アニ録ブログ

あるオタクの思考と嗜好をキロクしたブログ。アニメとマンガを中心としたカルチャー雑記。

2023年 秋アニメ 中間評価[おすすめアニメ]

*この記事にネタバレはありませんが,各作品の現時点までの話数の内容に言及しています。未見の作品を先入観のない状態で鑑賞されたい方は,作品を先にご覧になってから本記事をお読みください。

 

異常な酷暑に悩まされた今年も残りわずかとなり,2023年秋アニメはほとんどの作品がクール半ばまでの放送を終えた。ここで当ブログ独自の観点から注目の作品を振り返っておこう。これまで通り五十音順に(ランキングではないことに注意)注目作品をいくつか取り上げる。

なお「2023年 秋アニメは何を観る?」の記事でピックアップした作品は,タイトルを茶色にしてある。

www.otalog.jp

 

1. 『新しい上司はど天然』

do-tennen.com

【コメント】
パラハラという名の暴力からの解放,ほんのりBL風味,ふんわりゆるい物語。男性キャラの多い作品でありながら,醜悪なマチスモをきれいに脱臭した癒しのアニメだ。一方で,主人公桃瀬の徹底した“パラハラ上司忌避”と“ど天然上司”白崎への全幅の信頼は,いまだ世に蔓延るブラック企業への周到な批判になっているとも言える。その意味で優れた風刺アニメとも言えるだろう。

 

2. 『アンデッドアンラック』

undead-unluck.net

【コメント】
「un-」という否定極性が逆説的に強力な異能を付与する,というキャラ設定がとても面白い。それもあってか,とりわけ風子とアンディをめぐる運命には悲哀感が伴う。王道のジャンプ作品でありながら,どこかビターな風味のある作品だ。キャラデザやアクションを中心としたアニメーションも非常に魅力的で見応えがある。風子役の佳原萌枝とアンディ役の中村悠一のコンビネーションもいい。

 

3. 『カミエラビ』(オリジナル)

kamierabi.com

【コメント】
3DCG独特のキャラデザ,ドギツイ色彩設計,個性的すぎる衣装デザイン,エキセントリックな世界観。どの点をとっても万人受けとは程遠い強烈なユニークネスを放っているが,それだけに凡百の多作品から一線を画す強い存在感を持った作品だ。ヨコオタロウの一筋縄ではいかないストーリーテリングに目が離せない逸品である。

 

4. 『薬屋のひとりごと』

kusuriyanohitorigoto.jp

【コメント】
主人公・猫猫を中心としたキャラ造形が魅力的で,かつ衣装デザインや中国王朝を模した宮殿内の美術も秀でている。猫猫と悠木碧のマッチングも申し分なく,やや低めのピッチのモノローグが毎話耳に心地いい。演出やキャラの芝居も丁寧だ。意外にも各話毎の個性が強く出る演出方針で,とりわけちな演出の「# 恫喝」の個性的な演出が目を引いた。コアなアニメファンの目も満足させる作品である。

www.otalog.jp

 

5.『呪術廻戦 懐玉・玉折/渋谷事変』

jujutsukaisen.jp

【コメント】
前クールからの続きなので「何を観る?」の記事では挙げなかったが,言うまでもなく傑作である。「懐玉・玉折」のややマイルドな演出から打って変わって,「渋谷事変」では文字通り地獄絵図のような世界が繰り広げられている。そしてやはりこの作品でも,各話担当の演出家の個性が前面に出る話数が多く,とりわけ荒井和人砂小原巧が手がけた「#37 赫鱗」は,現代の渋谷という個性的なトポスをうまく利用した優れた話数となった。

www.otalog.jp

 

6. 『進撃の巨人 The Final Season 完結編(後編)』

shingeki.tv

【コメント】
10年の歳月を経て完結となった本作。エレンアルミンのシーンにおけるセリフ改変を含めたアニオリや,最後の立体機動シーンの“猛烈”とも言える作画など,原作を単になぞるだけで終わらず,アニメ班の解釈を媒介として,より高いステージへと至った傑作となった。WIT時代に参加していた今井有文が,監督の林祐一郎と並んで絵コンテ担当してクレジットされていたのも印象深い。間違いなくアニメ史に残る大作である。

 

7. 『葬送のフリーレン』

frieren-anime.jp

【コメント】
当初から期待値が高く,当ブログでもイチオシとして挙げていた作品だが,その期待を遥かに上回る優れた作品だ。構図の余白,ゆったりとした歩行速度,丁寧な日常芝居,美しい劇伴などが原作の独特な時間感覚をうまく再現しており,アニメ化による付加価値が非常に高い作品である。岩澤亨らの手がけるアクションも小気味よく,スローテンポな世界観において,よいアクセントになっている。

www.otalog.jp

www.otalog.jp

 

8. 『PLUTO』

pluto-anime.com

【コメント】
何より浦沢直樹のキャラクターを完璧に再現したキャラデザが画面の緊張感を否応なく高めている。そこに優れた脚本と演出が加わり,第一級のサスペンスに仕上がった傑作だ。Netflix限定配信ということもあり,SNSでの賑わいはおとなしめだが,紛れもない大作である。古典作品のリメイク(あるいは翻案)の方法として,偉大なる“解”を提示した作品と言えるのではないだろうか。

 

9. 『ミギとダリ』

migitodali.com

【コメント】
ミギとダリという強烈なキャラの強烈な奇行を見事にアニメーションに落とし込み,さらにその2人の主役をすら食うほどの強烈なサブキャラを配置した絶妙なキャラ造形。今期で言えば上述の『カミエラビ』と張る“個性派アニメ”であり,そのような“個性派アニメ”として大きな成功を収めた作品だ。今年8月に他界した原作者・佐野菜見に観せてあげられなかったことが改めて悔やまれる。

 

以上,「アニ録ブログ」が注目する2023年秋アニメ9作品を挙げた。『呪術廻戦』『進撃の巨人』『葬送のフリーレン』といった“ビッグタイトル”に並び,『カミエラビ』や『ミギとダリ』のような個性派アニメが存在感を放ったクールだ。

最終的なランキング記事は,全作品の放映終了後に掲載する予定である。

 

TVアニメ『薬屋のひとりごと』(2023年秋)第4話の演出について[考察・感想]

この記事は『薬屋のひとりごと』「#4 恫喝」のネタバレを含みます。

「#4 恫喝」より引用 ©︎日向夏・イマジカインフォス/「薬屋のひとりごと」製作委員会

kusuriyanohitorigoto.jp


www.youtube.com

中国風の王宮を舞台に薬屋の娘・猫猫が活躍する様を描いた日向夏原作/長沼範裕監督『薬屋のひとりごと』。ユニークなキャラ(クタ)ーと物語に加え,リッチな作画や演出が目を引く“上手い”アニメとして注目を集めている。今回の記事では,ちな演出回の「#4 恫喝」を取り上げよう。一見地味な話数に思えるかもしれないが,猫猫を中心とした人物たちの芝居を丁寧に演出しつつ,そのキャラに深みを与えた優れた話数である。

 

「薬師」猫猫

アニメの作画をそれなりに長く観ていると,“これは作画と芝居の話数だな”と肌感覚でわかることがある。「#4 恫喝」もそんな話数だった。

帝の勅命を受け,病に伏せる梨花妃を看病する猫猫。これまでのマスコット的美少女風味と比べ,ややシリアスなデザインになっている。梨花妃陣営という,猫猫にとって“アウェー”での仕事,それも帝からの勅命という状況設定もあってか,目の隈なども描き込まれたリアルよりの作画だ。

上:「#3 幽霊騒動」/下:「#4 恫喝」より引用
©︎日向夏・イマジカインフォス/「薬屋のひとりごと」製作委員会

具体的なディレクションがあったかは不明だが,これまでの話数以上に猫猫の「薬師」としてのプロフェッショナルな側面を強調した作画のようにも見える。毒の化粧を梨花妃に施した侍女を猫猫が「恫喝」するシーン(下段中)では,悠木碧のドスのきいた低音とも相まって,猫猫の“アルターエゴ”が効果的に演出されている。“真実に最も近い理系女子・猫猫”と“物事の表面しか見えていない軽薄ギャル・侍女”の構図ができているのも面白い。

「薬師」としての猫猫ということで言えば,冒頭の毒味のカットも見応えがある。

「#4 恫喝」より引用 ©︎日向夏・イマジカインフォス/「薬屋のひとりごと」製作委員会

おそらく宮廷付きの毒味役としての作法に則っているのだろう。食事の匂いを嗅ぎ,帝の目に触れないように食事を口に運ぶ所作が実に丁寧に作画されている。薬師としての猫猫の存在感を改めて印象付けたカットである。

「#4 恫喝」より引用 ©︎日向夏・イマジカインフォス/「薬屋のひとりごと」製作委員会

梨花妃の病人食を調理するシーン。料理人にテキパキと指示を与える猫猫の所作,包丁とまな板の音,鍋が煮立つ音,カットの切り替えなど,小気味のいいスピード感のあるシーンだ。この辺りのシーンはミャンの手になることが本人のTwitterアカウントで語られている。リズム感を考慮し,包丁のカットが2コマ打ちから1コマ打ちに変更されたという経緯も面白い。

 

“手”の芝居

この話数は,いくつかのシーンにおいて“手”の芝居が際立っていたことも特筆に値する。

まず猫猫と小蘭の食事カット。小蘭の食事の所作(上段)が非常に丁寧に作画されている。特に匙の運びは驚くほど細かい。

「#4 恫喝」より引用 ©︎日向夏・イマジカインフォス/「薬屋のひとりごと」製作委員会

先に食事を終えて仕事に戻る小蘭に,猫猫が手を振るカット。この時の手の振り方がとてもいい。「バイバイ」や「じゃあね」といったセリフを付けず,手の振り方だけで猫猫の瑞々しい少女性や小蘭との親密な関係を表現した優れたカットだ。

梨花妃が猫猫に己の“生きんとする意志”を自覚させられるシーン。彼女はしばし亡き息子との思い出に浸る。生まれたばかりの息子の手を愛おしそうに包み込む梨花妃の手の所作がこの上なく美しい。

「#4 恫喝」より引用 ©︎日向夏・イマジカインフォス/「薬屋のひとりごと」製作委員会

この類の手の所作ということでは,『美少女戦士セーラームーンS』(1994-1995年)の「#110 ウラヌス達の死?タリスマン登場」(演出:幾原邦彦)における,はるかとみちるのカットが想起される。

『美少女戦士セーラームーンS』「#110 ウラヌス達の死?タリスマン出現」より引用 ©︎武内直子・PNP・テレビ朝日・東映アニメーション

2人の深く親密な内面感情が匂いたつような,細やかで美しい画だ。このカットを含む話数に関しては以下の記事を参照していただきたい。

www.otalog.jp

梨花妃の容体が快方し,看病に疲労困憊した猫猫が眠り込んでしまうシーン。疲れ切った猫猫がフラフラと歩くカットは重心の取り方にリアリズムが感じられ,これだけでも見応えがある。

「#4 恫喝」より引用 ©︎日向夏・イマジカインフォス/「薬屋のひとりごと」製作委員会

倒れ込んですぐに寝息を立てる猫猫。その額にそっと手を触れる梨花妃。先ほどの赤子との手の所作と同じく,梨花妃の深い優しさが感じられるカットだ。この辺りの梨花妃の振る舞いが描写されているおかげで,「自尊心はあるが,高慢ではない。[中略]妃にふさわしい人格を持っていたようだ」という猫猫の評価 にも説得力が増す。

最後に,回復した梨花妃に猫猫が別れを告げるシーン。花瓶に差された桔梗の花を,猫猫の手が下から上に撫でる。

「#4 恫喝」より引用 ©︎日向夏・イマジカインフォス/「薬屋のひとりごと」製作委員会

茎の部分ではゆっくりと動きを溜め,花弁の部分ではすっと跳ね上げるような印象的な所作。特に何かを意図したわけでもなければ,何かを暗示したわけでもない,何気ない所作だが,なぜか猫猫というキャラの重要な部分を構成しているような気持ちにさせられる。あるいは,この後のシーンで猫猫が梨花妃に「秘術」を教えたことと関係があるのかもしれない。

人間の手の可動域は広く,その動きは極めて複雑である。ゆえに感情表現のツールとしてのポテンシャルも絶大だ。必然的に,それはアニメ作画上の難所となり,かつ“見せ場”にもなる。その作画に成功すれば,上に挙げた諸カットのように,〈エロス〉ーー性と愛のアマルガムとしてのーーを表す最高のシンボルとなる。同じことを実写で演じた場合にはさほど印象に残る動作ではないかもしれないが,作画で表現するとなぜか強いエモーションを感じる。ひょっとするとこの差異は,写真と絵画の差異と似ているかもしれない。アニメという媒体の,実写とは異なる面白さの一つである。

