アニ録ブログ

あるオタクの思考と嗜好をキロクしたブログ。アニメとマンガを中心としたカルチャー雑記。

2022年 秋アニメランキング[おすすめアニメ]

*この記事にネタバレはありませんが,各作品の内容に部分的に言及しています。未見の作品を先入観なしで鑑賞されたい方は,作品を先にご覧になってから本記事をお読みください。

今年も早年の瀬となり,秋アニメもほぼすべてが放送を終えた。期待作の多かった今クールの作品をみなさんはどうご覧になっただろうか。今回の記事では,恒例通り2022年秋アニメの中から,特にレベルの高かった10作品をランキング形式で振り返ってみたい。コメントの後には,作品視聴時のTweetをいくつか掲載してある。なお,最終話の評価によって,「2022年 秋アニメ 中間評価」ではピックアップしなかった作品が含まれることをお断りしておく。また,この記事は「一定の水準を満たした作品を挙げる」ことを主旨としているので,ピックアップ数は毎回異なる。

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10位:『ヤマノススメ Next Summit』

yamanosusume-ns.com

【コメント】
これまでのシリーズと同様,アニメーターの個性がしっかりと発揮された演出に目を奪われた。主人公のあおいは,ともすれば好き嫌いが分かれるキャラクターかもしれないが,富士登山を通して彼女の成長を描き切ったことにより,彼女のポジティブな変化を暗示する最終話となった。吉成鋼のエモーショナルなエンディングアニメーションも大きな見どころとなった。

 

9位:『機動戦士ガンダム 水星の魔女』

g-witch.net

【コメント】
これまで,日常風景と決闘を中心とした『ガルパン』流の“安全なミリタリズム”に終始してきた物語は,最終話近辺で俄かにきな臭い様相を呈してきた。多くの要素と複雑な人間関係を盛り込みながらも,スリリングなストーリーテリングで視聴者を惹きつける技術は,さすが『コードギアス』シリーズの大河内一楼といったところか。今後の展開にも大いに期待したい。

(第1クール最終話は2023年1月8日(日)放送予定)

 

8位:『ヒューマンバグ大学 -不死学部不幸学科-』

humanbug-anime.com

【コメント】
このペープサートのような画をアニメとして評価すべきかどうかという躊躇もあり,「中間評価」ではピックアップしなかった(「何を観る?」の記事ではピックアップしている)のだが,最終話までの物語がとても面白かったためにランクに入れた。ここまで“リミテッド”なアニメーションでも,ストーリーが面白ければ作品として成立するということの証左でもある。杉田智和小倉唯子安武人らキャスト陣の演技も素晴らしく,特にこれまで“萌え”演技の多かった小倉にとって,「千恵」訳は新境地だったようだ。

 

7位:『SPY×FAMILY』第2クール

spy-family.net

【コメント】
もはやおすすめ記事でピックアップするまでもないほど,高いクオリティを維持し続けている本作。特に第2クールでは「MISSION:23 揺るがぬ軌道」のアニメーションが非常に面白かった。こうした作り込まれたシーンを観るにつけ,本作のアニメ化の意義を改めて実感する。「Season 2」と劇場版の制作(ともに2023年)がすでに発表されている。


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6位:『チェンソーマン』

chainsawman.dog

【コメント】
“実写映画的”な演出(この言い方には少々疑問があるが)は主に原作至上主義勢から批判も多いが,個人的には,むしろ原作解釈の一つの在り方として高く評価したい。特に「04. 救出」のアキ宅の演出「09. 京都より」のマキマ周りの演出「10. もっとボロボロ」のタバコとリンゴの演出などが優れていた(下のTweet参照)。MAPPA一社提供の重圧も大きいと思うが,中山竜監督はじめアニメ制作陣には今後もこの演出方針を貫いてもらいたい。続編の報が待ち望まれる。

 

5位:『Do It Yourself!! -どぅー・いっと・ゆあせるふ-』

diy-anime.com

【コメント】
派手なキャラクターやドラマはないが,「DIYは楽しい」という素朴な価値観を実直な画作りで伝えた良作。一方で,高低差を活かした大胆な構図と演出も目を引いた。一つのテーマに誠実に寄り添い,自由な発想で演出する。こうしたオリジナル・アニメが継続的に作られる環境こそが,日本アニメのアドバンテージの一つだろう。今後もこのような作品が作られ続けることを望みたい。

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4位:『異世界おじさん』

isekaiojisan.com

【コメント】
3度の放送延期の憂き目を見ながらも,変わらずクオリティの高い話数を繰り出してくる本作。なんとしてでも作品の質をキープしたいという制作陣の心意気が伝わってくる。それもあってか,視聴者の評価は下がるどころか高まる一方のようだ。ユニークな作画と独特な間合いのギャグ,そして子安武人,福山潤,戸松遥,悠木碧の演技が光る異世界モノの傑作である。

(第13話は放送延期。放送時期は未定)

 

3位:『ぼっち・ざ・ろっく!』

bocchi.rocks

【コメント】
女子高生ガールズバンドの日常風景を中心とした本作。そこには大きな起伏のあるドラマ性はないが,実写を交えた豊かな表現力が多くの視聴者の心を捉えた傑作である。ある意味で,アニメーションそのものの面白さが高く評価された作品と言える。「ぼっち」というキャラクターが示す緩やかな成長のアークは,この作品をいつまでも観ていたいという気分にさせてくれる。続編が待望される。

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2位:『モブサイコ100 Ⅲ』

mobpsycho100.com

【コメント】

伍柏諭による名話数「#8 通信中②〜未知との遭遇〜」を経てから,最終話「#12 告白〜これから〜」までの緊張感のある演出が素晴らしく,第1期・第2期に続いて,アニメ制作陣の確かな技が感じられる傑作となった。『モブサイコ100』は「いい奴」たちの世界であり,また「かっこいい奴」たちの世界でもある。モブや霊幻などに潜む,この「いい」と「かっこいい」のキャラクターを,アニメ班はこの上なく的確に表現している。2022年のラインナップの中でも間違いなく上位に入る作品だろう。

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1位:『サイバーパンク エッジランナーズ』

『サイバーパンク エッジランナーズ』より引用 ©︎2022 CD PROJEKT S.A.

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【コメント】
TRIGGER&今石洋之のエッジの効いたアニメーションとエモーショナルな演出。graffitiのようなアクの強いアート性があるかと思えば,出﨑統アニメーションのような繊細な遺伝子が継がれている。“日本アニメ”や“海外アニメ”などといった地域性を超えた,普遍的なアニメの面白さが具現しているような作品である。そして10話という少ない話数でありながら,キャラクターへの感情移入を誘う演出が的確になされており,最終話のラストシーンが極めて強く心を打つ。TRIGGER&今石の最高傑作と言っても過言ではないだろう。Netflix限定配信のため,ネット上での盛り上がりは少なかったが,今期の中でも群を抜いて優れた作品である。

 

● その他の鑑賞済み作品(50音順)
『宇崎ちゃんは遊びたい!ω』『TIGER & BUNNY 2』『不滅のあなたへ Season 2』『ポプテピピック 第二シリーズ』『羅小黒戦記 僕が選ぶ未来』

 

以上,当ブログが注目した2023年秋アニメ10作品を挙げた。

今回は2位以降のランキングに大いに悩んだ。特に『ぼっち・ざ・ろっく!』『モブサイコ100 Ⅲ』に関しては甲乙つけ難く,便宜上,上記のような順位づけにしているが,ほぼタイと考えていただいて構わない。冒頭にも書いたが,ここに挙げたものはすでに「一定の水準」を満たした作品である。ランクが低くても十分に優れた作品なので,まだご覧になっていない方には,上記のすべての作品をおすすめしたい。

2023年冬アニメのおすすめに関しては以下の記事を参照頂きたい。

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アニメと一緒に読んだ本 2022

アニメは楽しい。それは間違いない。アニメという媒体は,それ自体で十分に楽しめる媒体だ。しかしその隣に,映画や音楽や書物などの別の媒体を置いてみよう。おそらく,単に楽しいだけだったアニメの中に,様々な含意や暗示や示唆が潜んでいることに気づくだろう。それは制作者が意図したことかもしれないし,まったくそうではないかもしれない。しかしそのようにして発見した細部をきっかけに作品の“読み”を広げていけば,通常の見方をしただけでは思いもよらない解釈に至る可能性が生まれる。言ってみれば,アニメと非アニメとの化学反応だ。だから僕はアニメと一緒に本を読む。アニメというビジュアルメディアのすぐ隣に,書物という文字メディアを併置することで,両者ともにそれまでとは異なる言語で語り始めることを期待する。

今回の記事では,2022年に掲載したアニメレビューに関連する書籍をいくつか紹介しよう。作品に直接関連するものもあれば,作品に登場したモチーフに触発されて,自由連想的に読み始めたものもある。

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松原仁『AIに心は宿るのか』

磯光雄監督『地球外少年少女』に登場する重要なキーワードである「フレーム」を始め,AIにまつわる基礎的な用語や問題を扱った入門書。手軽に読める易しめの新書でありながら,現代のAI技術に関する様々な知見に触れることができる良書だ。本書の中心テーマである「AIの心」は,吉浦康裕監督『イヴの時間 劇場版』(2010年)や同監督の『アイの歌声を聴かせて』(2021年),TVアニメ『Vivy -Fluorite Eye's Song-』(2021年春)など,AIと人との関係をテーマにした諸作品を解釈する上でも重要だ。近年盛んに作られている“AIモノ”アニメを深く考察するためにも,ぜひ一読されてみてはいかがだろうか。

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古川日出男訳『平家物語』

古川日出男による『平家物語』の現代語訳。山田尚子監督『平家物語』(2022年冬)の原作だが,古川の『平家』が複数の琵琶法師という視点を導入していたのに対し,山田の『平家』は「びわ」という一人称視点を導入していた。この差異は大きい。古川は多様な文体を用いることで,『平家物語』に内在するポリフォニックな要素,「文章の呼吸が変わる」*1 “断面”を意図的に強調する。ここに古川のユニークな語り口も相俟って,一般的な現代語訳とはかなり趣をことにする訳書に仕上がっている。そして読みやすい。いわば“超訳”版『平家物語』だ。山田の『平家物語』に心を打たれた方は,ぜひこの“原作”を紐解き,両者の語りの差異を味わって欲しい。

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古川日出男『平家物語 犬王の巻』

山田尚子『平家物語』と連動して制作された,湯浅政明監督の劇場アニメ『犬王』。こちらもやはり古川日出男を原作としている。ただし本書は『平家物語』とは違い,実在した能楽師・犬王の伝説を題材にしたフィクションである。それだけに,古川のユニークな語りをいっそう直接的に味わうことができる(もっとも,そのクセの強さに好き嫌いはあるだろうが)。湯浅は映画のラストに犬王と友魚(友有)の再会シーンを追加するなど,原作に新たな解釈を加えているため,やはり両者を比較してみるのも一興だろう。

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兵藤裕己『琵琶法師ー〈異界〉を語る人びと』

『平家物語』『犬王』のどちらにおいても重要な役回りを演じる「琵琶法師」。本書は,古代における起源から,現代の「最後の琵琶法師」の姿に至るまで,盲目の語り手たちのユニークな実像に迫った書物だ。作者の兵藤裕己は,膨大な資料に基づきながら,「異界」の声を聞き届ける異能者としての琵琶法師の姿を描き出していく。200頁程度の新書とはとても思えないほどインフォーマティブな内容で,個人的に今年最も刺激的な読書体験だったと言っても過言ではない。本書を読んでからあらためて『平家物語』と『犬王』を観返せば,「びわ」「友魚」などのキャラクター理解がさらに深まることは間違いないだろう。

 

津堅信之『日本アニメ史』

具体的な作品との関連で読んだ本ではないが,アニメ史を通覧できる良書として紹介しておこう。初の国産アニメが誕生した大正時代から,およそ100年以上にわたる日本アニメの歴史を辿る“歴史の教科書”的な書物である。それだけに,個々の作品の面白さには踏み込まないドライな文体だが,それこそが本書の本懐とも言えるだろう。庵野秀明の『新世紀エヴァンゲリオン』(1995年)や新海誠の『君の名は。』(2016年)などの有名作品をランドマークとして「アニメブーム」を定義するなど,やや印象論に走るきらいもあるが,アニメ史を手軽に知るには十分すぎる情報量である。

