした媒体としては,小黒祐一郎が編集長を務める「アニメスタイル」と双璧を成すと言ってもいいかもしれない。

今回の記事では,とりわけ興味深い6記事をピックアップして紹介しよう(以下,掲載順はランダム)。

 

雨宮哲(演出家/アニメーター)のインタビュー

Trigger所属の雨宮哲がただひたすら"『エヴァ』語り"をする記事。本人は『エヴァンゲリオン』がアニメ業界に入った理由ではないと述べているが,少なくともその熱量が『SSSS.GRIDMAN』(2018年)などに流れ込んでいることは間違いないだろう。『エヴァ』第拾話「マグマダイバー」のグロス受けに関するコメントなども面白い。

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花田十輝(脚本家)のインタビュー

花田十輝といえば,『宇宙よりも遠い場所』(2018年)など数々の傑作アニメの脚本を手掛けたことで知られる脚本家だ。その彼が,自身が影響を受けたという3作品についてコメントした記事である。『ガンバの冒険』(1975年)と『宇宙よりも遠い場所』,『戦闘メカ ザブングル』(1982年)と『ラブライブ!』(2013-2014年),『うる星やつら2 ビューティフル・ドリーマー』(1984年)と『けいおん!』(2009-2010年)との意外なつながりが面白い。

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岩浪美和(音響監督)のインタビュー

数々のアニメ作品の音響を手掛ける岩浪美和監督が,自信が携わった3作品を解説する連載記事。第1弾は岩浪の代表作である『ガールズ&パンツァー劇場版』(2015年)。「クソリアルではないリアル」な音作りをする岩浪の"ルーツ"を伺い知ることのできる良記事だ(第2弾と第3弾は本記事執筆時点で未公開)。

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西田亜沙子(アニメーター/キャラクターデザイナー)のインタビュー

『ラブライブ!』や『宝石の国』(2017年)などのキャラクターデザインを手がける西田亜沙子。「つねに『女の子を追求していたい』」と伸べる彼女が,荒木伸吾,いのまたむつみ,結城信輝,平松禎史との出会いから多くの刺激を受け,理想の「少女像」を更新していく様が語られる非常にスリリングな記事だ。『太陽の王子 ホルスの大冒険』(1968年)のヒルダを『魔法少女まどか⭐︎マギカ』(2011年)につながる「ダークヒロインの始祖」と見たり,高畑勲監督『かぐや姫の物語』(2013年)のかぐやを「ホルスに出会わなかったヒルダ」と分析したりするなど,作品論としてもたいへん興味深い記事だ。

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林明美(演出家/アニメーター)のインタビュー

『フルーツバスケット』(2001年)『同級生』(2016年)などのキャラクターデザインを手がける林明美。彼女も上掲の西田と同じく,荒木伸吾,いのまたむつみ,平松禎史の名前を挙げており,改めてこの三氏の影響力の強さが伺える。「レイアウトを意識するようになった」という『少女革命ウテナ』(1997年)に関するコメントもたいへん興味深い。

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吉成曜(監督/アニメーター)

『リトルウィッチアカデミア』(2017年)『BNA ビーエヌエー』(2020年)などの監督を務めたTriggerの吉成曜。このインタビュー記事では,兄・吉成鋼とのエピソードが端々に語られており,兄弟間の相互影響がこの2人のクリエーターを育てたということが伺える。アニメの観過ぎで両親からテレビを取り上げられたというエピソードも微笑ましい(2人にとっては死活問題だったろうが)。また『機動戦士ガンダム』(1979-1980年)と『母をたずねて三千里』(1976年)との共通点を指摘したコメントもたいへん興味深い。

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文字だけの読み物としても十分面白いのだが,欲を言えば,紙媒体時のように絵コンテや原画の解説などもあるとさらに読み応えのある記事になるだろう。おそらくWeb媒体としての制約などがあってなかなか難しいのだろうが,その辺りをなんとかクリアすれば,最強のアニメWebマガジンになるかもしれない。

今回は6つの記事を取り上げたが,「Febri」にはこれ以外にも興味深い記事がたくさんある。本記事を第1弾として,今後も折に触れて気になる記事を紹介していこうと思う。参考にしていただければ幸いである。

2022年 春アニメ 中間評価[おすすめアニメ]

*この記事にネタバレはありませんが,各作品の現時点までの話数の内容に言及しています。未見の作品を先入観なしで鑑賞されたい方は,作品を先にご覧になってから本記事をお読みください。