 

ちなともああんの技

この話数の演出を手がけたちなは,『ヤマノススメ サードシーズン』(2018年)伝説回(と言っていいだろう)の第10話「すれちがう季節」担当したことでも知られる。あおいとひなたのちょっとした「すれちがい」を繊細な所作や芝居で演出した素晴らしい話数だ。

『ヤマノススメ サードシーズン』第10話「すれちがう季節」より引用 ©︎しろ/アース・スター エンターテイメント

この他にも,『平家物語』第三話「鹿ヶ谷の陰謀」などの仕事も記憶に新しい。若手ながら演出の技術力はきわめて高く,今後の活躍に期待が持てるアニメーターである。

作画監督担当はもああん(Moaang)『明日ちゃんのセーラー服』(2022年)第七話「聴かせてください」の絵コンテ・演出などで知られる。上述の『ヤマノススメ サードシーズン』第10話と『平家物語』第三話にも原画として参加しており,ちなとの相性も抜群のようだ。最近の優れた話数のクレジットでその名を見かけることが多く,目が離せないアニメーターの一人である。

その他,この美しい話数を手がけたアニメスタッフに拍手を。

 

 

作品データ

*リンクはWikipedia,@wiki,企業HPなど

【スタッフ】
原作:日向夏/キャラクター原案:しのとうこ/監督・シリーズ構成:長沼範裕/副監督:筆坂明規/キャラクターデザイン:中谷友紀子/色彩設計:相田美里/美術監督:髙尾克己CGIディレクター:永井有/撮影監督:石黒瑠美/編集:今井大介/音響監督:はたしょう二/音楽:神前暁Kevin Penkin桶狭間ありさ/アニメーション制作:TOHO animation STUDIO×OLM

【キャスト】
猫猫:悠木碧/壬氏:大塚剛央/高順:小西克幸/玉葉妃:種﨑敦美/梨花妃:石川由依/里樹妃:木野日菜/阿多妃:甲斐田裕子/梅梅:潘めぐみ/白鈴:小清水亜美/女華:七海ひろき/やり手婆:斉藤貴美子/羅門:家中宏/李白:赤羽根健治/小蘭:久野美咲/やぶ医者:かぬか光明/ナレーション:島本須美

【「#4 恫喝」スタッフ】
脚本:
柿原優子/絵コンテ・演出:ちな/総作画監督:中谷友紀子/作監:もああん/原画:ミャンMYOUNjiseo渡部さくら杉山圭吾DDASANGOri

 

商品情報

 

 

TVアニメ『呪術廻戦 渋谷事変』(2023年秋)第37話の演出について[考察・感想]

この記事は『呪術廻戦 懐玉・玉折/渋谷事変』「#37 赫鱗」のネタバレを含みます。

「#37 赫鱗」より引用 ©︎芥見下々/集英社・呪術廻戦製作委員会

jujutsukaisen.jp


www.youtube.com

芥見下々原作/御所園翔太監督『呪術廻戦 懐玉・玉折/渋谷事変』各話レビュー第2弾として,今回は「#37 赫鱗」を取り上げる。絵コンテ・演出は,ともにTRIGGER出身の荒井和人砂小原巧。アニメオリジナルのシンボリックな演出を随所に散りばめ,渋谷というトポスとキャラクターたちを重ね合わせながら,原作の魅力を最大限にアンプリファイした素晴らしい話数となった。

 

渋谷-トポスという状況の中で

都市の風景そのものとしての,複数併設された標識。歩行者通行止の標識に虎杖悠仁の影が重なる。

「#37 赫鱗」より引用 ©︎芥見下々/集英社・呪術廻戦製作委員会

標識のピクトグラムと虎杖の身体とが一体化することにより,この物語が渋谷という都市-トポスで発生しているという事実が再確認される。「渋谷事変」と銘打った本作において,この冒頭シーンはきわめて意味深い。

「#37 赫鱗」より引用 ©︎芥見下々/集英社・呪術廻戦製作委員会

虎杖が首都高から歩道橋,階段,案内標識へと飛び移るカットからもわかるように,いまや虎杖たちの行動は,渋谷という都市-トポスによって条件づけられている。渋谷は単なる“背景美術”として物語の背後に退くのではなく,むしろキャラクターたちの行動を制約し,条件づけ,生み出す“環境”として機能する。人類学者のルーシー・サッチマンに倣って言えば,「彼らの行動は渋谷という都市-トポスの中に埋め込まれている」ということになるだろうか。*1

 

ピクトグラムの世界

虎杖は渋谷駅の地下通路を疾走する。まるで都市-トポスの体内へと降りていくかのように。渋谷の地下通路を利用したことのある者であれば周知の通り,そこは無数のピクトグラムや誘導灯がひしめき合う“記号の世界”だ。本来の機能を停止し,虎杖を誘い込むようにそこかしこで囁き始める“記号”たちを,カメラが次々と捉えていく。

「#37 赫鱗」より引用 ©︎芥見下々/集英社・呪術廻戦製作委員会

かくして虎杖は,彼に弟たちを殺され悲憤に血を滾らせた脹相と対峙する。彼の放った「穿血」によって,先の標識のピクトグラム=虎杖のシンボルが寸断されるカットは,虎杖ら呪術師たちの身体と渋谷-トポスの共鳴,その命運の重なり合いを暗示しているかのようでもある。「渋谷事変」というシリーズタイトルをうまく“回収”した,見事な導入部だ。

「#37 赫鱗」より引用 ©︎芥見下々/集英社・呪術廻戦製作委員会

脹相の攻撃によって破壊された誘導灯が火花をちらす。「バシンバシン」というスパーク音に合わせて,虎杖の脳裏に壊相と血塗の姿がフラッシュバックする。

「#37 赫鱗」より引用 ©︎芥見下々/集英社・呪術廻戦製作委員会

ここでも,ピクトグラムの悲鳴のようなスパーク音と虎杖の心象を同期させることにより,渋谷-トポスと虎杖との間に共鳴現象のようなものが生みだされている。原作を踏襲しつつも,アニメ独自のリズム感を創出し,渋谷という都市-トポスの中に登場人物をリアルに定位させたーあるいは両者を一体化させたー巧みな演出と言える。

虎杖とメカ丸のやりとりの中には,渋谷のピクトグラムを利用した非常に面白い演出が見られる。

「#37 赫鱗」より引用 ©︎芥見下々/集英社・呪術廻戦製作委員会

メカ丸が脹相の「赤血操術」について説明し始めると,それに呼応するかのように,虎杖の背後にある電光掲示板に説明セリフの文字列が映し出される。キャラクターのセリフと背景美術が一体となる。

左『美少女戦士セーラームーン』第31話より引用 ©︎武内直子・PNP・テレビ朝日・東映アニメーション/中『化物語』第二話より引用 ©西尾維新/講談社・アニプレックス・シャフト/右『魔法少女まどか☆マギカ』第2話より引用 ©︎Magica Quartet/Aniplex・Madoka Partners・MBS

背景美術に埋め込まれた文字列に能弁に語らせる演出は,TV版『美少女戦士セーラームーン』(1992-1997年)の第31話「恋されて追われて!ルナの最悪の日」や,『物語シリーズ』(2009-2019年),『魔法少女まどか☆マギカ』などを想起させるだろう。背景美術が“背景”であることをやめ,一つのキャラとしての存在感を持ちながら前景化してくるとも言える。

 

脹相戦:広と狭,「存在しない記憶」

本話数の目玉である虎杖vs脹相戦では,地下通路の広い空間と公衆トイレの狭い空間が対比させられる。

「#37 赫鱗」より引用 ©︎芥見下々/集英社・呪術廻戦製作委員会

遠隔戦闘・脹相の“広”と近接戦闘・虎杖の“狭”の間合いが,卓越した空間描写によってきれいなコントラストを成している。このシークエンスは速度も速くカット数も多いが,カメラワークに無駄や破綻がなく,情報の混乱をまったく感じさせない。特にトイレの狭小空間でのカメラの取り回しは見事である。

辛勝した脹相は,虎杖にとどめを刺そうと殴りかかる。しかしその刹那,彼の脳裏に「存在しない記憶」が浮かび上がり,拳は虎杖を外して壁を穿つ。

「#37 赫鱗」より引用 ©︎芥見下々/集英社・呪術廻戦製作委員会

壁に空いた穴が収縮し,脹相自信の瞳孔と重なり,驚愕した彼の表情が大写しになる。渋谷地下街の外界と脹相の内界との境界が曖昧になる。トポスとキャラの同期がここでも発生している。言い方は悪いが,原作を“再現”することだけに囚われた凡庸なアニメーターではとても思い付かない演出だ。

脹相,壊相,血塗と虎杖が穏やかに食事をとる「存在しない記憶」は,ノスタルジックなオールドメディア風味で映像化されている。8ミリカメラで撮影したような映像にすることによって,“家族”としての親密感が増幅されている。つい数秒前まで繰り広げらていた血塗れの戦闘シーンとのコントラストが美しい。

 

荒井和人と砂小原巧の技

本話数の演出を担当したのは,ともにTRIGGER出身の荒井和人砂小原巧だ。作画@wikiの情報によれば,交流関係も深いらしい。

荒井和人と言えば,直近の作品では『天国大魔境』「〈#10〉壁の町」におけるヒルコ戦のカットが記憶に新しい。止め絵の連続によって静と動を両立させた見事な作画だった。詳細は以下の記事を参照していただきたい。

www.otalog.jp

一方,砂小原と言えば,個人的には『モブサイコ100Ⅱ』「011 指導〜感知能力者〜」の仕事が印象深い。各話担当の個性が強く出ていた『モブサイコ』の中でも抜きん出てユニークな話数であり,砂小原を含めた若手アニメーターが存分に力を発揮した場だったのではないだろうか。以下の記事を参照いただきたい。

www.otalog.jp

荒井にしても砂小原にしても,まだまだこれから力をつけていくアニメーターだ。これからも恐れることなく,果敢に“常識”を打破するアニメーションを生み出していって欲しいものである。

そして,この素晴らしい話数に携わったすべてのスタッフに拍手を。

 

作品データ

*リンクはWikipedia,@wiki,企業HPなど

【スタッフ】
原作:芥見下々/監督:御所園翔太/シリーズ構成・脚本:瀬古浩司/キャラクターデザイン:平松禎史小磯沙矢香/副監督:愛敬亮太/美術監督:東潤一/色彩設計:松島英子CGIプロデューサー:淡輪雄介3DCGディレクター:石川大輔(モンスターズエッグ)/撮影監督:伊藤哲平/編集:柳圭介/音楽:照井順政/音響監督:えびなやすのり/音響制作:dugout/制作:MAPPA

【キャスト】
五条悟:中村悠一/夏油傑:櫻井孝宏/家入硝子:遠藤綾/天内理子:永瀬アンナ/伏黒甚爾:子安武人

【「#37 赫鱗」スタッフ】
脚本:
瀬古浩司/絵コンテ・演出:荒井和人砂小原巧/演出協力:青木youイチロー/総作画監督:矢島陽介森光恵

 

 

関連記事

www.otalog.jp

www.otalog.jp

 

商品情報

 

 

*1:ルーシー・A・サッチマン(佐伯胖訳)『プランと状況的行為ー人間-機械コミュニケーションの可能性』,産業図書,1999年。

TVアニメ『葬送のフリーレン』(2023年秋)第6話の演出について[考察・感想]

この記事は『葬送のフリーレン』第6話「村の英雄」のネタバレを含みます。

第5話「村の英雄」より引用 ©︎山田鐘人・アベツカサ/小学館/「葬送のフリーレン」製作委員会

frieren-anime.jp


www.youtube.com

今回は山田鐘人原作・アベツカサ作画/斎藤圭一郎監督『葬送のフリーレン』(以下『フリーレン』)各話レビューの第2弾として,第6話「村の英雄」の演出を見ていこう。絵コンテ・演出は,『Fate/Apocrypha』や『天国大魔境』などに参加し,本作でもアクションディレクターを務める岩澤亨。Aパートのダイナミックなアクションに加え,Bパートの日常芝居が光った優れた話数である。

 