 

中野美代子『カニバリズム論』

最後に,今年読んだ中で“奇書”とも言える一冊を紹介しておこう。タイトルの論考を含む計9つの文章からなるエッセイ集だが,特に「カニバリズム論」は,その名の通り古今東西の「カニバリズム=食人」の例を実例・創作の双方から紹介しつつ,筆者独自の観点を披瀝した強烈な論考だ。中野美代子は「もし,スウィフトが生きていたら,『子供を食え』と言うだろう。そして,もし,魯迅が生きていたら,やはり『子供を救え』と言うだろう。どちらも,永遠の言葉である。だが,私はといえば,スウィフトのほうにより感応する人間であることを告白する」と豪語しつつ「良識」を嗤うつくしあきひと原作/小島崇史監督『メイドインアビス 烈日の黄金郷』(2022年)において,一片の躊躇なく仲間たちをカニバリズムの宿命に巻き込んだワズキャン,そして喰う/喰われるの「循環」に自ら身を投じつつ「成れ果ての村」を破壊し尽くしたファプタ。その法外なキャラクターを理解するためには,中野のように「良識」や「法」の彼岸に視座を構える必要があるのだろう。そしておそらく,「カニバリズム」のようなものを「良識」や「法」の名の下に断罪するだけでは,人間の本性の奥底に触れることすらできないのだろう。そうした意味でも,『メイドインアビス』のような作品は,単なる娯楽を超えた価値を持つのだと言える。

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以上,2022版「アニメと一緒に読んだ本」5冊を紹介した(ここに挙げた以外にも間接的に参照した本も多数あるが,今回は割愛した)。中には読み手を選ぶものもあるが,どれも読み応えのある名著だ。今回挙げたアニメ作品をご覧になった方は,上記の本もお読みになり,鑑賞の解像度をさらに上げてみてはいかがだろうか。

*1:古川日出男訳『平家物語』,p.9,河出書房新社,2016年

2023年 冬アニメは何を観る?来期おすすめアニメの紹介 ~2022年秋アニメを振返りながら~

『REVENGER』公式HPより引用 ©︎REVENGER製作委員会

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2022年 秋アニメ振返り

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今クールは当初から注目作が多かったため,「中間評価」の記事でも普段より多くの作品をピックアップした。その中でもとりわけ当ブログが推したいのは,『サイバーパンク エッジランナーズ』『ぼっち・ざ・ろっく!』『モブサイコ100 Ⅲ』の3作品だ。

『サイバーパンク エッジランナーズ』は,ポーランドのゲーム『サイバーパンク2077』(2020年)を原案とするNetflixアニメだ。TRIGGER今石洋之の最新作として注目された本作は,エッジの効いた演出とエモーショナルなストーリーテリングが国内外で高く評価されている。ポーランドのゲーム+Netflix +TRIGGERというトリオはグローバルなターゲティング戦略を匂わせるが,TRIGGER=今石は日本アニメの“イズム”を存分に発揮することを怠っていない。全10話とコンパクトな作品ながら,アニメの面白さが濃縮された名作だ。

『ぼっち・ざ・ろっく!』は,大胆なデフォルメや実写映像の活用などのサプライズ演出が満載の“ギャグアニメ”としての側面を持つ一方で,各キャラクターの心情を丁寧に描いており,日常系アニメとして理想的な作りをしている。いわゆる“きらら枠”アニメの中でもとりわけユニークな存在感を放つ作品と言えるだろう。

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シリーズ3作目となる『モブサイコ100 Ⅲ』は,これをもっていよいよ完結編となる。シリアスシーンを主眼にした制作方針にシフトしたこともあってか,第1期・第2期のような「いい意味での暴走」(小黒祐一郎談)は見られないが,それでも本作から感じられるアニメ制作陣の熱量は半端なものではない。特に伍柏諭が絵コンテ・演出・作監を務めた第8話は,アクションシーンがほとんどない日常回でありながら,その繊細な心情演出が視聴者の心を捉えた。最終話まで目を離せない作品である。

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この他,放送延期の憂き目を見ながらも,再開後は以前にも増して視聴者を魅了している『異世界おじさん』,これまでのガンダムシリーズとは一線を画す脚本が光る『機動戦士ガンダム 水星の魔女』,ユニークなキャラと舞台設定でDIYの楽しさを伝えるオリジナルアニメ『Do It Yourself!!』,紙芝居的な“超リミテッド”なアニメーションでありながら,奇想天外な物語が魅力の『ヒューマンバグ大学-不死学部不幸学科-』なども目が離せない。『チェンソーマン』『SPY×FAMILY 第2クール』『ヤマノススメ Next Summit』など“大物”作品の堅調ぶりに関しては,「中間評価」の記事でも記した通りだ。

2022年秋アニメの最終的なランキングは,全作品の最終話放送終了後に掲載する予定である。

 

では今回も2023年冬アニメのラインナップの中から,五十音順に注目作をピックアップしていこう。各作品タイトルの下に最新PVなどのリンクを貼ってあるので,ぜひご覧になりながら本記事をお読みいただきたい。なお,オリジナルアニメ(マンガ,ラノベ,ゲーム等の原作がない作品)のタイトルの末尾には「(オリジナル)」と付記してある。

 

① 『アルスの巨獣』(オリジナル)


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【スタッフ】
監督:オグロアキラ/キャラクター原案:大槍葦人/シリーズ構成・脚本:海法紀光/キャラクターデザイン:清水洋加藤真人/音楽:片山修志鈴木暁也/アニメーション制作:旭プロダクション

【キャスト】
クウミ:羊宮妃那/ジイロ:森川智之/ミャア:芹澤優/メラン:峯田大夢/ロマーナ:日笠陽子

【コメント】
「巨獣」が蔓延る世界で「死に損ないのジイロ」と「二十と二番目のクウミ」が出会い,世界の謎を解き明かしていくという物語。公開情報は少ないが,オリジナルアニメということで,当ブログとしては推しておきたい。『がっこうぐらし!』(2015年),『彼方のアストラ』(2019年),『アクダマドライブ』(2020年)などの海法紀光がシリーズ構成・脚本を務めるのもポイントだ。

 

②  伊藤潤二『マニアック』


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【スタッフ】
原作:伊藤潤二監督・キャラクターデザイン:田頭しのぶ脚本:澤田薫音響監督:郷田ほづみ音楽:林ゆうき制作スタジオ:スタジオディーン

【キャスト】
引摺一也:櫻井孝宏/五郎:堀江瞬/園原:置鮎龍太郎/森中和子:杉山里穂/双一:三ツ矢雄二/平野雄二:阪口周平/押切:下野紘/チエミ:日笠陽子/赤坂:平川大輔/白崎五郎:梶裕貴/吉川剛:木村良平/麗実:Lynn/弘原海:石川界人/富江:末柄里恵/小夜子:金元寿子/栗子:高森奈津美/石田:鈴木裕斗/留美:折笠富美子/山東まゆみ:中川翔子/コロン:金田朋子

【コメント】
奇才(あるいは鬼才)・伊藤潤二による原作マンガから厳選された20タイトルをアニメ化。監督に田頭しのぶ,シリーズ構成・脚本に澤田薫,制作にスタジオディーンと,2018年に放送された伊藤潤二『コレクション』の座組がほぼ引き継がれている。そのクオリティは保証されていると言っていいだろう。今回はNetflix独占配信となる。

 

③ 『大雪海のカイナ』(オリジナル)


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【スタッフ】
原作:弐瓶勉(東亜重工)/監督:安藤裕章/シリーズ構成:村井さだゆき/脚本:村井さだゆき山田哲弥/アニメーションキャラクターデザイン:福士亮平小谷杏子/ビジュアルコンセプトデザイン:片塰満則/プロダクションデザイン:田中直哉勅使河原一馬CGスーパーバイザー:石橋拓馬多家正樹/美術監督:久保季美子3DBGマットペイントスーパーバイザー:松本吉勝/色彩設計:野地弘納/チーフレイアウト・アニメーションスーパーバイザー:井澤一勝/音響監督:土屋雅紀/アニメーション制作:ポリゴン・ピクチュアズ

【キャスト】
カイナ:細谷佳正/リリハ:高橋李依/ヤオナ:村瀬歩/アメロテ:坂本真綾/オリノガ:小西克幸/ンガポージ:杉田智和/ハンダーギル:檜山修之/ハレソラ:堀内賢雄

【コメント】
空に広がる「天膜」に住むカイナと「雪海」の王女リリハが出会い,滅びかけた世界を救う,という物語。『シドニアの騎士』(マンガ原作:2009-2015年,アニメ:2014-2021年)の弐瓶勉と3DCGアニメ制作会社・ポリゴン・ピクチュアズによるオリジナル企画だ。弐瓶の既成作品を原作とするのではなく,弐瓶の原案を元にアニメとマンガを制作するメディア・ミックス企画である(したがってオリジナル作品と考えてよいだろう)。ポリゴン・ピクチュアズの設立40周年記念作品ということもあり,相当に気合の入った企画だろうと予想される。監督は『亜人』(2016年)『LISTNERS』(2020年)などの安藤裕章。安藤はTV版『シドニアの騎士』第1期で演出,第2期では副監督を務めている。脚本はやはり『シドニアの騎士』でシリーズ構成を務めた村井さだゆきが務める。

 

④ 『吸血鬼すぐ死ぬ2』


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【スタッフ】
原作:盆ノ木至/監督:神志那弘志/シリーズ構成・脚本:鷹目利/キャラクターデザイン・総作画監督:中野繭子/副監督:川野麻美/色彩設計:今野成美/美術監督:吉田ひとみ/撮影監督:渡辺祥生/編集:塚常真理子/音楽:高橋諒/音響監督:納谷僚介/音響効果:中島勝大/音楽制作:ポニーキャニオン/音楽プロデュース:アップドリーム/アニメーション制作:マッドハウス

【キャスト】
ドラルク:福山潤/ロナルド:古川慎/ジョン:田村睦心/ヒナイチ:日岡なつみ/半田桃:松岡禎丞/サテツ:細谷佳正/ショット:田丸篤志/マリア:日笠陽子/ター・チャン:石原夏織/メドキ:酒井広大/ショーカ:間島淳司/ヒヨシ:小野大輔/サギョウ:西山宏太朗/フクマ:土岐隼一/サンズ:伊瀬茉莉也/下半身透明:島﨑信長/ミカヅキ:村瀬歩/ドラウス:速水奨

【コメント】

盆ノ木至の同名マンガを原作とし,2021年秋クールを大いににぎわせたギャグアニメの続編。既に原作が一定の人気を確保しており,アニメ第1期も高く評価されているだけに,今後も安定したクオリティを期待できそうだ。PVからも第1期に劣らぬハイテンション・ギャグが炸裂すると思われる。

 

⑤ 『スパイ教室』


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【スタッフ】
原作:竹町原作イラスト:トマリ/監督:川口敬一郎/シリーズ構成:猪爪慎一/キャラクターデザイン:木野下澄江/アニメーション制作:feel.

