アニ録ブログ

あるオタクの思考と嗜好をキロクしたブログ。アニメとマンガを中心としたカルチャー雑記。

2022年 夏アニメランキング[おすすめアニメ]

*この記事にネタバレはありませんが,各作品の内容に部分的に言及しています。未見の作品を先入観なしで鑑賞されたい方は,作品を先にご覧になってから本記事をお読みください。

『メイドインアビス 烈日の黄金郷』第12話「黄金」より引用
©︎つくしあきひと・竹書房/メイドインアビス「烈日の黄金郷」製作委員会

秋が急激に深まる中,今年の夏アニメも最終話の放送がほぼ終了し,すでに秋アニメの放送が始まっている。ここで恒例通り,2022年夏アニメの中から特にレベルの高かった7作品をランキング形式で振り返っておこう。

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7位:『ちみも』

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カナヘイ原案によるかわいいキャラクターデザインうえのきみこのコメディ,そして監督ぴのあるとの柔らかな演出が見事にマッチした良作。丸みを帯びたキャラクターが細やかに動く様は,アニメーションの本来的な楽しさを伝えていた。惜しむらくは放送時間。夕方や日曜の朝など,キッズアニメの時間帯に放送した方が評価は高かったのではないだろうか。ともあれ,ロングラン作品として長く楽しめるポテンシャルを持った作品なので,続編をぜひ期待したいところだ。

 

6位:『組長娘と世話係』

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八重花(お嬢)と霧島が回を増すごとに絆を深めていく様子,そして2人がそれぞれに重要な変化を遂げていく姿が繊細に描かれていた。“幼女と野獣”というコンビは,それ自体としては珍しくはないが,丁寧な演出と細谷佳正と和多田美咲の抜群の演技力により,非常に魅力的な作品に仕上がっていたと言える。本作も続編が待ち望まれる。

 

5位:『シャインポスト』

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本記事執筆時点ではまだ最終話が放送されていないが,第11話の段階でランクインが妥当と判断した。当ブログでは当初注目していなかったのだが,各所での評価が高かったため試聴を始めたところ,その表現力の高さに驚かされた。特に歌唱シーンにおける表情やモーションの作り込みは,近年のアイドルアニメの中でも抜きん出てクオリティが高いと言える。グループアイドルが「絶対アイドル」としてのソロアイドル=偶像に憧れる,という構図もユニークだ。及川啓監督の代表作となることは間違いないだろう。

 

4位:『サマータイムレンダ』

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抜群の作画力読者の心をつかむ演出,そして的確な引きと,多くの点で高いクオリティを見せた秀作。途中の展開でややダレた感も否めないが,全25話をたっぷり使った構成は原作の魅力を不足なく伝えたと言える。特に最終話では,丸々1話を使って“勝利”の後の世界を描いていたのがよかった。話数の制約のせいで最終話近辺で走り気味になる近年の作品と比べ,余韻をたっぷり味わえる最終話になったことは評価に値するだろう。

 

3位:『よふかしのうた』

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サイバーパンクのような輝度の高い色彩によって,原作の「夜」の魅力を一味違う形で伝えたアニメ。アニメが色で伝える媒体であることを再認識させてくれる傑作だった。夜守コウ役の佐藤元と朝井アキラ役の花守ゆみりの落ち着いた演技と,七草ナズナ役の雨宮天のダミ声との相性も絶妙だった。この3人の奏でるハーモニーが,彼ら/彼女らの“友だち”とも“恋人”ともつかない距離感をうまく表現していた。エモいアニメとはこういう作品のことだろう。原作もまだ続いている作品だ。「探偵さん」の活躍を見届けるためにも,ぜひ続編を制作してもらいたい。

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2位:『リコリス・リコイル』

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錦木千束×井ノ上たきなのバディを中心としたキャラ(クター)の魅力に加え,第1話から最終話まで,一瞬たりとも視聴者を飽きさせない脚本力。おそらく近年のオリジナルアニメの中でも,最も大衆的な成功を収めた作品と言えるだろう。華やかなルックとは対照的に,後半の「人工心臓」をめぐる緊迫した物語が適度なシリアス味を加えつつ,最終話ではきっちりおどけてくるといった“オチ”も絶妙だった。過度な鬱展開をあえて避け,“ハッピーエンド”で終止符を打ったのも,制作者が現代の視聴者の感性を的確に捉えていた証拠だろう。SNSでの盛り上げ方も実にうまく,ネットでの考察祭りの規模で言えば,2011年の『魔法少女まどか☆マギカ』に匹敵するのではないだろうか。その意味でも稀有なオリジナルアニメとなったことは間違いない。

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1位:『メイドインアビス 烈日の黄金郷』

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「温かい闇」というヴエコの言葉がすべてを物語っていた『烈日の黄金郷』。これほど凄まじい「憧れ」と「絶望」を描き切ることができるアニメ制作環境は,おそらく日本以外ではあまり見られないだろう。特に第7話と第8話における「成れ果ての村」の呪われた成り立ち,および第10話から最終話までの,喰らわれつつ喰らい尽くすファプタの「烈日」の姿は,制作陣自身が「憧れ」という名の狂気に憑依されているのではないかと思わせる迫力だった。その一方で,第10話ではレグとファプタの〈涙〉のアニオリ演出で盛り上げるなど,エモーショナルな表現の繊細さも際立っていた。そして『烈日の黄金郷』で特筆すべきは,やはりファプタ≒イルミューイ役の久野美咲の演技だろう。イルミューイの苦悩とファプタの怨嗟を見事に演じ切った彼女は,文句なしに今年のMVPである。

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● その他の鑑賞済み作品(50音順)
『Engage Kiss』『RWBY』『ユーレイデコ』『シャドーハウス』『プリマドール』

 

以上,当ブログが注目した2022年夏アニメ7作品を挙げた。

実は1位の『メイドインアビス』と2位の『リコリス・リコイル』の順位は大いに悩んだ。中盤の話数まではほぼタイの評価をしており,最終的にはオリジナルである『リコリス・リコイル』に軍配が上がるだろうという心算だったのだが,上述の通り,『メイドインアビス』の第7話以降の演出が並外れてよかったために,最終的にこの順になった次第である。

次の秋クールは,当ブログが推すオリジナル作品は少ないが,続編や原作付き作品に期待大のものが多い。2022年秋アニメのおすすめに関しては以下の記事を参照頂きたい。

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TVアニメ『メイドインアビス 烈日の黄金郷』(2022年夏)レビュー[考察・感想]:「憧れ」ー禁忌と聖性の彼岸へー

*このレビューはネタバレを含みます。必ず作品本編をご覧になってからこの記事をお読みください。

『メイドインアビス 烈日の黄金郷』公式Twitterより引用
©︎つくしあきひと・竹書房/メイドインアビス「烈日の黄金郷」製作委員会

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つくしあきひと原作/小島正幸監督『メイドインアビス 烈日の黄金郷』(以下『黄金郷』)は,2017年夏に放送された第1期テレビアニメ,および2020年に公開された『劇場版メイドインアビス 深き魂の黎明』の続編であり,原作第6巻から10巻までの内容を基にしている。前作にも増して過酷さと残酷さを極める物語は,本作のライトモチーフである「憧れ」という価値が,常識的な善悪の価値とは無縁であることをはっきり示している。『メイドインアビス』という作品が類稀な“怪作”であることを改めて印象付けた作品となった。

 

あらすじ

深界五層で黎明卿ボンドルドと決着をつけたリコレグナナチの一行は,白笛となったプルシュカメイニャを連れ,深界六層「還らずの都」への「絶界行(ラストダイブ)」を敢行する。何者かの侵入によってプルシュカを奪われたリコたちは,やがて誘われるようにして「成れ果ての村」にたどり着く。そこは独自の「価値」のシステムが支配する,奇妙なコミュニティだった。はたしてこの村の成り立ちとは…

 

語る声=ミュトス:ヴエコ

ヴエコは語る。

第1話「羅針盤は闇を目指した」の冒頭は,「イルミューイ,私ね,あなたに出会うまで探してたものがあったの」というヴエコのモノローグから始まる。これを皮切りに,彼女はワズキャン率いる「ガンジャ隊」がアビスに到達するまでの経緯を静かに語り出す。

実はこの第1話冒頭のシークエンスは,原作の章立て順から改編されている。『黄金郷』は原作の第6巻から第10巻の内容に相当するが,「羅針盤は闇を目指した」は第8巻の冒頭部分であり,本来はリコが「ドグープ(目の奥)」でヴエコと出会った後に語られるエピソードである。アニメではこのエピソードを第1話の冒頭に置くことで,時系列を把握しやすくするだけでなく,『黄金郷』においてヴエコたち「ガンジャ隊」の物語が主旋律となることを告知している。

このことは,小出卓史が手がけたOPアニメーションの構成からもうかがえるだろう。

『メイドインアビス 烈日の黄金郷』ノンクレジットオープニング映像より引用
©︎つくしあきひと・竹書房/メイドインアビス「烈日の黄金郷」製作委員会

冒頭,カメラはヴエコとリコを真正面からアップで捉える。ここで早速,ヴエコ≒リコという等式が提示される。OPの前半では,上下や左右の画面分割によってガンジャ隊とリコさん隊が対比させられ,ガンジャ隊もかつてはリコさん隊と同じように希望に満ちた冒険者であったことが示される。

『メイドインアビス 烈日の黄金郷』ノンクレジットオープニング映像より引用
©︎つくしあきひと・竹書房/メイドインアビス「烈日の黄金郷」製作委員会

また,映像冒頭のリコの主観カットと最後のヴエコの主観カットも面白い。このカットの挿入により,物語全体がリコの視点とヴエコの視点に挟まれた“枠構造”を成しているかのような印象を与える。

さらに第1話Bパートでは,「絶界の祭壇」に飛び込むヴエコとリコのカットが重ね合わせられる。Bパートラストでは,「祭壇」から飛び出したリコたちを正面から捉えたカットに,ヴエコの「私たちはとうとう辿り着き,そして二度とそこから戻れなかった」というナレーションが添えられることで,ヴエコ≒リコの等式がいっそう補強される。

第1話「羅針盤は闇を目指した」より引用
©︎つくしあきひと・竹書房/メイドインアビス「烈日の黄金郷」製作委員会

かくして,ヴエコはリコたちの冒険=サイドAに重ね合わせるようにして,ガンジャ隊の冒険=サイドBを語り始める。彼女は終始,ガンジャ隊の運命を語る主体=ミュトスとしての役割を演じ,その散文詩のような静かな語りが『黄金郷』という物語の基調となって響き続ける。

とりわけ『黄金郷』の中でも際立って陰鬱な第7話「欲望の揺籃」第8話「願いの形」の回想は,もっぱらヴエコの視点から語られる。彼女のアルトの声は,不気味に未来を予言するワズキャンのバリトン,持ち前の理智で皆を導き諭すベラフのテノール,そしてケビン・ペンキンの美しい音楽と奇妙に調和しながら,「成れ果ての村」の呪われた成り立ちを語り始めるのだ。

 

聖体拝領,あるいは/そしてカニバリズム

はたして,ヴエコのミュトスが語り出したのは,見るも残酷な“聖餐”の儀式であった。

ここには〈食〉という行為にまつわる,本作の極めてユニークな感性が深く関わっている。周知の通り,『メイドインアビス』ではアビスの原生生物を素材にした食事シーンが多く描かれる。未知の領域の冒険となれば,当然,未知の素材の食事が必然となる。そこを捨象せず,丁寧に描いているのが本作の魅力の一つだ。

ところで食事シーンと言えば,それ自体が既に日本のマンガ・アニメの“伝統芸能”として確立されており,様々な作品中に頻繁に見られるモチーフだ。特に数々の珍味に挑む『メイドインアビス』の食事シーンは,野田サトル『ゴールデンカムイ』(2014-2022年)のそれとも似た原初的な貪欲を感じさせもする。過酷な世界の只中で,食われる前に食うという生存のあり方。両作品共に,グルメマンガにも引けを取らないほど豊かな食を描きながらも,綺麗事のレベルを超えた,生きること,生の渇望そのものの即物性に迫っていると言っていい。