「必要なのは覚悟だけ」:アクション

まず注目したいのはAパートのシーンだ。「どうしようもない臆病者」のシュタルクに,フェルンが初めて魔物と戦った時のことを話して聞かせる。

第5話「村の英雄」より引用 ©︎山田鐘人・アベツカサ/小学館/「葬送のフリーレン」製作委員会

魔物に追い詰められたフェルンが「覚悟」を決めて振り返ると,自然と体が動いて魔法で魔物を撃ち倒すことに成功する。この時のフェルンの足元のカットが優れている。足の踏み込み,重心の移動,爪先の向きなどが丁寧に表現されている上に,“自然に体が動いた”という体の軽やかさも演出されている。これにより「必要なものは覚悟だけだったのです」というフェルンのセリフもより説得力が増している。

そしてこの話数の目玉は,なんと言ってもシュタルクと竜の戦闘シーンだろう。先のフェルンの言葉に感化された彼は,村を守る「覚悟」を胸に決死の覚悟で竜に挑む。

第5話「村の英雄」より引用 ©︎山田鐘人・アベツカサ/小学館/「葬送のフリーレン」製作委員会

岩場を疾走し,竜の身体にしがみつき,高く飛翔し,上から叩きつける。原作ではわずか2頁程度のシーンを存分に膨らまし,これまでの静かな展開の連続でアクションに飢えた視聴者たちを大いに唸らせた。「アクションディレクター」岩澤の面目躍如といったシーンだろう。第6話というタイミングで派手なアクションを挿入する構成力もなかなかのものである。

 

座るフェルン:日常芝居

しかし,上のアクションシーンの出来栄えが見事なのは確かなのだが,やはり僕としてはBパートの日常風景の演出を評価したい。

まずはフェルンがバーの椅子に座るカット。シュタルクの隣に立ち,椅子を引いて衣服をおさえながら座り,椅子を前に引くまでの所作が実に丁寧にアニメートされている。

第5話「村の英雄」より引用 ©︎山田鐘人・アベツカサ/小学館/「葬送のフリーレン」製作委員会

街で2年以上待つことが嫌だということで意見が一致し,思わずフェルンがシュタルクに詰寄る芝居なども面白い。

第5話「村の英雄」より引用 ©︎山田鐘人・アベツカサ/小学館/「葬送のフリーレン」製作委員会

原作では「ズイッ」というオノマトペでバーバルに表現されているところを,「そうですよね。嫌ですよね」というセリフに合わせた2段階の動作で表している。

この手の日常所作の作画は,単に“リアル”だからいいというわけではない。こうした芝居をつけることによって,フェルンというキャラクターの生真面目さや細やかさがノンバーバルな形式で伝わる。また,身体の動きと椅子という物体の移動が連動することにより,キャラクターがこの世界の内部に確かに定位していることが視覚的に感得される。ファンタジー作品でありながらアクションシーンが相対的に少ない『フリーレン』のような作品では,こうした丁寧なカットの積み重ねがキャラと世界観を構築していくのだ。

バーのシーンの作画を手掛けたのは,『天国大魔境』(2023年)の傑作回「〈#8〉それぞれの選択」に作画監督として参加した永野裕大megro (@mash1111111) / X)だ。

ちなみに当ブログでは,これまでにもいくつかの“着座カット”に言及してきたが,その中でも永野のカットは特に優れた仕事として記憶に留めておきたいものである。

www.otalog.jp

www.otalog.jp

 

小さなシュタルクと大きなアイゼン:動と静

バーを出て街で情報収集するフェルンとシュタルク。この辺りの作画・演出も見応えがある。

それまでほぼ無表情だったフェルンが,「悪人顔ですしね」「うるせえ」のやりとりでほんのり口元を綻ばせるカット。2人の距離がほんのわずかに縮まったことを感じさせるいいカットだ。

第5話「村の英雄」より引用 ©︎山田鐘人・アベツカサ/小学館/「葬送のフリーレン」製作委員会

最後に注目したいのはシュタルクの回想シーンだ。

外壁の上から北側の風景を見渡したシュタルクは,小さい頃,師匠であるアイゼンに同じ場所に連れてこられた時のことをフェルンに語る。シュタルクとフェルンのカットが,シュタルクとアイゼンのカットに切り替わる。

第5話「村の英雄」より引用 ©︎山田鐘人・アベツカサ/小学館/「葬送のフリーレン」製作委員会

第1話などと同様,ここでも“青の余白”をたっぷりと用いながら,大人になったシュタルクとフェルンの微妙な距離感と,幼少時代のシュタルクとアイゼンとの親密な距離感を対比させている。フリーレンのような悠久の時と比べればミニマムだが,人にとっては確かな厚みを持った歳月が一気に巻き戻される。

第5話「村の英雄」より引用 ©︎山田鐘人・アベツカサ/小学館/「葬送のフリーレン」製作委員会

幼少時代の小さなシュタルクは,初めて見た北側の風景と,アイゼンの語る「たった十年の冒険」の話に心を躍らせる。今にも飛翔せんばかりに壁から身を乗り出すシュタルクの肩に,アイゼンの手が親密な重石のように置かれている。子どもらしい奔放なエネルギーを,正に“鉄”のように落ち着いたアイゼンが大地に繋留しようとしているかのようにも見える。

幼少時代のシュタルクの作画を手がけたのは,『すずめの戸締り』(2022年)にも原画で参加した宮野紗帆miyano (@mhj_03) / X)だ。

今回の話数では,個人的には永野と宮野の作画を特に評価したいと思う。今後の2人の仕事にも要注目だ。

そしてこの素晴らしい話数を手がけたすべての制作スタッフに拍手を。

 

 

作品データ

*リンクはWikipedia,@wiki,企業HPなど

【スタッフ】
原作:山田鐘人(原作)・アベツカサ(作画)/監督:斎藤圭一郎/シリーズ構成:鈴木智尋/キャラクターデザイン・総作画監督:長澤礼子/音楽:Evan Call/コンセプトアート:吉岡誠子/魔物デザイン:原科大樹/アクションディレクター:岩澤亨/デザインワークス:簑島綾香山﨑絵美とだま。長坂慶太亀澤蘭松村佳子高瀬丸/美術監督:高木佐和子/美術設定:杉山晋史/色彩設計:大野春恵3DCGディレクター:廣住茂徳/撮影監督:伏原あかね/編集:木村佳史子/音響監督:はたしょう二/アニメーション制作:マッドハウス

【キャスト】
フリーレン:
種﨑敦美/フェルン:市ノ瀬加那/シュタルク:小林千晃/ヒンメル:岡本信彦/ハイター:東地宏樹/アイゼン:上田燿司

【第1話「冒険の終わり」スタッフ】
脚本:
鈴木智尋/絵コンテ・演出:岩澤亨/総作画監督:長澤礼子/作画監督:廣江啓輔高瀬丸

 

関連記事

www.otalog.jp

www.otalog.jp

www.otalog.jp

www.otalog.jp

www.otalog.jp

 

商品情報

【Blu-ray】

 

【原作マンガ】

 

2023年 夏アニメランキング[おすすめアニメ]

*この記事にネタバレはありませんが,各作品の内容に部分的に言及しています。未見の作品を先入観なしで鑑賞されたい方は,作品を先にご覧になってから本記事をお読みください。

殺人的な残暑がようやく終わり,2023年夏アニメもほぼすべての作品が放送を終えた。今回の記事では,恒例通り2023年夏アニメの中から,当ブログが特にレベルが高いと判断した9作品をランキング形式で振り返ってみよう(今回は「中間評価」の記事では挙げなかった作品がランクインしている)。コメントの後には,作品視聴時のTweetをいくつか掲載してある。なお,この記事は「一定の水準を満たした作品を挙げる」ことを主旨としているので,ピックアップ数は毎回異なることをお断りしておく。

www.otalog.jp

www.otalog.jp

 

9位:『ゾン100〜ゾンビになるまでにしたい100のこと〜』

zom100.com

【コメント】
第9話までで放送が中断されたため,インパクトが薄れてしまったことが悔やまれる。本記事掲載時点(2023年10月14日)では第10話以降の放送予定も発表されていない。しかし,色彩設計を中心とした本作の表現力の高さは,そうした瑕疵を差し引いても高く評価されるべきだろう。今後の放送分にも期待したいところだ。

www.otalog.jp

 

8位:『いきものさん』

www.toei-anim.co.jp

【コメント】
シンプルな線描だが,キャラの存在感を強く感じさせる。セリフもほとんどない,シュールな世界観だが,ある種の物語性がある。わずか1分半ほどの超短尺の中に,アニメーションというものの楽しさを凝縮した良作だった。近年の深夜枠のショートアニメには,この類のユニークな作品が少なからず見られる。日本のアニメ表現の多様性を支えているのは,実はこの手の作品かもしれない。アニメファンとして,こうした作品を見逃す手はないだろう。

 

7位:『AIの遺電子』

ai-no-idenshi.com

【コメント】
当ブログでも話題にすることの多い〈AIと人〉というテーマを掘り下げた作品。人,ヒューマノイド,AI,ロボットと,“人間的存在”がすでに多様化した世界観の中で,人の心の有り様を問うている。非常に多くのことを考えさせくれる作品だ。AIがAGI(汎用人工知能)の開発が猛スピードで進められる中,僕らは“人と似た他者”と付き合う世界を想像しなければならないのかもしれない。

 

6位:『わたしの幸せな結婚』

watakon-anime.com

【コメント】
小出卓史による第六話「決意と雷鳴」を境に,それまですべてに受動的だった美世が見せた“強さ”。“化け物”と称されるほどの強者だった清霞が見せた“弱さ”。第十二話(最終話)「暗闇の中の光」では美世と清霞の庇護の関係を逆転させ,“救う美世”と“救われる清霞”の姿を見せつつ,運命から強制されたそれではない,本当の意味でのプロポーズシーンで大団円を迎えた。非常に優れたシリーズ構成だったと言えるだろう。すでに第二期の制作が決定している。今後も期待しよう。

watakon-anime.com

www.otalog.jp

 

5位:『アンデッドガール・マーダーファルス』

undeadgirl.jp

【コメント】
スタイリッシュな演出,魅力的な作画,輪堂鴉夜(黒沢ともよ)真打津軽役(八代拓)の軽妙な掛け合い。クールだった馳井静句が,後半の話数でヒューマンな面を垣間見せたのも面白い展開だった。ミステリーとしての謎解き要素ももちろん面白かったが,総じてアニメ化による付加価値の高かった作品と言えるだろう。制作会社ラパントラックの代表作の一つとなるのではないだろうか。

 

4位:『デキる猫は今日も憂鬱』

dekineko-anime.com

【コメント】
「中間評価」では挙げていなかったが,途中の話数でそのクオリティの高さに気づき,急遽ランクインさせた。魅力的なキャラデザとほのぼのとした物語は,僕のような猫好きでなくとも間違いなく惹かれるだろう。そしてこの作品で何より際立っていたのは,制作会社GoHandsのユニークなアニメーションだ。GoHandsと言うと,その独特な色彩や強烈なパースに好き嫌いが分かれることもあるが,本作ではむしろその個性が原作の個性と絶妙にマッチしていたと言える。GoHandsのようなユニークな制作会社がそのプレゼンスを増していくことは,日本のアニメ表現の多様性を確保することにもつながる。今後の作品にも注目していきたい。

 

3位:『幻日のヨハネ』

yohane.net

【コメント】
既存キャラを別の世界観で“リサイクル”するという秀逸なアイデア,並びにそのキャラの魅力を作画・演出面で支えた技術力に感服する。ストーリーやメッセージそのものはシンプルながら,この絶対的なキャラの“強度”そのものが本作最大の魅力となった。あるいは,ストーリーやメッセージの点で気を衒わなかったからこそ,キャラの魅力が際立ったと言えるかもしれない。アニメ作品において,キャラメイクがいかに重要かを改めて実感させてくれる作品だったと思う。OPのアニメーションと主題歌の完成度も高く,本編を綺麗に彩っていたのも高評価に値する。

 

2位:『ホリミヤ -piece-』

horimiya-anime.com

【コメント】
学園ラブコメというよりは,シチュエーションコメディのような賑やかさ。魅力的なキャラと演出。声優陣の伸び伸びとした演技。そしてそれらに爽やかな風味を加味したOPアニメーション。多くの点で高い表現力が光った傑作だった。Twitterでもほぼ毎話,感想をツイートしていた記憶がある。最終話の仕上がりも素晴らしく,少し悲しい“if”の世界を挿入しつつ堀さんと宮村くんの“運命”の強さを際立たせた点は,最終話らしいドラマ性があってよかった。また“髪型”の変化でラストを締め括ったのも,本作らしい瑞々しいオシャレ感が出ていてたいへん好印象だった。

www.otalog.jp

 