【キャスト】
リリィ:雨宮天/グレーテ:伊藤美来/ジビア:東山奈央/モニカ:悠木碧/ティア:上坂すみれ/サラ:佐倉綾音/アネット:楠木ともり/クラウス:梅原裕一郎

【コメント】
竹町
の同名ライトノベルを原作とするファンタジーアニメ。原作は「第32回ファンタジア大賞」を受賞している。近年,『プリンセス・プリンシパル』(2017年-)や『SPY×FAMILY』(マンガ原作:2019年-/TVアニメ:2022年-)など,魅力的な“スパイアニメ”が目を引く。『ジョーカー・ゲーム』(小説原作:2008年-/TVアニメ:2016年)などの過去作を含め,複数の作品を比較してみるのも面白いだろう。豪華なキャストも魅力で,アイドル・アニメとしての側面を持つと言ってもよいかもしれない。個人的には悠木碧の“僕っ娘”に期待したいところだ。監督は『劇場版 HUNTER×HUNTER -The LAST MISSION-』(2013年)などの川口敬一郎が務める。


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⑥ 『NieR:Automata Ver1.1a』


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【スタッフ】
原作:NieR:Automata(スクウェア・エニックス)/監督:益山亮司/シリーズ構成:ヨコオタロウ益山亮司/キャラクターデザイン・総作画監督:中井準/音楽:MONACA/制作:A-1 Pictures

【キャスト】 
2B石川由依9S花江夏樹A2諏訪彩花/ポッド042:安元洋貴/ポッド153:あきやまかおる/アダム:浪川大輔/イヴ:鈴木達央/パスカル:悠木碧/司令官:加納千秋/オペレーター6O:磯部恵子/オペレーター21O:初美メアリ/リリィ:種﨑敦美

【コメント】
原作は2017年に発売されたアクションRPG。アクションと銘打ってはいるが,ディレクター・ヨコオタロウの紡ぎ出す緻密な物語,廃墟を中心としたポスト・アポカリプス的世界観,そして岡部啓一による哀愁漂う楽曲と,たいへんドラマ性の高いゲームである。個人的にも,オールタイムベストに挙げてもいいほどハマったゲームであるため,今回のアニメ化には大いに期待している。また,悠木碧の“おじさんロボット”にも期待したいところだ。制作はA-1 Pictures,監督はA-1 Picutures作品の多くで演出を行い,『プレンド・S』(2017年)で監督を務めた益山亮司。シリーズ構成をヨコオタロウと益山亮司が務める。

 

⑦ 『High Card』(オリジナル)


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【スタッフ】
原作:TMS河本ほむら武野光/監督:和田純一/シリーズ構成:黒栁尚己/脚本:山下憲一犬飼和彦永井真吾/キャラクター原案:えびも/キャラクターデザイン・総作画監督:河野のぞみ/総作画監督:永田陽菜/キーアニメーター・アクション作画監督:望月俊平羽山淳一/キーアニメーター・エフェクト作画監督:橋本敬史/色彩設計:南木由実/美術監督:大西穣鈴木朗/撮影監督:國井智行CG監督:内山正文/編集:伊藤利恵/カードデザイン:BALCOLONY./コンセプトアート:れおえんFLAT STUDIO/音響監督:はたしょう二/音響効果:倉橋裕宗/音楽:高橋諒/アニメーション制作:スタジオ雲雀

【キャスト】
フィン・オールドマン:佐藤元/クリス・レッドグレイヴ:増田俊樹/レオ・コンスタンティン・ピノクル:堀江瞬/ウェンディ・サトー:白石晴香/ヴィジャイ・クマール・シン:梅原裕一郎/セオドール・コンスタンティン・ピノクル:小野大輔/バーナード・シモンズ:山路和弘/オーウェン・オールデイズ:島﨑信長/ノーマン・キングスタット:関俊彦/ブリスト・ブリッツ・ブロードハースト:武内駿輔/ブランディ・ブルーメンタール:園崎未恵/バン・クロンダイク:関智一/ティルト:豊永利行/ボビー・ボール:沢城千春/グレッグ・ヤング:森川智之/シュガー・ピース:高橋李依

【コメント】
選ばれたものに人智を超えた力を与える「エクスプレイングカード」をめぐり,自動車会社の「ピノクル」と「フーズフー」,およびマフィア組織「クロンダイクファミリー」が三つ巴の争いを繰り広げる,という物語。PVからはかなりクオリティの高いアニメーションであることがうかがえる。監督は『長門有希ちゃんの消失』(2015年)『サクガン』(2021年)などの和田純一が務める。またエフェクト作画監督として,『アルドノア・ゼロ』(2014年)『Re:CREATORS』(2017年)『メイドインアビス 深き魂の黎明』(2020年)など,数々の作品でメカ・エフェクト作監を担当してきた橋本敬史が参加している点も見逃せない。

 

⑧ 『Buddy Daddies』(オリジナル)


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【スタッフ】
原作:KRM’s HOME/監督:浅井義之/ストーリー原案:下倉バイオ(ニトロプラス)/シリーズ構成:柿原優子下倉バイオ(ニトロプラス)/キャラクター原案:エナミカツミ/キャラクターデザイン・総作画監督:佐古宗一郎/総作画監督:さとう沙名栄/衣装設定:石井かおり/プロップ設定:鍋田香代子/銃器設定:秋篠 Denforword 日和/美術設定:竹内志保牧野博美/美術監督:杉浦美穂/色彩設計:中野尚美/撮影監督:川瀬輝之3D監督:鈴木晴輝2Dworks向井吉秀J.C.STAFF/特殊効果:村上正博/編集:髙橋歩/音楽:北川勝利ROUND TABLE/音響監督:飯田里樹/音響効果:小山恭正/音響制作:ビットグルーヴプロモーション/制作:P.A.WORKS

【キャスト】
来栖一騎:豊永利行/諏訪零:内山昂輝/海坂ミリ:木野日菜

【コメント】
P.A.WORKS×ニトロプラスのオリジナルアニメ。男2人の殺し屋バディが,ひょんなことから4歳の女の子を引き取ることになり,擬似家族の生活を営んでいくという話。『SPY×FAMILY』にも似た設定だが,ポイントは“男2人のバディ+子ども”という点だろう。伝統的な家族構成をあえて外した設定は,むしろフランス映画『赤ちゃんに乾杯!』(1985年)やアメリカ映画『チョコレートドーナツ』(2012年)などの系統と言えるかもしれない。貴重なオリジナル作品である上,個人的に“擬似家族モノ”には目がないので,ピックアップせざるを得ない。監督は『Charlotte』(2015年)『Fate/Apocrypha』(2017年)『神様になった日』(2020年)などの浅井義之,ストーリー原案を『東京24区』(2022年)などの下倉バイオが務める。

 

⑨ 『火狩りの王』


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【スタッフ】
原作:日向理恵子/キャラクター原案:山田章博/監督:西村純二/構成・脚本:押井守/キャラクターデザイン:齋藤卓也/総作画監督:齋藤卓也黄瀬和哉海谷敏久/エフェクト作画監督:小澤和則/イメージイラスト・プロップデザイン:岩畑剛一/美術設定:中島美佳/メカニックデザイン:神菊薫/クリーチャーデザイン:松原朋広/美術監督:小倉宏昌/色彩設計:渡辺陽子/筆文字:勝又まゆみ/タイトルデザイン・2Dワークス:山崎真紀子/劇中画:水野歌CG監督:西牟田祐禎CG制作:レイルズ/特殊効果:櫻井英朗/撮影監督:荒井栄児/編集:植松淳一/監督助手:菅野幸子/音楽:川井憲次/音響監督:若林和弘/音楽制作:フライングドッグ/音響制作:プロダクション I.G/アニメーション制作:シグナル・エムディ

【キャスト】
灯子役:久野美咲/煌四役:石毛翔弥/明楽役:坂本真綾/炉六役:細谷佳正/綺羅役:早見沙織/緋名子役:山口愛/クン役:國立幸/照三役:小林千晃/火穂役:小市眞琴/油百七役:三宅健太/火華役:名塚佳織/焚三役:宮野真守/灰十役:三木眞一郎/紅緒役:原優子/ほたる役:宮本侑芽/炸六役:真木駿一/炎千役:上田燿司/火十役:綿貫竜之介/ヤナギ役:大原さやか/キリ役:嶋村侑/ひばり役:石田彰/語り:榊原良子

【コメント】
日向理恵子
の同名小説(2018-2021年)を原作とするWOWOWオリジナルアニメ。注目は構成・脚本を務める押井守の存在だ。またPVを見るに,ユニークかつ美麗なアニメーションが期待できそうだ。惜しむらくは,「WOWOWプライム」での放送および「WOWOWオンデマンド」での配信限定という点。「WOWOWオリジナル」という位置付けである以上,致し方ない面もあるが,この手の放送戦略は視聴機会を限定してしまい,SNSによる盛り上がりなどにも欠けることになる。この作品に限った話ではないが,事業者本位の放送・配信形態は,作品そのものにとって益するところは多くないだろう。いずれ地上波でも放送されることを期待したい。

 

⑩ 『REVENGER』(オリジナル)


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【スタッフ】
監督:藤森雅也/ストーリー原案・シリーズ構成:虚淵玄(ニトロプラス)/脚本:虚淵玄(ニトロプラス),大樹連司(ニトロプラス)/キャラクターデザイン原案:鈴木次郎憂雨市/キャラクターデザイン・総作画監督:細越裕治/サブキャラクターデザイン:立花希望/総作画監督:西岡夕樹遠藤江美/助監督:松尾晋平/プロップデザイン:ヒラタリョウ石森連/アクション作画監督:宮本雄岐堀内博之/美術監督:岡本穂高/美術設定:須江信人多田周平斉婉廷滝沢麻菜美/場面設計・美術設定:関根昌之/色彩設計:中野尚美/撮影監督:佐藤哲平/編集:松原理恵/音楽:Jun Futamata/音響監督:藤田亜紀子/音響効果:中野勝博/アニメーション制作:亜細亜堂/原作:利便事屋

【キャスト】
繰馬雷蔵:笠間淳/碓水幽烟:梅原裕一郎/叢上徹破:武内駿輔/鳰:金元寿子/惣二:葉山翔太/漁澤陣九郎:子安武人/ジェラルド嘉納:大塚明夫

【コメント】
場所は架空の歴史をたどった過去の長崎。信じていた者に裏切られ,居場所を失くした雷蔵に,力なき人たちの復讐を代行する殺し屋集団「REVENGER」が手を差し伸べる,という物語。なんと言っても最大のポイントは,『Fate/Zero』(2011年)『魔法少女まどか☆マギカ』(2011年)『PSYCHO-PASS』(2012年)などの虚淵玄が筆を執ることだろう。オリジナルゆえに未知数の部分も多いが,PVからはハイクオリティのアニメーションやユニークなキャラクター造形がうかがえる。監督は『劇場版アニメ 忍たま乱太郎 忍術学園 全員出動!の段』(2011年)『劇場版 FAIRY TAIL 鳳凰の巫女』(2012年)など,数々の作品でアクションシーンに定評のある藤森雅也。今期の注目オリジナルアニメとなりそうだ。

 

⑪ 『LUPIN ZERO』


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【スタッフ】
原作:モンキー・パンチ/監督:酒向大輔/シリーズ構成:大河内一楼/設定考証:白土晴一/キャラクターデザイン:田口麻美/美術監督:清水哲弘小崎弘貴/色彩設計:岡亮子/撮影監督:千葉洋之/編集:柳田美和/音響監督:丹下雄二/音響効果:倉橋裕宗/音楽:大友良英

【キャスト】
ルパン:畠中祐/次元:武内駿輔/洋子:早見沙織/しのぶ:行成とあ/ルパン一世:安原義人/ルパン二世:古川登志夫

【コメント】
ルパン三世の少年時代
を描くオリジナルストーリー。連載当初の昭和30年代を舞台としているだけあり,PV中にも懐かしい風景や洋服のスタイルなどが見られる。『ルパン三世 カリオストロの城』(1979年)を始め,シリーズに深く関わってきたテレコム・アニメーションフィルム制作ということもあり,『ルパン』の従来の持ち味を活かした作品が期待できるだろう。しかしこちらも「DMM TV独占配信」という方式なのが少々残念である。

 

2023年冬アニメのイチオシは…

2023年冬アニメの期待作として,今回は11作品をピックアップした。なかでも今回のイチオシとして,オリジナル作品『REVENGER』を挙げる。現時点ではTwitterアカウントのフォロワーも少なく,ある意味で“賭け”だが,ここは虚淵玄の手腕に期待しよう。 

次点として,やはり『NieR:Automata Ver1.1a』も挙げたい。ゲーム原作のアニメは成功例が多くないが,本作の高いドラマ性に期待したい。その他,『スパイ教室』伊藤潤二『マニアック』『大雪海のカイナ』も挙げておこう。

以上,2023年冬アニメ視聴の参考にして頂ければ幸いである。

TVアニメ『モブサイコ100 Ⅲ』(2022年秋)第8話の演出について[考察・感想]