したがって『黄金郷』で,〈食〉と対をなす〈排泄〉のシーン(それもリコの)が2度も描かれるのも偶然ではないかもしれない。繰り返すが,アビスでの食は“綺麗事”ではないのだ。生きるために不可欠な〈食〉には,それと等しく不可欠な〈排泄〉が必然的に伴う。これは『ゴールデンカムイ』にも共通することだ。原作第3巻にある二瓶鉄造のセリフを見てみよう。

勝負の果てに獣たちが俺の体を食い荒らし,糞となってバラ蒔かれ山の一部となる。理想的な最後だ。*1

このセリフは北海道の過酷な自然における生のあり方を説いたものだが,これは〈食う〉ことと〈食われる〉ことが間近に隣接した「アビス」の自然にもそっくりそのまま当てはまると言えるだろう。*2

左:第1話「羅針盤は闇を目指した」より引用 /右:第4話「友人」より引用
©︎つくしあきひと・竹書房/メイドインアビス「烈日の黄金郷」製作委員会

そして『黄金郷』という過酷な物語のユニークネスは,この〈生きるための食〉という,この上なく単純明快な一次的欲求の有り様を,こともあろうにカニバリズム的な儀礼にあっさりと接続してしまった点にある。

「欲望の揺籃」によって「子どもを産む」という欲望=願いを叶えたイルミューイは,かつて愛玩していた「ヤドネ」によく似た子どもを産むようになる。しかしその子どもには栄養摂取の器官が存在しないため,産まれてすぐに死んでしまう。この子どもを,かつて「あの子は必ず我々の救いになる」と予言したワズキャンが「ミズモドキ」に冒された隊員の治療のための“食材”にする。人の形をしていないとは言え,紛れもなく食人(カニバリズム)の所業である。

第7話「欲望の揺籃」より引用
©︎つくしあきひと・竹書房/メイドインアビス「烈日の黄金郷」製作委員会

イルミューイの子どもに栄養摂取の器官が備わっていなかったということは,〈食う/食われる〉という自然の摂理から排除されていたことを意味している。イルミューイの子らは,最初から一方的に食われる“贄”として存在してしまっていたのだ。それはかつてボンドルドによって“贄”にされたプルシュカの運命に匹敵するか,ともすればそれよりも遥かに苛酷なものかもしれない。ここにおいて,〈食〉という行為は自然界の摂理から逸脱した異常な様相を呈する。

第7話ラストでワズキャンがヴエコに言う「大丈夫,みんなにも振る舞ったさ!」というセリフがおぞましく響くのは,「振る舞う」という言い回しによって,彼が最初からイルミューイの子を贄として見ていたことをあからさまに示しているからである。この時のワズキャンを恐怖の目で見つめるヴエコの表情が印象的だ。

第7話「欲望の揺籃」より引用
©︎つくしあきひと・竹書房/メイドインアビス「烈日の黄金郷」製作委員会

第8話で,ワズキャンはヴエコの前で何の屈託もなくイルミューイの子を“調理”する。まるで日常的な料理シーンででもあるかのような軽やかなSEが却って恐怖を煽り立てる。かつこのシーンは,先行する第2話「還らずの都」における「ミゾウジャク」の調理と食事のシーンを否応なく想起させてしまう。〈生きるための日常的な食事〉と〈生きるための異常なカニバリズム〉が接続される。根源的タブーを敢えて表現するという,原作者つくしあきひとの度し難い意思を感じる描写であり,かつまたそれに真正面から向き合うアニメ班の気概を感じさせもする。

上:第2話「還らずの都」より引用/下:第8話「願いの形」より引用
©︎つくしあきひと・竹書房/メイドインアビス「烈日の黄金郷」製作委員会

さらに,このカニバリズム行為の中に宗教的な暗示がある点も見逃せない。

『メイドインアビス』の物語では,「アビス」という大穴が一種の信仰対象になっていることが早くから暗示されている。*3 そして第1話のヴエコのセリフによれば,ワズキャン率いるガンジャ隊は何らかの理由で故郷を追われ,「名もなき神」を求めてさすらう流浪の民であり,ユダヤの選民思想にも似た動機に突き動かされている。ワズキャン,べラフ,ヴエコを指す「三賢」という言葉も,一般的な意味での“三人の賢者”であると同時に,キリスト教における「東方の三賢者」を思わせる呼称だ。だとすれば,イルミューイの子の肉を喰らうことは,パンと葡萄酒=キリストの肉と血を食す宗教的なイニシエーションを暗示しているとも解釈できる。事実,第8話にはガンジャ隊の人々が子を産み落とすイルミューイに祈りを捧げているカットが挿入されている。

第8話「願いの形」より引用 ©︎つくしあきひと・竹書房/メイドインアビス「烈日の黄金郷」製作委員会

ところで極限状態におけるカニバリズムという行為は,それ自体としては,現実の歴史上もフィクション史上も,決して目新しいことではない。アステカ帝国の「人身御供」,テオドール・ジェリコーの絵画『メデューズ号の筏』(1818-1819年)のモチーフとなった「メデューズ号」の難破事件(1816年),マイケル・サンデルが『これからの「正義」の話をしよう』で言及したことでも知られる「ミニョネット号事件」(1884年)*4 など,事例には事欠かない。*5 また,太平洋戦争時,極度の飢餓状態に置かれた兵士の食人への渇望を描いた大岡昇平『野火』(1952年)などは,そうしたカニバリズムの文学的表象の一つである。

そしてこの種のカニバリズムにおいては,食べることの肯定的・生産的な側面と,否定的・破壊的な側面の二面性が必ずと言っていいほど問題となる。岡田温司『キリストの身体』によれば,ユダヤ=キリスト教の世界において,この両義性が象徴的な形で表れているのが「アダムとエヴァの原罪」と「聖体拝領」である。楽園に住むアダムとエヴァは,「知恵の実」を食べることで原罪を背負う。これを「中和化」するのが,聖体拝領だというのだ。

原罪における食事の負の遺産,これを中和化し償うというのが,まさしく聖体拝領,つまりキリストの身体を食べることのひとつの理由である。キリストの身体を食べることによって,アダムとエヴァが禁断の木の実を食べてしまったという罪が,ひとまず帳消しにされるのである。その意味で,原罪の食と聖体拝領の食とは,対照的で補完的な関係にある。*6

また岡田によれば,聖体拝領はコミュニティ維持の機能も担っていた。「同じパンとワインをともに食する聖体拝領は,共同体の構成員の結束を高め,さらに社会のヒエラルキーを強化する装置として機能することにもつながるのである」*7

予言者ワズキャンは,こうしたカニバリズムの〈悪徳の聖性〉に依拠しつつ,自分が導く民たちを救い,「成れ果ての村」という独自の「価値」システムが機能するコミュニティを築こうとしたのかもしれない。しかしベラフとヴエコは,むしろその〈聖性の悪徳〉に耐えることができなかったのである。

しかし『黄金郷』という物語には,そうした〈聖性/悪徳〉という道徳的価値をも喰らいつくし,焼き尽くす「烈日」が登場する。「果てぬ姫」ファプタである。

 

叫ぶ声=パトス:ファプタ

ファプタは叫ぶ。

ヴエコのアルトの物語り,ワズキャンのバリトンの予言,べラフのテノールの諭しを,イルミューイ=ファプタの叫ぶ声が劈く。パトス(情念)がミュトス(神話)を引き裂く。

ファプタはイルミューイの末の娘として(それはイルミューイ自身の生い立ちと同じだ),意味の分節のない叫びとともに生を受ける。彼女は叫びとともに破壊に明け暮れる。

第8話「願いの形」より引用
©︎つくしあきひと・竹書房/メイドインアビス「烈日の黄金郷」製作委員会

ファプタの誕生の叫びは,第7話におけるイルミューイの産みの叫びと同じく,周囲にいる者の心を大気ごと引き裂くかのようである。イルミューイとファプタの両方を久野美咲が演じたことの最大の意味がここにある。

第9話「帰還」で成れ果ての村への侵入をはたしたファプタは,呪詛の言葉を放った後,村の破壊と民の虐殺を始める。ファプタは聖体拝領によって維持されていた仮初めの秩序=村というコミュニティを破壊する。ファプタの破壊行為は,一見,成れ果ての住人たちのカニバリズムを道徳的に断罪しているように見える。しかしファプタ自身が,成れ果ての住人を喰らいつつ原生生物に喰われ,原生生物を喰らい返すために成れ果ての住人たちを喰らうという,カニバリズム的祝祭の渦中に身を委ねているのだ。彼女は,かつて栄養摂取器官を持たず,〈食う/食われる〉という摂理から除外されていた兄弟姉妹たちに代わって,自ら〈食う/食われる〉の中に身を投じている。それは禁忌(悪)を断罪した(聖)というよりは,悪を遥かに凌駕する情念で悪を喰らい尽くそうとした,と言う方が正しいかもしれない。

左:第10話「拾うものすべて」より引用/中・右:第11話「価値」より引用
©︎つくしあきひと・竹書房/メイドインアビス「烈日の黄金郷」製作委員会

そして成れ果てたちの身体とその想いを喰らったファプタは,やがて母を解放するという「役目」のその先に,新たな「価値」を見出す。

今も役目が突き動かしてくる。こいつらを滅ぼし,母を解放せよと。だが…この熱は,この火の色はなんだ…!この役目の先に何が隠れているというのだ…!そこに『価値』があるというのか。*8

〈食う/食われる〉という自然の摂理,“善悪の彼岸”に身を投じながら,身体すら相対的な「価値」として流通させるコミュニティのシステムを無効化し,相対的な価値やシステム内道徳の〈外部〉へと至ろうとする。ファプタは,「宿命の終わりに…君の価値を君自身で決める時がくる」というベラフの思いに呼応するように,成れ果てを滅ぼすという「役目」の“彼岸”,つまり「憧れ」という絶対的な「価値」を己自身の中に見出そうとする。彼女は成れ果てたちを喰らうことで,その想いである「憧れ」をも喰らい,己の身に引き受ける。

あこがれをいだいたおろかものども。ファプタは母の代弁者であり,おまえたちだ。進むべき道を闇に見て,ここまで来たおろかものだ。ファプタは…!おろかものでよいそす!役目を果たし…ファプタは行く!この火はファプタ自身がくべた!止められるのなら!止めてみるそす!!*9
もちろん,この絶対的な「価値」=「憧れ」は,リコの「憧れ」でもある。第12話「黄金」で,ワズキャンに「ここに来れてよかったかい?」と聞かれ,満面の笑みで「めちゃくちゃ!!来てよかった!!」と答えるリコは,ワズキャンの所業,成れ果ての村の呪われた成り立ち,そしてその結末のすべてを知った上で,その先にある「憧れ」の価値を全肯定している。

アビスの底には,地上の人間の尺度で測られる“善と悪”はもはや存在しない。万人に共通する“教訓”の類もない。個々のキャラクターが,己が信ずる道を突き進む多声的な物語があるだけだ。しかしだからこそ,個々のキャラクターの心情と信念に寄り添った深い物語が可能となるのだろう。そしてそのポリフォニックな声,価値観,物語がより合わさること(ワズキャンの言葉を借りれば「積み重ね」)によって,やがて大穴の障壁を突破しうる「憧れ」へと結実していくのだろう。

現実の僕らも,多かれ少なかれ,コミュニティやシステムの外部にある何らかの価値に憧れている。他者の判断の目に晒されることのない,絶対的に私的な価値に憧れている(そう言えばファプタは「目が多いのすかんそす…」と言っていた)。しかし,僕らは実際にコミュニティやシステムの外部に生きることは叶わない。だからこそ,その「欲望」の成就を『メイドインアビス』のような可能世界に求めようとするのだろう。それは今ここにある現実そのものではないが,決して不可能な現実でもないのかもしれない。ひとまずは,ファプタたちに僕らの「憧れ」を仮託しておこう。

最後に,本作の語り部ヴエコのモノローグでこの記事を締めくくりたい。

二度とは戻らない望郷の彼方ー真の闇の中に,誰にも見つけられなかった光は,確かにあった。でもそれを手にするのは,誰でもない。あなたから生まれた黄金は,価値というくびきから解き放たれて,いま旅立とうとしている。愛こそが呪いだと知っているのに,行く末には闇しかないと知っているのに。だからだろう。だからあんなにも眩しいのだ。*10