2022年春アニメもほぼすべての作品が折り返し地点に差しかかろうとしている(『攻殻機動隊 SAC_2045 持続可能戦争 シーズン2』は5月23日よりNetflixにて配信予定なので,本記事執筆時点では未配信。評価は後日変わる可能性がある)。今回の記事では,現時点までの当ブログ注目作品を五十音順に(ランキングではないことに注意)いくつか取り上げてみたい。

なお「2022年 春アニメは何を観る?」の記事でピックアップした作品は,タイトルを緑色にしてある。

www.otalog.jp

 

1. かぐや様は告らせたい-ウルトラロマンティック-

kaguya.love

パワフルな声優陣の演技,"見せる"エンディング・アニメーション,そして尖りに尖り切った演出。ますますグレードアップしていくアニメーションに,毎話驚かされっぱなしの作品である。直近の話数で言えば,#5のラップ回は近年のミュージカル系アニメの中でも群を抜いてシュールかつナンセンス。『かぐや様』という作品のポテンシャルを大いに感じさせる話数だった。これからの話数も楽しみだ。

 

2. 古見さんは,コミュ症です。2期

komisan-official.com

1期からまったくブレることもダレることもなく,安定したクオリティを保ち続けている驚異の秀作だ。2期では新たなキャラ・片居誠が登場し,古見さん,只野くんと絶妙な"三角関係"を構築。人間関係の幅が広がり,対話の面白さがいっそう増している。抱腹絶倒のギャグ連発というわけではないが,ほのぼの学園アニメをここまでのハイクオリティのアニメーションで観続けることができるというのは,それだけでも価値のあることだ。

 

3. サマータイムレンダ

summertime-anime.com

主人公がループを繰り返しながら世界を救うというプロットは,マンガ・アニメの世界ではもはや"古典芸"になっているわけだが,本作はとにかくアニメーション全般の水準が高く,視聴者を飽きさせるような"隙"が一切ない。ハイクオリティな作画と演出は,シリアスな内容との親和性も高く,原作の恐怖感や緊張感をきっちり伝えている。引きの作り方もうまい。制作陣に"うまい"アニメーターが揃っていることがはっきりとわかる作品だ。

 

4. SPY×FAMILY

spy-family.net

スラップスティック風のギャグ色が強い原作に対して,アニメはややシリアス寄りの演出になっているようだ。この辺りはやや好みが分かれるところかもしれないが,「子どもが泣かない世界を作る」というテーマを明確にした点は個人的に高評価だ。また,尺の調整の都合もあるかと思われるが,アニメオリジナルのシーンもよくできている。特に「MISSION:5 合否の行方」の「おしろ」のシーンのアニオリはきわめて質が高く見応え満点だった。声優陣のハマり具合も素晴らしく,特に種﨑敦美のアーニャ役は"絶品"だ。

www.otalog.jp

 

5. であいもん

deaimon.jp

京都の和菓子店を舞台とした素朴なストーリーだが,柔らかな雰囲気のアニメーションと吉田玲子の脚本が見事にマッチし,心温まるハートフルアニメに仕上がっている。"疑似家族"というモチーフは先述の『SPY×FAMILY』にも見られるが,家族というものの多様なあり方を示す設定として興味深い。いくつかの作品を比較してみるのも面白いだろう。

 

6. パリピ孔明

paripikoumei-anime.com

ノーマークだった作品だが,観てみるととてもよくできたアニメだ。タイトルから想像させるライトな印象とは裏腹に,アニメーションはきちんと作り込まれており,関口可奈味のキャラデザが映える。常に決め顔の孔明とクルクル表情が変化する英子のコンビネーションも楽しい。中毒性のあるOPのテーマ(QUEENDOMのカバーによる「チキチキバンバン」)とアニメーションはネットでも話題になった。

 

7. ヒーラー・ガール

healer-girl.jp

この作品も「歌とヒーリング」というテーマを敬遠してノーマークだったのだが,ミュージカル部分の演出がかなり作り込まれており,観れば観るほどその味がわかる秀作だ。特に第3話「お掃除,ラン・ラン・ラン」は,日常会話も含め,B パートのほぼすべてのセリフを脱力系ミュージカルにしたとてもユニークな演出だった。「ヒーラーガールズ」たちの演技と歌唱も魅力的だ。

 

以上「アニ録ブログ」が注目する2022年春アニメ7作品を挙げた。最終的なランキング記事は,全作品の放映終了後に掲載する予定である。