 *この記事は『モブサイコ100 Ⅲ』「08 通信中② 〜未知との遭遇〜」のネタバレを含みます。

「08 通信中②〜未知との遭遇〜」より引用 ©︎ONE・小学館/「モブサイコ100 Ⅲ」製作委員会

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第1期(2016年)と第2期(2019年)に続き,大きな注目を集めているONE原作/立川譲総監督『モブサイコ100 Ⅲ』。特に先日放送された「08 通信中②〜未知との遭遇〜」は,宇宙人との遭遇という突飛な物語として元々人気があった上に,第2期の伝説回「05 不和〜選択〜」を担当した名アニメーター・伍柏諭が腕を振るったとあり,SNSでも大いに話題となった。BパートのUFO内のシーンもさることながら,Aパートの暗田トメを中心とした繊細な演出が光る名話数である。詳しく見ていこう。

 

トメちゃんの憂鬱

物語は,犬川,猿田,雉子林ら「脳感電波部」の部員が暗田トメをUFO探しに誘い出し,「泥船山」山中に向かうところから始まる。前話で部員たちのやる気のなさに嫌気が差して「脳感電波部」を解散していたトメは,誘いに乗りながらも少々テンションが低い。

「08 通信中②〜未知との遭遇〜」より引用 ©︎ONE・小学館/「モブサイコ100 Ⅲ」製作委員会

冒頭,カメラは車外からトメのアンニュイな表情を写した後,車内へ移動して今度は斜め後ろから彼女を捉える。爪をいじる仕草からやや退屈気味な内心がうかがえるが,その表情は見えない。自然,視聴者はその表情を“想像”することになる。一度見せていた表情をあえて隠し,手の仕草だけで心の動きを示す。視聴者にトメの心情を伝達すると同時に,その読み込みをも促す上手いシーンだ。

その後,一行は車を降りて徒歩で移動するが,早々に道に迷ってしまい,やがてトメと部員たちは言い争いを始める。UFO探しに対する自分の真剣な気持ちを理解しない部員たちに,トメは感情を抑えきれなくなる。

「08 通信中②〜未知との遭遇〜」より引用 ©︎ONE・小学館/「モブサイコ100 Ⅲ」製作委員会

トメの背後から写したカットは,トメ,竹中,犬川,猿田と山の木々が画面に対して斜めに描かれており,山道の複雑な傾斜とも相まって,画面全体に不安定感を漂わせている。テレパシストであることを疑われた竹中の苦々しい表情と,トメの感情の昂りを前に動揺した犬川の表情もいい。

「08 通信中②〜未知との遭遇〜」より引用 ©︎ONE・小学館/「モブサイコ100 Ⅲ」製作委員会

「真剣な気持ちを踏みじにられた私の気持ちなんて,アンタ達にはわからないのよ…わからないのよ!」と叫びながら感情を爆発させるトメ。ちょっとした“トメサイコ100”の図だ。カメラはその悲痛な表情を捉えた後,にわかに上昇して俯瞰から全員を捉える。山中にトメの声と鳥の羽音が響く。地形をうまく利用した構図とカメラワークによって,言い争いの緊迫感が的確に描き出されている。

 

トメちゃんの高揚

トメは「帰る!帰ります!」と言ってうずくまり,その場を動こうとしない。しかしモブが「トメさん,一緒に歩きましょう」と声をかけると,「わかったわかった。歩けばいいんでしょ!」と言って山道を進み出す。今泣いた烏が,というくらいの変わり身の速さだが,この後のトメの描写がとてもいい。

「08 通信中②〜未知との遭遇〜」より引用 ©︎ONE・小学館/「モブサイコ100 Ⅲ」製作委員会

環境音に代わって軽快なBGMがインし,一行はまるでハイキングでもするかのように山頂を目指す。ここでもカメラはトメの表情を写さず,吊り橋で小走りになったり,廃線の線路の上を軽快に歩いたり,草葉に手を触れたりする仕草だけを捉えることで,“本当は部員達と楽しい思い出作りをしたい”という彼女の本音を描き出している。なお,このようにトメが山登りを楽しむ描写は原作にはなく,この一連のシーンはアニメオリジナルである。

「08 通信中②〜未知との遭遇〜」より引用 ©︎ONE・小学館/「モブサイコ100 Ⅲ」製作委員会

ハイキング気分を楽しんでいたトメは,部員らが本当にUFO探しをしようとしていることに気づく。ここでカメラは改めて彼女の憂鬱な横顔を捉える。

トメはUFOとの交流という自分の「妄想」に部員たちを巻き込んでしまったことに罪悪感を抱いている。それに対し,竹中と部員らは自分たちが「本気」であることを熱く語る。

「08 通信中②〜未知との遭遇〜」より引用 ©︎ONE・小学館/「モブサイコ100 Ⅲ」製作委員会

この時,カメラはトメの背後からトラックアップし,山頂の全員を捉える。先ほどの山中の斜めの構図と違い,こちらは全員が地面に対して垂直に立つ構図になっている。トラックアップによる画面の“凝集”と垂直の安定感が,彼らの心が一つになりつつあることを示しているようでもある。

「08 通信中②〜未知との遭遇〜」より引用 ©︎ONE・小学館/「モブサイコ100 Ⅲ」製作委員会

この後,彼らはモブの超能力の力を借りて本当にUFOを本当に呼び出し,「世界観」があまりにも違いすぎる宇宙人と遭遇し,UFO内に案内される。

 

“部活”の思い出(そして霊幻さんの退屈)

はたして,UFOの内部は「脳感電波部」の部室とそっくりの風景だった。「未知との遭遇」とは言っても,SF超展開になるわけではなく,結局は“日常風景”に帰るというところがいかにも『モブサイコ100』らしくて面白い。

「08 通信中②〜未知との遭遇〜」より引用 ©︎ONE・小学館/「モブサイコ100 Ⅲ」製作委員会

トメと部員たちは,宇宙人との交流という願望を叶えると同時に,部活の思い出作りをもかなえた。このシーンにおける本作ならではのポップなーーそして少々猥雑なーー色彩設計は,これまでどちらかと言えば燻った印象のあった「脳感電波部」の思い出作りが,この上なく華やかな形で成就したことを示している。

「08 通信中②〜未知との遭遇〜」より引用 ©︎ONE・小学館/「モブサイコ100 Ⅲ」製作委員会

その一方で,唯一の“大人”である霊幻は彼らの姿を眩しそうに見やりながら,山中に置いてきたレンタカーのことを気にかけてしまう。トメたちのポップカラーの青春の一幕と,霊幻の力の抜けた表情。このなんとも言えない脱力感のあるコントラストも『モブサイコ100』らしくて実にいい。

「08 通信中②〜未知との遭遇〜」より引用 ©︎ONE・小学館/「モブサイコ100 Ⅲ」製作委員会

かと思えば,犬川“拉致”時に登場するモンスターの背動バリバリの疾走シーン(上図はAjin-進の原画)など,アクション的にも見応えのある画を挿入してアニメファンの目を楽しませるところも憎い。

 

伍柏諭の技

台湾出身の伍柏諭は,『Fate/Apocrypha』(2017年)の「22 再会と別離」,及び,先述した『モブサイコ Ⅱ期』(2019年)の「05 不和〜選択〜」の単独演出によって,日本のアニメファンの間で名を馳せたアニメーターである。

『モブサイコ100 Ⅱ』「05 不和〜選択〜」より引用
©︎ONE・小学館/「モブサイコ100 Ⅱ」製作委員会

どちらかと言えばアクション中心だったこの2つの話数と比べ,今回見てきた「08 通信中②」は日常芝居が中心だ。作画カロリーは相対的に少ないのではないかと思われるが,その分,繊細な演出技術が映えた。その意味でも,伍の新たな側面を垣間見ることのできる貴重な話数だったと言える。

ちなみにキャラクターデザイナーの亀田祥倫によれば,伍は第2期5話で絵コンテをある程度ラフに仕上げ,各アニメーターの采配に任せる手法をとっていたらしい。*1 今回の第3期8話も同様の手法をとったと推測される。ちなみに伍自身も,『Fate/Apocrypha』22話の制作に関して「それぞれのアニメーターごとの作家性や得意分野をイメージしながら,カットごとに当て書きのような形で絵コンテを進めていきました」と言っている。*2 アニメーターの個性を最大限に発揮させるアニメ作り。おそらくこの辺りが伍柏諭演出の魅力の源泉なのだろう。

ちなみに亀田によれば,第1期と第2期では総作監制をほとんど機能させておらず,各話演出担当に采配を任せる体制だった。一方,第3期では「シリアスな展開が続くので,絵柄に差がないほうが内容が入ってきやすい」などの配慮から,亀田が総作監を担当し,作画の統一感を図っているらしい。*3 特に今後の「最終章」からは一気にラストまで駆け抜けることが予想されるため,今回の第8話のような,アニメーターの個性が炸裂した日常回は最後になるかもしれない。

 

さて,諍いを起こしながらも「脳感電波部」が成し遂げた青春の“思い出パワー”は,この後の「最終章」において,主人公モブの“思い出パワー”へと引き継がれていく。アニメ班の技を堪能しつつ,この物語の結末を見届けようではないか。

 

作品データ

*リンクはWikipedia,@wiki,企業HPなど

【スタッフ】
原作:ONE/総監督:立川譲/監督:蓮井隆弘/シリーズ構成:瀬古浩司/キャラクターデザイン:亀田祥倫/美術監督:河野羚/色彩設計:中山しほ子/撮影監督:古本真由子/編集:廣瀬清志/音響監督:若林和弘/音響効果:倉橋静男,緒方康恭/音楽:川井憲次/アニメーション制作:ボンズ

【キャスト】
影山茂夫:伊藤節生/霊幻新隆:櫻井孝宏/エクボ:大塚明夫/影山律:入野自由/花沢輝気:松岡禎丞/芹沢:星野貴紀/暗田トメ:種﨑敦美/ツボミ:佐武宇綺/米里イチ:嶋村侑/郷田武蔵:関俊彦/鬼瓦天牙:細谷佳正

【「#8 通信中②〜未知との遭遇〜」スタッフ】
脚本:
立川譲/絵コンテ・演出・作画監督:伍柏諭
原画:小堀史絵林祐己吉田奏子佐藤利幸佐竹秀幸瀬口泉土上いつき山本荒井和人五十嵐海刈谷仁美簑島綾香久武伊織中村七左篠田知宏橋本有加AJin-進Weilin ZhangBlu ShadeChrisJulian BVincent ChansardVercreekmyounBONONogyaPPP

 

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商品情報

月刊MdN 2018年10月号(特集:アニメの作画)[雑誌]

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*1:「アニメスタイル015」,pp.31-34,スタイル,2020年。

*2:「MdN 2018年10月号」,p.73,エムディエヌコーポレーション,2018年。(ボールドの強調は引用者による)

*3:「月刊ニュータイプ」2022年12月号,p.77,KADOKAWA,2022年。

劇場アニメ『すずめの戸締まり』(2022年)レビュー[考察・感想]:“girl meets herself”ー廃墟の中で,彼女は彼女と出会う

*このレビューはネタバレを含みます。必ず作品本編をご覧になってからこの記事をお読みください。また『雨を告げる漂流団地』と『ぼくらのよあけ』の内容にも一部触れておりますのでご注意ください。

『すずめの戸締まり』公式Twitterより引用 ©︎「すずめの戸締まり」製作委員会

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新海誠監督『すずめの戸締まり』は,ラブストーリー,ロードムービー,マスコットキャラ,妖怪バトルなど多くのエンタメ要素を盛り込みながら,これまで以上に高いポピュラリティを獲得することを狙った作品だ。しかし同時に本作は,同監督の『君の名は。』(2016年)と『天気の子』(2019年)がフィクションの形で迂回してきた〈震災〉というテーマを真正面から扱ったセンシティブな作品でもある。はたして新海は,“エンターテインメントで震災を語る”という難題にどう取り組み,どこまで成功したのか。

 

あらすじ

九州のとある静かな町に暮らす高校2年生の少女・岩戸鈴芽は,ある日,旅の青年・宗像草太と偶然出会う。彼は災禍をもたらす世界の「扉」を閉ざしながら旅をしているのだという。やがて2人の前に,不思議な猫・ダイジンが姿を現し,草太を椅子の姿に変えてしまう。鈴芽と草太は,逃げるダイジンを追いかけながら各地の「扉」を閉ざしていく旅に出る。