 

 

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作品データ

*リンクはWikipedia,@wiki,企業HPなど

【スタッフ】
原作:つくしあきひと/監督:小島正幸/副監督:垪和等/シリーズ構成・脚本:倉田英之/キャラクターデザイン:黄瀬和哉Production I.G),黒田結花/デザインリーダー:高倉武史/プロップデザイン:沙倉拓実/美術監督:増山修関口輝インスパイアード/色彩設計:山下宮緒/撮影監督:江間常高T2 studio/編集:黒澤雅之/音響監督:山田陽/音響効果:野口透/音楽:Kevin Penkin/音楽プロデューサー:飯島弘光/音楽制作:IRMA LA DOUCE/音楽制作協力:KADOKAWA/アニメーション制作:キネマシトラス

【キャスト】
リコ:
富田美憂/レグ:伊瀬茉莉也/ナナチ:井澤詩織/メイニャ:原奈津子/ファプタ:久野美咲/ヴエコ:寺崎裕香/ワズキャン:平田広明/ベラフ:斎賀みつき/マジカジャ:後藤ヒロキ/マアアさん:市ノ瀬加那/ムーギィ:斉藤貴美子/ガブールン:竹内良太/プルシュカ:水瀬いのり/ボンドルド:森川智之

 

作品評価

キャラ

モーション 美術・彩色 音響
5 5

5

5
CV ドラマ メッセージ 独自性

5

4 4 5
普遍性 考察 平均
4.5 4.5 4.7
・各項目は5点満点で0.5点刻みの配点。
・各項目の詳細についてはこちらを参照。

 

商品情報

*1:野田聡サトル『ゴールデンカムイ』3巻(電子版),p.166,集英社,2015年。

*2:『メイドインアビス』と『ゴールデンカムイ』は,食,排泄,味覚,嗅覚など,一次的欲求や身体的感覚の描写において共通点が多い。〈過酷な自然環境における冒険〉という物語が要請するモチーフ群と言えるだろうか。物語の類型分析の事例として興味深い。

*3:例えば原作第3巻p.128のナナチによる「アビス信仰」の説明など。

*4:Sandel, Michael J.: JUSTICE What's the Right Thing to Do?, Farrar, Straus and Giroux. (マイケル・サンデル(鬼澤忍訳)『これからの「正義」の話をしよう』,pp.44-47,早川書房,2010年。)

*5:カニバリズムに関しては,以下の書籍などを参照。
- Sanday, Peggy Reeves: DiVine Hunger: Cannibalism as a Cultural System, Cambridge University Press, 1986. (ペギー・リーヴズ・サンディ(中山元訳)『聖なる飢餓:カニバリズムの文化人類学』,青弓社,1995年。)
- Monestier, Martin:    Cannibales histoire et bizarreries de l'anthropophagie hier et aujourd'hui, le Cherche midi éd., 2000.(マルタン・モネスティエ(大塚宏子訳)『図説 食人全書 普及版』,原書房,2015年。)
- 中野美代子『カニバリズム論』,ちくま学芸文庫,2017年。
- 橋本一径編『〈他者〉としてのカニバリズム』,水声者,2019年。

*6:岡田温司『キリストの身体』,p.62,中公新書,2009年。

*7:同上,p.83。

*8:第11話「価値」より。

*9:同上。

*10:第12話「黄金」より。

『メイドインアビス 烈日の黄金郷』ファプタ〈キャラ(クター)〉考察

*この記事はネタバレを含みます。

『メイドインアビス 烈日の黄金郷』公式HPより引用 ©︎つくしあきひと・竹書房/メイドインアビス「烈日の黄金郷」製作委員会

終盤の話数に入り,ますます苛烈さを極めていく『メイドインアビス 烈日の黄金郷』。この最終局面で,完全に主役を食う大立ち回りを演じているのが「成れ果ての姫」ファプタである。今回の記事では,この類まれな〈キャラ(クター)〉の魅力を分析してみよう。ポイントは久野美咲の演技である。

なお,本記事における〈キャラ〉〈キャラクター〉という用語に関しては,以下の記事を参照頂きたい。

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〈キャラ〉としてのファプタ

幼女と魔獣

ファプタの造形の基本は幼い少女だ。可愛らしさとしての〈幼女性〉をベースとして,耳や尻尾など,つくしあきひと特有のケモノ要素が加味されている。その意味では,ナナチと同じ"ケモノ系成れ果て"なのだが,ナナチがぬいぐるみのように愛くるしい姿であるのに対し,ファプタは4本の腕,鋭い鉤爪,頭部の3つのギザ歯,頭部の赤いツノなど,どちらかと言えば〈魔獣〉としての要素が強い。いくつかの房に分かれて広がる尻尾から,「九尾の狐」のような妖怪を連想する人もいるだろう。

第4話「友人」より引用 ©︎つくしあきひと・竹書房/メイドインアビス「烈日の黄金郷」製作委員会

幼女=可愛らしさと魔獣=恐ろしさの共存。聖と邪,狂気と正気、光と闇など、常に相対立するものを同居させることが多い本作ならではのキャラと言える。ナナチとは違った魅力を持つキャラとしてファンも多く,「〜そす」という独特の言い回しから,「そす子」の愛称で呼ばれることもある。今後,フィギュア等での商品展開が積極的になされていくことが予想される。すでに製作が発表されている商品もいくつかある。

 

久野美咲:幼女と魔獣のアマルガム

この幼女×魔獣としてのファプタのキャラに命を吹き込んだのが,久野美咲の卓越した声の演技だ。久野と言えば,どちらと言うと"可愛い幼女ボイス"というイメージが強い。しかし実際には彼女の演技の幅はとても広く,ファプタの〈幼女〉面はもちろんのこと,ふだんはあまり聞かない低めの声によって,その〈魔獣〉の面も見事にこなしている。そして後述する第9話において,久野の〈魔獣〉キャラの演技〈怨嗟〉というキャラクターの演技に転じていく様は,『烈日の黄金郷』においてもっとも見応えのあるシーンと言っても過言ではない。

 

〈キャラクター〉としてのファプタ

久野美咲:イルミューイの遺伝子

ファプタの造形は,"母"であるイルミューイの褐色の肌や無垢な少女性,「子どもを産みたい」という強い願望,そしてそれを利用し命を搾取した者たちへの"呪い"を受け継いでいる。アニメ版ではイルミューイとファプタをともに久野美咲が演じることにより,その"意志の継承"が原作よりも前面に押し出されているのが大きなポイントだ。

上:第11話「価値」より引用/下:第10話「拾うものすべて」より引用
©︎つくしあきひと・竹書房/メイドインアビス「烈日の黄金郷」製作委員会

ファプタはイルミューイの意志を継ぎ,彼女の産んだ子を食らった成れ果ての住民を恨み,彼らを殲滅して母を解放したいと願っている。というよりも呪っている。ファプタのキャラクターは,「成れ果ての村」の成立と崩壊を語った『烈日の黄金郷』という物語そのものなのだ。したがって久野のダブルロール・キャスティングは,単に"親子だから同じ声優にした"という以上に,物語と分かち難く結びついた深い演出上の効果を持っている。例えば,第8話「願いの形」でファプタが産まれた直後,成れ果ての者たちを虐殺するシーンのつんざくような叫び声は,第7話「欲望の揺籃」におけるイルミューイの出産時の声を即座に連想させる。

左:第7話「欲望の揺籃」より引用/中・右:第8話「願いの形」より引用
©︎つくしあきひと・竹書房/メイドインアビス「烈日の黄金郷」製作委員会

イルミューイの産みの苦しみと,この世に生を受けたばかりのファプタの怨念とを接続した見事な演出だ。そしてこの壮絶な場面のディレクションに応えた久野の力量にも感服する。ちなみに久野は,同クールで放送されている足立慎吾監督『リコリス・リコイル』にも出演しており,"見た目は幼女だが中身は大人"というねじれた役どころを見事に演じている。今期は,久野美咲という役者の存在感を見せつけられたクールでもある。

 

久野美咲:怨嗟の声

ファプタという〈キャラ〉を形成していた久野の演技が,文字通り〈キャラクター=物語〉へと一気に転じるのが,第9話「帰還」における〈怨嗟〉のシーンである。

レグの火葬砲が開けた穴から成れ果ての村=母の胎内へと入ったファプタは,自分を熱狂的に見つめる成れ果てたちに向かってこう語りかける。

お前たちを 許さぬ
兄弟を…ファプタを…旨そうに睨め回したお前たちの目を許さぬ
お前たちの口を
母と同じ言葉を使い 祈りを吐く
その口を許さぬ
お前たちの姿を許さぬ
我が身可愛さに母を冒涜し続けた
お前たちの その存え続けた命を許さぬ
お前たちの意思を許さぬ
喜びも 悲しみも 営みも断じて継がせはしない
塵芥の一つに至るまで
お前たちの存在を決して許さぬ
すべて 忘れぬために生まれた
この日を この時を どれほど待ちわびたか
覚悟する間も許さぬ
根絶やしにしてくれる

第9話「帰還」より引用
©︎つくしあきひと・竹書房/メイドインアビス「烈日の黄金郷」製作委員会

怨念の塊を詩にしたようなこのセリフを,久野はふだんの演技からは想像もつかないような低ピッチの声で演じている。この声は,ファプタの〈魔獣〉のキャラというよりは,イルミューイから継いだ〈呪いという物語〉のキャラクターから導き出された声ではないだろうか。放送後,久野はTwitterで次のように発言している。

母を想い,成れ果てたちを呪い,身を焼き尽くしながら破壊する。そんなファプタのキャラクターを久野は類稀な演技力で演じきっている。

言うまでもないことだが,マンガやラノベ原作のアニメの〈キャラ(クター)〉の造形において,声優の演技の貢献度はとても大きい。『烈日の黄金郷』キャスティングは,単に“イメージ通り”というだけでなく,原作勢を含めた視聴者をよい意味で裏切ってくる点が面白い。その意味では,今回紹介した久野美咲のファプタ以外にも,平田広明の「ワズキャン」寺崎裕香の「ヴエコ」後藤ヒロキの「マジカジャ」市ノ瀬加那の「マアアさん」などもとても面白い〈キャラ(クター)〉だ。彼ら/彼女らの活躍を最後まで見届けよう。

 

 

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作品データ

*リンクはWikipedia,@wiki,企業HPなど

【スタッフ】
原作:つくしあきひと/監督:小島正幸/副監督:垪和等/シリーズ構成・脚本:倉田英之/キャラクターデザイン:黄瀬和哉Production I.G),黒田結花/デザインリーダー:高倉武史/プロップデザイン:沙倉拓実/美術監督:増山修関口輝インスパイアード/色彩設計:山下宮緒/撮影監督:江間常高T2 studio/編集:黒澤雅之/音響監督:山田陽/音響効果:野口透/音楽:Kevin Penkin/音楽プロデューサー:飯島弘光/音楽制作:IRMA LA DOUCE/音楽制作協力:KADOKAWA/アニメーション制作:キネマシトラス

【キャスト】
リコ:
富田美憂/レグ:伊瀬茉莉也/ナナチ:井澤詩織/メイニャ:原奈津子/ファプタ:久野美咲/ヴエコ:寺崎裕香/ワズキャン:平田広明/ベラフ:斎賀みつき/マジカジャ:後藤ヒロキ/マアアさん:市ノ瀬加那/ムーギィ:斉藤貴美子/ガブールン:竹内良太/プルシュカ:水瀬いのり/ボンドルド:森川

 

商品情報

 

2022年 秋アニメは何を観る?来期おすすめアニメの紹介 ~2022年夏アニメを振返りながら~

『モブサイコ100 Ⅲ』公式Twitterより引用 ©︎ONE・小学館/「モブサイコ100 Ⅲ」製作委員会

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2022年 夏アニメ振返り

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今クールは,何と言っても『メイドインアビス』『リコリス・リコイル』が他作品を圧倒している。