1位:『呪術廻戦 懐玉・玉折/渋谷事変』

『呪術廻戦 懐玉・玉折/渋谷事変』「#29 玉折」より引用 ©芥見下々/集英社・呪術廻戦製作委員会

jujutsukaisen.jp

【コメント】
五条悟と夏油傑の青春,天内理子を巡る悲哀,伏黒甚爾の脅威,覚醒,そして確執。これらの“ヒューマン”な物語が,デフォルメ顔や漫符などを多用した温もりのある演出や目の覚めるような緻密な作画によって印象深いアニメーションとなり,その後の「渋谷事変」の地獄のような物語ときれいなコントラストを成す。朴性厚から監督を引き継いだ御所園翔太は,自らの個性も発揮しつつ,この偉業を存分に成し遂げた。監督交代が告知された時点では幾ばくかの不安があったことも確かだが,結果として杞憂にすぎなかった。羊文学の「more than words」を主題歌とするEDアニメーションも素晴らしく,本編では語られることの少ない,虎杖・伏黒・釘崎らの青春の風景を写し出している。個人的には,これまでのMAPPA作品の中でも最大限の賛辞を贈りたいとすら思う。現在放送中の「渋谷事変」の今後の話数にも期待しよう。

www.otalog.jp

www.otalog.jp

 

● その他の鑑賞済み作品(50音順)

『AYAKA-あやか-』『ギヴン』(再放送)『SYNDUALITY Noir』『スパイ教室』『ダークギャザリング』『無職転生Ⅱ~異世界行ったら本気だす~』『ライザのアトリエ~常闇の女王と秘密の隠れ家~』

 

以上,当ブログが注目した2023年夏アニメ9作品を紹介した。

今回は1位の『呪術廻戦』と2位の『ホリミヤ』の順位に悩んだ。前クールの『スキップとローファー』と『天国大魔境』の場合もそうだったが,まったく違う方向性やテイストの作品に甲乙をつけるのはとにかく難しい。今回は御所園監督の鮮やかな演出術を高く評価して,最終的に『呪術廻戦』に軍配を上げた次第である。

2023年秋アニメのおすすめに関しては以下の記事を参照頂きたい。 

www.otalog.jp

 

TVアニメ『葬送のフリーレン』(2023年秋)第1〜4話の演出について[考察・感想]

この記事は『葬送のフリーレン』第1話「冒険の終わり」第2話「別に魔法じゃなくたって…」第3話「人を殺す魔法」第4話「魂の眠る地」のネタバレを含みます。

第1話「冒険の終わり」より引用 ©︎山田鐘人・アベツカサ/小学館/「葬送のフリーレン」製作委員会

frieren-anime.jp


www.youtube.com

2023年秋アニメ最有望株として注目される,山田鐘人原作・アベツカサ作画/斎藤圭一郎監督『葬送のフリーレン』(以下『フリーレン』)。初回は「金曜ロードショー」の枠内で4話連続2時間スペシャルで放送され,作画,演出,音響,劇伴等あらゆる面において,斎藤率いるアニメ班の技量の高さを見せつけた。今回はこのスペシャルで放送された第1話から第4話までの演出を見ていこう。

 

青の“余白”:涙の色

当然のことだが,マンガのコマ割りとアニメのカメラワークはまったく概念が異なる。マンガではコマの大小や形状が一種の“演出”として機能するが,アニメでは画面比率が16:9に固定され,その大きさは常に一定だ。したがって,マンガからアニメへのコンバートは素人が考える以上に複雑な構図調整のプロセスを要する。最近では,『THE FIRST SLAM DUNK』(2022年)を制作した井上雄彦が,上記のような媒体間の差異に関して「自分の描いた絵がそのまま映画のスクリーンに映ることはない」*1 と自らの苦労を吐露したことが記憶に新しい。

では『フリーレン』の斎藤圭一郎監督は,16:9という画面比率をどう使ったか。最も特徴的なのは,コマを単純に拡大するのではなく,キャラクター周りの空間を延長することで青空を“余白”として加算し,逆に画面の情報量を減算した点だろう。

第1話「冒険の終わり」より引用 ©︎山田鐘人・アベツカサ/小学館/「葬送のフリーレン」製作委員会
第2話「別に魔法じゃなくたって…」より引用 ©︎山田鐘人・アベツカサ/小学館/「葬送のフリーレン」製作委員会

上の画像からもわかるように,青空のスカイブルーだけがキャラクターの周辺を取り囲むカットが多用されている。相対的にキャラクターが小さく配置されるカットも少なくない。この延長された“余白”が,悠久の時を生きるエルフ・フリーレンの広大な内的時間性とぴたりと重なり,キャラクターたちのゆったりとした歩行速度(これは本作アニメ化における最大のキーポイントでもある)とも相まって,作品全体のゆったりとした時間感覚を生み出している。この辺りは原作マンガと構図の違いを比較してみると面白いだろう。斎藤監督の作品解釈が明確に表れている点である。

この贅沢なほどの“余白”を下地に,美しい色彩,Evan Call氏の楽曲,声優陣の穏やかな演技,キャラクターの細やかな芝居,そして暖かなエピソードが,まるで画用紙に水彩絵の具を置いていくかのように,丁寧に繊細に描き込まれている。そうした印象の作品だ。

とりわけキャラクターの動作の芝居は目を引く。アクションシーンが少ないため目につきにくいが,日常的な動作のアニメーションが極めて丁寧に作り込まれている。一例を挙げるならば,第1話「冒険の終わり」の祭りのシーンで,食べ物を手にしたフリーレンがはしゃぐ子どもたちを避けるカットだ。

第1話「冒険の終わり」より引用 ©︎山田鐘人・アベツカサ/小学館/「葬送のフリーレン」製作委員会

単にモーションの描写が丁寧だというだけでない。子どもたちの生き生きとしたアクティブな表情・所作と,フリーレンの淡々としたパッシブなそれとを対比させることにより,今を生きる“短命”の人間と悠久の時を生きるエルフとの内的差異を印象付けた,たいへん優れたカットである。

さて,話を“青”に戻そう。この作品において“青”そのものは何を語っているだろうか。

『スキップとローファー』(2023年)のレビューでも言及したが,“青”という色彩の持つ感情価は両価的である。それは一方で清爽感や透明感を表示し,他方では寂寥感や悲哀を表示する。

www.otalog.jp

『フリーレン』において,そうした青の両価性は,魔王討伐後の平和で穏やかな世界という外的世界と,ヒンメルを理解できなかったフリーレンの後悔と悲哀という内的世界に対応している。特に後者の色彩意味作用は,フリーレンというキャラクターを構成する要素として極めて重要だ。第1話のヒンメルの葬儀のシーンを見てみよう。

第1話「冒険の終わり」より引用 ©︎山田鐘人・アベツカサ/小学館/「葬送のフリーレン」製作委員会

ヒンメルの葬儀はーーまさしくその「天空」という名の連想としてーー透徹した青空の下で行われる。フリーレンは「…だって私,この人の事何も知らないし…たった10年一緒に旅しただけだし…人間の寿命は短いってわかっていたのに…なんでもっと知ろうと思わなかったんだろう…」と言って涙を流し始める。まるで「フリーレン=氷結」が,その凍てついた心をわずかに溶かすかのように。棺に土を被せるスコップの機械的な音が,フリーレンの心に楔を穿つかのように鳴り響く。

最初,カメラはフリーレンの表情を直接捉えず,ハイターとアイゼンの顔や回想シーンだけを写す。その後,初めてその泣き顔を大写しにし,最後にハイターとアイゼンが無言でフリーレンを慰めるカットが挿入される。このフリーレンの涙ーー人を知り得なかった後悔ーーは,今後の物語において重要な意味を持つ。それを巧みなカメラワークで視聴者に印象付けた優れた演出だ。そしてほぼすべてのカットに青空が“余白”として使われている。そこには,フリーレンの涙の色がそのまま天空に転写されたかのように,透明な寂寥感と悲哀が表されている。

 

青と赤の間(あわい)

この“青”のイメージは,第2話「別に魔法じゃなくたって…」における「蒼月草」のイメージに引き継がれていく。ターク地方に到着したフリーレンとフェルンは,村の薬草家に請われてヒンメルの銅像を清掃する。その後,フリーレンは像の周囲に彼の故郷の花である蒼月草を植えることを思いつく。絶滅したとされるこの花の捜索に難儀しながらも,やがて彼女は廃墟と化した塔の上でひっそりと繁茂する蒼月草を発見する。

第2話「別に魔法じゃなくたって…」より引用 ©︎山田鐘人・アベツカサ/小学館/「葬送のフリーレン」製作委員会

蒼月草の寒色と夕暮れの暖色の取り合わせが美しい。そもそも第2話は,余白としての“青”に対し,ターク地方の植生,薬草家の住居内のドライフラワー,秋の紅葉などの多様な色味が加味されるカットが多い。

第2話「別に魔法じゃなくたって…」より引用 ©︎山田鐘人・アベツカサ/小学館/「葬送のフリーレン」製作委員会

まるで蒼月草の探索の中で,フリーレンの「氷結」の心が夕暮れの陽光を受けて暖かな熱を帯びていくかのような色彩設計だ。

 

夕暮れと日の出:心の色

第3話と第4話にも,フリーレンの内的変化を暖色系の色彩に反映させた演出が見られる。

第3話「人を殺す魔法」では,海辺の近くの店でフリーレンがフェルンに髪飾りをプレゼントするシーンが描かれる。

第3話「別に魔法じゃなくたって…」より引用 ©︎山田鐘人・アベツカサ/小学館/「葬送のフリーレン」製作委員会

フェルンに「今日の気分」を当てられたフリーレンは,かつてヒンメルにも「今日の気分」を当てられたことをデジャヴ的に思い出す。しかし彼女はフェルンのことを“知らない”と思っている。ちょうど彼女がヒンメルのことを“知らない”と思っていたように。フリーレンは「私はフェルンのこと何もわからない。だから,どんな物が好きなのかわからなくて…」と言ってフェルンに髪飾りを渡す。するとフェルンは「あなたが私を知ろうとしてくれたことが,堪らなく嬉しいのです」と答える。ここで彼女は,〈他者の願望の知識〉ではなく,〈他者の願望の想像〉という心的過程こそが人間にとって大切なものであることに気付かされる。フリーレンのこの気づきに呼応するかのように,背後には美しい夕暮れの風景が広がる。

第4話「魂の眠る地」では,グランツ地方に辿り着いたフリーレンとフェルンが、地元の老人から海岸の清掃を依頼される。雪雲が重く垂れ込める冬空の下,二人は海岸に漂着した船の残骸を魔法を使って片付けていく。作業が終わるころ,凍てつくようだった灰色の風景は,暖かみ帯びた赤へと変わっていく。

第4話「魂の眠る地」より引用 ©︎山田鐘人・アベツカサ/小学館/「葬送のフリーレン」製作委員会

その後,フリーレンはかつて魔王討伐の冒険時に見そびれた「新年祭の日の出」を見ることにする。早起きが苦手はフリーレンにとって,日の出そのものには何の興味もない。むろん,ヒンメルたちを「知る」ためにそうするのである。

結局,日の出を見ても何の感興もわかなかったフリーレンは,フェルンに帰ろうと言い差すが,フェルンの方は日の出の美しさにすっかり魅せられている。フリーレンにとっては,日の出よりもフェルンのその横顔の方が眩しく映る。

第4話「魂の眠る地」より引用 ©︎山田鐘人・アベツカサ/小学館/「葬送のフリーレン」製作委員会

フェルン:フリーレン様,とても綺麗ですね。
フリーレン:そうかな。ただの日の出だよ。
フェルン:でもフリーレン様,少し楽しそうです。
フリーレン:それはフェルンが笑っていたから…

この時フリーレンは,フェルンの喜ぶ姿を喜んでいる自分に気づき,「私一人じゃこの日の出は見れなかったな」と呟く。これに対し,フェルンは「当たり前です。フリーレン様は一人じゃ起きられませんからね」と返すのだが,実際,フリーレンがこのやり取りで感じていたものは,〈他者の喜びの喜び〉に他ならない。あるいはロラン・バルトに倣って〈喜びとは,他者の喜びである〉と言ってもいいかもしれない。いずれにせよフリーレンは,ここで人間の喜びの〈間主観性〉に気づいたのだ。この“発見”に口元をほころばせるフリーレンを,「新年祭の日の出」が暖かく照らす。

 