 

廃墟と共に

「未来都市は廃墟である」

こう断言したのは外でもない,建築家の磯崎新であった。彼は垂直方向に屹立するーーつまりポジティブなーー構造物を創造する建築家でありながら,「未来」というポジティブと「廃墟」というネガティブを無媒介に接続してしまったのだ。

1931年生まれの磯崎は,少年時代に戦災による都市崩壊を目の当たりにした。それは単なるアクシデント=偶発事ではなく,むしろ事物の普遍的な本質として,彼の心に深く刻み込まれた。磯崎はこう述べる。

私はおそらく生涯,建築をつくりつづけることになるだろう。その過程でつくられた建築は,生物が死を迎えるように,いつかは廃墟になる。いや立ち上がった瞬間から既に廃墟に向かって歩みはじめる。その関係を見据えるならば,それが構想されたときから,既に廃墟をみずからのうちに包含しているとみてもいいのではないか。建築は廃墟として構想されることが可能になる。当然ながら,それは未完でありつづけるし,壊れつづけることになろう。*1

少年時代の磯崎が見たものは戦争の暴力がもたらした廃墟だったが,災害や時の経過がもたらす廃墟も本質的に変わりはない。すべての人工構造物は,すでに・常に〈廃墟〉を含み込んでいる。廃墟は,そしてそれをもたらす巨大な力と時は,人に抗いようのないものとして常にそこにある。その意味で,僕らは廃墟の中で,廃墟と共に生きている。にもかかわらず,あるいはだからこそ,建築は作られ続けていく。

新海が『すずめの戸締まり』の廃墟の風景によって描こうとしたのも,第一にそのような〈廃墟の遍在〉というペシミズムだったのではないか。むろん,戦中世代ではない新海にとっての廃墟は,表面的には磯崎の目に映っていた廃墟とは異なるだろう。しかし彼が「日本という国自体が,ある種,青年期のようなものを過ぎて,老年期に差し掛かっているような感があった」*2 と述べる時,彼の念頭には,磯崎のものと同じ〈廃墟の本質〉があったと思われる。戦争の暴力か,災害や時の経過か,といった作用因の表層的な違いとは関係なく,事物の根本的本質を構成する〈廃墟の普遍性・遍在性〉。磯崎と新海は,世代を超えて同じ感性を共有していると言える。

というのも,新海は本作の企画書の中でこうも述べているからだ。

災害については,アポカリプス(終末)後の映画である,という気分で作りたい。来たるべき厄災を恐れるのではなく,厄災がどうしようもなくべったりと日常に貼り付いている,そういう世界である。*3

「厄災がどうしようもなくべったりと日常に貼り付いている」世界。災害と,それがもたらす崩壊とが,潜在的な可能性として,そして確かにあった過去として,すでに・常に内包されている世界。その象徴が,この作品の中で印象的にーー時に美しくーー描かれる廃墟なのだろう。

『すずめの戸締まり』より引用 ©︎「すずめの戸締まり」製作委員会

新海の美術チームが描く繊細な廃墟は,人の構造物に内在する〈廃墟〉のリアリティに確かに迫っている。廃墟そのものだけではない。作中で描かれる田舎町の建物の風化の度合い,ルミが働く場末のスナックの猥雑感,あるいは芹澤の乗る中古車や鈴芽の椅子の壊れ具合までもが,そうした〈廃墟性=力と時間〉のリアリズムを具現しているように思える。

ところで,今年は偶然にも“団地”を舞台にした劇場アニメ作品が2つ公開されている。石田祐康監督『雨を告げる漂流団地』黒川智之監督『ぼくらのよあけ』だ。どちらも,廃れゆく昭和時代の団地への郷愁を描いたという点が共通する。

『雨を告げる漂流団地』公式Twitterより引用 ©︎コロリド・ツインエンジンパートナーズ

特に『雨を告げる漂流団地』は,団地を擬人化することで,構造物に対するヒューマンな感情移入を促した点でたいへん興味深い。確かに僕らは廃墟に“感情移入”をすることがある。そこには,かつてそこに人々が生きていたという痕跡が遺されているからだろう。廃墟は,人々の過去の営みを内包しながら,時と共に僕らの生活圏の中に蓄積していく。それは今を生きる人々の営みに隣接しつつ,時に人々の愛惜,あるいは哀惜の対象となる。

そして『すずめの戸締まり』における新海のユニークネスは,その廃墟を「悼む」という感情動詞で捉えようとした点にある。彼によれば,「扉を閉ざす」というモチーフは,「場所を悼む」という意味を担っているのだという。

かつて栄えていた場所や街が,人が減って寂れていったり,災害で風景が失われてしまったり。最近そういう場所が日本中に増えているなという実感があったんです。そういう「場所」を悼んだり鎮魂したりする物語ができないかとイメージしたとき,自ずと出てきた作品舞台が,人のいなくなった寂しい場所,つまり,廃墟だったんです。*4

ただ郷愁を覚えるだけでなく,廃墟という事物に霊を見出し,能動的に悼み,鎮める。こうした新海のユニークなアニミズムは,地震頻発国に生き,廃墟の潜在的可能性をより身近に感じる僕らの感性に強く訴えかけるものだろう。

 

重なる廃墟と日常

そしてだからこそ,新海は廃墟を外在的な異空間ではなく,あくまでも内在的な現実空間として描こうとしたのだろう。特に印象的なのは,「扉」を閉める際に,廃墟とそこで生きた人々の日常が重ね合わせられるシーンだ。廃墟の中で「扉」を発見した後,鈴芽と草太はかつてそこで暮らしていた人々の営みを想起する。すると扉に「鍵穴」が現れ,草太の持つ鍵によって扉を閉ざす=鎮めることができるようになる。これはおそらく,終盤の草太の言葉によって明かされる「人の心の重さが,その土地を鎮めてるんだ」*5 という“設定”と関連するのだろう。廃墟を人の営みから排除された外部世界として描くのではなく,あくまでも人の営みと重ね合わせようとする演出意図がうかがえる。

ラストシーンの「常世」の廃墟にも同様のシーンがある。草太が燃え盛る町を前に祈りの言葉を捧げると,かつてそこで営まれていた日常の風景が鈴芽の目前に浮かび上がる。少々長くなるが,小説版から引用してみよう。

燃える夜の町が,薄いカーテンを透かしたかのようにゆらゆらと揺れていた。瓦礫の黒と炎の赤が溶け合うように淡くなっていき,代わりにゆっくりと,瑞々しい色彩が浮かび上がってくる。

それは朝日に照らされた,かつてのこの町の姿だった。色とりどりの屋根が陽射しを反射し,道路には何台もの車が走り,信号機の赤や青がちらちらと瞬いていた。ずっと奥の青い水平線には,白い漁船が光を散らしたように浮かんでいた。空気は澄み渡り,来たるべき春の予感をたっぷりと含んでいた。そこには生活の匂いも豊かに混じっていた。味噌汁の匂いがあり,魚を焼く匂いがあり,洗濯物の匂いがあり,灯油の匂いがあった。それは早春の,朝の町の匂いだった。*6

廃墟の風景の上に,二重露光のように重ね合わせられる日常の風景。映画を観た人であれば,この文章の通りの風景が映像化されていたことがわかるだろう。実は,当初の脚本と絵コンテには,ここに引用したような日常風景のシーンはなく,制作段階で敢えて付け加えられたらしい。

常世については,そこを燃えている町として表現すること自体にも,不安がありました。そのようなビジュアルを見たくない人も,少なからずいるに違いない。でも,やはり鈴芽の行く常世はそのような場所でなければならないと思いました。鈴芽の心の中では,町はまだ燃えているのだと。だとしたら,鈴芽はそこで何をすれば良いのか。ミミズを封印するだけで良いのか。考えていくうちに,鈴芽はその場所にあったはずの声を聴かなければいけないのではないかと思い至りました。*7

『すずめの戸締まり』より引用 ©︎「すずめの戸締まり」製作委員会

「その場所にあったはずの声」とは,この廃墟に昔暮らしていた人々の「おはよう」「いただきます」「いってきます」「ごちそうさま」「いってらっしゃい」という〈日常の声〉である。燃え盛る廃墟と,そこに重ね合わせられる日常のシーンが,本作で最も強烈なーー人によっては過酷すぎるーー印象を放つことは言うまでもない。それは明確に東日本大震災の被災地を想起させるからだ。だからこそ,新海もこのシーンの描写には相当な覚悟が必要だったのだろう。燃える廃墟とかつての日常を重ね合わせる。10年以上を経た今でも,この風景に耐えられない人はもちろんいるはずだ。新海はそれを敢えて行った。この英断が,本作に決定的な重みを付与したことは間違いない。

こうした文脈では,「扉に鍵をかける」という所作が,家の鍵や自転車の鍵をかける所作と重ね合わせられているシーンも意味深い。

『すずめの戸締まり』より引用 ©︎「すずめの戸締まり」製作委員会

「鍵をかける」=「場所を悼む」ことは,特殊な魔術的所作ではなく,あくまでも日常的な所作の延長である。この作品において,廃墟も,その廃墟を「悼む」所作も,僕らの日常と地続きのものとして描かれている。まさしく,新海自身が語った「厄災がどうしようもなくべったりと日常に貼り付いている」世界こそが,この作品のコアメッセージに他ならない。

しかし,はたしてこの作品がそれを十分に伝えきれているかということになると,若干の留保が必要ではないか。というのも,「厄災がどうしようもなくべったりと日常に貼り付いている」はずの世界は,「常世」という“異世界”の中で,妖怪バトルのごときパワフルなアクションによって思いのほかあっさりと救済されてしまうからだ。都市の地下深くに潜在していた震災の可能性は,まるでなかったかのように人々の目から“隠蔽”されてしまう。エンターテインメントに擦り寄ったスペクタクルな“救済物語”が,新海が伝えようとしたコアメッセージーー「厄災がどうしようもなくべったりと日常に貼り付いている」世界ーーを少なからず希釈してしまった(ゆえに,僕らはインタビューなどの情報からメッセージの濃度を補充しなければならない)感は拭えない。

ここには新海誠,あるいはすべてのアニメ制作者のジレンマが明確に示されている。廃墟および厄災と共に生きるというコアメッセージは深い意味を持っている。エンターテインメントという媒体を用いれば,そして“新海誠”というブランド力をもってすれば,それが広範囲の層にリーチする可能性は確かに高まる。しかしその分,そのインパクトが弱められてしまう危険性も避け難い。はたして,こうしたテーマが十分な強度で同程度のリーチを得ることは,エンターテインメント作品にとって可能なのか。アニメは僕ら日本人のトラウマをどこまでリアルに伝えることができるのか。

 

girl meets herself

さて,新海が描こうとしたこの過酷な世界観の中で,主人公・岩戸鈴芽の成長はどう描かれているだろうか。最後にこの点を確認してみたい。

まず大前提として押さえておくべきは,この作品が“ラブストーリーではない”という点だ。あるいはより正確に言えば,“少なくともこれまでの新海作品におけるラブストーリーとは異なるものになるはずだった”といったところだろうか。「鈴芽の夢」「草太との出会い」「ラストの常世」の流れを追ってみよう。

物語は鈴芽の“夢”から始まる。星が異様に輝く空の下,雑草に覆われた廃墟の中を幼い頃の鈴芽が母の姿を求めて歩いている。母親を見つけられずうずくまる鈴芽の元に,白いワンピースを着た女性が姿を表し,鈴芽に優しく語りかける。鈴芽はそれを母親だと思う。彼女は夢から覚め,普段通り自転車で登校する。道すがら,草太の姿を見みかけた彼女は思わず「きれい…」とつぶやく。一見,多感な少女の一目惚れに思える。しかしすれ違いざま,彼女は草太の姿に“何か”を感じる

『すずめの戸締まり』より引用 ©︎「すずめの戸締まり」製作委員会

彼に廃墟の場所を教えた後,鈴芽はいったん学校に向かうが,途中で思い直したように廃墟に向かい,「あの,わたしー!あなたとー,どこかで会ったことがあるような気がー!」と叫びながら草太を探す。どうやら彼女は夢の中で見た女性と草太とを結びつけているようだ。