『メイドインアビス』は,前作にも増して過酷な主人公たちの運命を的確にアニメートし,原作の魅力を存分に引き出している。本作のアニメ班の力量の高さを改めて認識させられる。またファプタ役の久野美咲は,これまでの"幼女ボイス担当"という印象を覆すほどの骨太な演技を披露している。残酷なシーンも容赦なく描き切る本作は,優しい世界が描かれることの多い昨今のアニメシーンにおいて異彩を放っている。

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『リコリス・リコイル』は,既存ファンのないオリジナルアニメでありながら,魅力的なキャラクターと練り込まれた物語によって多くのアニメファンを惹きつける傑作だ。これほど多くの視聴者が考察祭りをしながらネットを賑わせる作品も久しぶりなのではないか。

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以上の2作品については,優れた演出が多く見られたため,各話演出に関するレビューをそれぞれ2つ掲載した。当ブログでは作品全体のレビューをメインとしているので,これは異例のことである。

『よふかしのうた』も挙げておこう。「夜は楽しい」という作品のテーマをわかりやすく視覚化した色彩設計は,本作に原作マンガとは一味違った魅力を加味している。長く続いて欲しいシリーズである。

この他にも『サマータイムレンダ』『シャインポスト』『ちみも』などの優れた作品がある。2022年夏アニメの最終的なランキングは,全作品の最終話放送終了後に掲載する予定である。

*『異世界おじさん』は夏アニメとして扱うこととする。以下参照。

 

では2022年秋アニメのラインナップの中から,五十音順に注目作をピックアップしていこう。各作品タイトルの下に最新PVなどのリンクを貼ってあるので,ぜひご覧になりながら本記事をお読みいただきたい。なお,オリジナルアニメ(マンガ,ラノベ,ゲーム等の原作がない作品)のタイトルの末尾には「(オリジナル)」と付記してある。

 

① 『アキバ冥途戦争』(オリジナル)


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【スタッフ】
原作:ケダモノランド経営戦略室/監督:増井壮一/シリーズ構成:比企能博/キャラクターデザイン・総作画監督:仁井学/美術監督:本田こうへい/美術設定:伊良波理沙/色彩設計:中野尚美/プロップ設定:入江健司鍋田香代子/撮影監督:石黒瑠美/3D監督:小川耕平/特殊効果:村上正博/編集:髙橋歩/音楽:池頼広/音楽制作:Cygames/音響監督:飯田里樹/音響効果:中野勝博/音響制作:dugout/アニメーション制作:P.A.WORKS

【キャスト】
和平なごみ:近藤玲奈/万年嵐子:佐藤利奈/ゆめち:田中美海/しぃぽん:黒沢ともよ/店長:高垣彩陽/御徒町:???

【コメント】
P.A.恒例の”お仕事シリーズ”
…なのだが,今回は世紀末のアキバのメイドカフェを舞台とした,コミカル要素の多い作品のようである。公式HPは雑多なフォントと色彩で設計されており,PVからはピー音が何度か聞こえてくる。前回のお仕事アニメ『白い砂のアクアトープ』とは真逆の雰囲気と言えるだろうか。監督は,同じP.A.のお仕事アニメ『サクラクエスト』(2017年春・夏)などを手がけた増井壮一が務める。

 

② 『異世界おじさん』

*本作は本来夏クールの放送だったが,新型コロナウイルス感染拡大により10月からの放送に延期されたため,秋アニメとして扱うこととする。以下は「2022 夏アニメは何を観る?」の記事と同内容。


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【スタッフ】
原作:殆ど死んでいる/監督:河合滋樹/シリーズ構成・脚本:猪原健太/キャラクターデザイン:大田和寛/音楽:末廣健一郎/アニメーション制作:Atelier Pontdarc

【キャスト】
おじさん:子安武人/たかふみ:福山潤/藤宮:小松未可子/エルフ:戸松遥/メイベル:悠木碧/アリシア:豊崎愛生/エドガー:鈴村健一/ライガ:岡本信彦/沢江:金元寿子

【コメント】
これは期待を込めて。昨今,”異世界転生モノ”もあの手この手で新しい設定を創作しようとしているが,本作は「異世界から帰還したおじさんと甥のたかふみが,おじさんの魔法の力を利用してYouTuberになる」という,文字通り“型破り”の異世界コメディだ。『幼女戦記』(2017年)などで知られる猪原健太がシリーズ構成を務める。またキャストが異様に豪華なのも注目ポイントだ。

 

③ 『うる星やつら』


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【スタッフ】
原作:高橋留美子/監督:髙橋秀弥木村泰大/シリーズディレクター:亀井隆広/シリーズ構成:柿原優子/キャラクターデザイン:浅野直之/サブキャラクターデザイン:高村和宏みき尾/メカニックデザイン:JNTHED曽野由大/プロップデザイン:ヒラタリョウ/美術設定:青木薫/美術監督:野村正信/色彩設計:中村絢郁/CGディレクター:大島寛治/撮影監督:長田雄一郎/編集:廣瀬清志/音楽:横山克/音響監督:岩浪美和アニメーション制作:david production

【キャスト】
あたる:神谷浩史/ラム:上坂すみれ/しのぶ:内田真礼/面堂終太郎:宮野真守/錯乱坊:高木渉/サクラ:沢城みゆき/ラン:花澤香菜/レイ:小西克幸/おユキ:早見沙織/弁天:石上静香/クラマ姫:水樹奈々

【コメント】
言わずと知れたラブコメマンガの巨匠,高橋留美子の同名マンガの再アニメ化。原作から厳選したエピソードを計4クールで放送予定。監督は『ジョジョの奇妙な冒険 4th Season 黄金の風』(2018年秋-2019年春)の髙橋秀弥木村泰大が再びタッグを組む。神谷浩史と上坂すみれを始めとした新キャストの演技も見どころだ。「小学館創業100周年」「ノイタミナ枠」「4クール放送」と,スペシャル感をたっぷりまとった期待作である。果たして往年のファンの厳しい目を満足させられる作品となるか。

 

④ 『永久少年 Eternal Boys』(オリジナル)


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【スタッフ】
原作:満福芸能プロダクション/監督:migmi/シリーズ構成:うえのきみこ/キャラクター原案:ma2/キャラクターデザイン:朝井聖子/音響監督:田中亮/音楽:橋本由香利/アニメーション制作:ライデンフィルム

【キャスト】
真⽥健太郎:平川大輔/⽯⽥直樹:小西克幸/浅井悠:福山潤/今川剛:浪川大輔/⼭中⼤輔:森川智之/柿崎誠:佐々木望/満田福子:野一祐子/ぺぺちゃん:千菅春香/宇喜多蓮:花守ゆみり/ニコライ朝倉:東地宏樹/爽田佐和緒:森久保祥太郎/藍染悦郎:寺島拓篤/井伊蓮司:笠間淳/葉小坂初:KENN/吾妻創輝:小林千晃/小鳥遊賢人:仲村宗悟/小田桐信長:河本啓佑/神楽坂咲楽:堀江瞬/東十条知架:石谷春貴/リン・ジュンジェ:ランズベリー・アーサー

【コメント】
人生崖っぷちに立たされた6人の「アラフォーのおっさん」がアイドルを目指すという,新機軸のアイドルアニメ。PVを観ると,「アラフォー」というより「アラサー」のようなキャラデザだが,”アニメの主役としての中年”ということでは,この辺りが落としどころなのだろうか。アニメにおける”おっさん表象”の一例として興味深いかもしれない。シリーズ構成をうえのきみこが担当するのもポイント。

 

⑤ 『機動戦士ガンダム 水星の魔女』


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【スタッフ】
企画・制作:サンライズ/監督:⼩林寛/シリーズ構成・脚本:⼤河内⼀楼/原作:矢立肇富野由悠季/キャラクターデザイン原案:モグモ/キャラクターデザイン:田頭真理恵戸井田珠里高谷浩利/メカニカルデザイン:JNTHED海老川兼武稲田航形部一平寺岡賢司柳瀬敬之/チーフメカアニメーター:久壽米木信弥鈴木勘太前田清明/副監督:安藤良/設定考証:白土晴一/SF考証:高島雄哉/メカニカルコーディネーター:関西リョウジ/設定協力:HISADAKE/プロップデザイン:絵を描くPETERえすてぃお/コンセプトアート:林絢雯/テクニカルディレクター:宮原洋平/美術デザイン:岡田有章森岡賢一金平和茂玉盛順一朗上津康義/美術監督:佐藤歩/色彩設計:菊地和子/3DCGディレクター:宮風慎一/モニターグラフィックス:関香織/撮影監督:小寺翔太/編集:重村建吾/音響監督:明田川仁/音楽:大間々昂

【キャスト】
スレッタ・マーキュリー:市ノ瀬加那/ミオリネ・レンブラン:Lynn/グエル・ジェターク:阿座上洋平/エラン・ケレス:花江夏樹/シャディク・ゼネリ:古川慎/ニカ・ナナウラ:宮本侑芽/チュアチュリー・パンランチ:富田美憂

【コメント】
『鉄血のオルフェンズ』以来7年ぶりとなるガンダムシリーズ新作アニメ。最大のポイントは,TVシリーズとして初の女性主人公である点だろう。PVを観ると,キャラクターデザイン,メカニカルデザイン,背景美術など,あらゆる点でクオリティが高いことが伺える。OPテーマのYOASOBI「祝福」も作品のテイストにマッチしている。今期もっとも期待される作品の1つとなるだろう。監督は『キズナイーバー』(2016年春)や『ひそねとまそたん』(2018年春)などの小林寛。9月25日(日)17:00より前日譚「PROLOGUE」の放送が予定されている。

 

⑥ 『ゴールデンカムイ』 第四期


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【スタッフ】
原作:野田サトル/チーフディレクター:すがはらしずたか/シリーズ構成:高木登/キャラクターデザイン:山川拓己/美術監督:古賀徹/色彩設計:福田由布子/撮影監督:織田頼信/編集:池田康隆/音響監督:明田川仁/音響制作:マジックカプセル/アイヌ語監修:中川裕/ロシア語監修:Eugenio Uzhinin/音楽:末廣健一郎/アニメーション制作:ブレインズ・ベース/製作ゴールデンカムイ:製作委員会

【キャスト】
杉元佐一:小林親弘/アシㇼパ:白石晴香/白石由竹:伊藤健太郎/鶴見中尉:大塚芳忠/土方歳三:中田譲治/尾形百之助:津田健次郎/谷垣源次郎:細谷佳正/牛山辰馬:乃村健次/永倉新八:菅生隆之/二階堂浩平:杉田智和/宇佐美上等兵:松岡禎丞/月島軍曹:竹本英史/鯉登少尉:小西克幸

【コメント】
野田サトル
の同名マンガが原作。2022年4月に原作が完結している。イラストや関連資料などを展示した「ゴールデンカムイ展」が異例の大盛況となるなど,今もっとも注目される作品の1つだ。それだけにアニメにも期待が高まるが,第四期では,監督がこれまでの難波日登志からすがはらたかし(チーフディレクター)へ,制作がジェノスタジオからブレインズ・ベースへと変更され,各スタッフにも大幅な異同が見られる。とは言え,制作陣の変化が必ずしも作品の出来栄えに大きく影響するとは限らない。この超傑作歴史冒険物語に大いに期待しよう。

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⑦ 『サイバーパンク エッジランナーズ』(オリジナル)


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【スタッフ】
ストーリー原案:CD PROJEKT RED/監督:今石洋之/副監督:大塚雅彦宇佐義大/脚本:大塚雅彦/キャラクターデザイン:吉成曜金子雄人/クリエイティブディレクター:若林広海/シリーズ構成:宇佐義大/劇伴制作:山岡晃/アニメーション制作:TRIGGER