人は他者の願望を想像し,他者の喜ぶ姿を喜ぶ生き物である。

フリーレンのように何千年もの寿命を生きる存在は,言うまでもなく架空の存在である。しかしそのような架空の存在を措定することによって,人間の在り方の断片が逆照射されてくる気がしてくる。『葬送のフリーレン』という作品は,そのような内省を促す作用を持っていると言えるかもしれない。第1話から第4話までのアニメーションは,本作の心的作用を見事に映像化し得ていたと言える。

 

 

作品データ

*リンクはWikipedia,@wiki,企業HPなど

【スタッフ】
原作:山田鐘人(原作)・アベツカサ(作画)/監督:斎藤圭一郎/シリーズ構成:鈴木智尋/キャラクターデザイン・総作画監督:長澤礼子/音楽:Evan Call/コンセプトアート:吉岡誠子/魔物デザイン:原科大樹/アクションディレクター:岩澤亨/デザインワークス:簑島綾香山﨑絵美とだま。長坂慶太亀澤蘭松村佳子高瀬丸/美術監督:高木佐和子/美術設定:杉山晋史/色彩設計:大野春恵3DCGディレクター:廣住茂徳/撮影監督:伏原あかね/編集:木村佳史子/音響監督:はたしょう二/アニメーション制作:マッドハウス

【キャスト】
フリーレン:
種﨑敦美/フェルン:市ノ瀬加那/シュタルク:小林千晃/ヒンメル:岡本信彦/ハイター:東地宏樹/アイゼン:上田燿司

【第1話「冒険の終わり」スタッフ】
脚本:
鈴木智尋/絵コンテ:斎藤圭一郎/演出:辻彩夏/作画監督:長澤礼子

【第2話「別に魔法じゃなくたって…」スタッフ】
脚本:
鈴木智尋/絵コンテ・演出:北川朋哉/演出:辻彩夏/作画監督:簑島綾香/総作画監督:長澤礼子

【第3話「人を殺す魔法」スタッフ】
脚本:
鈴木智尋/絵コンテ・演出・作画監督:原科大樹/総作画監督:長澤礼子

【第4話「魂の眠る地」スタッフ】 
脚本:
鈴木智尋/絵コンテ:川尻善昭/演出:松井健人/作画監督:辻彩夏/総作画監督:長澤礼子

 

関連記事

www.otalog.jp

www.otalog.jp

www.otalog.jp

www.otalog.jp

www.otalog.jp

 

商品情報

 

*1:『THE FIRST SLAM DUNK re:SOURCE』,p.81,SHUEISHA,2022年。

劇場アニメ『アリスとテレスのまぼろし工場』(2023年)レビュー[考察・感想]:生きよ,永遠のデュナミスたちよ

*このレビューはネタバレを含みます。必ず作品本編をご覧になってからこの記事をお読みください。

『アリスとテレスのまぼろし工場』公式HPより引用 ©︎新見伏製鐵保存会

maboroshi.movie


www.youtube.com

岡田麿里2作目の監督作品となる『アリスとテレスのまぼろし工場』(以下『まぼろし工場』)。本作には,内的・外的閉塞感や停滞感,そこからの離脱といった,これまでの岡田作品で描かれてきた自意識の問題がいっそう色濃く表れている。わかりやすいエンタメ要素で希釈することなく,いわば“岡田エッセンス”の原液を提示した本作は,決して口当たりのよい娯楽作品とは言い難いが,それだけに岡田の問題意識をダイレクトに反映した大作となったと言えるだろう。

 

あらすじ

製鉄所の事故をきっかけに時の歩みを止めた「見伏市」。そこで暮らす菊入正宗は,一切の変化を禁じられた退屈な日々を悶々と生きていた。ある日,正宗は「自分確認票」の「嫌いな人」欄に書き込んでいた佐上睦実に誘われ,不思議な少女・五実と出会う。

 

インカーネーション

14才。碇シンジ,天上ウテナ,『14才の母』,酒鬼薔薇聖斗。

それは何者にもなり得てないからこそ,何者かになることに必死な“過渡期”にあると同時に/にあるからこそ,それ独自の実存的強度を持ってしまう,両義的な存在である。彼ら/彼女らは,様々な可能性を襞として内側に折りたたんだ“蛹”として過渡的に存在する,ある種の特権的実存である。だから僕らは,多くの作品の中で〈14才〉を表象し,〈14才〉に語らせ,〈14才〉を見守ってきた。もちろん『まぼろし工場』という映画を観た多くの人も,この過渡的実存としての〈14才〉を経験し,一つの対自存在として内に抱えているはずだ。しかし僕らは大人になるにつれ,〈14才〉というかつての実存に直に触れることをやめ,それを記憶=記録の中に収納しようとする。フィクションのものであれ,己自身のものであれ,〈14才〉の物語を記憶=記録として対象化し,“モノ”として所有しようと欲する。場合によっては,文字通り“記録媒体(メディア)”の中に物象化して留めおこうとすることもあるだろう。ちょうど1つの物語をアニメの“円盤”に記録し,視聴・消費し,棚に収納することで所有するかのように。

「見伏市」の中に閉じ込められた正宗たちの境遇も,ちょうどこれと似ている。

石井百合子の繊細かつ情報量の多い描線は,正宗睦実らの常に伏目がちな眼差し(それは超常的な神秘に魅入られ,彼らから可能性を奪うべく極限まで見開かれた佐上衞の目とは対照的である)に確かな意志と感情を吹き込みつつ,〈14才〉のフラジャイルな内面を的確に画に落とし込んでいる。それは〈14才〉の“ユニバーサル・スタンダード”ではないとしても,その1つの象徴的な有り様を提示している。

『アリスとテレスのまぼろし工場』予告より引用 ©︎新見伏製鐵保存会 配給:ワーナー•ブラザース映画 MAPPA

そのような〈14才〉である彼らは,製鉄所の事故後,何らかの力によって無時間的な「まぼろし」として生み出され,見伏市という壁の内側で変わらぬ日々を過ごすことを強いられている。それはあたかも,円盤の中に封印された,痛みも匂いも伴わないデジタル・データのようでもある。故に彼らは,「気絶ごっこ」のような痛みの感覚によって自己の生を確認し,五実の生の臭気に嫌悪しながらも,同時に惹かれるのである。

見伏神社の社家として仮初の“権力”を手に入れた佐上衞は,それを神による「罰」と名指す。一方,道端の地蔵のように安閑と世の中を見守る正宗の祖父は,神が「一番いい時期を残しておきたかった」のだと解釈する。同じ“神”でも,“懲罰的・父性的神”と“慈愛的・母性的神”がここで対立し合っているのが面白い。罰なのか,それとも慈愛に満ちたノスタルジーなのか,いずれにせよ「神」は,〈14才〉の物語をデジタル・データのような無臭の「まぼろし」として紡ぎ出し,見伏市という“円盤”の中に封じ込めたのだ。

しかし,と岡田麿里は言うのだ。〈14才〉の物語を神の視点で見下ろすな,と。思い出の所有者という支配的な立場に甘んじるな,と。今一度,あの日の〈14才〉たちの物語に立ち戻り,彼ら/彼女らと同じ目線で世界を見渡し,彼ら/彼女らの生の声を聞き届けよ,と。かくして,僕らは現実世界の五実と共に,円盤=まぼろしの世界の内部へと“受肉”することになる。あたかも,イエスの身体を得て現世に受肉した「神」のように。

 

凍った蛹

ちなみに被造物の世界への“受肉”というモチーフはーー人類史上最大のベストセラー『聖書』を皮切りとしてーーこれまでにいくつもの物語で語られてきた。ライナー・ヴェルナー・ファスビンダー『あやつり糸の世界』(1973年),雨宮哲『SSSS.GRIDMAN』(2018年),伊藤智彦『HELLO WORLD』(2019年)。これらの物語では,儚くも哀しい被造物(あるいは人工物)たちが,それにもかかわらずかけがえのない実存を生きる現存在として存在している。現実の存在者はあえてそこに降り立ち,彼らの生からの強烈な照り返しを受けながら,自己の生を見つめ直し生き直すのだ。

そして五実とともに「見伏市」という被造物の世界に降り立った僕らが目にするのは,あらゆる変化を否定され,いわば永遠のデュナミス(可能態)として凍結された人々の世界である。妊娠中の女性は〈母〉のデュナミスであり,仙波はDJのデュナミスであり,正宗は絵描きのデュナミスだったはずだ。しかし彼らはデュナミスのまま「見伏市」の無時間性にピン留めされ,いわば未完成であることを完成=目的として了解することを強いられた,ネオテニックなエネルゲイア(現実態)と化している。

この歪な世界の“秩序”を司ろうとする佐上は,〈14才〉たちに「永遠」を強制し,その可能性を否定しようとする。佐上が五実に対して口にする「ほぼ完成,女完成」というセリフが醜悪に響くのは,五実という現実世界のデュナミスに対してすら,女性性としての「完成」を強い,「神」の所有物として物象化しようとするからだ。睦実が佐上に関して「あのおっさん,女に興味なくて」と吐き捨てるように言うシーンがあるが,それは佐上がホモセクシュアルであることを示唆する以上に,女性性の対象化・物象化に対する彼女の嫌悪感を示しているようにも思える。

『アリスとテレスのまぼろし工場』予告より引用 ©︎新見伏製鐵保存会 配給:ワーナー•ブラザース映画 MAPPA

また,正宗たちには「大人の権利」として車の運転が許されている。これも,未成熟な者たちに成熟の“証”を付与する烙印のようなものかもしれない(もっとも,この技能が最終的に五実を現実に返すことを可能にするというところに,この物語のアイロニーがあるわけだが)。

山と入江によって閉ざされた「見伏市」の中で,正宗が茨に縛り付けられた少年の絵を描きながら感じていたのは,彼らを空間的にも時間的にも閉じ込めてしまった閉塞感だ。そしてそれは,岡田が〈秩父三部作〉を中心に描いてきた閉鎖性に他ならない。山の上のラブホテル,卵,ギターケース,お堂,トンネル,そして彼女が「檻」として認識した秩父というトポスそのもの。*1 「見伏市」に降り立った現実世界の僕らが,五実と共に垣間見るのは,差し当たり〈14才〉たちが感じていた閉塞感の,仮構という形で強調された極限状態に他ならない。

ところで,“円盤”とはよく言ったものだ。現代のメディア史において,記録媒体はほぼ常に回転というメカニズムのもとに成り立ってきた。回転する媒体の中で,物語は無限に反復再生される。それはあたかも,「永劫回帰」が機械的に実演されているかのようだ。しかし現実的には,“円盤”は「永劫」に保存し得るものではない。数十年という年月の中で,物体としての“円盤”は確実に劣化し続け,やがて内部の物語は再生不能になる。ちょうど「見伏市」の内部の物語が,ゆっくりと崩壊し続けているのと同じように。まぼろしたちの世界は,ゆっくりと死に向かっている。

しかし岡田麿里のストーリーテリングは,そこでは終わらない。

 

スイートペイン:両価的感情

漸進的に死に向かうそんな閉鎖世界の中に,岡田は〈陽極の変化〉というわずかな希望を描き込んでいる。その一つが,正宗の絵の上達だ。彼は父・昭宗の日記の中に,次のような言葉を見つける。

正宗は,今日も絵を描いている。いくら絵がうまくなっても,大人になれないのに。未来に結びつくことはないのに。それでも,どんどん,うまくなる。この異常な世界でも,人はいくらだって変われる。*2

これを読んだ正宗はこう言う。

嬉しかったんだ。うまくなるのも,褒められるのも。未来に繋がらなくたって,かまわないんだ・・・・・・楽しくて,ドキドキして・・・・・・俺は,ここで生きてるんだって。*3

正宗は絵がうまくなることそのものの中に,生の喜びを見出す。凍結されたデュナミス,あるいはネオテニックなエネルゲイアという状況の中に見出された,ほんの小さな希望の欠片。そしてその全肯定である。それは,未来に繋がることはなくとも,〈いまここ〉に生きることの喜びの是認である。

そしてもう一つが,〈恋〉だ。

アニメ史上稀に見る長尺のキスシーンの直前,正宗は睦美に,五実と過ごすことによって得た「生きる」ことの実感を語りながら,こう言う。

お前を見てたら,イライラして。お前が話してるの,気になって。むかついたり,でも,なんかドキドキしたり。五実だけじゃない。俺だってーー・・・・・・ちゃんとここに,生きてるんだって。お前といると,強く,思えるんだ。*4