この謎はラストシークエンスで明かされる。幼い頃に開いた扉から「常世」に入った鈴芽は,ミミズを鎮めた後,草太から白いロングシャツを身体にかけてもらう。それはまるで白いワンピースのように見える。その後,鈴芽は常世を彷徨う一人の少女を見つける。それは幼い頃に「常世」に迷い込んだ彼女自身(以下「すずめ」)だった。母を見つけられずに泣きじゃくるすずめに,鈴芽は優しく声をかける。そう,夢の中で母だと思っていた女性は,12年後の自分自身だったのだ。したがって,草太との最初の出会いで感じた“何か”も,結局は自分自身を再帰的に認識したもの,ということになる。

鈴芽はすずめに常世で拾った「椅子」を手渡しながらこう言う。

あのね,すずめ。今はどんなに悲しくてもね,すずめはこの先,ちゃんと大きくなるの。だから心配しないで。未来なんて怖くない!あなたはこれからも誰かを大好きになるし,あなたを大好きになってくれる誰かとも,たくさん出会う。今は真っ暗闇に思えるかもしれないけれど,いつか必ず朝が来る。あなたは光の中で大人になっていく。必ずそうなるの。それはちゃんと,決まっていることなの。

不思議そうな顔で「お姉ちゃん,だれ?」と問うすずめに,鈴芽は「私はね,私は,すずめの,明日」と答える。鈴芽は「12年間生きた」という端的な事実によって,つまり自分の未来を示すことによって,過去の自分を救う。廃墟に重ね合わせられた過去の人々の「おはよう。いただきます。いってきます。ごちそうさま。いってらっしゃい」という日常的な挨拶を,彼女は叔母や友人たちと12年間交わし続けることができた。素朴だが,かけがえのない日常を生きられたという事実こそが,災害という過酷な運命を経験した自分自身の救いとなるのだ。

このことは,常世の中で神に向かって呼びかけた草太のセリフとも呼応する。

命がかりそめだとは知っています。死は常に隣にあると分かっています。それでもいま一年,いま一日,いまもう一時だけでも,私たちは永らえたい!猛き大大神よ!どうか,どうか!お頼み申します!

「厄災がどうしようもなくべったりと日常に貼り付いている」世界において,限られた小さな日常を生き得た。広大な大地の上に,小さな小さな〈日常〉という痕跡を遺し得た。この事実を認識することこそが,廃墟=過去の人々を悼み,自分自身を救うことになる。これが,長い旅の中で鈴芽が果たした成長である。

結局,草太との出会いは自分自身との出会いだった。要するに,これはラブストーリーという回路を経由した〈自己認識〉あるいは〈自己救済〉の物語なのだ。“boy meets girl”ならぬ,“girl meets herself”の物語と言ってもいいだろう。そもそも恋愛とはそういうものなのかもしれない。人は多かれ少なかれ,恋愛対象の中に己自身を見出している。精神分析学を持ち出すまでもなく,僕らは恋愛対象を経由した自己認識を日常的に行っている。この〈他者を経由した自己認識〉という回路を,タイムリープという大道具を用いてファンタジーに仕上げた点に新海のアイディアがある。そしてこの辺りが,これまでどちらかと言えば伝統的な“boy meets girl”(この呼称そのものからわかる通り,それは多分に男性主体の物語である)を描いてきた新海作品と大きく異なる点だ。

しかしここでもまた,少々の留保が必要である。というのも,本作で新海は“boy meets girl”と“girl meets herself”の間で揺れ動いているように思えるからだ。

ラストシーンを思い出してみよう。自転車で登校する途中,坂を降る鈴芽が,坂を登る草太と再会する。鈴芽は草太に「おかえり!」と声をかける。かつて「常世」の廃墟に生きた人々の「おかえり」と重ねることで,鈴芽が草太とかけがえのない〈日常〉を生きていくことを暗示した重要なシーンだ。

しかしこのシーンには,新海が自身のテーマに対して抱いていたアンビヴァレントな態度が見え隠れしているように思える。というのも,この際の鈴芽と草太の構図は『君の名は。』と『天気の子』のラストシーンと非常によく似た構図になっているからだ。“坂道での再会”というモチーフをリサイクルすることによって,まるで伝統的な“boy meets girl”(あるいは“girl meets boy”と言ってもよいが)に回帰してしまっているように見える。新海が“boy meets girl”を完全に脱去し,“girl meets herself”の物語に徹し切れていないという印象を抱いてしまう。

左:『君の名は。』より引用 ©︎2016「君の名は。」製作委員会
右:『天気の子』より引用 ©︎2019「天気の子」製作委員会

このことは,新海自身の発言からもうかがえる。劇場用パンフレットに掲載されたインタビューで,彼は「最初に『すずめの戸締まり』というい作品を作ろうと思ったときに,今回は恋愛ではない映画にしたいというのがありました」*8 と述べている。しかしその一方で,企画書では「ターゲットとする観客を想定するのだとしたら,ラブストーリーを求める十代に向けるもちろんだが」とも書いているのだ。おそらく興行的な配慮(したがって,新海自身の判断ではない可能性ももちろんある)もあってか,“boy meets girl”を求める若者にリーチするという“下心”が隠しきれていない。“boy meets girl”と“girl mees herself”の間で揺れた新海のアンビファレンツが,ラストシーンをどっちつかずの印象にしてしまった可能性がある。

「厄災がどうしようもなくべったりと日常に貼り付いている」世界の中で,彼女は自分自身を救済した。『すずめの戸締まり』という作品に込められたこのメッセージには,極めて強い説得力がある。しかし今のところ,新海誠が本当にやりたかったことは,彼が本当に望んだ形で示されてはいないように思える。

 

作品データ

*リンクはWikipedia,@wiki,企業HPなど

【スタッフ】
原作・脚本・監督:新海誠/キャラクターデザイン:田中将賀/作画監督:土屋堅一/美術監督:丹治匠/音楽:RADWIMPS陣内一真十明/音響監督:山田陽/音響効果:伊藤瑞樹/制作:コミックス・ウェーブ・フィルム

【キャスト】
岩戸鈴芽:原菜乃華/宗像草太:松村北斗SixTONES/ダイジン:山根あん/岩戸環:深津絵里/岡部稔:染谷将太/二ノ宮ルミ:伊藤沙莉/海部千果:花瀬琴音/岩戸椿芽:花澤香菜/芹澤朋也:神木隆之介/宗像羊朗:松本白鸚

 

作品評価

キャラ

モーション 美術・彩色 音響
3.5 4.5

5.0

4.0
CV ドラマ メッセージ 独自性

4.0

3.5 4.0 3.5
普遍性 考察 平均
4.0 4.0 4.0
・各項目は5点満点で0.5点刻みの配点。
・各項目の詳細についてはこちらを参照。

 

関連記事

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商品情報

*1:磯崎新「廃墟論」(『磯崎新建築論集 2 記号の海に浮かぶ〈しま〉ー見えない都市』,岩波書店,2013年に所収。)

*2:劇場特典「新海誠本」,p.6。

*3:同上,p.4。

*4:『すずめの戸締まり』劇場用パンフレット,p.14。

*5:以降の映画のセリフの引用は,小説版を元に修正したもの。

*6:新海誠『小説 すずめの戸締まり』,pp.341-342,角川文庫,2022年。

*7:「新海誠本」,p.13。

*8:劇場用パンフレット,p.15。

2022年 秋アニメ 中間評価[おすすめアニメ]

*この記事にネタバレはありませんが,各作品の現時点までの話数の内容に言及しています。未見の作品を先入観のない状態で鑑賞されたい方は,作品を先にご覧になってから本記事をお読みください。

 

今年も残すところ一月半。2022年秋アニメもほとんどの作品がクール半ばまでの放送終えている。今回も,現時点までの当ブログ最注目作品を五十音順に(ランキングではないことに注意)いくつか取り上げてみたい。

なお「2022年 秋アニメは何を観る?」の記事でピックアップした作品は,タイトルを茶色にしてある。 

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1 『異世界おじさん』

isekaiojisan.com

新型コロナウィルス感染拡大に伴い,放送が夏クールから秋クールにシフトされたため,当ブログでも秋アニメとして扱うこととする。本記事執筆時点では第6話までの放送が終了している。以下に「2022年 夏アニメ 中間評価」の際のコメントをペーストしておく。

異世界帰りのおじさんと甥のコメディという設定の妙に加え,子安武人(おじさん)と福山潤(甥のたかふみ)のシュールな掛け合いが癖になる秀作ギャグアニメだ。特に子安武人のキャスティングは,このキャラクターにとって最適解だと言えるだろう。独特なテクスチャーの作画もとてもいい。異世界モノのテンプレートに対するオルタナティブとして,このジャンルの底知れぬポテンシャルを感じさせてくれる作品でもある。

 

2 『機動戦士ガンダム 水星の魔女』

g-witch.net

女性主人公学園モノ決闘,そして百合風味と,これまでのガンダムシリーズにはあまり見られなかった成分をふんだんに盛り込んだ意欲作。多くの要素を含みながらも,全体としてきれいに整合性が保たれているため,ストレスなく物語を追うことができる。その意味で,“ガンダム初心者”向けの安定感のあるシリーズと言える。いやあるいは,後半の話数で何らかの“超展開”が起こるのか。

 

3 『サイバーパンク エッジランナーズ』

www.cyberpunk.net

Netflixにて全話配信済み。ポーランドのアクションRPGゲーム『サイバーパンク2077』をベースとしたスピンオフアニメで,海外でも人気の高いTRIGGER今石洋之が監督を務めるということもあり,当初から期待度の高かった作品。TRGGERらしい,ギラギラとしたスピード感のあるアニメーションと“日本アニメ”の風味の融合体が,みごと海外向けに“翻訳”されている。そしてラストにかけてのエモーショナルな演出。間違いなくTRGGER今石の最高傑作の一つとなるだろう。

 

4 『SPAY×FAMILY 第2クール』

spy-family.net

新たなキャラクター・ボンドがフォージャー家に加わり,いっそう賑やかさを増した本作。第2クールに入って諸々こなれた感もあり,特にアーニャの絡むギャグシーンなどは第1クールよりもテンポがよくなったように思える。今後も安心して見続けられるシリーズになりそうだ。しかしその一方で,アニメならではのサプライズ演出が見られることを期待してしまう。この制作陣の力量であれば,第1クールで見られたような良質なアニオリをそれなりの頻度で繰り出しても問題ないだろう。今後に期待だ。

 

5 『チェンソーマン』

chainsawman.dog

絶大な人気を誇る藤本タツキの原作に,今をときめくMAPPAの制作,及び「一社提供」という近年の深夜アニメでは異例の製作方式と,放送前から大きな話題を集めた作品。意図的に抑えられた演出は特に原作勢の間では賛否が分かれているが,個人的には,抑制された芝居とヴァイオレントなアクションで〈静と動〉のコントラストを描く本作の演出方針は高く評価したい。

 

6. 『Do It Yourself!! -どぅー・いっと・ゆあせるふ-』

diy-anime.com

「何を観る?」の記事ではピックアップしなかったが,魅力的なキャラクター丁寧な作画ユニークな舞台設定と,なかなか見どころの多いオリジナルアニメだ。ビッグタイトルが多い今期にあって決して派手な存在感の作品ではないが,この手の良質な小品が定期的に生まれてくるのが日本の深夜アニメのいいところだ。第1話と第2話の演出に関して,以下の記事を参照いただきたい。

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7. 『ぼっち・ざ・ろっく!』

bocchi.rocks

制作陣の自由な解釈が炸裂し,極めて表現力豊かなアニメーションに仕上がった傑作。デフォルメとリアル,ギャグとシリアスの配分がほどよく,毎話飽きさせない作りをしている。「何を観る?」の記事でもコメントしたが,同じガールズバンドを描いた『けいおん!』と比べてみるのも面白いかもしれない。特にキャラ(クター),主要舞台(学校/ライブハウス),楽器の扱い方などにおいて,両作品の間には大きな違いが見られる。第1話から第3話の演出について,以下の記事を参照いただきたい。