【キャスト】
デイビット:KENN/ルーシー:悠木碧/メイン:東地宏樹/ドリオ:鷄冠井美智子/キーウィ:本田貴子/ピラル:高木渉/レベッカ:黒沢ともよ

【コメント】
ポーランドのゲーム会社CD PROJEKT REDのゲーム『サイバーパンク2077』を原案とするオリジナルアニメ。何と言っても注目は,監督・今石洋之脚本・大塚雅彦キャラクターデザイン・吉成曜と,TRIGGER精鋭のスタッフが揃っている点だ。TRIGGER作品はもともと海外での人気も高く,今回は特にNetflix配信ということもあり,完全に海外ファン志向なのかと思いきや,TRIGGERからは「日本語での演技やキャラクター間のやり取りを前提としてアニメを作り、それを世界向けにローカライズして欲しい」(GAME Watch 「サイバーパンク エッジランナーズ」プロデューサーインタビュー)との要望があったらしい。TRIGGERのその意気込みはPVからもよくわかる。昨今言われる,"日本のアニメらしさを海外に発信する"ということの1つの解が得られる作品となるかもしれない。配信は2022年9月13日より開始されている。

 

⑧ 『SPY×FAMILY』 第2クール

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【スタッフ】
原作:遠藤達哉/監督:古橋一浩/キャラクターデザイン:嶋田和晃/総作画監督:嶋田和晃浅野恭司助監督:片桐崇高橋謙仁原田孝宏/色彩設計:橋本賢/美術設定:谷内優穂杉本智美金平和茂/美術監督:永井一男薄井久代/3DCG監督:今垣佳奈/撮影監督:伏原あかね/副撮影監督:佐久間悠也/編集:齋藤朱里/音楽プロデュース:(K)NoW_NAME/音響監督:はたしょう二/音響効果:出雲範子/制作:WIT STUDIO×CloverWorks

【キャスト】
ロイド・フォージャー:江口拓也/アーニャ・フォージャー:種﨑敦美/ヨル・フォージャー:早見沙織/フランキー・フランクリン:吉野裕行/シルヴィア・シャーウッド:甲斐田裕子/ヘンリー・ヘンダーソン:山路和弘/ユーリ・ブライア:小野賢章/ダミアン・デズモンド:藤原夏海/ベッキー・ブラックベル:加藤英美里/エミール・エルマン:佐藤はな/ユーイン・エッジバーグ:岡村明香/ビル・ワトキンス:安元洋貴/カミラ:庄司宇芽香/ミリー:石見舞菜香/シャロン:熊谷海麗/ドミニク:梶川翔平/〈WISE〉局長:大塚明夫/〈ガーデン〉店長:諏訪部順一/ナレーション:松田健一郎

【コメント】
2022年春に放送された第1クールの続編。多くを語る必要はないだろう。第1クールの出来栄えは申し分なく,当初の期待を遥に上回る秀作となった。今後長く楽しめるシリーズとなることは間違いない。

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⑨ 『TIGER & BUNNY 2』 Part2(オリジナル)


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【スタッフ】
企画・原作・制作:BN Pictures/監督:加瀬充子/シリーズ構成・脚本 ・ストーリーディレクター:西田征史/キャラクターデザイン・ヒーローデザイン:桂正和/アクションディレクター:中島大輔/アニメーションキャラクターデザイン:板垣徳宏,山本美佳,立花希望/デザインワークス:小曽根正美/ビジュアルデザイン:川井康弘/メカデザイン:安藤賢/タイトルロゴデザイン:海野大輔/色彩設計:永井留美子,柴田亜紀子/美術デザイン:兒玉陽平,宮本崇/美術監督:東潤一/CG制作:サンライズ Digital Creation Studio/撮影監督:後藤春陽,田中唯/編集:長坂智樹/音楽:池頼広/音響監督:木村絵理子/音響効果:倉橋裕宗/選曲:合田麻衣子/録音:太田泰明/音響制作:東北新社/製作:BN PicturesBANDAI NAMCO Arts

【キャスト】
鏑木・T・虎徹/ワイルドタイガー:平田 広明/バーナビー・ブルックス Jr.:森田成一/カリーナ・ライル/ブルーローズ:寿美菜子/アントニオ・ロペス/ロックバイソン:楠大典/キース・グッドマン/スカイハイ:井上剛/ホァン・パオリン/ドラゴンキッド:伊瀬茉莉也/イワン・カレリン/折紙サイクロン:岡本信彦/ネイサン・シーモア/ファイヤーエンブレム:津田健次郎/トーマス・トーラス/ヒーイズトーマス:島﨑信長/仙石昴/Mr. ブラック:千葉翔也/ラーラ・チャイコスカヤ/マジカルキャット:楠木ともり

【コメント】
4月に配信された『TIGER & BUNNY 2』の続編。Netflix配信限定のためか,ネット上ではなかなか盛り上がりにくいが,TVシリーズ(2011年春・夏)からのファンにとっては見逃すわけにいかない作品だ。果たして,犯罪組織「ウロボロス」の秘密は明らかになるのか。パート2は2022年10月7日より配信開始予定。

 

⑩ 『チェンソーマン』


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【スタッフ】
原作:藤本タツキ/監督:中山竜/脚本:瀬古浩司/キャラクターデザイン:杉山和隆/アクションディレクター:吉原達矢/チーフ演出:中園真登/悪魔デザイン:押山清高/美術監督:竹田悠介/色彩設計:中野尚美/画面設計:宮原洋平/音楽:牛尾憲輔/アニメーションプロデューサー:瀬下恵介/制作:MAPPA

【キャスト】
デンジ:戸谷菊之介/マキマ:楠木ともり/早川アキ:坂田将吾/パワー:ファイルーズあい

【コメント】

藤本タツキの同名の超人気マンガが原作。今やufotableと並び,アニメ業界の中で高いプレゼンスを示しているMAPPAの制作とあり,発表当時から大きな注目を集めている。最近では制作会社が製作委員会に参加し,出資の一部を担うケースも増えているが,『チェンソーマン』においてMAPPAはさらにその先に進み,100%自社による出資による制作体制をとる。作品そのものの面白さは既に確約されており,それだけでも観る価値はあるが,今後のアニメ制作会社のあり方を占う作品としても注目したい。

 

⑪ 『ヒューマンバグ大学 -不死学部不幸学科-』


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【スタッフ】
監督・キャラクターデザイン:西山司/シリーズ構成:中島直俊/制作スタジオ:DLE/音響監督:大室正勝/音楽:山下康介/OPアーティスト:ナノ/EDアーティスト:Lowland Jazz

【キャスト】
佐竹博文:杉田智和/根岸千恵:小倉唯/鬼頭丈二:高橋広樹/伊集院茂夫:子安武人/ジャック:斉藤壮馬/教授:宇垣秀成/下田正:内田雄馬/流川隆雄:鈴木崚汰/伍代:緑川光

【コメント】
平山勝雄が運営するYouTubeチャンネル「ヒューマンバグ大学 闇の漫画」内の「佐竹博文の数奇な人生」をベースとするアニメ。YouTubeの漫画動画がベースとあり,中割り数を切り詰めた昔のリミテッド・アニメのような印象だが,これももちろん意図的な演出だろう。原作付きアニメとしては異色の出自なだけに,注目してみたい作品である。

 

⑫ 『不滅のあなたへ Season2』


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【スタッフ】
原作:⼤今良時/監督:佐山聖子/シリーズ構成:藤田伸三/キャラクターデザイン:薮野浩二/音楽:川﨑龍/音響監督:高寺たけし/アニメーション制作:ドライブ/制作:NHKエンタープライズ/制作・著作:NHK

【キャスト】
フシ:川島零士/観察者:津田健次郎/ヒサメ:楠木ともり/カハク:斎賀みつき/ボンシェン・ニコリ・ラ・テイスティピーチ=ウラリス:子安武人

【コメント】

大今良時の同名マンガを原作とするアニメ。2021年に放送された第1シリーズの続編である。本作も,監督がむらた雅彦から佐山聖子へ,制作がプレインズ・ベースからドライブへと変更されている。Season 2では時が進み,登場人物も増えて物語の様相がこれまでとは違ったものに変化していく。いわゆる"超展開"のように進みゆく物語を新制作陣はどう料理するか。

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⑬ 『ぼっち・ざ・ろっく!』


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【スタッフ】
原作:はまじあき/監督:斎藤圭一郎/シリーズ構成・脚本:吉田恵里香/キャラクターデザイン・総作画監督:けろりら/副監督:山本ゆうすけ/ライブディレクター:川上雄介/ライブアニメーター:伊藤優希/プロップデザイン:永木歩実/2Dワークス:梅木葵/色彩設計:横田明日香/美術監督:守安靖尚/美術設定:taracod/撮影監督:金森つばさ/CGディレクター:宮地克明/ライブCGディレクター:内田博明/編集:平木大輔/音楽:菊谷知樹/音響監督:藤田亜紀子/音響効果:八十正太/制作:CloverWorks

【キャスト】
後藤ひとり:青山吉能/伊地知虹夏:鈴代紗弓/山田リョウ:水野朔/喜多郁代:長谷川育美

【コメント】
はまじあきの同名マンガを原作とする,「きらら枠」アニメ。女子高生のロック・バンドという設定で言えば,否応でもかきふらい原作/山田尚子監督の『けいおん!』(2009年春)を思い出してしまうわけだが,舞台や主人公たちのキャラは当然異なる。それでもやはり比較はされるだろうが,むしろ比較することで楽しみが得られるということもあるだろう。10余年の時を経て,"ガールズバンド"の表象はどう変化したか。そんな視点で観てみるのも面白いかもしれない。

 

⑭ 『モブサイコ 100 Ⅲ』


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mobpsycho100.com

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【スタッフ】
原作:ONE/総監督:立川譲/監督:蓮井隆弘/シリーズ構成:瀬古浩司/キャラクターデザイン:亀田祥倫/美術監督:河野羚/色彩設計:中山しほ子/撮影監督:古本真由子/編集:廣瀬清志/音響監督:若林和弘/音響効果:倉橋静男緒方康恭/音楽:川井憲次/アニメーション制作:ボンズ

【キャスト】
影山茂夫:伊藤節生/霊幻新隆:櫻井孝宏/エクボ:大塚明夫/影山律:入野自由/花沢輝気:松岡禎丞/芹沢:星野貴紀/暗田トメ:種﨑敦美/ツボミ:佐武宇綺/米里イチ:嶋村侑郷田武蔵:関俊彦/鬼瓦天牙:細谷佳正

【コメント】
ONE
の同名コミックを原作とするTVアニメシリーズ待望の続編。原作の魅力を増幅させる大胆な色彩設計キャストの魅力的な演技,そしてアニメーターの手つきが見える制作体制など,アニメ化による付加価値の大きい本作。「いい奴」たちの本気のぶつかり合いを最後まで見届けようではないか。

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⑮ 『ヤマノススメ Next Summit』


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【スタッフ】
原作:しろ/監督:山本裕介/キャラクターデザイン・総作画監督:松尾祐輔/美術監督:宮越歩/色彩設計:藤木由香里/撮影監督:佐藤洋/編集:内田恵/サウンドデザイン:出雲範子/音楽:yamazo/アニメーション制作:エイトビット

【キャスト】
あおい:井口裕香/ひなた:阿澄佳奈/かえで:日笠陽子/ここな:小倉唯/ほのか:東山奈央/小春:岩井映美里

【コメント】
しろによる同名マンガのアニメ。2018年夏に放送されたサードシーズンの続編である。ファーストシーズンは5分枠,セカンドシーズンとサードシーズンは15分枠,そして今回の「Next Summit」は30分枠と,シーズンを経るごとに枠が"昇格"している。確かな評価を受けている証拠だろう。

 

2022年秋アニメのイチオシは…

2022年秋アニメの期待作として,今回は15作品をピックアップした。今回は原作アニメ化作品(特にシリーズ続編)の中に期待作が多く,ふだんよりも多めのセレクトとなった。オリジナル推しの当ブログとしては,オリジナル作品が少ないのが少々寂しいが,今クールは原作付きに期待することとしよう。

というわけで,今回のイチオシは,以前当ブログでも高く評価した『モブサイコ100』シリーズの続編『モブサイコ100 Ⅲ』を挙げる。原作(すでに完結)の評価も定まっており,アニメ前2作の評判もすこぶる良好なだけに,ファンの設定するハードルはこの上なく高いに違いない。アニメ班のお手並み拝見といきたい。 