『アリスとテレスのまぼろし工場』予告より引用 ©︎新見伏製鐵保存会 配給:ワーナー•ブラザース映画 MAPPA

思えば,岡田が描いてきた“(失)恋”は常に両価的だった。じんたんは大好きなめんまに「ブス」と言ってしまった挙句,その喪失の痛みを抱えながら思春期を迎える。成瀬順は,想いを寄せる坂上拓実に暴言をぶつけることで心の解放を実現する。相生あおいは失恋を通して「空の青さ」を知る。“恋”は心地よい感覚であると同時に,常にどうしようもなく不快な感情として立ち現れる。それが岡田の描く“恋”だった。

だから原が口にした「スイートペイン」というセリフは,単なるラブコメギャグではないのだ。それは岡田が描こうとした感情的両価性の乙女チックなラベルであり,正宗の言葉によって「俺の,好きは・・・・・・[中略]大嫌いって気持ちと,すごく,似てて・・・・・・なんか,痛くて」*5 という切実な思いへとパラフレーズされるのである。

『アリスとテレスのまぼろし工場』予告より引用 ©︎新見伏製鐵保存会 配給:ワーナー•ブラザース映画 MAPPA

恋は,痛みによって生を実感するための「気絶ごっこ」の,崇高なバージョンに他ならないのかもしれない。そしてともすれば,岡田はラブストーリーを描きたかったというよりも,両価的感情そのものを捉えたかったのかもしれない。愛と憎悪。一緒にいたいと思う気持ちと,逃れたいと思う気持ち。現状維持と現状打破。保存衝動と破壊衝動。エロスとタナトス。いやもっと言ってしまえば,相手への憎悪すらも愛で包み込むような,激烈な感情,タナトスを内包してしまうほどのエロス。そうした壮絶な感情の両価性を〈14才〉という実存の中で実現するのに,“恋”こそがうってつけの感情だったのかもしれない。考えてみれば,「アリスとテレス」という言葉遊びにおける「と」は,1人の哲学者を2人の人物に分けるという意味で〈分断〉であると同時に,2人の人物を結びつける〈連繫〉でもあるのだ。『まぼろし工場』という作品には,そうしたアンビバレントな感情が隅々まで満ち溢れている。

そして五実は,原の「スイートペイン」に感染するかのように,正宗に「痛い」を伴う恋をする。実の父を象ったまぼろしへの恋と,その関係に否を突きつける睦美という構図は,まさしくエディプス・コンプレックスの様相を呈している。しかしその「否」は,父性的・懲罰的な「否」ではなく,母性的・慈愛的「否」である。睦実はまるで母のように優しく,五実と正宗の恋を否定する(この時の上田麗奈の演技は極上だ)。

ねえ,五実。トンネルの先には,お盆だけじゃない。いろんなことが待ってるよ。楽しい,苦しい,悲しい・・・・・・強く,激しく,気持ちが動くようなこと。友達ができるよ。夢もできる。挫折するかもしれないね。でも,落ちこんで転がってたらまた,新しい夢ができるかもしれない・・・・・・いいなあ。どれもこれも,私には手に入らないものだ。だから,せめて,ひとつぐらい。私にちょうだい。[中略]正宗の心は,私がもらう。*6

睦実は五実に「未来」を託す。しかし正宗との恋はだけは独占しようとする。それは決して未来へと繋がることないが,かけがえのない〈いまここ〉の感情の全肯定だ。正宗と睦実の恋は,仮に未来と可能性を奪われていたとしても〈いまここ〉を全身全霊で慈しむという意志の表明である。それはちょうど,『空の青さを知る人よ』のラストシーンで,相生あおいが秩父の空を「ああ,空…くっそ青い」と肯定した際の感情に対応している。もっとも,あおいの場合は,この感情がしんのとの“失恋”から生まれるのだが。

こうしてまぼろしたちは,五実という現実存在に未来を託しつつ,未来へと繋がらない〈いまここ〉の恋をする。その束の間の生の実感を全肯定する。

 

〈回帰〉する場所

したがって『まぼろし工場』は,閉鎖と停滞=まぼろしの世界を“否定”し,解放と成長=現実世界を“肯定”するといったような単純な物語なのではない。“現実を見よ”“現実に帰れ”といった安直な物語でもなければ,素朴でオプティミスティックな“未来志向”の物語でもない。そうではなく,過去の「あの日」に,己の内に充溢した感情が確かに存在したことの確認と是認,そしてそこからの未来への跳躍の物語なのである。岡田が描き出す物語には,過去に眼差しを向けながら,逆噴射のように未来へと進み行く両義的なダイナミズムがある。ドイツの哲学者・ヴァルター・ベンヤミンも,パウル・クレーの「新しい天使(アンゲルス・ノーブス)」の図像を借りながら,そのようなダイナミズムを能弁に語った。少々長くなるが,たいへん興味深い文章なので引用しておこう。

[新しい天使]は顔を過去の方に向けている。私たちの眼には出来事の連鎖が立ち現れてくるところに,彼はただひとつの破局だけを見るのだ。その破局はひっきりなしに瓦礫のうえに瓦礫を積み重ねて,それを彼の足元に投げつけている。きっと彼は,なろうことならそこにとどまり,死者たちを目覚めさせ,破壊されたものを寄せ集めて繋ぎ合わせたいのだろう。ところが楽園から嵐が吹きつけていて,それが彼の翼にはらまれ,あまりの激しさに天使はもはや翼を閉じることができない。この嵐が彼を,背を向けている未来の方へ引き留めがたく押し流してゆき,その間にも彼の眼前では,瓦礫の山が積み上がって天にも届かんばかりである。私たちが進歩と呼んでいるもの,それがこの嵐なのだ。*7

『まぼろし工場』を観た人にとっては,この「天使」の姿が五実に重なって見えることだろう。未来(進歩)とは前向きの前進ではなく,後ろ向きの前進である。だからこそ,未来を託された五実は,ラストシーンで廃墟と化した製鉄所を再訪し,正宗が描いたと思しき窓の絵を愛おしそうに眺めるのである。ちょうど,『あの日見た花の名前を僕達はまだ知らない。』のじんたんが,最終話で「秘密基地」を再訪し,めんまの筆跡を慈しむように眺めたのと同じように。

僕らは記憶という媒体の中に収納した〈14才〉=「あの日」を,1つのパッケージとして対象化・物象化し続けていてはいけないのだろう。時に過去へと立ち戻り,それを生き直し,自分が「あの日」,確かに心の温もりを感じていたこと,冷たい痛みを感じていたこと,笑ったこと,泣いたことを〈いまここ〉の出来事として想起すべきなのかもしれない。そうした〈回帰点〉を常に心に抱きながら,僕らは未来へと時間を進めていくのだろう。

かつて中島みゆきは「時代はまわる」と歌っていた。そして今,彼女は「未来へ」と歌う。数十年の歳月を隔てたこの2つの歌詞を並列した時,今から過去へ,過去から今へという時の巨大なーーまさしく「嵐」のようなーー遠心力によって,僕らの「未来」が解き放たれていくような気がしてくる。

 

関連記事

www.otalog.jp

www.otalog.jp

www.otalog.jp

www.otalog.jp

www.otalog.jp

www.otalog.jp

 

作品データ

*リンクはWikipedia,@wiki,企業HPなど

【スタッフ】
脚本・監督:岡田麿里/副監督:平松禎史/キャラクターデザイン:石井百合子/演出チーフ:城所聖明/美術監督:東地和生/色彩設計:鷲田知子3Dディレクター:小川耕平/撮影監督:淡輪雄介/編集:髙橋歩/音楽:横山克/音響監督:明田川仁/音響制作:dugout/製作プロデューサー:木村誠/アニメーションプロデューサー:野田楓子橘内諒太/企画・プロデューサー:大塚学/主題歌:中島みゆき「心音」/制作:MAPPA

【キャスト】
菊入政宗:榎木淳弥/佐上睦実:上田麗奈/五実:久野美咲/笹倉:八代拓/新田:畠中祐/仙波:小林大紀/薗部:齋藤彩夏/原:河瀨茉希/安見:藤井ゆきよ/佐上:佐藤せつじ/菊入時宗:林遣都/菊入昭宗:瀬戸康史

 

作品評価

キャラ

モーション 美術・彩色 音響
4.5 3.5

5

4
CV ドラマ メッセージ 独自性

5

3 5 5
普遍性 考察 平均
5 5 4.5
・各項目は5点満点で0.5点刻みの配点。
・各項目の詳細についてはこちらを参照。

 

商品情報

 

*1:岡田麿里『学校へ行けなかった私が「あの花」「ここさけ」を書くまで』,文藝春秋,2017年。本書には,山の囲まれた秩父を「檻」に例える件が数箇所見られる。

*2:岡田麿里『アリスとテレスのまぼろし工場』,p.174,KADOKAWA,2023年。台詞は原作小説から引用しているため,映画とは多少の異同がある可能性があることをお断りしておく。

*3:同上,p.175。

*4:同上,pp.157-158。

*5:同上,p.113。

*6:同上,pp.221-222。

*7:ヴァルター・ベンヤミン『ベンヤミン・コレクション Ⅰ』,p.653,ちくま学芸文庫,1995年。

2023年 秋アニメは何を観る?来期おすすめアニメの紹介 ~2023年夏アニメを振返りながら~

『葬送のフリーレン』公式HPより引用 ©︎山田鐘人・アベツカサ/小学館/「葬送のフリーレン」製作委員会

www.animatetimes.com

 

2023年 夏アニメ振返り

www.otalog.jp

www.otalog.jp

今クールの作品でとりわけクオリティが高いのは,『幻日のヨハネ』『呪術廻戦 懐玉・玉折/渋谷事変』『ホリミヤ -piece-』『わたしの幸せな結婚』の4作品だ。

矢立肇原作/中谷亜沙美監督『幻日のヨハネ』は,『ラブライブ!サンシャイン!!』(2016-2017年)のキャラクターをベースとしながらも,本編とはまったく異なるファンタジーの世界観にコンバートしたスピンオフ作品だ。キャラクターデザインが極めて美麗である点が最大の特徴だろう。各話ごとのブレがまったくなく,本作の醍醐味であるキャラクターの魅力を何より大事にしていることが伺える。

芥見下々原作/御所園翔太監督『呪術廻戦 懐玉・玉折/渋谷事変』は,第1期の方針を踏襲しつつも,御所園の個性が発揮されたとても面白い作品に仕上がっている。御所園が手がけた「渋谷事変」EDのアニメーションのクオリティも高く,キャラクター造形に貢献している。

www.otalog.jp

www.otalog.jp

HERO・萩原ダイスケ原作/石浜真史監督『ホリミヤ -piece-』は,コメディを中心とした脚本・演出のクオリティが非常に高く,近年の学園ラブコメアニメの中でも抜きん出て“面白い”作品だ。主演の戸松遥内山昂輝を始めとするキャストの演技も素晴らしい。また,石浜真史が手がけたOPアニメーションが爽やかな風味を本編に加えている点も評価が高い。

www.otalog.jp

顎木あくみ原作/久保田雄大監督『わたしの幸せな結婚』は,美しい作画と美術によって「しあわせな結婚」というピュアな感情を伝えた良作だ。インスパイアードの美術,Evan Callの音楽,キネマシトラスの制作という座組による“美学”が冴える。物語前半における上田麗奈佐倉綾音の対照的な演技も見事だ。

www.otalog.jp

www.otalog.jp

この他,ヒューマノイドと人間との関係を独自の視点から掘り下げた『AIの遺電子』,軽妙な台詞回しとキャラクター造形が魅力的な『アンデッドガール・マーダーファルス』,超短尺の中でアニメーションの本質的な面白さを伝えている『いきものさん』,川越一生監督の演出の技が光る『ゾン100 〜ゾンビになるまでにしたい100のこと〜』,GoHandsのユニークネスが遺憾なく発揮された『デキる猫は今日も憂鬱』なども面白い。最終話までの仕上がり次第では,上記4作品よりも評価が上回る可能性もある。

2023年夏アニメの最終的なランキングは,全作品の最終話放送終了後に掲載する予定である。

では今回も2023年秋アニメのラインナップの中から,五十音順に注目作をピックアップしていこう。各作品タイトルの下に最新PVなどのリンクを貼ってあるので,ぜひご覧になりながら本記事をお読みいただきたい。なお,オリジナルアニメ(マンガ,ラノベ,ゲーム等の原作がない作品)のタイトルの末尾には「(オリジナル)」と付記してある。

 