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8. 『モブサイコ100 Ⅲ』

mobpsycho100.com

原作をリスペクトしつつも,ほぼオリジナル作品として楽しめるほど制作陣の豊かな解釈が施された本作。第1期・第2期の制作方針を踏襲しつつも,第3期では亀田祥倫が総作監として全話をチェックし,作画の統一を図っている。「第3期ではシリアスな展開が続くので,絵柄に差がないほうが内容が入ってきやすい」という配慮があってのことらしい(「月刊ニュータイプ」2022年12月号掲載のインタビューより)。つまり作画の統一感が,物語が佳境に入ったことを示している。この辺り,あえて総作監を置かずに,アニメーターの自由裁量に任せた第1期・第2期と比べてみるのも面白いだろう。ともあれ,僕らはとうとうこの物語の結末を目にすることができるわけだ。第1期と第2期のレビューは以下の記事を参照していただきたい。

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9. 『ヤマノススメ Next Summit』

yamanosusume-ns.com

これまでと同様,各話でアニメーターの個性がはっきり出る作り方をしており,毎話制作陣のテクニックを見るのが楽しみな作品だ。また吉成鋼のEDアニメーションも本編に合わせて毎話変化するため,実質“Cパート”を観るのに近い楽しみがある。アニメーターたちの技を堪能しつつ,末長く楽しめる作品になるだろう。

 

以上,「アニ録ブログ」が注目する2022年秋アニメ9作品を挙げた。今回は当初の期待作が豊富だったこともあり,いつもよりも多めのピックアップとなった。最終的なランキング記事は,全作品の放映終了後に掲載する予定である。

アニメを“書く” ーグーテンベルクの比較的小さな銀河系の中でー

近所の町の本屋がおしゃれスーパーになっていた。また一つ,町から活字文化が姿を消した。

…というのはやや感情的に過ぎるノスタルジーかもしれない。以前と比べれば電子書籍の比率は(当初の予想より限定的とは言え)増しているだろうし,そもそもニッチ分野の書籍ならネットで買う方がはるかに便利だ。一般的な町の書店が減少し,店主の趣味を全面に押し出した超個性的な書店だけが生き残る,というのは必然的な流れなのだろう。そう言えば,かの槙島聖護だって「紙の本を買いなよ」とは言ったが,「町の本屋で買え」とは言わなかったのだ(もっとも,読書の感覚体験を重視する彼は,そのように主張してしかるべきなのだが)。

とは言え,現代文化から文字のプレゼンスが相対的に低下しているかのように感じることは確かだ。読むよりも見る,書くよりも撮る。そしてブログよりも動画。かく言う僕も,YouTubeでアニメのレビューをしようかと考えたことがある。だが5秒考えてやめることにした。性に合わないというのもあるが,やはり〈書き言葉〉という媒体にこだわりたいというのが一番大きな理由だ。

ひょっとしたらYouTube等を使って,身振り手振りを交えた話し言葉で語った方が,アニメのような映像文化を伝えるのに適しているのかもしれない。そしてその方が,現代のネット世界ではアピール度が高いのかもしれない。アニメという媒体の性質上,“読者”よりも“視聴者”の獲得に注力すべきなのかもしれない。でも僕は,あえて〈書き言葉〉で伝えることを選択した。

実は,僕は当初ブログの文体を敬体(です・ます調)で書いていたのだが,後に常体(だ・である調)に変えたという経緯がある。おそらくマジョリティであろう敬体のブログから一線を画したいという気持ちと,このブログにあえて〈書き言葉〉性を付与するという意図があってのことだ。

アニメレビューでは必要に応じて主要なカットの画像を補助的に引用しているものの,書き言葉,特に常体の書き言葉でアニメを語る際には,いろいろな制約が生じる。画像の特定の部分を指で差し示したり,声のトーンで感動を伝えたりすることができない。場合によっては「マジやばいっす」の一言が最適解であるような場合にも,常体の書き言葉ではその都度それなりに適切な表現に置き換えなければならない。

しかし制約があるからこそ,あるカット,あるシーンの面白さや魅力を伝えるべく,語彙や表現を試行錯誤する。同じカットを何度も何度も観直しながら,何度も何度も思考をめぐらす。自然,1つのカットやシーンについての“分析解像度”も増していく。観ながら書き,書きながら観て,推敲してはまた観直す。先日書いた『ぼっち・ざ・ろっく!』の記事では,第1話から第3話までを5回は観直しただろうか。部分的には10回以上観返したカットもある。そのようにして出来上がった言葉が,ジェスチャーや声のトーンよりも的確に伝えられる何かがあると僕は確信している。書き言葉固有の説得力があると確信している。その“何か”や“説得力”の実体については,ひとまず当ブログの読者の皆さんに判断を委ねておこう。

このブログではしばしば主張していることだが,古いメディアよりも新しいメディアが優れている,あるいはその逆である,という考え方は,それ自体が“古い”。古いメディアと新しいメディアが共存できる状況が“新しい”のだ。だから現代の音楽視聴シーンでは,ストリーミングとCDとカセットとレコードが共存している。アニメを語る言葉も同じだ。「ブログはもう古い。これからは…」と言われるようになって久しいが,ブログが映像発信に完全にとって代わられるといった思考は,かつてのCD全盛時代の「レコードは終わった」的思考と同じくらい安直だ。ブログの相対的な存在感が縮小したことは確かだが,その存在意義が減退したわけではない。いやむしろ,映像文化時代だからこそ,〈書き言葉〉媒体としてのブログのユニークな意義はクロースアップされてしかるべきなのだ

だから僕は今後も〈常体の書き言葉〉でアニメを語る。

思えば,アニメを“語る”という言い方はするのに,アニメを“書く”という言い方はしない。だからこそ,ここではあえて言おう。このブログはアニメを“書く”ブログであると。

TVアニメ『ぼっち・ざ・ろっく!』(2022年秋)第1〜3話の演出について[考察・感想]

 *この記事は『ぼっち・ざ・ろっく!』「#1 転がるぼっち」「#2 また明日」「#3 馳せサンズ」のネタバレを含みます。

「#3 馳せサンズ」より引用 ©︎はまじあき/芳文社・アニプレックス

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はまじあき原作/斎藤圭一郎監督『ぼっち・ざ・ろっく!』は,隠キャ生活を脱出すべくギターを始めたぼっちこと後藤ひとりが,コミュ障を克服しながら女子高生ガールズバンドとして活躍していく姿を描いた“きらら枠”TVアニメである。ユニークな構図・デフォルメ・モーションなどによって,ぼっちのコミカルなキャラを豊かに演出した本作は,アニメーションの楽しさを改めて教えてくれる良作である。今回の記事では,「#1 転がるぼっち」「#2 また明日」「#3 馳せサンズ」の演出を詳しくい見ていこう。

 

ぼっち in boxes

アニメ版で目を引くのは,主人公・後藤ひとりのキャラである“ぼっち”感を多彩な空間描写で表現している点だ。

「#1 転がるぼっち」より引用 ©︎はまじあき/芳文社・アニプレックス

まず斎藤圭一郎絵コンテ・演出「#1 転がるぼっち」の冒頭では,押入れに引きこもってギターを演奏するぼっちの姿が描かれる。ここでは「押入れ」という狭小空間によってぼっち感が演出されている。カメラに写り込む様々なプロップやライトとノートパソコンの光源(後述するライブハウスのライトを連想させる)によって,空間の狭隘感とぼっちの孤独感が的確に演出されている。一方,その後の教室のカットでは,広角気味のアングルで広く捉えた教室の遠景にぼっちを配置することで,ぼっち感が演出されている。〈狭/広〉という対照的な構図でぼっちのキャラが視覚化されているのが面白い。本作の演出手法の幅の広さを窺わせる。

さらに面白いのは,この「押入れ」の狭小空間がゴミ箱=段ボール=ライブハウスというアソシエーションに発展していく点だ。

「#1」の初セッションで虹夏に「ド下手」と言われ自信をなくしたぼっちは,ライブ本番の直前にゴミ箱に引きこもってしまう(この際のカメラアングルもすこぶる面白い)。虹夏とリョウの説得によって,ぼっちは「完熟マンゴー」の段ボールの中で演奏することになる。冒頭の「押入れ」のぼっち感がゴミ箱と段ボールによってそのまま引き継がれている。

「#1 転がるぼっち」より引用 ©︎はまじあき/芳文社・アニプレックス

一方,もう1つの「箱」であるライブハウスは,もう少し複雑な意味を担っている。

ぼっちは虹夏に連れられて訪れたライブハウス「STARRY」を見るや,「この暗さ,この圧迫感…お…落ち着く〜」と独り言ちながら,この狭小空間に並々ならぬ親近感を覚える。小規模キャパのライブハウスは俗に「箱」と呼ばれるが,ぼっちにとってライブハウスは,まさに押入れやゴミ箱や段ボールと同じように落ち着くことのできる「箱」なのだ。

「#1 転がるぼっち」より引用 ©︎はまじあき/芳文社・アニプレックス

しかしライブハウスは,押入れや段ボールとは違い,孤独に引きこもることができない場所だ。そこには他のバンドメンバーがいて,観客がいる。そこは音楽の楽しさを他者と共有する空間なのだ。「#2 また明日」で,ライブハウスのアルバイトをする虹夏とぼっちのやりとりを見てみよう。

虹夏:あたしね…このライブハウスが好きなの。だからライブハウスのスタッフさんがお客さんと関わるのってここと受付くらいだし。いい箱だったって思ってもらいたいって気持ちがいつもあって。[中略]あたし,ぼっちちゃんにもいい箱だったって思って欲しいんだ。楽しくバイトして,楽しくバンドしたいの。一緒に。

虹夏のこのセリフの後,ぼっちはバンドの演奏を見ながら次のようにモノローグを始める。

ぼっち:会場が一体になって,お客さんも演者も楽しそう。それに比べて私のライブは…お客さんは2000円も払って見に来てるんだよね。そんな人たちに…今の私のままじゃ,次もグダグダなライブをするんだろうな。少しずつでも変わる努力をして,一緒に楽しくしたい。

左・中:「#2 また明日」より引用/右:「#2 転がるぼっち」より引用
©︎はまじあき/芳文社・アニプレックス

隠キャを脱出したいと願うぼっちは,やがて押入れという“箱”から,ライブハウスという“箱”に少しだけ世界を広げていくのだろう。ぼっちにとってライブハウスは,押入れのように親密な〈閉鎖的内部〉であると同時に,少しだけ社会性を求められる〈開放的外部〉でもある。ライブハウスのバンドマンたちを照らすライトの光源が,押入れでぼっちを照らすライトの光源と似ているのも偶然ではないかもしれない。

 

背動,スクウォッシュ&ストレッチ

山本ゆうすけの絵コンテ・演出による「#3 馳せサンズ」は,この作品のアニメーションとしての面白さを存分に出した名話数だ。まず,押入れ,ゴミ箱,段ボールに続いてぼっちのぼっち感を生み出す「謎スペース」のシーンを見てみよう。

相変わらずクラスメイトと会話ができないぼっちは,掃除道具が置かれた「謎スペース」でひとりお昼を食べる。そこに通りかかった郁代をぼっちが覗き見する。郁代の陽キャオーラに当てられたぼっちは「アイデンティティの崩壊」を起こしてしまう。

「#3 馳せサンズ」より引用 ©︎はまじあき/芳文社・アニプレックス

背景を少しずつ動かしながら,頭を抱えるぼっちにトラックアップしていき,実写映像の風船破裂と「ペチョ」の音で落とす。背動&トラックアップによる緊張感,実写の異化効果,「ペチョ」音のコミカルさを連係させた,技巧的な演出だ。

さらに「STARRY」でのアルバイト風景のシーン。郁代の陽キャオーラたっぷりのバイト姿に打ちのめされたぼっちは,再びゴミ箱に引きこもり,再びアイデンティティを喪失。「その日入った新人より使えないダメバイトのエレジー」を歌い始める。

「#3 馳せサンズ」より引用 ©︎はまじあき/芳文社・アニプレックス

ぼっちの入ったゴミ箱が突如スクウォッシュ&ストレッチし始め,ぼっちがギターをニュルッと引っ張り出して演奏を始める。やがてぼっちは幽霊のような姿になってリョウの目の前で昇天していく。短いが,非常に目を引くシーンである。