次点として『機動戦士ガンダム 水星の魔女』『ゴールデンカムイ 第4期』『チェンソーマン』『サイバーパンクエンジランナーズ』『異世界おじさん』を挙げておく。

以上,2022年秋アニメ視聴の参考にして頂ければ幸いである。

TVアニメ『メイドインアビス 烈日の黄金郷』(2022年夏)第10話「拾うものすべて」の演出について[考察・感想]

 *この記事は『メイドインアビス 烈日の黄金郷』第10話「拾うものすべて」のネタバレを含みます。

第7話「欲望の揺籃」より引用 ©︎つくしあきひと・竹書房/メイドインアビス「烈日の黄金郷」製作委員会

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つくしあきひと原作/小島正幸監督『メイドインアビス 烈日の黄金郷』各話レビュー第2弾として,今回は第10話「拾うものすべて」を取り上げてみたい。ミーティに二度目の別れを告げるナナチ,過去の記憶を失ったままファプタの暴走を止めようとするレグ,レグを過去へと連れ戻そうとするファプタ。この三者に共通するのが,〈涙〉の演出である。

当然のことだが,涙のような流体表現は,マンガよりもアニメの方が絵として映える。マンガ原作アニメにおいて,涙の表現はその媒体としてのアドバンテージを明確に示すことのできる要素だと言える。これを『メイドインアビス』アニメ班はどう料理したか。詳しく見ていこう。

 

ナナチの涙

まずはアバンで描かれるナナチの涙から見てみよう。

複製されたミーティへの愛着に抗えず,べラフの元で微睡んでいたナナチは,ファプタ帰還の騒動によって目を覚まし,「成れ果ての村」を去る決意をする。村の境界線を越えるとミーティが消えてしまうことをべラフに告げられながらも,ナナチは自らの「あこがれ」を追い求めることを選択する。

第7話「欲望の揺籃」より引用 ©︎つくしあきひと・竹書房/メイドインアビス「烈日の黄金郷」製作委員会

消失していくミーティに語りかけながら,ナナチは大粒の涙を流して泣きじゃくる。その姿は,レグの「火葬砲」の助けを借りてミーティを葬った,第1期13話「挑む者たち」のシーンを否応なく想起させる。

第1期第13話「挑む者たち」より引用 ©︎2017 つくしあきひと・竹書房/メイドインアビス製作委員会

ナナチは二度,ミーティを失い,二度,涙を流す。まったくもって度し難い運命である。しかし今回の涙が前回と違うのは,ナナチがミーティへの"葬い"の儀式を他者(レグ)に委ねず,自らの手で行った点だ。

「あこがれも,けがれも,喜びも,悲しみも,私は捨ててしまった」と独白するべラフは,先に進むことなく,成れ果ての村に停滞しながらやがて滅んでいくだろう。そんなべラフとは対照的に,ナナチは「あこがれ」という価値を「拾い」,追い求めていくことを主体的に選ぶ。その代償としてナナチはミーティを失い,涙を流すのである。それと同じ涙を,べラフの空虚な目はもはや流すことができない。ナナチの涙は,ナナチが選んだ「価値」の象徴なのかもしれない

こうして第10話アバンは,この話数が〈涙の物語〉であることを告知しているのだ。

 

ファプタの涙,レグの涙

第10話の演出でもっとも注目すべきは,ファプタとレグの格闘シーンで描かれる二度の落涙である。

一度目は,現在のシーンから過去の回想シーンに切り替わるタイミングだ。

ファプタ VS レグの格闘ーそれはさながら元恋人同士の"修羅場"のようでもあるーにおいて,ファプタは「レグが何をすべきなのか,叩いてでも思い出させてやるそす」と言いながら涙を流す。涙滴が美しく舞い落ちる刹那,ファプタとレグの回想シーンが挿入される。

第7話「欲望の揺籃」より引用 ©︎つくしあきひと・竹書房/メイドインアビス「烈日の黄金郷」製作委員会

現在のファプタが流した涙滴が,過去のファプタが流した涙滴に入れ替わり,リュウサザイとの戦いで故障したカブールンの身体の上に落ちる。その後,ファプタとレグの最初の出会いが語られる。フラッシュバックを涙の同一性でつないだ美しい演出だ。
この回想シーンから明らかになるのは,ファプタがレグに対してほとんど愛情に近い感情を抱いていた(そして今も抱いている)という事実だ。この当時の2人は,恋人同士のような距離感で描かれている。レグがファプタに「友好のしるし」を差し出す様は,まるで彼女に下着をプレゼントする彼氏のようで微笑ましい。

第7話「欲望の揺籃」より引用 ©︎つくしあきひと・竹書房/メイドインアビス「烈日の黄金郷」製作委員会

その後,レグは地上への旅に出るべく,ファプタに一時の別れを告げる。この時のファプタのセリフは胸に迫るものがある。

ファプタは…姫なので…レグ…もどってきたら…ずっと一緒にいて…それで…それで…こどもも…

彼女は,母であるイルミューイの「子どもを産みたい」という願望を確かに継いでいたのだ。それをレグとの間で成就しようとしていたファプタは,レグと生涯添い遂げる未来を思い描いていたに違いない。つまりファプタのレグに対する思いには,イルミューイの願いも含まれている。それをレグが忘れたとすれば,地獄のような"修羅場"がもたらされるのも宜なるかなである。

 

二度目の涙は,回想シーンから現在のシーンに戻るタイミングだ。

レグが旅立った後のファプタが,レグの思い出として作った石の人形を噛みながら,失意のうちに涙を流す。

第7話「欲望の揺籃」より引用 ©︎つくしあきひと・竹書房/メイドインアビス「烈日の黄金郷」製作委員会

過去のファプタの目から落ちた涙滴は,現在のファプタの頬に落ちる。しかし実はその涙は,ファプタを組敷くレグが流したものだった。ファプタとレグの涙を入れ替えることで,交わりながらもすれ違う2人の心情を描いた見事な演出だ。

 

この2つの涙のシーンは,どちらも落涙のアニメーションの美しさを活かした,たいへん優れた演出である。淡白で機械的なフラッシュバックにせず,落涙という情緒的な視覚効果を用いることで,ファプタとレグの関係をエモーショナルに増幅している。このような演出があるからこそ,ファプタとレグの"ロマンス"としての関係性がいっそう際立ち,"殺したいほどアイ・ラブ・ユー"ばりのファプタの狂気と殺意も痛いほどに伝わる

第7話「欲望の揺籃」より引用 ©︎つくしあきひと・竹書房/メイドインアビス「烈日の黄金郷」製作委員会

ラストシーンでレグがファプタを組敷くカットでは,レグが腕をファプタの身体に巻きつかせ,手で頭を押さえつけている。まるでレディースコミックの"濡れ場",あるいは“姫”を手籠めにしようとする“王子”のような構図だ。しかし2人の目にはやはり涙が浮かんでいる。ファプタが「レグはやさしいそすな…」と呟く。その直後,舞い散る緑の葉と転がるレグのヘルメットのスローモーション,そしてファプタの「だが…」というセリフによる“タメ”を挟んだ後,ファプタがレグに襲いかかり,2人の立場は完全に逆転する。ファプタが「だが…おろかそす…」と呟き,画面が暗転する。この一連のシーンのタイミングが実に美しい。

 

さて,レグ王子はこの"修羅場"を切り抜け,ファプタ姫の暴虐を止めることができるのだろうか。物語は佳境に入っている。

 

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作品データ

*リンクはWikipedia,@wiki,企業HPなど

【スタッフ】
原作:つくしあきひと/監督:小島正幸/副監督:垪和等/シリーズ構成・脚本:倉田英之/キャラクターデザイン:黄瀬和哉Production I.G),黒田結花/デザインリーダー:高倉武史/プロップデザイン:沙倉拓実/美術監督:増山修関口輝インスパイアード/色彩設計:山下宮緒/撮影監督:江間常高T2 studio/編集:黒澤雅之/音響監督:山田陽/音響効果:野口透/音楽:Kevin Penkin/音楽プロデューサー:飯島弘光/音楽制作:IRMA LA DOUCE/音楽制作協力:KADOKAWA/アニメーション制作:キネマシトラス

【キャスト】
リコ:
富田美憂/レグ:伊瀬茉莉也/ナナチ:井澤詩織/メイニャ:原奈津子/ファプタ:久野美咲/ヴエコ:寺崎裕香/ワズキャン:平田広明/ベラフ:斎賀みつき/マジカジャ:後藤ヒロキ/マアアさん:市ノ瀬加那/ムーギィ:斉藤貴美子/ガブールン:竹内良太/プルシュカ:水瀬いのり/ボンドルド:森川智之

【第10話スタッフ】
脚本:
倉田英之/絵コンテ・演出:小出卓史/作画監督:阿部島瑠珠崎本さゆり谷紫織黒田結花

 

商品情報

 

「メイドインアビス展〜挑む者たちの軌跡〜」レポート[感想]:主線と一次的欲求が紡ぐ物語

*このレポートにはネタバレはありませんが,『メイドインアビス』の内容に関する言及があります。先入観のない状態で鑑賞されたい方は,作品を先にご覧になってから本記事をお読みください。

『メイドインアビス』公式Twitterより引用 ©︎つくしあきひと・竹書房/メイドインアビス「烈日の黄金郷」製作委員会

art.parco.jp

現在放送中のつくしあきひと原作/小島正幸監督『メイドインアビス 烈日の黄金郷』。前作に引き続き,原作の過酷な描写を誠実に映像化するアニメスタッフの力量が高く評価されており,2022年夏クールの中でも大きな話題となっている作品の1つだ。「メイドインアビス展〜挑む者たちの軌跡〜」は,そんな『メイドインアビス』の魅力を原画資料やフォトスポットを楽しみながら振り返る展示会である。

 

展示会データ

*チケットやグッズ等については東京会場のもの

【会場・会期】
【東京】PARCO FACTORY(池袋PARCO本館7F):2022年9月2日(金)~9月19日(月)
【名古屋】PARCO GALLERY(名古屋PARCO西館6F):2022年10月1日(土)~10月16日(日)

【チケット】
日時指定制。【前売券】一般:1,200円(税込)ワンポイントナナチ音声ガイド付き:1,700円(税込)【当日券】一般:1,300円(税込)ワンポイントナナチ音声ガイド付き:1,800円(税込)。詳しくはこちら

【グッズ】
図録の販売なし。アクリルスタンド,クリアファイル,タペストリー,マグカップ,アートボード等の販売あり。詳しくはこちら

【その他】
1期と劇場版のセクションではほぼすべての資料が写真撮影可(映像等は撮影不可)。2期(『烈日の黄金郷』のセクションはパネル展示物以外は撮影不可)。「ワンポイントナナチ音声ガイド」あり(利用する場合はスマホとイヤフォンを持参)。鑑賞所要時間の目安は1時間程度。

 

TVアニメ『メイドインアビス』データ

つくしあきひとの同名マンガを原作とするTVシリーズアニメ。「アビス」と呼ばれる巨大な穴に挑む,リコ・レグ・ナナチらの過酷な冒険を描く。丸みを帯びた可愛らしいキャラクターの造形とは裏腹に,アビスの「呪い」がもたらす壮絶な運命が容赦なく描写されており,近年の冒険アニメの中でも独自の存在感を放つ"怪作"である。特に小島正幸率いるアニメスタッフは,原作の持ち味を遺憾なく表現しており,その力量は高く評価されている。2017年夏に第1期がTV放送され,その後,2019年の劇場版総集編と『劇場版メイドインアビス 深き魂の黎明』を経て,現在第3期がTV放送中である。

【スタッフ】
原作:つくしあきひと/監督:小島正幸/副監督:垪和等/シリーズ構成・脚本:倉田英之/キャラクターデザイン:黄瀬和哉(Production I.G)黒田結花/デザインリーダー:高倉武史/プロップデザイン:沙倉拓実/美術監督:増山修関口輝(インスパイアード)/色彩設計:山下宮緒/撮影監督:江間常高(T2 studio)/編集:黒澤雅之/音響監督:山田陽/音響効果:野口透/音楽:Kevin Penkin/音楽プロデューサー:飯島弘光/音楽制作:IRMA LA DOUCE/音楽制作協力:KADOKAWA/アニメーション制作:キネマシトラス