① 『悪魔くん』


www.youtube.com

www.toei-anim.co.jp

x.com

【スタッフ】
原作:水木しげる/総監督:佐藤順一/キャラクター原案・シリーズディレクター:追崎史敏/シリーズ構成:大野木寛/キャラクターデザイン・総作画監督:渋谷秀/美術監督:空閑由美子/色彩設計:󠄀田邦夫/撮影監督:荻原猛夫/魔法陣デザイン:越阪部ワタル/音楽:井筒昭雄

【キャスト】
悪魔くん/埋れ木一郎:梶裕貴/メフィスト2世:古川登志夫/メフィスト3世:古川登志夫/風間さなえ:白石涼子/風間みお:花守ゆみり/グレモリー:ファイルーズあい/朝凪ヒナ:藤井ゆきよ/埋れ木エツ子:柳沢三千代/サタン:屋良有作/ストロファイア:下野紘/初代悪魔くん/埋れ木真吾:三田ゆう子

【コメント】
水木しげるの同名マンガ(1963年)を原作とする完全新作アニメ。1989年に放映されたアニメ版のシリーズディレクター(監督)の佐藤順一が総監督を務める。PVを観ると,現代風の要素を盛り込みつつも,水木テイストが守られた画風であることがわかる。初代悪魔くん/埋れ木真吾を三田ゆう子,メフィスト2世および新キャラのメフィスト3世を古川登志夫が担当するなど,1989年版からの続投も見どころの一つ。2023年11月9日(木)よりNetflixにて独占配信

 

②『新しい上司はど天然』


www.youtube.com

do-tennen.com

x.com

【スタッフ】
原作:いちかわ暖/監督:阿部記之/副監督:河野亜矢子/シリーズ構成:横谷昌宏/キャラクターデザイン:安田京弘/総作画監督:安田京弘/中村深雪:岩崎令奈/プロップデザイン:福世真奈美/美術監督:田村せいき(アニメ工房 婆娑羅)/色彩設計:ホカリカナコ/色彩設計補佐:枝川茜CG監督:栗林裕紀/撮影監督:重家優子EXPLOSION/編集:廣瀬清志/音楽:中山真斗/音響監督:明田川仁/アニメーション制作:A-1 Pictures

【キャスト】
白崎優清:梅原裕一郎/桃瀬健太郎:西山宏太朗/青山光男:杉田智和/金城愛悟:福山潤/白桃:下野紘

【コメント】
原作はいちかわ暖の同名マンガ。上司のパワハラで体調を崩した主人公が別会社に転職し,どのつく天然上司と出会う。タイトル通りの内容だが,雰囲気のあるキャラデザに加え,イケボ声優・梅原裕一郎が天然上司を演じるという“ギャップ萌え”がいい。A-1 Pictures制作といういこともあり,一定以上のクオリティは期待できるだろう。

 

③『ウマ娘 プリティーダービー Season 3』


www.youtube.com

anime-umamusume.jp

x.com

【スタッフ】
原作:Cygames/監督:及川啓/シリーズ構成:永井真吾/シナリオディレクター・シリーズ構成:小針哲也/キャラクターデザイン・総作画監督:椛島洋介/キャラクターデザイン:辻智子/総作画監督:仁井学福田佳太藤本さとる/キャラクターデザイン監修:清永みなみ/メインアニメーター:小畑賢式地幸喜中島順/美術監督:作山拓見/色彩設計:中野尚美/撮影監督:並木智CGディレクター:青木ともたか/編集:髙橋歩/音響監督:森田祐一/音楽プロデュース:岩代太郎/音楽:UTAMARO movement/コンテンツディレクター:秋津琢磨/アニメーションプロデューサー:増尾将史西村謙人/アニメーション制作:スタジオKAI

【キャスト】
キタサンブラック:矢野妃菜喜/サトノダイヤモンド:立花日菜/サトノクラウン:鈴代紗弓/シュヴァルグラン:夏吉ゆうこ/サウンズオブアース:MAKIKO/トウカイテイオー:Machico/メジロマックイーン:大西沙織/ゴールドシップ:上田瞳/スペシャルウィーク:和氣あず未/サイレンススズカ:高野麻里佳/ウオッカ:大橋彩香/ダイワスカーレット:木村千咲/ナイスネイチャ:前田佳織里/ツインターボ:花井美春/イクノディクタス:田澤茉純/マチカネタンホイザ:遠野ひかる/トレーナー:沖野晃司

【コメント】
人気シリーズの3作目とあり,自ずと期待も高まる。今回は,かつてトウカイテイオーに憧れていたキタサンブラックが主人公となる。キタサンブラックはデザイン的にも映えるキャラだけに,日常シーン・レースシーン共にそのビジュアルが楽しみだ。同じくメジロマックイーンに憧れていたサトノダイアモンドとの関係が物語の主軸になると思われる。監督は「Season 1」「Season 2」からの続投で及川啓。及川と言えば,『ウマ娘』シリーズ以外にも,『ヒナまつり』(2018年)や『シャインポスト』(2022年)といった秀作を手がけた監督だ。その手腕に改めて期待しよう。

 

④『カミエラビ』(オリジナル)


www.youtube.com

kamierabi.com

x.com

【スタッフ】
原案:ヨコオタロウ/監督:瀬下寛之/シリーズ構成・脚本:じん/キャラクターデザイン:大久保篤/音楽:MONACA/アニメーション制作:UNEND/企画・プロデュース:スロウカーブ

【キャスト】
小野護郎:浦和希/佐和穂花:松本沙羅/秋津豊:内田修一/能島千歌:阿部菜摘子/天昂輝:梶原岳人/⼆奈唯世:楠木ともり/沖野美津⼦:ファイルーズあい/雨野辰哉:新祐樹/ラル:佐倉綾音

【コメント】
「+Ultra」枠のオリジナルアニメ。高校生の主人公・ゴローが,スマホに届いたメッセージをきっかけに「カミサマ」選びのバトルロワイヤルに巻き込まれるという話。注目はゲーム『Nier:Automata』(2017年)のディレクター・ヨコオタロウが原案を担当する点だ。監督は『シドニアの騎士 第九惑星戦役』(2015年)などの瀬下寛之。少々厳しい見方をすれば,いかにもな3DCG感たっぷりのキャラデザには,そろそろ視聴者も食傷気味だろう。ストーリーやキャラをどこまで魅力的に仕上げるかがポイントになりそうだ。

 

⑤『薬屋のひとりごと』


www.youtube.com

kusuriyanohitorigoto.jp

x.com

【スタッフ】
原作:日向夏/キャラクター原案:しのとうこ/監督・シリーズ構成:長沼範裕/副監督:筆坂明規/キャラクターデザイン:中谷友紀子/色彩設計:相田美里/美術監督:髙尾克己CGIディレクター:永井有/撮影監督:石黒瑠美/編集:今井大介/音響監督:はたしょう二/音楽:神前暁Kevin Penkin桶狭間ありさ/アニメーション制作:TOHO animation STUDIO×OLM

【キャスト】
猫猫:悠木碧/壬氏:大塚剛央

【コメント】
原作は日向夏による同名小説。中国王朝風のきらびやかな後宮の風景やキャラクターが美麗にアニメートされており,そのクオリティの高さに期待が持てる。個人的には,悠木碧のキャスティングと,『メイドインアビス』(2017年)のKevin Penkinの音楽も楽しみにしたいところだ。監督は『魔法使いの嫁』(2017年)などの長沼範裕,キャラクターデザインは『Go!プリンセスプリキュア』(2015年)などの中谷友紀子が務める。制作の座ぐみも申し分ない。2023年10月21日(土)25:05からの初回放送は1〜3話までを一挙放送

 

⑥『シャングリラ・フロンティア


www.youtube.com

anime.shangrilafrontier.com

x.com

【スタッフ】
原作:硬梨菜不二涼介/監督:窪岡俊之/副監督:池下博紀/シリーズ構成・脚本:筆安一幸/キャラクターデザイン・総作画監督:倉島亜由美/モンスターデザイン:長森佳容大河広行河野絵美有澤寛/プロップデザイン:横山友紀河野絵美/アクション・エフェクトディレクター:酒井智史/メインアニメーター:芳賀亮月田文律西野武志姚江浩新田駿也/アクション作画監督:日浦玲奈星野玲香/総動画監修:髙橋知也/色彩設計:高木雅人/色彩設計補佐:手倉森咲子/美術監督:野辺勇紀(インスパイアード),中村朝咲(インスパイアード)/美術アドバイザー:増山修/2Dワークス:田村あず紗/3Dデザイン:Emotional Pictures/撮影監督:山杢光/編集:定松剛/音響監督:藤田亜紀子/音楽:髙田龍一(MONACA),広川恵一(MONACA),高橋邦幸(MONACA)/アニメーション制作:C2C

【キャスト】
サンラク/陽務楽郎:内田雄馬/サイガ-0/斎賀玲:和氣あず未/アーサー・ペンシルゴン/天音永遠:日笠陽子/オイカッツォ/魚臣慧:小市眞琴/エムル:日高里菜/ヴァイスアッシュ:大塚明夫/サイガ-100花守ゆみりAnimalia千本木彩花/オルスロット:山下誠一郎

【コメント】
原作は硬梨菜による同名小説。不二涼介の作画でコミカライズされている。すでに評価の定まった作品のアニメ化とあって,内容面でのクオリティは保証されたようなものだが,PVからはアニメーション面の質も高いことが伺える。監督は『魔女の旅々』(2020年)『便利屋斎藤さん,異世界に行く』(2023年)などの窪岡俊之。個人的には,『メイドインアビス』を手がけたインスパイアードの美術にも注目したい。

 

⑦『進撃の巨人 The Final Season 完結編(後編)


www.youtube.com

shingeki.tv

shingeki.tv

【スタッフ】
原作:諫山創/監督:林祐一郎/シリーズ構成:瀬古浩司/キャラクターデザイン:岸友洋/総作画監督:新沼大祐秋田学/演出チーフ:宍戸淳/エフェクト作画監督:酒井智史古俣太一/色彩設計:大西慈/美術監督:根本邦明/画面設計:淡輪雄介3DCG監督:奥納基池田昴/撮影監督:浅川茂輝/編集:吉武将人/音響監督:三間雅文/音楽:KOHTA YAMAMOTO澤野弘之/音響効果:山谷尚人(サウンドボックス)/音響制作:テクノサウンド/アニメーションプロデューサー:川越恒/制作:MAPPA

【キャスト】
エレン・イェーガー:梶裕貴/ミカサ・アッカーマン:石川由依/アルミン・アルレルト:井上麻里奈/コニー・スプリンガー:下野紘/ヒストリア・レイス:三上枝織/ジャン・キルシュタイン:谷山紀章/アニ・レオンハート:嶋村侑/ライナー・ブラウン:細谷佳正/ハンジ・ゾエ:朴璐美/リヴァイ・アッカーマン:神谷浩史/ジーク・イェーガー:子安武人/ファルコ・グライス:花江夏樹/ガビ・ブラウン:佐倉綾音/ピーク・フィンガー:沼倉愛美

【コメント】
説明は不要だろう。この偉大な作品の最終章を見届けよう。

 

⑧『葬送のフリーレン』


www.youtube.com

frieren-anime.jp

x.com

【スタッフ】
原作:山田鐘人アベツカサ/監督:斎藤圭一郎/シリーズ構成:鈴木智尋/キャラクターデザイン・総作画監督:長澤礼子/音楽:Evan Call/コンセプトアート:吉岡誠子/魔物デザイン:原科大樹/アクションディレクター:岩澤亨/デザインワークス:簑島綾香山﨑絵美とだま。長坂慶太亀澤蘭松村佳子高瀬丸/美術監督:高木佐和子/美術設定:杉山晋史/色彩設計:大野春恵3DCGディレクター:廣住茂徳/撮影監督:伏原あかね/編集:木村佳史子/音響監督:はたしょう二/アニメーション制作:マッドハウス

【キャスト】
フリーレン:種﨑敦美/フェルン:市ノ瀬加那/シュタルク:小林千晃/ヒンメル:岡本信彦/ハイター:東地宏樹/アイゼン:上田燿司

【コメント】
原作は山田鐘人(原作)/アベツカサ(作画)の同名マンガ。PVを観れば一目瞭然だが,キャラデザ,美術,構図などの点において映像センスが極めて高いアニメーションだ。監督に『ぼっち・ざ・ろっく!』(2022年)の斎藤圭一郎,音楽に『ヴァイオレット・エヴァーガーデン』(2018年)『鎌倉殿の13人』(2022年)のEvan Call,OP主題歌に『機動戦士ガンダム 水星の魔女』(2022-2023年)『【推しの子】』(2023年)のYOASOBIと,“ハケン” の匂いがプンプン漂う作品だ。期待するなと言う方が無理があるだろう。