本来ハードなはずのゴミ箱やギターが飴細工のように自在に変形する様は,まるでディズニーアニメを観るような楽しさがある。同じ女子高生ガールズバンドアニメでも,楽器をあくまでもリアルなギアとして扱っていた山田尚子『けいおん!』(第1期:2009年)などとは対照的だ。『ぼっち・ざ・ろっく』と『けいおん!』は設定に共通点の多いアニメだが,こうした細部の演出の差異を楽しむのも一興だろう。

 

デフォルメとリアリティ

こうした,スクウォッシュ&ストレッチのような“崩し”に対し,独特なリアリズムの考え方がうかがえるのも『ぼっち・ざ・ろっく!』の特徴だ。

まず本作では実写画像が多用されている。「#2」では「青春コンプレックスを刺激する歌」の説明,「#3」では,クラスメートの「ペープサート」,先述の「アイデンティティ崩壊」の風船,「ダブル黒歴史ぼっち弾き語りversion」演奏カットの背景に実写の画像(写真)が用いられている。

左:「#2 また明日」より引用/中・右:「#3 馳せサンズ」より引用
©︎はまじあき/芳文社・アニプレックス

アニメーションと実写の融合は古くから行われている手法である。その意図は作品によって様々だが,アニメーションの中に実写という異質な媒体を挿入して“衝突”させることによって,視聴者を一時的にアニメの外へ連れ出す一種の〈異化効果〉が得られるということもあるだろう。あるいは表現の多様性を広げるための〈遊び〉の要素と言えるかもしれない。『ぼっち・ざ・ろっく!』における実写の意義については,いかようにも解釈ができるだろうが,一つ言えるのは,本作が〈デフォルメ〉と〈リアリティ〉の両方に注意深く配慮した作品であるということだ。

「#1 転がるぼっち」より引用 ©︎はまじあき/芳文社・アニプレックス

そもそもこの作品は,実写画像だけでなく,背景にフォトリアルな美術を用いたカットが多い。むろん,作業工程を減らす意図で写真からコンバートしている可能性もあるが,少なくとも視聴者に対する効果としては,実写画像と同程度の強い〈リアリティ〉の効果をもたらすことは間違いない。

「#3 馳せサンズ」より引用 ©︎はまじあき/芳文社・アニプレックス

リアルな描写を要所に配置することで,どれほどデフォルメされていても,“この現実の中に確かに存在している”というキャラクターの実在感や現実感が確保される。この物理的な現実感を基盤に,キャラクターの心情のリアリティも成り立っている。デフォルメや漫符の連続の中に挿入されるふとしたシリアスな表情も,デフォルメとリアリティのバランスがうまく調整された設計がベースにあるからこそ,現実感を伴った効果的な“アクセント”となる。

 

本作は,今後の話数でも多彩な演出手法を繰り出してくることが予想される。ストーリーの面白さやキャラクターの魅力もさることながら,細部の演出を存分に楽しめる良作だ。アニメ班の技術を細部まで味わい尽くそう。

 

作品データ

*リンクはWikipedia,@wiki,企業HPなど

【スタッフ】
原作:はまじあき/監督:斎藤圭一郎/シリーズ構成・脚本:吉田恵里香/キャラクターデザイン・総作画監督:けろりら/副監督:山本ゆうすけ/ライブディレクター:川上雄介/ライブアニメーター:伊藤優希/プロップデザイン:永木歩実/2Dワークス:梅木葵/色彩設計:横田明日香/美術監督:守安靖尚/美術設定:taracod/撮影監督:金森つばさ/CGディレクター:宮地克明/ライブCGディレクター:内田博明/編集:平木大輔/音楽:菊谷知樹/音響監督:藤田亜紀子/音響効果:八十正太/制作:CloverWorks

【キャスト】
後藤ひとり:
青山吉能/伊地知虹夏:鈴代紗弓/山田リョウ:水野朔/喜多郁代:長谷川育美

【「#1 転がるぼっち」スタッフ】
脚本:
吉田恵里香/絵コンテ・演出:斎藤圭一郎/作画監督:けろりら

【「#2 また明日」スタッフ】
脚本:吉田恵里香/絵コンテ:斎藤圭一郎/演出:藤原佳幸/作画監督:助川裕彦

【「#3 馳せサンズ」スタッフ
脚本:
吉田恵里香/絵コンテ・演出:山本ゆうすけ/作画監督:中村颯

 

商品情報

 

TVアニメ『Do It Yourself!!』(2022年秋)すてっぷ①(第1話)とすてっぷ②(第2話)の演出について[考察・感想]

 *この記事は『Do It Yourself!!』すてっぷ①とすてっぷ②のネタバレを含みます。

『Do It Yourself!!』オープニングアニメーションより引用
©︎IMAGO/avex pictures・DIY!!製作委員会

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現在(2022年秋)放送中の米田和弘監督『Do It Yourself!!』は,ものづくりを通して新たな価値を見出す女子高生たちの姿を描いたオリジナルアニメである。キャラクターのデザインやモーションなどが丁寧に作り込まれている一方で,大胆な舞台設定と構図で人間関係を暗示するなど,ユニークな技が冴える良作だ。原作付き作品の中に強者が勢揃いする今季にあって,決して派手な作品ではないが,だからこそあえてその魅力を語っておく必要があるだろう。今回の記事ではすてっぷ①「DIYって,どー・いう・やつ?」すてっぷ②「DIYって,だれかと・いっしょに・やるってこと?」の演出を詳しく見ていく。

 

オートメーションとDIY:映像で見せる

冒頭,この作品の舞台である新潟県三条市の景色が映し出された後,住宅街の俯瞰映像に空中を飛び交うドローンが姿を現す。自動運転のバスが走り去った後,カメラはまるで「のび太の家」のような少し古風な家を画面中央に捉える。主人公せるふ(結愛せるふ)の住む家だ。

『Do It Yourself!!』すてっぷ①「DIYって,どー・いう・やつ?」より引用
©︎IMAGO/avex pictures・DIY!!製作委員会

今よりも少しだけテクノロジーが進んだ世界。ナレーションのないこの数十秒のシークエンスの中に,リアルとほんの少しのSF,そしてDIYとオートメーションという対比関係が既に示されている。セリフに頼らずに世界観とテーマを提示するという,映像作品としての“正解”を示した優秀なシークエンスだ。こうした世界観のコントラストの中で,“便利になっていく世の中であえてものづくりをする”という素朴な価値観が打ち出されていくことがわかる。話数の限られたオリジナルアニメの冒頭として,理想的な作りだと言えるだろう。

 

ぷりんとせるふ:高低差で見せる

そしてこの世界観のコントラストは,ぷりん(須理出未来)とせるふのキャラにそのまま反映されている。成績優秀なぷりんは有名高校「湯々女子高等専門学校(湯専)」に合格し,エリートコースを歩んでいる。せるふは「湯専」には受からず,滑り止めで受けた「潟々女子高等学校(潟女)」に通い,のんびりと日々を過ごしている。ぷりんはそんなせるふのスローライフにイライラしながらも,常に彼女を気にかけている様子だ。「未来はAIによるフルオートメーション化。人間は手作業どころか,何もしなくてよくなるのよ!」と豪語するぷりんは,毎日自動運転のスクールバスで通学している。それに対し,せるふはのんびりと自転車に乗りながら「何もしなくてよくなる未来かー。何もしなくてよくなったらー何しようかなー」と独り言つ(ともにすてっぷ②のセリフ)。

『Do It Yourself!!』すてっぷ②「DIYって,だれかと・いっしょに・やるってこと?」より引用
©︎IMAGO/avex pictures・DIY!!製作委員会

この2人の関係性が〈高低差〉で表されているのがとても面白い。2人の家は坂道の途中にあり,せるふの家よりもぷりんの家(門やキーロックがオートメーション化されている)の方がやや高みにある。したがって帰宅時などの会話は,常にぷりんがせるふを見下ろすような構図になる。

『Do It Yourself!!』すてっぷ①「DIYって,どー・いう・やつ?」より引用
©︎IMAGO/avex pictures・DIY!!製作委員会

 

さらに面白いのは,2人が通う「湯専」と「潟女」のロケーションだ。どういうわけか,前者が後者を内包するような構造になっており,校舎に高低差もある。自然,湯専にいるぷりんは潟女のせるふや「DIY部」を見下ろす構図になる。

『Do It Yourself!!』すてっぷ①「DIYって,どー・いう・やつ?」より引用
©︎IMAGO/avex pictures・DIY!!製作委員会

エリート高に通うぷりんと平凡高に通うせるふとの“上下関係”を物理的に視覚化した,少々えげつない構図だ。文字通りの“上から目線”である。しかし見過ごしてはならないのは,2人が自宅で窓越しに会話するカットでは,この〈高低差〉が(家の立地には高低差があるにもかかわらず)まったく存在せず,2人の目線のレベルが等しくなっている点である。

『Do It Yourself!!』すてっぷ①「DIYって,どー・いう・やつ?」より引用
©︎IMAGO/avex pictures・DIY!!製作委員会

幼馴染であるせるふとぷりんは,小さい頃は同じ目線で向き合い,同じ目線で遊んでいた。常にせるふのことを気にかけるぷりんの苛立ちは,ぷりんそのものに対する苛立ちであるというよりは,ぷりんが自分と同じ高校に進学しなかったことで〈同レベル目線〉が崩れてしまったことに対する苛立ちなのかもしれない。おそらく,彼女はせるふを見下ろしたくなどないのだ。自宅の窓越しの会話は,2人が心の“ホームポジション”に立ち戻っていることを暗示しているのかもしれない。このような人間関係の機微を物理的なロケーションで示す手法は,高く評価されて然るべきだ。

 

デフォルメとリアリズム:ディテールで見せる

そして言うまでもなく,本作最大の見どころはDIYの作業風景だ。YouTuberとしても活躍するスワロ監修のもと,工具の造形や動作,それを扱うキャラクターの所作が丁寧に再現されている。

『Do It Yourself!!』すてっぷ②「DIYって,だれかと・いっしょに・やるってこと?」より引用
©︎IMAGO/avex pictures・DIY!!製作委員会

松尾祐輔の適度にデフォルメされたキャラと,細部まで描きこまれたDIYギアが違和感なくなじむ。これはひとえに,キャラクターのモーションが丁寧に作り込まれているからだろう。近年,『けいおん!』(2009年),『ガールズ&パンツァー』(2012年),『スーパーカブ』(2021年)など,アニメらしい柔らかなデフォルメキャラ(多くは女の子)と工学系のハードなギアが出会う物語の系譜が出来上がりつつあるが,こうした作品において〈デフォルメ〉と〈リアリズム〉のマッチングが成功するための1つのポイントが,キャラクターのモーションだと思われる。『Do It Yourself!!』はその辺りを十分にクリアしている作品だ。

 

先述したように,決して派手な存在感のアニメではないが,細部まで読み解いていくと色々なものが見えてきそうだ。「2022年 秋アニメは何を観る?」の記事では挙げなかった作品だが,最終話まで見届けようと思う。

 

作品データ

*リンクはWikipedia,@wiki,企業HPなど

【スタッフ】
原作:IMAGOエイベックス・ピクチャーズ/監督:米田和弘/シリーズ構成・脚本:筆安一幸/キャラクターデザイン:松尾祐輔/プロップデザイン:米森雄紀加藤けえ/DIYデザイン・監修・指導:スワロ/美術監督・設定:岡本有香/色彩設計:坂上康治/撮影監督:浅黄康裕/編集:定松剛/音響監督:郷田ほづみ/音楽:佐高陵平(Hifumi,inc.)/アニメーション制作:PINE JAM/オフィシャルパートナー:株式会社 髙儀/オフィシャルサポーター:三条市/製作:DIY!!製作委員会

【キャスト】
せるふ:
稲垣好/ぷりん:市ノ瀬加那/くれい:佐倉綾音/たくみ:和氣あず未/しー:高橋花林/ジョブ子:大森日雅/法華津治子:かかずゆみ

【すてっぷ①スタッフ】
脚本:
筆安一幸/絵コンテ・演出:米田和弘/作画監督:松尾祐輔

【すてっぷ②スタッフ】
脚本:
筆安一幸/絵コンテ:笹木信作/演出:ソガメグミ/作画監督:江畑諒真茂木海渡新井博慧

 

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