【キャスト】
リコ:富田美憂/レグ:伊瀬茉莉也/ナナチ:井澤詩織/メイニャ:原奈津子/ファプタ:久野美咲/ヴエコ:寺崎裕香/ワズキャン:平田広明/ベラフ:斎賀みつき/マジカジャ:後藤ヒロキ/マアアさん:市ノ瀬加那/ムーギィ:斉藤貴美子/ガブールン:竹内良太/プルシュカ:水瀬いのり/ボンドルド:森川智之

 

展示構成

第1期,劇場版,第2期の順に展示が構成されており,各コーナーに原画,設定資料,映像,フォトスポットなどが展示されている。「ワンポイントナナチ音声ガイド」は必須ではないが,アビスの雰囲気を楽しむためにも利用をおすすめする。

 

丸みのあるキャラクター:主線が紡ぐ物語

「メイドインアビス展」で特に注目してもらいたいのは,原画資料,しかもその"主線"だ。

『メイドインアビス』のキャラクターは,とにかく丸っこい。一部の大人を除けば,ほぼすべてのキャラクターの輪郭は餅のように柔らかでシンプルなタッチの曲線で描かれている。

京都アニメーションのアニメーターとして活躍した故・木上益治(三好一郎)は,『パジャのスタジオ』(2017年)の制作について,「丸みのあるキャラクター」の難しさを次のように説いている。

当社のスタッフが,バジャのような線数が少なくて丸みのあるキャラクターを描き慣れていないこともあってか,「みんな,苦労しているな」と感じる部分はありました。[…]情報量が少ないキャラクターを描くには,その本質をつかむまでにとても時間がかかるんです。かなり描き込まないと,キャラクターの描き方が見えてきません。*1

「バジャ」や『メイドインアビス』のようなシンプルで丸みのあるキャラクターは,一見,子どもでも描けそうに思えてしまう。しかしシンプルで線数が少なければ,それだけ"ごまかし"が通用しない。丸みのあるなめらかな主線は,油断すると簡単に破綻してしまうだろう。ましてアニメーションとなると,原画と原画の間に中割りを挟むことになるため,わずかなずれがキャラクターの雰囲気を損なう可能性もある。

おそらくリコやレグたちのもちもちした輪郭線には,アニメーターたちの並外れた力量が注ぎ込まれている。色などの情報が付加される前の,線のみで描かれた原画は,そうした制作者たちの手腕をはっきり確認できる格好の資料なのだ。

そして,丸みのあるキャラクターだからこそ,彼ら/彼女らが経験する運命の過酷さ・残酷さが際立つ。『メイドインアビス』という作品は,柔らかい曲線の流れを真っ直ぐな太刀で断ち切るかのような,残忍な「呪い」に満ち溢れている。僕らは,そんな呪いをものともせず,「憧れ」に向かって進み続けるリコたちの姿に感銘を受けるのだ。丸みのあるキャラクターが勝つ。そんな物語を再確認するためにも,ぜひ原画の"主線"に注目してもらいたい。

 

一次的欲求:コラボカフェのススメ

『メイドインアビス』と言えば食事シーンだ。一次欲求を誠実に描くからこそ,「憧れ」という高次の願望が輝く。野田サトル原作の『ゴールデンカムイ』もそうだが,これらの作品のでは食事シーンと物語とが不可分なのだ。

実は,僕はふだんアニメ関連の展示会のコラボカフェを訪れることがほとんどない。単純に待ち時間がもったいないからだ。だが今回の展示では,上で述べたような事情から,時間をとってカフェのメニューをいくつか楽しんでみることにした。

注文したのは「成れ果て食堂限定商品(アラビアータ)〜リコ玉孵り焼き付き〜」「マアアさんのパフェ」「ファプタのクランベリーカルピス」の3つ。

「アラビアータ」はあの「睾丸焼き」をイメージした商品。クレープの皮のようなものを破るとアラビアータが見えてくる。「リコ玉孵り焼き」はタコザンギ。「マアアさんのパフェ」はマアアさん形状のアイスが乗ったごく普通のパフェだが,このマアアさんがすこぶる可愛い。どちらも味は…おそらくコラボカフェのメニューのアベレージといったところだろうか。意外と普通に美味しかったのが「ファプタのクランベリーカルピス」だった。

これ以外にも「クべキャサス(ほうれん草のカレー)」や「水もどきソーダ」など試したいものがたくさんあったのだが,さすがに胃袋にきつい。マフィア梶田さんは全メニューを注文したというから恐れ入る。

最後にちょっとしたサプライズが。カフェを出て会計を済ませようと並んでいると,なんとマジカジャ役の後藤ヒロキさんがやってきて,そそくさと店のポスターにサインを書いて帰って行ったのだ。これにはかなり驚いた。そして後でTwitterの投稿を見てみると,後藤さんも全メニューを頼んだらしい…

 

胃袋に自信のある猛者には,ぜひアビスメニューを制覇してもらいたい。

 

さて,放送中の『烈日の黄金郷』も終盤を迎え,物語も佳境に入っている。「成れ果て村」における,丸みのあるキャラクターたちの運命はどう締めくくられるか。最後まで見届けよう。

 

 

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*1:「私たちの,いま!2019」(『私たちは,いま!!全集2019』,京都アニメーション,2020年に所収),p.139。

TVアニメ『リコリス・リコイル』(2022年夏)第9話「What's done is done」の演出について[考察・感想]

 *この記事は『リコリス・リコイル』「#9 What's done is done」のネタバレを含みます。

「#9 What's done is done」より引用 ©︎Spider Lily/アニプレックス・ABCアニメーション・BS11

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足立慎吾監督『リコリス・リコイル』の各話レビュー第2弾として,今回は「#9 What's done is done」を取り上げてみたい。総作画監督の山本由美子以下,作画班の技術が遺憾なく発揮された美麗な作画,丸山裕介副監督の卓越した演出,主人公・錦木千束のキャラ(クター)を的確に表現した各種シーンなど,語りがいのある名話数である。

 

美麗なる作画

千束の「余命2ヶ月」が告知され,最終話に向けて物語が加速し出した第9話。ここぞとばかりにスタッフ最大出力の作画・演出力が発揮された話数だった。特に作画に関しては,山本由美子が総作監を自ら買って出たということもあり,相当に気合の入った仕事が見られた。

「#9 What's done is done」より引用 ©︎Spider Lily/アニプレックス・ABCアニメーション・BS11

どのカットを切り取っても,アニメ誌のピンナップとして成立しそうなほど美麗な作画だ。近年,作画面で"うまい"と思わせるアニメは少なくないが,なかでもこの話数の作画レベルは段違いに高い。

「#9 What's done is done」より引用 ©︎Spider Lily/アニプレックス・ABCアニメーション・BS11

ミカを目の前にして頬を赤らめるフキや,フキに引きずられてパフェを惜しみながら去るサクラなど,サブキャラクターの作画も細部の描線まで生き生きと描かれている。すべてのキャラクターに愛情が注がれていることがよくわかる作画だ。

そし何よりこの話数では,たきなの作画と演出が光っている。特に千束の余命を知った後のたきなの芝居は細部まで作り込まれており,何度観ても飽きることがない。

「#9 What's done is done」より引用 ©︎Spider Lily/アニプレックス・ABCアニメーション・BS11

リコリコでの仕事中に千束と目が合うが,気まずさを抑えきれず目を逸らしてしまい,無言で立ち去る。この一連のシーンの目線の芝居,フォーカスの処理,カメラの切り替えなど,実に丁寧に作られている。

「#9 What's done is done」より引用 ©︎Spider Lily/アニプレックス・ABCアニメーション・BS11

たきながミカとクルミの話を立ち聞きした後,DAに戻る決意をするカット。前髪から落ちる雨滴が一瞬放つ光は,彼女の静かな決意を象徴的に表している。前髪の房の僅かな動きも丁寧に作画されており,ささやかだが印象に残る効果的な映像アクセントだ。

「#9 What's done is done」より引用 ©︎Spider Lily/アニプレックス・ABCアニメーション・BS11

ラストシーンで千束からマフラーを巻いてもらうたきな。長い黒髪がいくつもの房に分かれ,マフラーの内側へとカーブする様が美しく描かれている。一種の"マフラー女子あるある"の図だが,ここまで丁寧に作画されているとこれだけで"絵"として成立してしまう。

この話数は,総作画監督に山本由美子,作画監督に小松沙奈森田莉奈戸髙真希と,女性スタッフの割合が高い(原画と第二原画の女性比率も高い)ことも特記しておこう。全体として作画面に女性らしい細やかさが反映されている印象がある(女性スタッフを多く起用した幾原邦彦監督『輪るピングドラム』(2011年)なども想起させる)。*1

 

〈聖母〉の抱擁:千束とシンジのディスコミュニケーション

そして第9話で特筆すべきは,あらゆる命を守ろうとする千束の〈聖性〉が改めて強調された点だ。

「#9 What's done is done」より引用 ©︎Spider Lily/アニプレックス・ABCアニメーション・BS11

千束の人工心臓を破壊した姫蒲を殺害しようと飛び出すたきな。それを「いいのよ」と母のように優しく宥めて止める千束。夕暮れの光を背後に浴びながら穏やかに微笑む千束の姿は,ある種の神々しさを放っているとすら言える。

そして千束とシンジの初対面シーンは,この話数のクライマックスでもある。病院の中を車椅子で走り回る千束は,そこにたまたま居合わせたシンジを見かける。千束は持ち前の聡い観察眼で,彼が自分に人工心臓を授けてくれた人物であることを悟る。

「#9 What's done is done」より引用 ©︎Spider Lily/アニプレックス・ABCアニメーション・BS11

暗殺者としての千束を生かすべく「救世主」を自称するシンジと,自分の命を救ってくれたことに感謝しつつ,自らも「救世主」になることを誓う千束。この時,シンジの脳裏にあるのは"殺すこと"であり,千束の思いは"生かすこと"である。この「皮肉」(クルミの言葉)なディスコミュニケーションの中で,千束は徐ら車椅子から立ち上がり,シンジを優しく抱きしめる。幼い子どもが大の男を抱擁するというこのシーンは,たとえどんな相手であっても命を奪わない,という千束の〈聖性〉をよく表しており,「#2 The more the merrier」で敵の男を手当てをしたシーンを想起させる。

「#2 The more the merrier」より引用 ©︎Spider Lily/アニプレックス・ABCアニメーション・BS11

「救世主」という言葉を敢えて誤用したシンジと,それを正しく誤解した千束。はたして10年前の千束の抱擁の温もりは,今もシンジの心に残っているのだろうか。

 

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作品データ

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【スタッフ】
原作:Spider Lily/監督:足立慎吾/ストーリー原案:アサウラ/キャラクターデザイン:いみぎむる/副監督:丸山裕介/サブキャラクターデザイン:山本由美子/総作画監督:山本由美子鈴木豪竹内由香里晶貴孝二/銃器・アクション監修:沢田犬二/プロップデザイン:朱原デーナ/美術監督:岡本穂高池田真依子/美術設定:六七質/色彩設計:佐々木梓CGディレクター:森岡俊宇/撮影監督:青嶋俊明/編集:須藤瞳/音響監督:吉田光平/音楽:睦月周平/制作:A-1 Pictures

【キャスト】
錦木千束:安済知佳/井ノ上たきな:若山詩音/中原ミズキ:小清水亜美/クルミ:久野美咲/ミカ:さかき孝輔

【第9話スタッフ】
脚本:
神林裕介/絵コンテ:大槻敦史/演出:丸山裕介/総作画監督:山本由美子/作画監督:小松沙奈森田莉奈戸髙真希

 

商品情報 

*1:このご時世,"女性らしさ"などと言うと,ジェンダーバイアスの謗りを受けかねないが,だからと言って,描かれたものに男女間の文化的感性の違いが反映されることも事実だ。もちろん,この違いが将来的に別の言い方で名指されることになるかもしれないし,また別の性的指向の感性が作品に感取されることもあるだろう。少なくとも,そこにある"差異"は読み取られるべきだ。