 

⑨『PLUTO』


www.youtube.com

pluto-anime.com

x.com

【スタッフ】
原作:浦沢直樹×手塚治虫/プロデュース:長崎尚志/監修:手塚眞/協力:手塚プロダクション/エグゼクティブプロデューサー:丸山正雄真木太郎山野裕史/監督:河口俊夫/キャラクターデザイン:藤田しげる/クリエイティブアドバイザー:浦沢直樹/音楽:菅野祐悟/アニメーション制作:スタジオM2/制作プロデュース:ジェンコ

【キャスト】
ゲジヒト:藤真秀/アトム:日笠陽子/ウラン:鈴木みのり/モンプラン:安元洋貴/ノース2号:山寺宏一/ブランド:木内秀信/ヘラクレス:小山力也/エプシロン:宮野真守/プルートゥ:関俊彦

【コメント】
原作は言わずと知れた浦沢直樹×手塚治虫の同名マンガ。『アイの歌声を聴かせて』(2021年)『AIの遺電子』(2023年)など,ヒューマノイドロボット(およびAI)と人間との関係が扱われる作品が次々と生み出される中,改めて新たな知見と表現形式で『鉄腕アトム』という作品を観直してみるのもいいかもしれない。監修に手塚治虫の長男・手塚眞,協力に手塚プロダクション,エグゼクティブプロデューサーにMAPPA創設者の丸山正雄が参加するなど,非常に気合の入った企画だ。2023年10月26日(木)よりNetflixにて配信開始

 

⑩『星屑テレパス


www.youtube.com

hoshitele-anime.com

x.com

【スタッフ】
原作:大熊らすこ/監督:かおり/シリーズ構成:高橋ナツコかおり/キャラクターデザイン・総作画監督:酒井孝裕/美術監督:根岸大輔(スタジオちゅーりっぷ)/美術設定:滝口勝久(スタジオちゅーりっぷ)/色彩設計:歌川律子3D監督:薄井俊作EGG OF MIGRANT/撮影監督:千葉大輔Folium/編集:武宮むつみ/音響監督:納谷僚介/音楽:sakai asuka/制作スタジオ:Studio五組

【キャスト】
小ノ星海果:船戸ゆり絵/明内ユウ:深川芹亜/宝木遥乃:永牟田萌/雷門瞬:青木志貴/笑原先生:高森奈津美/小ノ星穂波:羊宮妃那

【コメント】
原作は大熊らすこの同名マンガ。秋クールのきらら枠。コミュ障の主人公というトラディショナルなキャラ造形に,「宇宙」「ロケット」というモチーフの取り合わせが面白い。監督は『えんどろ〜!』(2019年)『五等分の花嫁∬』(2021年)などのかおりだ。ガーリッシュな作品の演出で評価が高く,本作でもその手腕に期待できそうだ。

 

⑪『ミギとダリ


www.youtube.com

migitodali.com

x.com

【スタッフ】
原作:佐野菜見/監督・シリーズ構成・音響監督:まんきゅう/副監督:榎本守/キャラクターデザイン・総作画監督:西畑あゆみ/衣装デザイン:本多恵美満若たかよ藤井望/プロップデザイン:Color&Smile/料理デザイン:レコメンデーション/美術設定:平義樹弥/美術監督:若林里紗/色彩設計:のぼりはるこ3D監督:小川耕平CompTown/撮影監督:渡辺実花/編集:後藤正浩/音楽:世武裕子/音楽制作:フライングドッグ/音響効果:山谷尚人/音響制作:ビットグルーヴプロモーション/アニメーション制作:GEEKTOYS×CompTown

【キャスト】
ミギ:堀江瞬/ダリ:村瀬歩/園山洋子:三石琴乃/園山修:松山鷹志/秋山俊平:浅沼晋太郎/堤丸太:武内駿輔/一条瑛二:河西健吾/メトリー:諸星すみれ/みっちゃん:斉藤貴美子/一条怜子:朴璐美/一条瑛:川島得愛/一条華怜:関根明良

【コメント】
原作は佐野菜見による同名マンガ。アゴタ・クリストフ『悪童日記』(1986年)にも似た世界観のサスペンス作品だ。監督は『映画 すみっコぐらし とびだす絵本とひみつのコ』(2019年)などのまんきゅう。なお,原作の佐野は今年(2023年夏)に急逝しており,本作が最後の作品となる。

 

2023年秋アニメのイチオシは…

2023年秋アニメの期待作として,今回は11作品をピックアップした。その中でも,イチオシとして斎藤圭一郎監督『葬送のフリーレンを挙げたい。当ブログでは,これまで“売れ筋”や“ハケン候補”的な作品はイチオシとして挙げることが少なかったのだが,ここまで豪華な座組を示されては注目せざるを得ない。

次点として,及川啓監督『ウマ娘 プリティーダービー Season 3』長沼範裕監督『薬屋のひとりごと』林祐一郎監督『進撃の巨人 The Final Season 完結編(後編)』河口俊夫監督『PLUTO』にも注目したい。今回も演出家の技が光るクールとなりそうだ。

以上,2023年秋アニメ視聴の参考にして頂ければ幸いである。

 

2023年 夏アニメOP・EDランキング[おすすめアニメ]

*この記事にネタバレはありませんが,各作品の内容に部分的に言及しています。未見の作品を先入観なしで鑑賞されたい方は,作品を先にご覧になってから本記事をお読みください。

『ホリミヤ -piece-』OPアニメーションより引用 ©︎HERO・萩原ダイスケ/ SQUARE ENIX・「ホリミヤ -piece-」製作委員会

2023年夏アニメも早くも終盤の話数に差しかかっている。最終的なランキング記事の前に,ここでOP・ED のランキングを発表しておこう。タイトルの下にノンクレジットの映像を引用してあるので,ご覧になりながら記事をお読みいただければ幸いである。なお,通常のランキング記事と同様,一定の水準に達した作品を取り上げるため,ピックアップ数は毎回異なることをお断りしておく。

 

6位:『ゾン100〜ゾンビになるまでにしたい100のこと〜』OP


www.youtube.com

【コメント】
ジャクソン・ポロックのようなランダムな色彩KANA-BOONのアップテンポな主題歌「ソングオブザデッド」が,この作品の底抜けのオプティミズムをよく表している(ちなみに『さらざんまい』(2019年)の時にも感じたが,KANA-BOONはこの類のアニメのOPとして最適解かもしれない)。前回の話数の一部を活用するのも,“おさらい”的な意味もあってなかなかいいアイデアだ。

『ゾン100〜ゾンビになるまでにしたい100のこと〜』OPアニメーションより引用 ©︎麻生羽呂・高田康太郎・小学館/「ゾン100」製作委員会

【アニメーションスタッフ】
絵コンテ・演出:川越一生/原画:ウイリアム・リーHåvard Skjeggestad DALE中野悟史上田華子

【主題歌】KANA-BOON「ソングオブザデッド」
作詞・作曲:谷口鮪/編曲:KANA-BOON

 

www.otalog.jp

 

5位:『わたしの幸せな結婚』ED


www.youtube.com

【コメント】
本編と一味違ったテイストの,アナログ風味のある画風。暗がりの中,怪我をした足の小指をさする物憂げな美世の様子から始まる。しかし伊東歌詞太郎の主題歌「ヰタ・フィロソフィカ」のサビが始まるや,画面は一転して光量が増し,清霞の登場とともに美世の表情にも明るい笑顔が灯る。美世というキャラの心情変化を的確に要約したEDである。和テイストである一方で,大胆なパースや光の演出も見応えがある。

『わたしの幸せな結婚』EDアニメーションより引用 ©︎2023 顎木あくみ・月岡月穂/KADOKAWA/ 「わたしの幸せな結婚」製作委員会

【アニメーションスタッフ】
絵コンテ・演出・原画:辻彩夏/作画監督・原画:谷紫織

【主題歌】伊東歌詞太郎「ヰタ・フィロソフィカ」
作詞・作曲:伊東歌詞太郎編曲:河野圭

 

www.otalog.jp

 

4位:『デキる猫は今日も憂鬱』ED


www.youtube.com

【コメント】
本編のカッチリした作画とは対照的な,絵本風の温かみのあるデザイン。公園で諭吉幸来に拾われる回想と,同じ公園で酔った幸来を諭吉が連れて帰るシーンとが重ね合わせられた,たいへん物語性の高いEDだ。かつて幸来にしてもらったのと同じように,諭吉が幸来の頭を撫でるカットがこの上なくエモい(通りすがる猫の親子を彼はどんな感情で見遣っているのか)。主題歌「破滅前夜のこと」を歌うasmiのアンニュイ気味のボイスもとても雰囲気がよい。

『デキる猫は今日も憂鬱』EDアニメーションより引用 ©︎山田ヒツジ・講談社/デキる猫は今日も憂鬱製作委員会

【アニメーションスタッフ】
絵コンテ・演出:鈴木信吾横峯克昌/作画監督:上條円己坂元愛里谷圭司福永向日葵室井大地

【主題歌】asmi「破滅前夜のこと」
作詞・作曲:asmi/編曲:Taro Ishida

 

3位:『幻日のヨハネ』OP


www.youtube.com

【コメント】
Aqoursの歌う主題歌「幻日ミステリウム」は,マイナーコードをうまく使ったドラマチックな楽曲。ヒーローもののテーマソングを思わせる疾走感もある。どちらかと言えばファンタジーアクションの側面を強調したアニメーションとのマッチングも完璧だ。アニメーションと楽曲,双方ともクオリティが極めて高いOPである。

『幻日のヨハネ』OPアニメーションより引用 ©︎PROJECT YOHANE

【アニメーションスタッフ】
絵コンテ・演出:山元隼一/作画監督山本由美子

【主題歌】Aqours「幻日ミステリウム」
作詞:畑亜貴/作編曲:酒井拓也山本恭平

 

2位:『呪術廻戦 渋谷事変』ED


www.youtube.com

【コメント】
羊文学「more than words」の詩的なメロディをバックに,虎杖伏黒釘崎の3人が渋谷の街をーそれも主に裏通りをー“写ルンです”で写しとっていく。彼らの撮るスナップショットは,指が写り込んだり構図がずれたりと,都度の瞬間の“生々しさ”を切り取っている。「事変」を前に偵察をしているのだろうか。しかしその様子は,まるで彼らが本来経験するはずだった“青春”を束の間楽しんでいるように見える。本編の血生臭い展開を洗い流すかのような,美しくアオハルなEDである。

『呪術廻戦 渋谷事変』EDアニメーションより引用 ©︎芥見下々/集英社・呪術廻戦製作委員会

【アニメーションスタッフ】
絵コンテ・演出:御所園翔太/原画:MAPPA庄一三谷高史

【主題歌】羊文学「more than words」
作詞・作曲:塩塚モエカ/編曲:羊文学

 

www.otalog.jp

 

1位:『ホリミヤ -piece-』OP


www.youtube.com

【コメント】
スタッフクレジットと映像を一体にした形の冒頭のシーン
は,きわめてデザイン性が高くリッチに仕上がっている。書体のセンスもとてもいい。

『ホリミヤ -piece-』OPアニメーションより引用 ©︎HERO・萩原ダイスケ/ SQUARE ENIX・「ホリミヤ -piece-」製作委員会

Omoinotakeによる主題歌「幸せ」のサビに合わせて挿入される京子・由紀・レミ・桜のカットが非常によい。この作品の表面的な印象は“ラブコメ”だが,そこに潜在する青春の清涼感をこれらのカットが抽出しているかのようだ。

『ホリミヤ -piece-』OPアニメーションより引用 ©︎HERO・萩原ダイスケ/ SQUARE ENIX・「ホリミヤ -piece-」製作委員会

TVアニメというものがOPやEDを含めた形で完成するとすれば,このOPの清爽感と本編のコミカル要素が一体となったものこそ,『ホリミヤ』というアニメの魅力なのだろう。OP・EDの重要性を改めて認識させてくれる,非常に優れたOPである。

『ホリミヤ -piece-』OPアニメーションより引用 ©︎HERO・萩原ダイスケ/ SQUARE ENIX・「ホリミヤ -piece-」製作委員会

【アニメーションスタッフ】
絵コンテ・演出:石浜真史/作画監督:飯塚晴子

【主題歌】Omoinotake「幸せ」
作詞:福島智朗作曲:藤井怜央/編曲:Omoinotake石井浩平

 

以上,当ブログが注目した2023年夏アニメOP・ED6作品を挙げた。アニメ再鑑賞の参考にしていただければ幸いである。