TVアニメ『メイドインアビス 烈日の黄金郷』(2022年夏)第7話「欲望の揺籃」の演出について[考察・感想]

 *この記事は『メイドインアビス 烈日の黄金郷』第7話「欲望の揺籃」のネタバレを含みます。

第7話「欲望の揺籃」より引用 ©︎つくしあきひと・竹書房/メイドインアビス「烈日の黄金郷」製作委員会

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つくしあきひと原作/小島正幸監督『メイドインアビス 烈日の黄金郷』は,前作の劇場版『深き魂の黎明』に続く,「深界第六層」の物語を描いた続編である。今回取り上げる第7話「欲望の揺籃」は,第六層でリコたちを迎える「成れ果ての村」の呪われた成り立ちが語られる重要な話数だ。『深き魂の黎明』以上に視聴者を戸惑わせる壮絶な物語だが,その詩的で隠喩に満ちた語り口は,本作の魅力をもっともよく表しているとも言える。今回は特に,その卓越した音作りと画作りに注目してみよう。

 

"聖母"の絶叫

子どもを身籠ることができず,呪われた子として打ち捨てられたイルミューイは,ワズキャン率いる「ガンジャ隊」に同行することになるが,ある時「水もどき」の毒に侵され瀕死の状態になる。彼女はガンジャ隊の一員ヴエコの提案で,生き物の願いを叶える「欲望の揺籃」を与えられ,かつて可愛がっていた原生生物「ヤドネ」に似た"子ども"を産み落とすようになる。しかしその子どもは食物の摂取器官をもたないため,すぐに死んでしまう。こうして,イルミューイの「子を産む」という欲望=願いは歪な形で叶えられる。性交渉を経ても子どもを産むことができないヴエコ=祖母(始祖の母)から,性交渉を経ずに子どもを産む"聖母"が誕生する。この"聖母"イルミューイの造形が新約聖書における「処女懐胎」をモチーフとしていることは明らかだ。ワズキャン・べラフ・ヴエロエルコを指す「三賢」という呼称は,いわゆる「東方の三賢人」からとられていると考えられる。イルミューイの子を食べる行為もイエスの聖餐を思わせる。

第7話「欲望の揺籃」より引用 ©︎つくしあきひと・竹書房/メイドインアビス「烈日の黄金郷」製作委員会

しかしこの物語で“聖母”の誕生を告知するのは,百合の花を携える天使ではなく,イルミューイ自身の悲痛な“叫び”であった。

第7話で特筆すべきは,イルミューイ&ファプタ役の久野美咲の演技だ。久野は可愛らしい"幼女ボイス"で定評のある声優だが,本作では幼女ボイスの非常に高いピッチのまま,“誕生”と"喪失"の苦しみの叫びを演じきるという離業をやってのける。

第7話「欲望の揺籃」より引用 ©︎つくしあきひと・竹書房/メイドインアビス「烈日の黄金郷」製作委員会

子どもを産み落とす瞬間の叫び,そしてその子ども失う刹那の叫び。どちらもアビス第六層の「呪い」そのものの叫びを聞くかのような感覚を覚える。そしてこのイルミューイの叫びを宥めるかのように,Kevin Penkinの美しい楽曲が静かに流れる。ヴエコ(寺崎裕香)の散文詩のような語り,ワズキャン(平田広明)の柔らかくも残酷な低音の声,Kevin Penkinの透明度の高い楽曲,そしてそれらをガラス片のように引き裂くイルミューイ(久野美咲)の叫び。この一連の音作りに注意しながら試聴してみると,この話数における音響設計が今期の作品の中でも抜きん出てレベルが高いことがわかるだろう。

 

ワズキャンの顔 VS ヴエコの顔

第7話の演出でもう1つ注目したいのは,ワズキャンとヴエコの表情の捉え方だ。アニメでは,ワズキャンの顔を見据えるヴエコを真正面から捉えたカットが2度挿入されている。この話数の中でももっとも印象的なカットだ。

第7話「欲望の揺籃」より引用 ©︎つくしあきひと・竹書房/メイドインアビス「烈日の黄金郷」製作委員会

このカットをつくしのマンガ原作と比べてみると面白い。ワズキャンの顔は原作・アニメともほぼ同じ構図である。しかしそれを畏怖の眼差しで見つめるヴエコの顔に関しては,原作では小さなコマやアオリで捉えているのに対し,アニメでは真正面からの表情を大写しで捉えているのだ。

左:つくしあきひと『メイドインアビス 8』【電子版】pp.70-71より引用 
右:同上,pp.90-91より引用
©︎AKIHITO TSUKUSHI/TAKESHOBO 2019

アニメ版におけるヴエコの表情の捉え方は,『メイドインアビス』という物語の構造を解釈する上で大きな意味を持つように思える。

これは前作のボンドルドに関しても言えることだが,彼らの残酷な振る舞いは,単に残酷であるというだけでなく,リコやヴエコの生存を可能にする必要条件にもなっている。つくしの度し難いストーリーテリングは,「残虐行為がなければ物語が成立しない」というロジックを成り立たせてしまっているのだ。しかしこのままでは,物語はもっぱら"負"の推進剤のみで駆動することになる(むろん,つくしにはその方向性で物語を成立させる力量もあるだろう)。1つの冒険物語として,物語の推力を"正"へと反転させるためには,負を負として否定的に見据える眼差しがどうしても必要だ。それが『深き魂の黎明』のボンドルドに対するリコ&レグの眼差しであり,『烈日の黄金郷』のワズキャンに対するヴエコの眼差しなのではないか。アニメ版は,この〈負に対峙する眼差し〉という側面を原作よりもいっそう強調しているように思えるのだ。

『メイドインアビス 深き魂の黎明』より引用 ©︎つくしあきひと・竹書房/メイドインアビス「深き魂の黎明」製作委員会

 

『メイドインアビス』には両義的な表現が満ち溢れている。呪いと祝福,死と生,絶望と希望。しかしこの作品では,それらは明示的に対立するのではなく,アマルガムのように曖昧に溶け合っている。それを象徴するのがヴエコが呟く「温かい闇」という言葉だ。物語は正と負,陰と陽をアマルガム状態で内包しながらも,少しずつ前に進んでいく。はたして,彼ら/彼女らの「憧れ」を待ち受けるのは,光なのだろうか。闇なのだろうか。

第7話「欲望の揺籃」より引用 ©︎つくしあきひと・竹書房/メイドインアビス「烈日の黄金郷」製作委員会

 

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作品データ

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【スタッフ】
原作:つくしあきひと/監督:小島正幸/副監督:垪和等/シリーズ構成・脚本:倉田英之/キャラクターデザイン:黄瀬和哉Production I.G),黒田結花/デザインリーダー:高倉武史/プロップデザイン:沙倉拓実/美術監督:増山修関口輝インスパイアード/色彩設計:山下宮緒/撮影監督:江間常高T2 studio/編集:黒澤雅之/音響監督:山田陽/音響効果:野口透/音楽:Kevin Penkin/音楽プロデューサー:飯島弘光/音楽制作:IRMA LA DOUCE/音楽制作協力:KADOKAWA/アニメーション制作:キネマシトラス

【キャスト】
リコ:
富田美憂/レグ:伊瀬茉莉也/ナナチ:井澤詩織/メイニャ:原奈津子/ファプタ:久野美咲/ヴエコ:寺崎裕香/ワズキャン:平田広明/ベラフ:斎賀みつき/マジカジャ:後藤ヒロキ/マアアさん:市ノ瀬加那/ムーギィ:斉藤貴美子/ガブールン:竹内良太/プルシュカ:水瀬いのり/ボンドルド:森川智之

【第7話スタッフ】
脚本:
倉田英之/絵コンテ:小島正幸/演出:小池裕樹/作画監督:北原安鶴紗LEE MinjaeIM SunheeKIM EunhaBAEK JiwonYU Minzi

 

商品情報 

2022年 夏アニメ 中間評価[おすすめアニメ]

*この記事にネタバレはありませんが,各作品の現時点までの話数の内容に言及しています。未見の作品を先入観のない状態で鑑賞されたい方は,作品を先にご覧になってから本記事をお読みください。

 

2022年夏アニメもほとんどの作品が第6話までの放送を終え,およそクールの折り返し地点に達している。今回も,現時点までの当ブログ最注目作品を五十音順に(ランキングではないことに注意)いくつか取り上げてみたい。

なお「2022年 夏アニメは何を観る?」の記事でピックアップした作品は,タイトルを赤色にしてある。

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1. 異世界おじさん

isekaiojisan.com

異世界帰りのおじさんと甥のコメディという設定の妙に加え,子安武人(おじさん)と福山潤(甥のたかふみ)のシュールな掛け合いが癖になる秀作ギャグアニメだ。特に子安武人のキャスティングは,このキャラクターにとって最適解だと言えるだろう。独特なテクスチャーの作画もとてもいい。異世界モノのテンプレートに対するオルタナティブとして,このジャンルの底知れぬポテンシャルを感じさせてくれる作品でもある。

 

2. サマータイムレンダ

summertime-anime.com

春からの連続2クール作品のため,「夏アニメは何を観る?」の記事では挙げなかったが(「春アニメは何を観る?」では挙げてある),そのクオリティの高さに今回の記事でも特筆すべき作品と判断した。実はストーリーの骨子や設定そのものはさほど目新しいものではないのだが,毎話の盛り上げや引き,ややもすると違和感を催しかねないほどの大胆な"顔芸"など,演出面での質の高さは群を抜いて際立っている。すでに原作マンガでの一定の評価を受けている作品なだけに,このままいけばかなりの傑作となるに違いない。

 

3. ちみも

anime.shochiku.co.jp

ゆるふわ感たっぷりのビジュアルと物語は深夜アニメとしては好みが分かれるところだろうが,純粋に1つのアニメーション作品として見ると,とても丁寧に作り込まれた秀作であることがわかる。丸みを帯びたキャラクターの動かし方や,かなり大胆な色彩設計などは,相当なセンスがなければ魅力的な作品として成立しないだろう。また,ギャグアニメで定評のあるうえのきみこの脚本も光る。アニメファンには,できれば好き嫌いをせずに観てもらいたい作品である。

 

4. メイドインアビス 烈日の黄金郷

miabyss.com

これまでも当ブログでは高く評価してきたシリーズだが,この第2期「烈日の黄金郷」も文句なしの出来栄えである。特に「成れ果ての村」の住人や背景美術の色彩がきわめてユニークで,すでにストーリーを知っている原作ファンにとっても意外性を楽しめる作りになっている。またアニメでは,リコさん隊とガンジャ隊の命運を重ね合わせる演出がなされているのも面白い。ファプタマアアさんマジカジャなど,この作品ならではのユニークなキャラもうまくアニメイトされており,たいへん見応えがある。

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5. よふかしのうた

yofukashi-no-uta.com

アニメでは,夜の風景を彩り豊かに描くことで,本作のテーマでもある〈夜の楽しさ〉を原作以上にアンプリファイしている。今のところ,さほど起伏のあるストーリーは展開されていないが,それだけに却って作品世界の雰囲気をじっくり伝えているのがいい。原作では,登場人物が増えるにつれ物語の情報量も増えていくので,アニメも長く制作を続けていってほしい。雨宮天のダミ声花守ゆみりの冷静なツッコミキャラなど,声優陣の演技も注目に値する。

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6. リコリス・リコイル

lycoris-recoil.com

キャラ(クター),脚本,作画,音楽,どの点をとっても優秀な作りのハイクオリティ・アニメだ。特に主人公・錦木千束の造形は秀逸で,陰と陽を含み込んだ多義的なキャラ(クター)は,今期の主人公の中でも際立って魅力的だ。ルックも性格も正反対のキャラ(クター)・井ノ上たきなとのバディも面白い。オリジナルアニメということもあり,最終的な評価は今のところ保留されるが,最終話までの出来次第では,今クール,あるいは2022年の作品の中でもかなりの高評価となるだろう。

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以上「アニ録ブログ」が注目する2022年夏アニメ6作品を挙げた。最終的なランキング記事は,全作品の放映終了後に掲載する予定である。